第409話
「なにかやっているな……?」
悔しげな表情を見せながらも、イブリースの視線は窺うように周囲を観察している。
そう、彼女の言う通り、私は装備を換装した時点で既に仕掛けていた。
そもそも、私の機械天使装備はただ可愛いだけの装備ではない。
…………。
ただ可愛いだけの装備ではない!(大事なことなので――)
ちなみに、装備の性能はこんな感じ。
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【ガーディアンユニット(上・下)】
レア:10
品質:高品質
耐久:1000/1000
製作:ヤマモト
性能:物防+334 (斬属性)
魔防+262(全属性)
【物理無効】【魔力無効】
備考:古代の叡智を結集して作られた拠点防衛兵器ザーヴァの防御機構を個人の防具に落とし込んだ唯一無二のパワードスーツ。莫大な魔力を代償に【物理無効】または【魔力無効】のバリアを張ることができる。
※バリアを使用するには、MP1000を消費
※バリアの持続時間は60s
※【物理無効】【魔力無効】のバリアを同時に張ることも可能
※スキルクールタイム60s
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【ザーヴァ・コマンダーリング】
レア:10
品質:高品質
耐久:1000/1000
製作:ヤマモト
性能:物防+121 (叩属性)
魔防+94(雷属性)
備考:内部に拠点防衛兵器ザーヴァの人工知能を搭載した唯一無二の機械式の天使の輪。装備者の思考とは関係なく、リンクした武装を人工知能が勝手に操作し、敵対者を攻撃する。頭装備というよりは無線装置に近い。
【リンク中装備】
フェザービット
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【フェザービット】
レア:10
品質:高品質
耐久:1000/1000
製作:ヤマモト
性能:物攻+52 (斬属性)
魔攻+358(光属性)
【ハニカムシールド】
【シールドカッター】
備考:鳥の羽根を模された全方位対応のレーザー兵器。普段は翼状の形態で集合しているが、攻撃命令を与えることで分離、散開し、全方位から相手に光属性の魔法攻撃を加えることができる。また、複数ビットがフォーメーションを組むことで、特殊な防御や攻撃をすることが可能。古代技術と世界最高峰の生産技術によって生み出された唯一無二の攻撃兵器。
※ハニカムシールド……ビットを六角形を描くように配置することで、魔力による膜が形成され、敵の攻撃を反射できる。
※フェザーカッター……ビット二つを直線的に配置することで魔力線を形成し、魔攻による斬属性の攻撃が可能。
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基本的には、
特に目玉は、ファ○ネルが使えること!
というか、本当は私の脳波とか、なんかそんな感じの奴で自由自在にフェザービットを飛ばしたかったんだけどね……。
【灰棺】の操作でもそうだったけど、複数の物体を自在に操るって、かなり難しいんだ。
なので、
操作を担当するのは、ザーヴァに組み込まれていた人工知能プログラム。
それを、天使の輪に組み込んで、フェザービットに遠隔で命令を出して、自在に操る感じになっている。
今回、イブリースが転んだ原因も、雨の中に潜ませたフェザービットによる攻撃だ。
晴れていれば、フェザービットの存在に気付けたのかもしれないけど、この雨だからね。
イブリースもその存在に気付けなかったみたいだ。
「なにかやってるのかもしれないけど、それは教えないよ? ……で、降参する?」
「クククッ……、アハハハッ!」
あれ? いきなりピンチに陥った自分が滑稽でツボったのかな?
私はそう思ったんだけど……違った。
「ヌルいことを言うなよ、ヤマモト! 私は殺し合いをすると言ったのだ! 即ち、決着はどちらかの死を以てでしかつかん! 降参などという生温い終わり方があるか! ――【破壊】!」
剣を突きつけていたら、イブリースを中心として、光がその場で膨張する。
ガガさんの魔剣が破壊されたら困るから、一旦離れたけど……。
そうかぁ、降参とかで負けてくれないかぁ……。
「だったら、心を折るとかで勝利するしか……え?」
イブリースを中心として広がりつつあった光が、今度は棘となって様々な方向に向かって伸びていく。
その様子は、まるで光のウニだ。
私はその棘を余裕をもって躱したんだけど……。
「ヤケクソのランダム攻撃じゃないね。狙ってる……」
雨の降りしきる中で、ボン、ボンッと立て続けに何かが爆発する音を聞いて、イブリースの狙いがただの範囲攻撃でないことを知る。
多分、フェザービットの位置を見切って攻撃してるっぽい?
