第402話
■□■
【エギル視点】
「正気か、小僧ぉ……!」
「正気も正気、ド正気だってぇの……!」
俺様たちを囲む黒々とした森は、今轟々と派手に燃えている!
火を点けたのは、勿論俺様だ!
パチパチと飛び散る火の粉に、真っ黒な煙が派手に巻き、立ってるだけでも炙られた肌が痛みを訴えかけてくるような状況――。
それを、俺様は望んで作り出したのだ!
「森に【炎魔法】をぶち込んで、火事を起こしておいて正気を宣うかッ!」
「森の火事を作り出したのは俺様が原因だが、森が燃え続けているのは、俺様が何かしてるってわけじゃねぇよな? それは自然的な現象だろ?」
「なにを当たり前のことを言っている! やはり、正気を失ったか!」
「つまり、この炎の熱は俺様起因じゃねぇから、テメェにだって効果があるってことだ! 要するに、テメェのユニークスキルでも、どうにもできねぇんじゃねぇのか? ――違うか!?」
「…………」
へッ、顔色が変わったな。
その様子だと、どうやら俺様の想定通りってことらしいな! 笑えるぜ!
「俺様は戦いながら、テメェのユニークスキルを分析してたんだよ! そして、テメェのユニークスキルはどうやら俺様に起因する攻撃だと減衰しちまうってことに気が付いた! だから、俺様は俺様起因じゃない、他のダメージ源を作る必要があったんだ! それが、この森林火災ってわけだ!」
「森を燃やして、この私を森の中にでも追いやるつもりか! 浅はかな……!」
「そんなまどろっこしいマネはしねぇよ! 行くぜ、【フレイムアート】!」
【火魔法】レベル6。この魔法は、火を自在に操れるようになる魔法だ。
この魔法自体に炎を生み出す力はねぇから、自然に発生してる炎を操ることになるが、今はそれがいい。
俺様は【フレイムアート】で森の炎を操り、巨大な剣を作り出す。
「これなら、どうよ! この炎なら、テメェに届くんじゃねぇのか!」
「ハハハ、大した小僧だ……! 私のユニークスキル【大女傑】の力を戦いながら見破るなんてな! そうだ! 私の【大女傑】は男からの攻撃の威力を十分の一にまで減衰させる! だから、小僧の戦い方は正しい! 自身を起因とした攻撃でなければ、私に通る! ……だが、ひとつ忘れてるぞ?」
俺様が操る炎の大剣が矢のようにクソババア目掛けて撃ち出されるが、それを紙一重で躱すクソババア。
あの速度を余裕で躱すかよ……!
「どんな攻撃であろうとも、私にあてねば、意味がないということだ……!」
避けられた炎の大剣が地面に当たって、油でも撒いたかのように下草を燃え上がらせる。
そんな火の草原の中を、弾かれたようにして駆け出すクソババア!
俺様はそんなクソババアに対抗するようにして、森の炎を操り、極太の炎の柱を何本も作り上げる。
それをまるでヒュドラの首のように連続してクソババアに向かわせるが――、
「嘘だろ!? マジで当たらねぇ!?」
「当然だ! 小僧の【フレイムアート】で操られた炎は、私に近付いた瞬間にコントロールを失くす! そんな気の抜けた攻撃が私に当たるものかよ!」
「なら、これでどうだ!」
炎の柱から炎の壁へと変形させ、クソババアを囲うように配置する。
だが――、
「ぬるいッ!」
炎の壁を剣で切り裂き、クソババアが炎の中から飛び出してくる!
クソッ、止まらねぇなぁ、オイ!?
この圧は、ツルヒクラスかよ!
俺様も近接戦闘は苦手な方じゃねぇが、その道の達人とやりあえるほどじゃねぇぞ!?
「その首、頂戴する!」
「【アクアヴェ――……」
後ろに下がりつつ、【水魔法】レベル1の【アクアヴェール】を発動しようとする。
この魔法を掛ければ、火耐性が大幅に上がって、燃え盛る炎の中に逃げ込んでも、微々たるダメージで済む計算だったが……それよりも早く全身から力が抜けていく!
クソッ、まさか【大女傑】の範囲に入ったのか!?
動くことがままならない中、接近したクソババアの剣が俺様の首に届――、
ギィンッ!
――きそうになったところを、横手から現れた黒い物体が強烈な一撃でクソババアの剣を弾き返す!
それを受けて警戒したのか、クソババアも一足飛びで距離を取ると、森から飛び出してきた相手目掛けて剣を向ける。
…………。
ってことは、この黒い物体は味方か……?
