第408話

 ■□■


本体キング視点】


 ポカポカと殴ってくる顔色の悪い人たちから走って逃れながら、私は素早くアトラさんたちとの距離を詰めていく。


 というか、この雨だからね!


 近付かないと、何を話してるのか聞こえないんだよ!


 今回、私が確認しなきゃいけないのは、


 ・アトラさんが裏切ったかどうか

 ・謎の女の人の正体


 ……って、ところかな?


 魔王に、『アトラさんを見張れ』と言われてるから、多分、アトラさんが裏切り行為を働いたんじゃないかと思ってたんだけど……。


 なんか、様子がおかしいんだよねー。


 だから、裏切りを決定付ける証拠みたいなものが出てくれるとありがたいんだけど……。


 そのためにも、二人に近付く必要があるというか。


 そして、もうひとつは、あの謎の美人さんについてだ。


 人目のつかないところで、アトラさんと出会ってる時点で怪しいけど、彼女の目的が全然わからない。


 そして、今はアトラさんと敵対してるのも意味不明。


 なんで敵対してるの? そして、何者なの?


 その辺の情報を知る必要があると思うんだよね。


 というわけで、その辺にいる魔物族を遮蔽物にして隠れながら、二人の近くにまでやってきたんだけど……。


「――■■くないからな。■■■■、残しておいてやる!」


 美人さんが何かを喋ってるんだけど、良く聞こえない……。


 まだ、距離が遠いかー。


 でも、断片的に聞こえてきた情報から推理することはできるね。


 想像力を働かせると……。


 美味しくないからな。ニンジン、残しておいてやる……?


 いや、ニンジンを食べるのが嫌で大乱戦ってどんな状況……?


 せめて、アトラさんが兎人族だっていうなら、キレてる理由もわかるけど。


 んん? もしかして、発想が逆かな……?


 アトラさんって、この地面で光ってる模様を見る限りだと、蜘蛛っぽいんだよねー。


 つまり、ニンジンじゃなくて――、


 美味しくないからな。昆虫は、残しておいてやる……?


 それを聞いたアトラさんが、「虫は美味しいでしょ!?」って、キレてるってこと……?


 …………。


 いや、それ百パー、アトラさんが悪いじゃん!


 私の心の中で、アトラさんの信頼度メーターがググッと下がり、謎の女の人の信頼度メーターがググッと上がる。


 でも、こんな雨の中で、しかも人気の少ない場所で昆虫食についての言い争いなんてするかなぁ……?


 まぁ、人の趣味嗜好なんて様々だから、そういうこともあるかもしれないけど。


「――だ! ■■いものを■■てやる! ア■ラ、よく■て■けよ!」


 そんなことを考えてたら、女の人がはしゃぎ始めた。


 女の人は戦いの最中だというのに、凄く楽しそうな笑顔を見せてる。


 あんな純粋な笑顔で楽しそうに笑ってるんだから、きっととても良い人なんじゃないかな?


 私の中の女の人の信頼度メーターがググッと上がっていくよ。


 でも、次の瞬間に、女の人が交差していた両腕を左右に突き出すと、掌からいきなりごんぶとのビームが出て、ビームに触れた魔物族の人たちが消し飛んじゃったんですけど……。


 なに、あの女の人!? 危険過ぎない!?


 女の人の信頼度メーターがググッと下がる。まったく忙しいね!


 そして、今の攻撃について、アトラさんと女の人は何かブツブツと話してる。


 話を聞きたいんだけど、この距離だとなぁ……。


 さっきの攻撃で魔物族の遮蔽物の密度も減っちゃったし……。


 もう少しだけ距離を詰めようか、どうしようか、と迷っていたところで、女の人の声が今度ははっきりと聞こえた。


「カッコイイだろう?」


 ん?


 さっきの攻撃のことを言ってるのかな……?


 まぁ、ちょっとカッコよかったし、自慢したくなる気持ちはわからないでもない。


 威力は洒落にならないものがあったけど、やっぱりあの女の人は純粋な良い子なんじゃないかな?


 私の中の女の人の信頼度メーターがググッと上がったところで、再度戦闘が再開される。


 それにしても、こうして見てみると、たった一人に寄って集って攻撃するなんて……。


 どう見ても、アトラさんの方が悪者にしか見えない。


 状況的に、あっちの女の人を応援しちゃってるもん。


 やっぱり多勢に無勢だと、少数戦力の方を応援したくなっちゃうよねー。


「やりなさい」


 そんなことを考えてたら、女の人が兎人族の短剣でめった刺しにされちゃったよ!


 私のアトラさんに対する信頼度メーターがググッと下がるよ!


 というか、そんな酷いことしなくても!


 更には、巨大なハンマーで挟み込むようにして、女の人がぺっちゃんこって……。


 アトラさん、ちょっとやり過ぎじゃない!?


「私が傷付いたという事実を【破壊】する」


 だけど、女の人は無傷でその状況から生還する。


 ユニークスキルの効果なのかな?


 なんか、【破壊】がどうこう言ってるように聞こえたけど……。


 【破壊】してるのに、回復してるって意味わからないね!


 というか、戦闘のどさくさに紛れて、大分近付けたので、言葉もはっきりと聞こえるようになったのは朗報かな。


 後は、この大きな熊の魔物族さんが下手に動かなければ、会話を盗み聞きするのもバッチリだ。


『……ウォ?』

「あ、ども……」

『ウォー!』


 痛い痛い! なんで、ちょっと壁にしたからって殴ってくるの、この熊さん!? 流石に心が狭くない!?


 ――ズドォン!


 って、熊さんと戯れてたら、いつの間にか王都の正門が破壊されてるし!


 何があったし!


「見ての通りだ。私がその気になれば、王都を守護する大結界の効果を無視して、街を【破壊】することができる。……だというのに、わざわざ王都の大結界にちょっかいを出すような痕跡を残したのは何故だと思う?」


 えーと、つまり、この女の人が正門を破壊したと?


 いや、なんのために……?


 女の人の言葉を聞いてればわかるのかな?


『ウォー!』

「うぉー!」


 熊の魔物族と両手を組んで力比べをしながら、私は女の人の言葉の続きを待つ。


「その様子だと気付いたようだな? 私はヤマモトだけでなく、アトラ――お前とも殺し合いがしたかったのだよ」


 …………。


 あれ? なんで私の名前が出てくるの……?


 しかも、殺し合いを所望するって……。


 えーと、こういう時こそ、想像力を働かせて――、


 …………。


 もしかして、私を付け狙う悪い奴相手に、アトラさん一人で戦おうとしてた……とか?


 いや、それだとなんで一人で戦おうとしてるの? って疑問が……。


 でも、さっきの感じだと、中途半端な強さの人たちだと、参戦したところで、あの謎の光を浴びて消滅しちゃうだけなのかも……。


 そもそも、現役の魔王軍四天王が苦戦するような相手に、人数かけてもどうにかなるとも思えないし……。


 というか、さっきの光を食らったら、アトラさんでもヤバイでしょ。多分。


 …………。


 あれ? もしかして、魔王がアトラさんを見張れって言ってたのはそういうこと?


 アトラさんを見張ってて、殺されそうになったら助けてあげてねって……そういうことなの!?


 だったら、言葉が足りな過ぎだって!


 最初から、そう言ってくれれば、もう少し行動の幅も広がったのに!


 そもそも、そういう意味なら、私が今隠れてる意味がないし!


 ……いや、でも、本当にそうなのかな?


 全ては私の想像の中の話だ。


 実際には、あの女の人はとっても良い人で、私とアトラさんが知らない内に、あの子から恨みを買うような酷いことをしてしまったという可能性もある。


 本当の悪者は私たちで、あの女の人はただの被害者というセンも――。


「あぁ、考えるだけでも心が躍るな。ヤマモトとアトラ、二人の強者と殺し合いをして、その二人を屠ることができるとなると――」

「やっぱり、こいつが悪者じゃない!」

 

 ツッコミと同時に思わず手が出て、女の人をぶっ飛ばしてしまった!


 だって、あの女の人の信頼度メーターが突き抜けて、マイナスを突破しちゃったんだもん!


 というか、どう考えても戦闘狂バトルジャンキーの台詞です! ありがとうございます!


