第397話
■□■
いよいよ、明日は魔将杯決勝戦――。
長かった魔将杯もようやく終わりを迎えようとしている。
そんな中、私はホテルに戻るなり、一直線にとある部屋へ向かうよ!
「ユフィちゃん! 決勝進出決まったよ!」
「ヤマモト様……」
目的の部屋の扉をバーン! と押し開けるなり、私はそう告げる。
部屋の中では、エヌミナさんの力を借りながら、軽い屈伸運動をするユフィちゃんの姿があった。
いや、昨日までは、まだ体がダルそうだったのに、今は軽く運動をして汗をかくことができてるんだから、大した回復力だよね。
「明日までには間に合いそう!?」
「間に合わせてみせます……!」
「そう……、良かったぁ〜……」
ユフィちゃんの自信に溢れた言葉に、私はへなへなとその場にくずおれる。
なんせ、この時のために私はここまで頑張ってきたからね!
これで、明日の決勝戦はベストメンバーで戦うことができるよ!
私が満面の笑みを浮かべて、御機嫌だということに気が付いたのかな?
今度はメモ帳を片手にエヌミナさんが近付いてくる。
「ミス・ヤマモト? 準決勝の試合中、ミス・ユフィのリハビリに付き合うという交換条件で得た私の報酬を忘れないで下さいよ?」
「魔将杯デイリーによる独占インタビューの件でしょ? わかってる、わかってる。……けど、大丈夫? 明日の決勝戦で私たちが勝たないと、あんまり意味がないんじゃない?」
エヌミナさんには、今回、決勝戦後のチェチェック貴族学園の独占インタビューを行う権利をあげる代わりに、準決勝戦中のユフィちゃんのリハビリを手伝ってもらっていた。
この条件自体はエヌミナさんから提案してきたもので、私としては、ユフィちゃん一人でリハビリするのも大変そうだったし、渡りに船とばかりにその提案にすぐさま乗ったんだけど……。
よくよく考えてみたら、私たちが準決勝で負ける可能性もあった中で、決勝戦後の独占インタビューを予約するって、凄いことだよね?
多分、エヌミナさんの中では、私たちが決勝戦でも活躍する姿が思い描かれてるってことなんだろうけど……。
「大丈夫です! ミス・ヤマモトは、長年行方不明だった私の父さえも探し出してくれた、奇跡の魔物族なんですから! 常勝不敗の帝王学園に勝つ程度の奇跡……起こすくらいワケないはずです!」
「ま、まぁ、頑張るけどね……?」
エヌミナさんからの信頼が異様に厚い件!
エヌミナさんからの信頼はこんなに得られているのに、ウチのチームメイトから信頼されてないのはなんなんだろうね?
ハイタッチくらいしてくれてもいいのにね?
「ちなみに、準決勝は見なくても良かったの? 準決勝の記事が書けないと魔将杯デイリーの編集長に怒られちゃうんじゃない?」
「準決勝の試合模様に関しては、ウチの父が取材してますから、大丈夫ですよ」
「へぇ、お父さん、魔将杯デイリーに復帰したんだ?」
「今は臨時職員という形で雇ってもらってますね。でも、魔将杯デイリーも魔将杯が終わったら、しばらくは休刊になりますから、その後のことはどうなるか……」
「できれば、表の仕事に復帰できるといいね?」
「はい!」
エヌシゲさんは、例の一件で三馬鹿公の悪事を暴くために、裏の情報屋の元締めみたいな仕事をしてたんだけど……。
それだと、脛に傷を持ってるようで、家族に会うのにも負い目を感じるってことで、後任に託してすっぱり辞めたらしい。
なので、表の仕事を探してたみたいなんだけど……。
それが、元鞘ともいうべき、魔将杯デイリーに雇ってもらえてるなら、「よかったよかった」って感じだよね。
まぁ、魔将杯デイリーは魔将杯の期間中しか発行されない新聞だから、魔将杯期間が終わった後でも、どこかの新聞社に配属されればいいんだけど……。
そこは、エヌシゲさん次第かな?
「そして、私は私でミス・ユフィが決勝戦で活躍してくれれば、リハビリの様子を記事として書けますから、なかなかオイシイ立場なんです!」
「そうなんですか? か、活躍できるように頑張ります……!」
「はい、期待しています!」
リハビリを手伝ってもらったせいなのか、ユフィちゃんとエヌミナさんの仲がちょっぴり近付いた感じがする。
まぁ、仲が悪いよりはいいのかな?