「何奴……!」
「やはり、貴殿の仕業か、エギル殿……」
「その声……ツルヒかよ!?」
真っ赤に燃える炎の森から煤だらけの姿で飛び出してきたのはツルヒのようだ。
剣の切っ先をクソババアに向けながらも、パタパタと片手で服に燃え移った炎を消して、煤を払おうとしている。
いや、それだとますます汚れて黒くなっていくんだが……。
それにツルヒも気付いたんだろう。
凄い形相で睨まれる。
「味方まで燃やす気か……!」
「テメェがこの島にいるなんて知らなかったんだよ! だが、丁度いい。ツルヒはあのクソババアの相手を頼むわ。あのクソババアは男相手だと滅法強くなるみたいなんでな」
「ほぅ? そうか、それは良かった」
「あん?」
「実は、私も魔法使いの相手は魔法使いに頼もうと思っていたんだ」
そう言うツルヒの視線の先には、燃え盛る森の中から涼し気な……いや、全身を煤塗れにした黒い男が出てくるのが見えた。
…………。
「おや、ノワール嬢に続いて、今度はエギルくんか。今日は懐かしい顔に良く会うね」
「シーザ・セルリアンかよ!?」
いや、黒すぎてわからねぇよ!
それでも、ツルヒよりも黒くねぇのは、奴の体から噴き出す冷気が原因か。
なるほどな。
【氷魔法】には、相手の動きを阻害したり、封印したりするような魔法があると聞く。
その対抗策となる【炎魔法】を扱えないツルヒにとっては、シーザの野郎はやり難い相手なんだろう。
だが、【炎魔法】が得意な俺様からすれば、そこは苦じゃねぇってことか。
……いいだろう。
「いいぜ、戦う相手を変えようじゃねぇか」
「恩に着る」
「やれやれ、私としてはこんな火勢の強い中で、エギルくんとやるのは不本意なんだがね。なにせ、【氷魔法】が安定しない。……けどまぁ、私の氷と君の炎のどちらが強いかには興味があったんだ。そういうことで文句はないかな? ミョウイン嬢?」
「あぁ、こちらとしても文句はない。なにせ、剣の道を歩む者なら誰しもが戦ってみたいと憧れる【剣姫】との対決だ……! 胸が躍らないわけがない……!」
これは、有名税って奴か?
やる気満々のクソババアを見て、ツルヒも大変だな……と同情する。
まぁ、俺様に同情してる余裕はねぇのかもしれねぇが、
「そんじゃまぁ、二対二の変則マッチと洒落込もうか……!」
俺様たちは燃え盛る森の只中で戦闘を再開するのであった――。
■□■
【
無限フリーフォールを「わーっ!」と叫びながら落ち続けていたら、十回ぐらいで飽きました。
どうも、私です。
というか、絶叫系って、日頃ストレス溜まってる人が、ストレス発散のために思い切り叫んでスッキリするシステムであって、特にストレスが溜まってない人がやると、逆に疲れるというか、ストレスが溜まるというか……。
そんな感じになることを、九回目の自由落下の時に気付いちゃったんだよね。
いや、もっと早く気付けよ、って話なんだけどね?
で、十回目の自由落下は、叫ぶことをメインにするよりも、景色を見ることをメインにし始めたわけなんだよ。
そう。
ストレスが溜まった心を癒すためにね!
…………。
自分でストレス溜めといて、自分で癒すって、これもうなにやってるのかワケわかんないね……。
まぁ、とりあえず、綺麗な景色を堪能して、心を癒そうと思ったんだけど……。
いや、これが全然落ち着かないのなんのって。
まぁ、状況的には、スカイダイビングをしている真っ最中みたいなものだし、景色をのんびり楽しむとかいう状況でもないしね。
風が体にあたって痛いし、寒いし。
耳元で風鳴りが轟々鳴ってうるさいし。
とてもじゃないけど、心が癒される要素がないんだよ!
それでも、遠くの景色はあまり動いてないから、のんびり見られるかなぁと思って、見てたんだけど……。
「あれぇぇぇ……! なんで、山羊くんがいるのぉぉぉ……!?」
思わず風の大音量に負けないように叫んじゃったよ!
あれ? 見間違いかな?
一応、目を擦って、もう一度見てみるけど……。
やっぱりいる。
んん? 召喚した覚えはないんだけどなぁ……?
「とりあえずぅぅぅ……、状況を確認しに行った方がいいよねぇぇぇ……?」
というわけで、【わりと雷帝】を発動して、無限フリーフォールを強制終了。
そのまま、一番近くの島に移動する。
「うん、なかなか貴重な体験をさせてもらった気がする」
現実では、なかなかスカイダイビングなんてする機会がないからね。
それが、お手軽に楽しめちゃうLIAは、やっぱり凄いゲームなんだなーと実感できた次第だ。
「というか、山羊くんはどこかな〜?」
感心してばかりもいられない。
山羊くんが解き放たれているとなると、色々と問題も起きてそうだし、早めになんとかしないと。
私は、先程山羊くんを見かけた島を探そうとして、辺りを見回し――、
あれ?
「何故、急に思い出フラッシュバック空間に移動したし……」
周囲一面がいきなり真っ白な空間に覆われちゃったよ!
というか、これ前に見たことがある。
多分、分身体の一人が経験した記憶なんだろうけど……。
この白い空間の中では、私の昔の記憶が掘り起こされて、目の前で立体映像として投影されるって……私の中のガイアがそう囁いてるよ!