 ぶっ飛んだ女の人は王都の城壁にぶつかり、分厚い壁を粉々にして、粉塵と瓦礫の中に埋まってしまう。


 うん、光の粒子になってないってことは、多分死んでないね。危うく勢いで、殺魔物族事件を起こすところだったよ。危ない危ない。


「というわけで、アトラさんは白ってことで――あいたっ!?」


 とりあえず、これにて一件落着とばかりにアトラさんを振り返ったところで、熊さんに殴られる。


 そう……。


 私とやろうっていうんだね……。


 ――負けないよ!


『ウォー!』

「うぉー!」

「そのチャランポランさ加減……もしかして、ヤマモトちゃん?」


 アトラさんの中で、私は一体どういう評価なんだろうか……。


 とりあえず、熊の魔物族を遠くに投げ飛ばしてから、ヤマモトちゃんでーす! と名乗ろうとした、次の瞬間――、


「危ないっ!」


 アトラさんに突き飛ばされて、私は地面を転がっていた。


 私が慌てて立ち上がった後には、破壊された城壁を中心として、光の壁が四方に伸びていて――、


「逃げて、ヤマモトちゃん……。あそこにいるのは、初代魔王イブリース……。この魔王国を創り上げた最強最悪の魔物族……。彼女のユニークスキル【破壊】は全てを破壊し、全てを粉砕する……。いくら、ヤマモトちゃんでも、彼女には勝てないわ……。だから、逃げて……!」

「アトラさん、脚……! 脚が……!」


 さっきの光の一撃に巻き込まれたのか、アトラさんの両脚の膝から下が失くなっている!


「これは、【再生薬】を使わないと! いや、もっと手っ取り早く、【蘇生薬】とか!? とにかく、急いで――」

「私はいいの! そんなことより、ヤマモトちゃん――」

「――無駄だ。私の【破壊】は文字通り、存在そのものを破壊する。薬や魔法などでは回復せんよ。……つまり、アトラの両脚は二度と元に戻ることはないということだ」


 次の瞬間、光の壁が収まり、その光の発生源にいた人物がゆっくりとこちらに歩み寄ってくる。


 そして、歩み寄りながら、その姿が徐々に変貌していく――。


 腰まで伸びていた長い金髪が、うねるような紅い髪へと変貌し、白いドレスが黒のライダーススーツのような装備へと変わっていく。そして、片手には同田貫にも似た無骨な刀を無造作に携えている。


 なんとなくだけど……。


 これが彼女の戦闘モードなのかな、と私は感じ取る。


「貴様がヤマモトか。待ち侘びたぞ」

「待ち合わせの約束をした覚えはないんですけど……?」


 そう言いながらも、私も光を纏いながら、装備を機械天使装備へと換装する。


 雨に濡れて嫌だけど、我儘を言ってられる状況でもなさそうなんだよね……。


 そんな私たちの空気を全く読まずに、顔色の悪い魔物族たちがこぞって押し寄せてくるけど――、


「私に付けられたという定義を【破壊】する」


 彼女がそう告げただけで、顔色の悪い魔物族たちは、みんなイブリースを無視して、私の方に向かってきたんですけど!?


「ハハハ! こんな状況で悪いが自己紹介させてもらおう! 我が名はイブリース! 魔王国建国の祖にして、最強を謳う者だ! ……故に、強い奴には目がなくてな? 悪いが、ヤマモト……お前がどれほど強いのか、私に教えてくれないか? さぁ、少しばかり、殺し合いをしようじゃないか!」


 うわぁ……。


 なんというか、流石は魔王国を建国した人なだけはあるね。


 古き良き時代のストロングスタイルの魔物族……要するに、力こそパワー(誤字ではない)……を地で行ってる気がするよ。


 でも、おかげさまで、良くわからない部分が良くわかってきた。


 魔王がアトラさんを見張れって言ったのは、このイブリースの脅威を感じて、アトラさんを守ろうとした結果だろうし……、アトラさんがイブリースと一人で対峙してたのは、多分、他の人を巻き込まない優しさからなんだろう。


 けれど、さっきの光の壁の一撃で、王都には甚大な被害が出て、街中は火事にでもなっているのか、雨にも負けない勢いで炎が立ち昇っているのが見える。


 それもこれも、全ては目の前の戦闘狂が好き放題やってるからで……。


 この状況を、本人はどう思ってるんだろうね?


