第401話
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【ユフィ視点】
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【腐食姫】
触れるもの全ての時間を一瞬で加速させ、腐らせ、朽ちさせる。ただし、自身は除く。
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私はステータスが高いのですから、相手に【鑑定】のスキルが通るのでは? と考えて相手を【鑑定】して、更にユニークスキルを確認した結果がコレです。
足元の玉石が焦げ溶けていると思っていたのですが、実際には踏んだだけで風化していたのですね……。
そして、私の【魔甲】が解除されてしまった理由もわかりました。
アレは髪に触れた瞬間に、【魔甲】の持続時間が加速され、解除されてしまったのでしょう。
それにしても不思議なのは、イザナさんの衣装ですね。
黒の喪服とトークハットを被っているのですが、それが朽ちないのには何か理由があるのでしょうか?
時間経過で朽ちない素材が使われてるとかですかね?
――はっ!?
よく見てみたら、あれは喪服ではなく自分の髪の毛を巻きつけているのですか!?
そして、トークハットも自分の髪型をアレンジして、それらしく見せてる……?
そ、そうですよね……。
自分以外のものは、触れたら腐り落ちるのですから、自分の体の部位でなんとかするしかないですよね……。
というか、その……。
そう考えると、急に艶めかしく感じてくるというか……。
え、えっちなのはいけないと思いますよ!?
「――――!」
「おっと、危ないですね……!」
そう考えると、攻撃の手も緩むというか、色々と考えさせられますね。
ヤマモト様の十分の一ほどのステータスを得ている私に、イザナさんは再三攻撃を仕掛けてくるのですが、当然のように私は躱し続けます。
ですが、逆に私の魔術攻撃もイザナさんの前では効果時間が一瞬で終わってしまい、霧散してしまうので意味がありません。
武器……を使っても多分、耐久力が一瞬で減ってゼロになってしまうでしょうから、ダメージを与えられないでしょうね。
それこそ、オリハルコンとかで作られたような伝説級の武器が必要になってくるのでしょう。
ですが、私は学生なので、そんな高価な武器は持ち合わせておりません。
となると、後は魔法にありったけの魔力を込めて、効果時間を伸ばすとか……?
ひとつの魔法に、千年、もしくは、二千年も持続する分の魔力を込められれば、恐らく彼女に魔法による攻撃を届かせることができるのではないかと推測します。
いえ、現実的ではないですね。
そんなヤマモト様のようなマネ、私にはできるはずもありません。
ならば、どうしたらいいのか……。
「――――!」
イザナさんの髪がぶわりと広がり、まるで広範囲を包み込むかのように伸びていきます。
その様はまるで漁師が投網でも投げたかのようです。
普通ですと、躱しようがない! と焦るところなのですが、そもそものスピードが違いますので、簡単にイザナさんの背後に回り込んで髪による攻撃を躱します。
というか、このガラ空きの背中に攻撃しても意味がないというのがなんとも。
とりあえず、その辺の玉石を拾って投げてみましたけど、
ボフッ!
一瞬で黒い煙みたいになって風に流されていきました。
全く効果がありませんね。
かくなる上は、直接攻撃はどうでしょう?
私はランパスというニンフ種の魔物族なのですが、精霊に近い存在なので長命といえば長命です。
なので、直接攻撃を加えることができれば……。
あっ。
そのまま近付いたら、服が腐り落ちてしまうのでは……?
…………。
これは絶対に近付けませんね……。
「ヤマモト様、私はどうしたらいいのでしょうか?」
ヤマモト様に祈りを捧げた、その瞬間――、
私はヤマモト様から預かっていた、あるものの存在を思い出します。
最初は、なんでこんなものを預けるのだろう? と思っていましたが、きっとヤマモト様はこの時のことを思って、私にコレを預けて下さっていたんですね!
だとしたら、話は早いです!
私は有り余る身体能力で、イザナさんの頭上数十メートルにまで飛び上がると、【収納】を発動して、そこからヤマモト様から受け取っていたあるものを放出します!
ドドドドドド……!
そこから出てきたのは、大量の海水――。
ヤマモト様は【錬金術】の素材として使うものだから、少し預かっていて欲しいと仰っていましたが……私は知っています。
【錬金術】には、もっと特殊な素材を使うということを!
だから、ヤマモト様は言葉通りの意味で預けたわけではないのでしょう!
そう。例えば、私がここでピンチになることを予見して、ヤマモト様は預けて下さっていたに違いありません!
流石はヤマモト様です!
あの方に見通せないものは、何もないのです!
「――――!」
水の年数が加速されたところで、多少は気化するのかもしれませんが、腐ったところで水は水。
その大質量でイザナさんを押し流していきます。
やがて、海水を【収納】から全部放出した私は湿った玉石が敷き詰められた地面に着地します。
その場には、既にイザナさんの姿はなく――って。
「もしかして、海水に押し流されて、島の外にまで吹き飛んでしまいましたか……?」
倒さないとポイントにならないんですが、困りましたね……。
私はその場で両腕を組むと、うーんと唸るのでした。
■□■
【マーガレット視点】
ズドンッ! ズダンッ! ドンッ!
「ロッゾ……、お前……」
突如として放たれた火砲の連撃を食らって、ヤンマが体の半分以上を失い、光の粒子となって消えてしまいましたわ!
その火砲を撃ったのは、穴だらけの鎧となったポールさんですの!
あんな酷い姿になったのにも関わらず、ポールさんは無事でしたのね……!
『悪いですけど、本体は鎧じゃなくて、その鎧に取り憑いた霊の方ですから! どれだけ鎧に穴を開けられたところで、痛くも痒くもないんですよ! そして、私のユニークスキルで、この方のユニークスキル【武器庫】が使えるようになりました! これで、二対一! 形勢逆転ですね!』
「ヤンマは油断……。ロッゾは普通に戦略ミスか……。ブブブ……、使えない奴らだ……」
ちょっと!
あまり、仲間の悪口は言うものではありませんわよ!
と、言いたかったのですけど、まだこのベルゼという方には、どこか余裕がある気がして、強気に出れませんわ……。
あと単純にアフロヘアーがヤカラ感溢れてて、怖いんですの!
「いいぜ、やってやるよ……。本当は使いたくなかったんだがな……。俺のユニークスキルで、お前たちを倒してやる……!」
言うなり、ベルゼの体からなにやら黒い靄のようなものが立ち昇ってきますわ……。
これは、霧……?
いえ、これは……。
『虫!?』
「というか、蝿の大群ですわ! いやっ、気持ち悪い!」
「気持ち悪いとか言うなよ! だから、ユニークスキルを使いたくなかったんだ……!」
ベルゼがちょっと涙ぐんでますわ。
でも、本当に気持ち悪いんですもの!
叫ばずにはいられませんわ!
「年頃の男の子が、同年代の女の子にユニークスキルを見せて、『キモッ!』って言われたら、どう思うよ!? お前ら、そんな男の子の気持ちを考えたことがあるのか!?」
…………。
なんというか、身につまされますわね……。
「その気持ち、よくわかりますわ……」
「嘘つけ!」
「嘘ではありませんわ。我がアモン家は昔から魔法の大家として有名ですの。ですけど、その専門は、【闇魔術】や【闇魔法】ですのよ……。ですから、攻撃魔術もロクに使えないのに、嫌がらせ魔術ばかりが上手い根暗貴族と昔から揶揄されてきましたわ……。それを思うと、貴方の気持ちも痛いほどにわかりますの……」
「だったら、なんで俺のことをキモいとか言ったんだよ!?」
「生理的嫌悪感は、流石にどうしようもありませんわ!」
「正直か!」
多分、全身に蝿が集ってるのを見たら、ヤマモトさんでさえ、「キモッ」と言うと思いますわ!
それだけ、無理ですの!
そもそも、私、集合体恐怖症ですから、余計無理ですわ!
「ブブブ……、これ以上の話し合いは無駄なようだな……。俺は、蝿が好きな女子が目の前に現れるまで、女嫌いを突き進むぜ……」
そんな奇特な方、現れるのかしら……?
「そのためにも、ここで良い所を見せて、アピールしないとな……、ブブブ……」
魔将杯は就職活動の場であって、婚活の場ではないと思うのですけど……。
「というわけで、行け! 蝿共よ! まずはあの鎧女を食らいつくせ!」
『うわわ、来ましたー! でも、今の私の火力なら撃ち落として――』
ポールさんの火砲が火を噴きますが、それを蝿の大群が一瞬で飲み込みますわ!