「つまり、今の私にやれることは、視聴の準備をすることだね……!」
というわけで、【収納】からお茶と座布団を取り出して、更にお茶請けを用意してみたんだけど……。
えぇっと、山羊くんの件はどうしよう?
ユフィちゃんにでも任せればいいかな?
うーん……。
そんな風に悩んでいたら、ようやく目の前に見知った顔が現れる。
おぉ、始まった!
「ようやく捕まえたよ、ヤマモト……」
私の目の前に現れたのは、つば付きの帽子を目深に被り、パーカーとジーンズといったラフな格好をしたイザクちゃんくんだ。
おー、最初はイザクちゃんくんとの思い出映像かぁ。
あまり思い出とかはないと思うんだけど、どんなのが出てくるんだろうね。
わくわく。
「まさか、ボクに負けるのが嫌で逃げ回っていたわけでもないだろうに、こんなに姿を現すのが遅いなんて予想外だったよ。一体何をしてたんだい?」
……?
なんかすっごい、目の前の思い出がフレンドリーに話しかけてくるんですけど?
思い出って、そういうものだったっけ?
思わず、本当に立体映像なのか気になって、イザクちゃんくんに触ってみるよ。
ぺたぺた。
「ひゃう!? ちょっと、ヤマモト! なにするのさ!?」
あれ? 触れる……?
……まさか。
「思い出フラッシュバック空間じゃない!?」
「この空間に勝手な名前を付けないでくれるかな!?」
えぇ、じゃあ、今いるここはなんなの……?
私がげんなりしてることに気が付いたのか、ふふっとイザクちゃんくんが笑う。
「戸惑っているようだね? この空間は、タキのユニークスキル【マッチメイク】で作られた特殊な空間さ。【マッチメイク】の面白いところは、スキルの保持者が勝負の対戦者と勝負方法、そして賞品を指定して、戦いを強制的に起こさせるところだね。そして、今回はボクと君が対戦者として選ばれたってわけだ」
「選ばれたっていうか、選んだんでしょ? どうせ」
というか、イザクちゃんくんは、私に八百長を持ちかけてきたぐらいだもんね?
どんな手を使っても勝ちたいと思ってるんでしょ?
だから、こういうことを仕掛けてきても、驚かないというか、なんというか。
それは、イザクちゃんくんも良くわかっていたのか、肩を竦める。
「まぁ、ぶっちゃけて言うと、その通りさ。そして、ボクたちの勝負の結果によって、負けた方のベースクリスタルが破壊される。どうだい、シンプルでわかりやすいだろう?」
「それって、私たちの勝負の結果如何でチームの勝敗が決まらない?」
魔将杯最終戦は、全員にレシオ1を割り振るのが通例だって聞いてるんだよね。
つまり、相手を一人倒したところで、ポイントは一しか手に入らない。
試合は前後半合わせて九十分あるから、一分間に一人倒せたとしても、最大で九十ポイントぐらい?
でも、実際は倒されたメンバーは三分間はリスポーンできないはずだから、得点できる点数はもっと低くなるはず。
対して、ベースクリスタルはひとつ破壊するだけで、百ポイントも手に入る。
つまり、今回のルールだと、私とイザクちゃんくんの勝敗が、そのままチームの勝敗に直結することを危惧してるわけなんだけど……。
というか、そういう責任重大な勝負とかしたくないんですけど?
どうにかならないのかな?
「そちらの方がボクにとっては都合がいいからね。君に勝つことで、君よりも優れていることを証明し、同時にチームとしての勝利も得る。まさに、一石二鳥という奴さ」
うん、どうにもならないみたい。
「それとも、魔王軍特別大将軍が勝負を挑まれて、まさか拒否するわけじゃないよね?」
「恥も外聞もないから、時と場合によっては拒否するよ?」
この返しは予想外だったのか、一瞬、イザクちゃんくんの顔が強張る。
だけど、すぐに思い直したのか、元の調子に戻ったね。
「なら、ヤマモトにもメリットを提示しよう」
「メリット?」
「今の状況は、ボクが君と勝負をしたいと強制してるようなものだからね。君が自ら進んで勝負がしたくなるような条件を付けようというのさ」
そんな条件、あるかなぁ……?
「まず、一つ目。今回の勝負方法は戦闘じゃないから、痛かったりはしない」
え?
急に、この勝負が魅力的に見えてきたんですけど?
平和的だったりするのかな?
リバーシで勝負だとか。
「そして、二つ目。ボクは今回の勝負では、ユニークスキルを使用しない……というか、この空間の中では、そもそもどちらもユニークスキルが使用できないんだけどね?」
それって、【バランス】さん無しで、私に戦えってこと……?
え、それは私に勝ち目なくない……?
でも、イザクちゃんくんのユニークスキルも封じられてるってことは、【時間停止】もできないってことだよね?
普通に厄介なユニークスキルだから、それを使用できないのは凄く助かるかも……。
「そして、三つ目。勝負方法は、これだ。……好きなんだろう?」
そう言って、イザクちゃんくんが【収納】から取り出したものを見て……。
「いいよ、その勝負受けるよ」
私はそう言うのであった。
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