この雨の中で、どうやって見切ってるのかは知らないけど、大した観察力だよね……。
「余所見とは――、随分と余裕だな!」
光が収まった空間から、イブリースが一気に駆け出してくる。
だけど、イブリースが言うように私には余裕があった。
少し集中すれば、走ってくるイブリースの姿が随分と遅く見える。
多分だけど、イブリースと私の間にはかなりのステータス差がある。
だから、イブリースがいくら不意打ちをしようと狙ってきても、どうにかできると思う。
それが、余裕の要因だ。
問題は、【破壊】というユニークスキルが厄介なだけで――、
「ヤマモトの実力に劣っているという事実を【破壊】する!」
「はぁ!?」
次の瞬間、イブリースが一気に加速する!
私はそんなイブリースから距離を離そうと後ろに飛び退くけど、そんな私の速度にイブリースは凶悪な笑顔を貼り付けながら追い付いてくる!
待って! 【破壊】のユニークスキルって、私の実力に劣ってるとかいうふんわりした事象でも【破壊】できるものなの!? いや、そんなのあり!?
「【わりと雷帝】!」
【わりと雷帝】で下半身を雷にして、【縮地】を連打して逃げる!
イブリースとのステータス差が【破壊】によって無くなったというのなら、イブリースの現在のステータスは私相当ということになる。
ステータスが同じだというのなら、攻撃系のアシストスキルが使えない上に、運動神経の悪い私が、イブリースとガチンコで勝てるはずがない!
そもそも、イブリースのユニークスキルである【破壊】はなんでもかんでも【破壊】する一撃必殺の技。
そんなオワタ式の勝負に乗れる程、私は無謀じゃないんですけど!?
逃げながら、フェザービットを展開。
それを人工知能が操って、イブリースを攻撃するけど、イブリースはその攻撃を尽く躱す!
くっ、私相応の力を手に入れたから、当たらないってこと!?
「ヤマモトが軽く私の攻撃を躱しているのをみて驚いたが……なるほど、お前には世界がこういう風に見えていたのか!」
光線程度じゃ、イブリースに避けられる。
だったら、ガガさんの魔剣で戦う?
でも、今の速度アップしたイブリース相手じゃ、下手に攻撃すると見切られて、ガガさんの魔剣の方が【破壊】されちゃうんじゃあ……。
それは、阻止しないと……!
「なるほど、こんな動きができるなら【救世の光】が当たるはずもないな……。ならば、接近戦にて直接その身を【破壊】してくれる……!」
ひぇぇっ!?
だから、そういうガチなのはダメだってば!
近付けさせたら終わるとばかりに、地面に描かれた蜘蛛の巣上を私が全力で逃げ、イブリースが全力で私を追う!
王都の中に逃げたら被害がもっと広がるだろうし、遠くに逃げたら腹いせに王都を破壊するかもしれないから、離れるに離れられないのがもどかしいね!