次の瞬間には、バチバチバチと稲妻でも走ったかのような音が響き、同時に多数の蝿の死骸が地面に落ちましたの!
それでも、蝿の大群は火砲に落とされることを厭わずに進軍し、ポールさんに集り始めましたわ!
あぁ、ゲボ吐きそうなくらい気持ち悪いですの……。
『キャアアアアーーー!』
「俺のユニークスキル【蝿の王】が呼び出す蝿は、ただの蝿じゃない……! 飛びながら砲弾を喰らい尽くし、その悪食ぶりは相手の魂さえも食らい尽くす……! 霊体だろうが、俺の蝿に掛かれば、ただの食料に過ぎん……!」
「そんな陰険なことやってるから、モテないんですわよ……」
「仕方ないだろ!? 俺だってこんなユニークスキルじゃなきゃ、もっと格好良く戦いたいたかったさ! でも、持って生まれたものなんだから、上手く活用するしかないだろ!?」
「短足の人が短足を上手く活用するなんて聞いたことありませんわよ……」
「それは、ストロングポイントじゃないから!? 俺の【蝿の王】はストロングポイントだから!」
やがて、ポールさんに集っていた蝿たちが、その場から飛び去っていきますわ。
後に残ったのは、光の粒子だけで……。
「えぇ!? お仲間さんまで、やっちゃいましたの!?」
「俺の蝿は敵味方の区別が付くほど利口じゃないんでな……、ブブブ……」
「だから、友達いないんですのよ……?」
「い、いるわい、少しは! まぁ、ロッゾにはこの後、縁切られるかもだけど……」
ちょっと可哀想に思えてくるのは、何故なのかしら……。
「とにかく、この場に残るのはお前だけだ……、ブブブ……。そして、俺は知ってるぞ……。お前はデバフに特化した【闇魔法】や【闇魔術】ばかりを修得して、嫌がらせばかりが達者な根暗貴族だということを……。だから、そこまで怖い攻撃はできまい……!」
「何故、そのことを!」
「お前がさっき言ってたんだろうが!?」
「そうでしたわ!」
「お前の頭の中、どうなってんの……? ワンチャン、そのおかしな頭で俺のこと好きにならねぇ……?」
「お断りしますわ」
「クソー!」
地団駄踏んで悔しがる姿は可愛げがありますが、やっぱり蝿は駄目ですわ。
そして、この状況、私とってもピンチでしてよ!
それでも、私はアモン家次期当主のマーガレット・アモン!
態度だけは堂々としてみせますわ!
「確かに、アモン家は【闇魔術】や【闇魔法】に長けた名家ですわ。デバフの専門家と思われても無理はないでしょうね。ですけど、それだけで学園の選抜メンバーに残れるほど、甘くないですわ」
「な、なに……!」
「見せてあげますわ、私がチェチェック貴族学園の選抜メンバーとして生き残った理由を……。この【闇魔術】系の最上位スキル、【混沌魔法】の威力をご覧遊ばせ!」
「なんだと……!」
ふふ、驚いていますわね!
確かに、私は【混沌魔法】が使えますけど、まだレベル1の魔法しか使えませんわ!
つまり、今のはハッタリですわ!
足なんてガックガクですわよ!
「【混沌魔法】……、なんだか強そうだ……、ブブブ……!」
「そう、なんだか強いんですわよ!」
「じゃあ、怖いから早めに倒そう……、ブブブ……」
「なんで、そうなりますの!?」
うぅ、かくなる上は【混沌魔法】を使って驚かせてやりますわ……!
「【混沌魔法】レベル1!」
「レベル1……?」
「【カオス】!」
▶マーガレットはタワシを手に入れました。
虚空から、ヒューと落ちてきたタワシをキャッチする私。
…………。
「うに!」
「栗じゃなくて……タワシだろ!? あと、こっちに向かって投げるな!」
投げたタワシは、こっちに向かってこようとしていた蝿さんに美味しく頂かれてしまいましたわ!
「さては、お前さん、【混沌魔法】レベル1しか使えないな……?」
ドキー!