「それじゃあ、私もユフィちゃんのリハビリを手伝うよ。なにをしたらいい?」
「でしたら、軽い模擬戦を行ってもらっても宜しいでしょうか? 強度を上げて、どれだけ動けるのかを確認しておきたいので……」
「いいよー。じゃ、中庭に行ってやろうかー」
その後は、私もユフィちゃんのリハビリに協力しつつ、ユフィちゃんの状態を上げることに尽力しつつ、過ごすのであった。
■□■
《シーザ視点》
「イザク、いるか?」
「あぁ、シーザかい? どうぞ、鍵は開いてるよ」
私が帝王学園内の寮にあるイザクの部屋のドアをノックすると、そんな声が返ってくる。
基本的に、帝王学園こと、ディザーガンド貴族学園は全寮制の学園だ。
そこは、チェチェック貴族学園と、なんら変わりがない。
変わっているとすれば、チェチェック貴族学園よりも設備が優れているということか。
チェチェック貴族学園は、調度品は備え付けられておらず、持ち込みが原則であったが、帝王学園では既に部屋自体に備え付けの調度品が置かれ、それが最新の設備となっている。
おかげで、私の専属メイドであるエレオノーラも、「毎日のお食事、お洗濯にやりがいを感じます!」と張り切ってる始末だ。
…………。
まぁ、それはどうでもいいか……。
とにかく、部屋の主の許可が出たので、扉を開けて部屋に入ると……そこには、既に二人の先客がいた。
「む、シーザ殿か」
「あ、ども……」
一人は腰掛けているソファが軋むほどの巨漢であるドレイク種のデレック。
そして、もう一人は長い前髪で両目を隠した、ボソボソとした喋り方が特徴的なタキという男だ。
二人共、魔将杯における帝王学園の選抜メンバーである。
そんな二人と少し離れたところにある椅子に座っているのが、イザク。
イザクは深めに被っていたキャップのツバを上げると、視線を私に向ける。
「ご覧の通り、現在ヤマモトにどう対抗するかの作戦会議を行ってる最中なんだけど……何か用かい?」
「私もチェチェック貴族学園の時に、ヤマモトとは浅からぬ因縁があった仲だ。私が持ってるヤマモトの情報で必要なものがあれば提供したいと思ってな」
「それはありがたいね」
言って、イザクは帽子のツバを深く下ろし、口だけで笑う。
そんなイザクを見ながら、私はソファの空いてる部分に腰を下ろす。
「あ、紅茶です……」
「ありがとう。頂くよ」
隣に座っていたタキがわざわざ立ち上がって紅茶を淹れてきてくれる。
彼をわざわざ部屋に呼んでいるということは、恐らくイザクは彼のユニークスキルを使って、ヤマモトを封じ込めるつもりなんだろう。
だが――、
「ここにタキがいるのは理解できる。だが、デレックがいるのは何故だ?」
「デレックは、ヤマモトに対する希少な情報を持ってたからね。その確認のために呼んだんだよ」
「ヤマモトの情報を……彼が?」
「吾輩は、ヤマモトの弱点を知っている」
ヤマモトに弱点……?
そんなものが本当にあるのだろうか……?
チェチェック貴族学園に在籍していた時も、ヤマモトの弱点を探していたが、効果的なものは見つからなかった記憶があるのだが……。
「そのデレックの情報を元にして、ヤマモトとボクを隔離して一対一で戦うのが、こちらの作戦だよ」
「ヤマモトと一対一で戦う? 無茶では?」
「シーザには一度言っただろう? ヤマモトは枠に嵌めてしまえば怖くないんだ。絶対に、こっちが勝つ勝負で挑めば負けはしない。現に、ボクはそれで勝ってるし。今回もそれで、ボクが誰よりも強いことを証明してみせるつもりさ」
いや、それは真の強さではないのでは……?
「…………」
そう言おうと思ったのだが、私の口を塞ぐかのように、イザクが帽子のツバの下から私を凝視しているのがわかった。
イザクが纏う異様な気配に、デレックが腰を浮かしかけ、タキがカタカタと震え始める。
なんだ……?
何故、イザクはそこまで追い詰められた雰囲気を纏っているんだ……?
「ボクが一番強いことを証明しないといけないんだ……。そのためには手段を選んでなんていられない……」
ポツリとイザクが零した言葉は、どこか泣いているようにも聞こえ、私たちは困惑したように視線を交わすのであった。
■□■
【
「なるほど、ほむほむ、うーむ……」
屋台で買ってきたムナムナの串焼きとやらを頬張りながら、私はじーっと夜の堤防の上から、川辺を眺め続ける。
基本的には緩やかに海に向かって流れてる川なんだけど、一箇所だけ何故か急激にヘアピンカーブしてるんだよね……。
そのヘアピンカーブしてる場所は普通の陸地とは違い、草が一切生えておらず、まるで川の底の泥がそのまま浮き上がってきて、陸地になったかのような印象を受けた。
逆に、そのヘアピンカーブの先には陸地に生えてる葦と同じ種類と思われる葦が水中に沈んでるんだけど……。
これが意味するものは……?
「川の流れが変えられた?」
この状況を素直に見るなら、川の流れが変えられたってことなんだろうけど……。
だからどうした? っていうか、なんでそんなことしてるの? という感想しか出てこない。
そもそも、川の流れを途中でこう、ヘアピンカーブのように変えたところで、この堤防がある限り、川が氾濫するわけでもないし。
記録的な大雨でも降らない限りは、問題ないように思えるんだけど……。
「地図上に意味ありげに印がしてあったから、なんかあるかと思ったんだけどなー。ひと芝居打ってみて、執務室まで潜入して探りを入れてみたんだけど、結果としては芳しくなかった感じ?」
というか、あれかな?
大雨の時に危険になりそうな場所でもメモしといて、河川工事でもする予定だったのかもしれないね。
「うーん、ハズレだね。……ムナムナの串焼きの方はアタリだけど」
ムナムナの串焼きは、噛めば噛むほど美味しい肉汁が出てくる軟骨って感じで、ちょっと食べたことのない感じでびっくりしちゃった。
コリコリ食感とジューシーさが同居した不思議な食べ物って感じだ。
これ、ツナさんとかが酒の肴に喜ぶんじゃないかな?
後で屋台に寄って沢山買って、【収納】に入れといてもいいかもねー。
「それにしても、なんで魔王は――」
その時、ふと肌になにかが当たる感触。
「――雨?」
あれ? 明日、魔将杯の決勝をやるんじゃなかったっけ?
雨の中でも決行するのかな?
そんなことを心配しながらも、私は機械式の天使の翼を傘代わりにして、足早にムナムナの屋台へと向かうのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます