第2話 彼女の嫉妬に不安する。
転校早々に元人気モデルの天野サヤカさんが僕と一緒に登校して、男子バスケ部の朝練から一日を過ごし、部活終わりを待って一緒に帰宅する。
『二人は付き合っている』の噂は広まり、僕は『天野さんは幼馴染なんだ』と説明するが、当のサヤカさんは『親公認の婚約者です』真面目な顔で言う。男子生徒や女子生徒から『二人の関係は何処までなの?』と質問攻めされるが、男女では知りたい意味が違うと分かっている。
そんな女子生徒には『僕の母と天野さんの母が幼稚園のママ友だから手も繋いだことも無いプラトニック』と言い、男子生徒とチームメイトには『どんなに期待されもエッチな関係じゃない』と返事した。
全ての憶測を否定するが、元人気モデルのサヤカさんが僕との仲を認めるから、堂々巡りで収束が見えない。
それまでの僕は『バスケ部のマッキー』から『元モデルの彼氏』と後指を刺される。
元モデルサヤカさんへの好奇心から僕に話を聞きたい女子バスケ部員も居て、体育館で数人の女子に囲まれ質問されるが、サヤカが少女雑誌のグラビアや、モデルを辞めた理由を知らない僕にガッカリされる。
その光景を体育館の
「美味しい洋菓子を頂いたから家へ寄ってね」
洋菓子に誘われる。
家の前まで送るが中に招かれたのは初めてで、部活終わりに水を浴びて汗を流したが、他所の家にお邪魔するのは気が引けた。
「僕は汗臭いし、また今度にして」
苦し紛れの言い訳に、
「今日は裕人君を連れて帰るって、お母さんに約束したのに」
サヤカさんは、その大きな瞳を潤ませて悲しそうな顔を見せる。
「分かったよ、行くから、その前に顔と首を拭かせてほしい」
スポーツバッグから汗拭きシートを一枚取り出して、額から顔全体と首、腋まで拭いて汗臭さを消した積りで天野家を訪問した。
開錠したサヤカさんは玄関から奥へ向けて、
「ママ、裕人君を連れて帰ったよ」
結構な大きい声で母親を呼び、現れた女性を見て僕は約八年の空白が一瞬で消した。
背が低かったサヤカさんを覚えてないが、幼稚園の若い先生と全ての母親より、一番綺麗で素敵だったサヤカさんのお母さんに僕は『初恋の人』を思いだした。
「裕人君、着替えてくるからリビングで待っていて」
「あらあら裕人君、あの頃も大きかったけど、もっと大きくなったね、サヤカからバスケ部って聞いたわ、いま何cmなの?」
「はい、御無沙汰してます、今年の春に計って181cmでした」
八年前と変わらないその容姿に、娘が五歳のあの頃は二十代で八年経った今は何歳だろう、テレビで見る女優みたいにエイジレスの『美魔女』を想像する。
「
サヤカさんの母は
思春期で異性が気になる感情に目覚めた僕は、自分で分かる位に顔が熱くなってきた。
「お母さんの名前を教えてください」
「下の名前はエミリ、天野エミリよ、裕人君は何で知りたいの?」
「美人のお母さんに似て、サヤカさんも美しいと思いました」
それは嘘じゃないが、本当の理由は僕が初恋を知った女性の名前を知りたかった。
「お口がお上手ね、裕人君はモテるでしょう?サヤカが迷惑掛けてゴメンね」
「全然迷惑じゃないですし、僕モテないです、特別な彼女も居ないです」
もしも願いが叶うなら、熟女好きと言われても、僕はエミリさんと交際したい、
「そうなんだ、今時の中学生は男女交際も普通と思ったわ」
返す言葉が出ない空気の中、制服から緩々のスエットに着替えたサヤカさんは
「裕人君、お待たせしました、え、ママと見つめ合って何を話していたの?」
「普通に部活の事とか、僕の身長だよ」
「裕人君の顔が赤いし、ママも緊張して怪しいなぁ、私の部屋に行きましょう」
サヤカさんに続いて階段を登り、
「ここが私の部屋よ、好きな場所に座ってね」
女の子の部屋に始めて入る僕は、淡いピンクの壁と甘い花の香に目眩を感じながら、平静を装ってインテリアを観察する。
シングルベッドとウッドチェストに学習机が置かれた部屋は広くて、幾つも色とりどりのクッションを指して、
「これに座って良いの?」
「どうぞ、好きな色を選んでね」
理由なく濃いグリーンを選び座る僕へサヤカさんは、
「裕人君に質問して良い?その前に私をサヤカさんじゃなくて、サヤカって呼び捨てにしてくれたら嬉しいわ」
「は、はい、じゃぁ、サヤカ、これで好いの?」
「うん、凄く嬉しい、では質問です、今日体育館で話していた女生徒は誰で、どんな用件でしたか?正直に答えてください」
え、体育館の女生徒って誰の事だろう、思い出せなくて黙る僕へ、
「部活で三人の女子よ」
それなら分かる。
「あの女子は女子バスケの松下恵美と篠田有美と清水亜紀、三人とも学年カースト上位で男子や女子にも人気で、周囲への影響力が強いからサヤカが『虐められない様に宜しくお願い』って頼んでいた」
「え、どうして裕人君は私の為にお願いしてくれたの?」
「サヤカは特別周りより目立つから、子役が学校で虐められたとか聞くでしょ」
「それなら良かった、三人の中に裕人君の好き女子が居たら嫌だなぁって思った」
「え、まさか僕に嫉妬したの?」
後から思えばそれは禁断の質問で、十四歳の僕は後の答えを予想できなかった。
「当然です、子供の口約束でも私は裕人君の婚約者です、この身を焦がす位に嫉妬と束縛もしますよ」
冗談で嫉妬を訊いたのに、サヤカは束縛するとまで言うのか、
あのぉ、僕が誘われた洋菓子はどう成ったのでしょうか?・・・
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