いきなりバレてますの!
そして、【混沌魔法】レベル1は『何が起こるかわからない魔法』。
正直、効果については、私もあんまり把握してませんわ!
そして、効果が安定してないと、何が起こるかわからなくて、怖くてあまり使えてませんので、スキルレベルも上がっていませんわ!
ちなみに、学園のランキング戦の時は、普通にビーさんやポールさんやユフィさんと組んで戦っていたので、デバフ要員として生き残っただけですわ!
「だ、だからどうしたというんですの! 【混沌魔法】レベル1の【カオス】はとても怖い魔法ですわ! ナメてかかると痛い目見ますわよ!」
「タワシを出す魔法が怖い魔法……?」
「そ、それは、序の口ですわ! 食らいなさい、【カオス】!」
▶ベルゼのアフロの中に鳩が住み着きました。
ほろっほー。
「確かに怖い魔法だな……、殺す……」
アフロの中から、鳩が顔だけを出して鳴いていますわ……。
流石は【カオス】……。
何が起きるか、全く予想がつきませんわ……。
「い、今のはちょっとした手違いでしてよ!? だから、殺すとかいう怖い言葉を使わないで下さらない!? 隙あり、【カオス】!」
隙をみて、【カオス】を使ってみたのですけど……。
▶取得しているスキルのスキルレベルが一時的に全て5になりました。
これは……!
「おい、謝りながら攻撃してくるとか卑怯千万だろうが……! えぇい、もういい……! 喰らい尽くせ、蝿たちよ……!」
全てのスキルレベルが5になったということは、私の【混沌魔法】もレベルが5になったということですの!?
だったら、今使える最強の【混沌魔法】を使って――、
キャー! 蝿が来ましたわ!
「【混沌魔法】レベル5、【タルタロスゲート】!」
「なにっ、レベル1しか使えないんじゃないのか……!? ブブブ……!」
私もまだ使ったことのない魔法。
だけど、先人による知識はありますわ。
【タルタロスゲート】は不規則に一体のモンスターを呼び寄せる混沌の扉を開く魔法。
何を呼び寄せるかは、本当に運次第で、弱ければホーンラビット、強ければドラゴンなんてものも呼び出せますの!
だから、本当に振れ幅の大きい魔法なんですのよ!
運の悪い私が、こんな賭けのような魔法を使うのはどうかと思いますけど……。
「今まで運が悪かったのですから! 今ぐらいはアタリを引かせて下さいまし!」
私の叫びに呼応したわけではないでしょうけど、虚空に真っ黒な扉がいきなり出現し、その扉がガチャリと開きますわ……。
そして、その扉から出てきたのは、まずは真っ黒な体毛を纏った獣の前脚――、
次いで、出てきたのは木の根を思わせる真っ黒な触手……ですの?
その触手が素早く動いて、私に近付いてきた蝿を尽く叩き落としますわ!
これは、アタリを引いたんじゃありませんこと!?
そして、最終的に出てきたのは、真っ黒な触手を撚り合わせた大樹のような存在で……。
「うご」
「あ、これは御丁寧にどうもですわ。貴方には、この試合が終わるまでの私の護衛を頼みたいのですけど、よろしいかしら……?」
「うご!」
「…………」
あら、ベルゼが気絶してしまいましたわ?
もしかして、混沌に属するモンスターさんなのかしら……?
私は幼少期から【混沌魔法】を修めるために、そういうものに慣れ親しむ訓練を受けてきたので何ともないのですけど……。
「それにしても、失礼ですわね! 糞尿に集る蝿よりも、こちらのモンスターさんの方が絶対的に可愛いのに、気絶なさるなんて!」
「うご〜♪」
あ、照れてらっしゃる?
本当に可愛いですわね……。
こちら、ひとつお持ち帰りはできないのかしら……?
とりあえず、倒れたベルゼにトドメをさして頂いて、私はうごうごさんと行動を開始致しますわ。
やはり、デバフ要員は一人で動き回るものではないですし……。
うごうごさんが、どのくらいの強さを誇るモンスターかは、ベルゼがいきなり気絶してしまったのでわからないのですけど……。
それなりに強ければ、嬉しいですわね!
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