「……現魔王様も、アトラさんも、あなたにとっては千年前からの戦友じゃないの? そんな戦友が千年掛けて築き上げてきたものを簡単に壊して……、戦友自身も傷付けて……、あなたはなんとも思わないの……?」


 気になったので、思わず聞いてしまう。


 そして、私は私で、襲ってくる魔物族たちの攻撃を軽く躱しながら、パチンと指を鳴らす。


 それと同時に、幾つもの魔法陣が足下に生まれ――、


「「「うごっ!」」」


 ――山羊くんたちが大量に顔を出す。


 そんな山羊くんたちは、私の意思を汲み、襲い掛かってくる魔物族たちを触手で絡め取って足止めし、アトラさんを担いで安全圏まで逃げてくれる。


 うん、とってもお利口さんだ。


「そのバケモノは暗黒の森で見たことがあるな! 暗黒の森を我が物顔で歩いていたから、見つけ次第殺していたが……そうか、ヤマモトの召喚獣だったか! ハハハ!」


 山羊くんを倒す……?


 山羊くんは【物理無効】で、召喚者のステータスの十分の一を引き継いでるような強力なモンスターなんだよ?


 それを倒すって……。


「質問に答えてくれない?」

「あぁ、戦友を傷付けて何とも思わないかだったか? 当然、答えはだ。私は私の理想とする魔王国を作りたかった。だが、それをこんな国に作り変えられて……憤慨こそすれ、感謝や親愛など覚えるはずがないだろう!」

「そう」


 なんとなく理解できない答えが返ってくるんだろうなぁ、と思っていたけど、やっぱり理解できない答えが返ってきたね。


 苦しい時間、辛い時間を友達と共に分かち合って過ごしてきたのなら、普通は一生ものの友情とかが育つと思うんだけど……彼女にはそれがないみたい。


 完全な唯我独尊体質だ。


 イブリースは……なんだろう? その体質からすると、修羅の国でも作りたかったのかな?


 強さこそ正義で、弱い奴には生きる資格もない、みたいな世界で王様になりたかったのかもね。


 というか、イブリース自身がそういう暴力の世界に根差してる住人のようにみえるもん。


 そりゃ、アトラさんも排除に動くってもんだよ。


「お喋りは終わりか? だったら、これからは殺し合いの時間だ……!」


 イブリースが駆け出す。


 大地を蹴って、雨を真っ白な飛沫に変え、一気に私との距離を詰めてくる。


 そして、その距離がイブリースの間合いとなり、彼女が刀を抜き放った瞬間――、


 彼女の膝裏を光が撃ち抜き、


 彼女の背中を光が撃ち据え、


 ――イブリースは泥の中で派手にすっ転んでいた。


「なん……!?」


 四つん這いの体勢になるイブリースの頬を撫でるように、ガガさんの魔剣を突きつける私。


「じゃあ、これで勝負はついたってことでいいかな?」


 そう告げると、イブリースは憎々しげな表情で私を睨みつけるのであった――。



 ■□■


※本編とは何の関係もないCM劇場※


デスゲームに巻き込まれた山本さん、気ままにゲームバランスを崩壊させるの3巻が電撃文庫様より、2025/1/10(金)に発売されます。


それに伴って、表紙絵が公開されたようです。


■表紙絵はこちら

https://x.com/bunko_dengeki/status/1859194610905735567


ヤマモトさんに加えての愛花ちゃんが可愛いですよねー……。


これは、愛花ちゃんのためにも絶対に落とせないですね!


…………。


いや、まだ校正作業が残ってるんすよー。


あと、購入特典のSSの執筆作業も……。


しかも、年末進行だからってSSの締切が短いんですってよ、奥さん!


というわけで、3巻関連は現在も鋭意制作中の状態です!

(発売一ヶ月以上も前だから、まぁ、仕方ないね)


3巻の見どころについては、また次の更新のCM劇場か、近況にでも載せていきたいと思いますので、よろしくお願いします。


それではでは〜ノシ

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