私がどうしようかと悩んでいたら――、
「…………」
突如として、イブリースの動きが止まる。
「な、なんか知らないけど、ラッキー!」
その間に、素早くイブリースとの距離を取る。
あー、今更ながらに、アトラさんが逃げろ、と言ってた意味を痛感してるよ……。
というか、戦闘中に言葉ひとつで戦闘能力が飛躍的に上がるとか、どこの戦闘民族だって話だよね……。
このまま、私も自分の技で真っ二つになったりするんだろうか……。
戦々恐々と私がしていると、
「なんの用だ?」
イブリースが面白くもなさそうに、そう告げる。
けど、その言葉を告げたのは、私に対してじゃない。
その言葉は、王都の正門から歩み出てきた、つば付きのキャップを被った背の低い人影に対してだ。
あれは……。
「まさか、母親の顔が見たくなったというわけでもないだろう? イザク?」
「…………」
イブリースの言葉に、人差し指一本で深く被っていたキャップのツバを持ち上げると、イザクちゃんくんはイブリースと、私を交互に見つめてから、再びキャップを深く被り直す。
「確かに、そんな理由じゃないね」
「だったら、今すぐ回れ右をしろ。母さんは今、とても楽しいことの真っ最中なんだ。邪魔するようなら、いくら、お前でもお仕置きだぞ?」
「もういい……」
「ん?」
「もういいだろ。もう、こんなことはやめてくれないか、母さん?」
イブリースが視線だけでなく、初めて体ごとイザクちゃんくんの方に向く。
チャンス……なのかな?
今なら不意打ち攻撃が狙える?
でも、全然攻撃があたるビジョンが見えないんだけど……。
まごつく私を無視して、イブリースはやたらと穏やかな口調で話しかける。
その穏やかさが逆に怖いんですけど……。
「私の耳が遠くなったか? 今、やめてくれと聞こえたような気がしたが……」
「やめてくれ、と言ってるんだ」
いや、あの、イザクちゃんくん……?
あんまり、今のお母さんを刺激しない方がいいと思うよ?
なにせ、今のお母さんは、最悪のユニークスキルに加えて、私のステータスまで兼ね備えちゃってるからね?
ちょっと隙がないっていうか、手に負えない状態っていうか……。
刺激しない方が一番だと思うよ?
でも、イザクちゃんくんは、私の心配をよそに、剣呑な雰囲気を醸し出し始める。
アカン。
これ、完全に戦闘モードになってる……。
「ずっと馬鹿みたいに、最強がどうのこうの言い続けてさ……。母さんが強いのなんて、わかりきってることなんだから、そんなことでいちいち、他人を傷付けたり、街や物を破壊したりしないで欲しいんだ……」
「それを命令するのか?」
「命令じゃない……お願いだよ」
「そのお願いを聞く理由がどこにある?」
「……従わせる」
次の瞬間、イザクちゃんくんの手の中に一振りの剣が現れたかと思ったら――、
「ほぉ……!」
イブリースの全身から、派手に血飛沫が飛び散ったよ!
イザクちゃんくんは、何も動いてないように見えたのに……。
もしかして、時間を止めて攻撃した……?
「ボクよりも母さんの方が弱いということをわからせてあげれば……母さんも従ってくれるでしょ?」
「斬られたという事実を【破壊】する……なるほど、地べたを這いずり回っていた雛が、一丁前に羽ばたける程度にはなったか」
多分、止めた時間の中で、何度もイブリースを斬りつけたんだろうけど……その程度のダメージじゃあ、イブリースは一瞬で回復してしまう。
だったら、イブリースを即死させなきゃいけないんだろうけど……。
実の母親を手に掛ける覚悟がイザクちゃんくんにあるんだろうか……?
まぁ、イザクちゃんくんも、優柔不断な私には言われたくないかもしれないけど……。
「もし、私を屈伏させることができたのならば、お前の願いも叶えてやらなくもないぞ」
「後悔しても、遅いよ?」
「それは楽しみだ。――来い」
挑発するようにイブリースが言った瞬間、イザクちゃんくんの姿が消える。
それと同時に、イブリースの体に数多の裂傷が一瞬で刻まれ、水風船が割れたかのように、膨大な血液がバシャリとその場に飛び散る。
これは……。
イザクちゃんくんは本気だ……!
本気で、イブリースを殺すつもりで挑んでいる……!
「斬られたという事実を【破壊】する」
だけど、イブリースはたった一言だけで、全てをなかったことにできる。
こちらも、やはり強いね……!
「ふむ、防御力がかなり上がった感覚があるのだが、これだけのダメージを受けるとは……その剣のおかげか?」
「さぁ、どうだろうね」
イザクちゃんくんの姿が再び、現れては消え、消えては現れを繰り返し、どこにいるのかさえ、私にはわからなくなる。
そして、その度にイブリースは傷を負っては回復させを繰り返してるんだけど……。
これは……もしかすると、もしかする?
イブリースに攻撃をさせずに、イザクちゃんくんが一方的に攻撃を続ける展開!
状況的には、イザクちゃんくんが圧倒的に有利!
ただ、致命傷まではいかないのか、イブリースはすぐに傷を回復してしまう……。
というか、ずっと時間を止めて攻撃し続ければいいのにね?
そう思ってたら、思い出した。
確か、イザクちゃんくんのユニークスキルを【まねっこ動物】で見た時は、息を半分だけ止めてる間、時間の流れを停止させるとか書いてあったような気がする……。
いや、息を半分停止ってどういうこと? って思って、結局スキル取得を断念したんだけど……。
もしかして、息を止めてる間だけしか、時間を止められないから、イブリースを仕留めきれないのかな……?
でも、あの手数だし……数を撃ってれば、いずれは核を――、
――ドォンッ!
大地を揺らす衝撃……!
その衝撃は、イザクちゃんくんがイブリースの核を斬った音ではなくて……。
「停止した時間の中で行動できないという常識を【破壊】したら、こんなものか」
イザクちゃんくんの後頭部を掴み、押さえつけるようにして、イブリースがイザクちゃんくんの頭を地面に叩き付ける音だった……。
ガハッとイザクちゃんくんが血反吐を吐くんだけど……、頭が【破壊】されていないのは優しさ、ってことなのかな……?
とても、そうは見えないけど……。
「私に歯向かう意気や良し。だが、些か必死さが足りないな。ならば、精神的に追い詰めてやるか」
イザクちゃんくんをまるで遊び終えた人形のようにその場に放り捨て、イブリースが片手を王都の方へと向ける。
「無辜の民を殺し、王都を破壊し尽くせば……イザク、お前は自責の念と私への恨みで、もっと強くなるんじゃないか? そうしたら、私ももっと楽しみが増えるというものだ」
「や……、めろ……」
イザクちゃんくんが頭から血を流しながら、震える腕を伸ばす。
たった一撃を受けただけだというのに、イザクちゃんくんは致命的なダメージを受け多様に見える……。
というか、私のステータスと同等の攻撃を受けたと考えると、それも無理のない話なのかも……って、それだと私が戦犯なのでは!?
「確か、お前は王都の学園に通っていたな? 喜べ、お友達が沢山死ぬぞ? そのお友達の仇討ちのために、死ぬ気で鍛えれば……面白くなるかもしれないな」
「や……、めてくれ……」
「ダメだ。私に逆らった罰だ。悔い苛まれろ」
「ヤ、ヤマモト……」
えぇっ!?
ここで、私に縋るような視線を向けるの!?
この状況をなんとかしろって!?
いや、なんとかして欲しいのは、こっちの方なんですけど!?
でも、今の状況で戦えるのは、私だけで――、
…………。
「あぁぁぁぁ! もぉぉぉぉ――っ!?」
――気付いたら、ガガさんの魔剣を片手に、私は走り出していた。
■□■
※本編とは何の関係もないCM劇場※
デスゲームに巻き込まれた山本さん、気ままにゲームバランスを崩壊させるの3巻が電撃文庫様より、2025/1/10(金)に発売されます。
今回も帯にて、特別に推薦コメントを頂いております!
今回推薦コメントを頂いたのは、最近31巻が出たあの作品のあの方です!
あの作品は自分も読んでいましたので、そういう意味でも嬉しい限りです。
特に、序盤でシティアドからダンジョン探索に移り変わる流れは、え? それあり? とちょっとショックを受けた覚えがあります(笑)
当時、WEB小説をかなりの数読んでいましたが、そういう展開になるパターンはひとつもなかったんで斬新だなぁ、と思いましたね……。
まぁ、わかる人にはわかるけど、わからない人には全くわからない話なので、この辺で自重します。
というか、一ヶ月もCM劇場のネタが続かないと思うので、この辺は不定期にやっていきますかね……。
ではでは〜ノシ
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