第396話

 ■□■


 攻撃の【無敵】と、防御の【無敵】――。


 その二つがあるもんだとして、俺様はどう戦うのが一番いいのか?


 そんなものは決まってる!


 相手の攻撃を躱しながら、カウンターで攻撃を加えていくしかねぇ!


 というか、そうじゃねぇと、防御の【無敵】の時に攻撃してもダメージが一切入らねぇからな!


 相手の攻撃の【無敵】に合わせて、こっちも攻撃すれば、防御の【無敵】が発動せずに攻撃が通るかもしれねぇ!


 いや、そもそも攻撃の瞬間も、防御の無敵が続いていて攻撃が入らねぇ可能性だってあるんだが……。


 いや、待て……。


 よくよく考えてみれば、コイツはなんか皇帝の風格を出しながら、俺様から仕掛けるように仕向けてなかったか?


 つまり、俺様から仕掛けてもらわねぇと困るような秘密が【無敵】にあるとしたら、どうだ?


 …………。


 一丁、その辺に賭けてみるか……。


 ズドンッ、と大きな音がして、残っていたサラマンダーが皇帝に倒される。


「さぁ、どうする? まだ遊びを続けるのか?」


 両腕を大きく広げ、皇帝が構えを取る中――、俺様は皇帝との距離を一気に詰めていく。


「ぬっ!?」

「これがお前さんの望みだったんだろ! 来てやったぜ!」

「ハッ! やはり、貴様は正気を失くしたらしい! ――フンッ!」


 皇帝が拳を思い切り振るうが――、


 遅ぇっ!


 ……考えてみりゃ、そりゃそうか。


 こっちのチームには、レシオ1しか割り振らなくても、十分に機能するヤマモトバケモノがいる。


 だから、残りのレシオを俺様が5、ツルヒが4で割り振ってる状態だ。


 一方のゴダ中央学園側は、俺様たちと同じ三人チームだが、恐らくはレシオの割り振りを均等に割り振ってるんじゃねぇか?


 つまり、皇帝が4、双子がそれぞれ3といった具合だ。


 それを加味すると、恐らくステータス上では俺様の方が上だな、こりゃ。


 だったら、皇帝の攻撃にカウンターを合わせるのも……容易い!


「ぐふっ!?」

「やっぱり、入るじゃねぇか……!」


 俺様の頭を狙って放たれた拳を、紙一重で避けながら、固めた拳で皇帝の脇腹を抉ってやった。


 その衝撃に皇帝が思わずたたらを踏んで後退する。


「馬鹿、な……! エギルが接近戦ができるなんて聞いてないぞ……!?」

「『様』を付けろよ、庶民がッ! 俺様だって、いつまでも馬鹿のひとつ覚えみたいに、【炎魔法】をぶっ放してるわけじゃねぇんだよ!」


 ツルヒから学んどいて良かったぜ! ノワール流格闘術って奴をな!


「さて、どうするよ! ご自慢の【無敵】が破られて、無様を晒してるぜ!」

「くっ……!」


 ここで、挑発に乗ってブチ切れて、って展開になってくれれば、楽だったんだが……。


 皇帝はあっさりと立ち直り、姿勢を正す。


「どうやら、俺の【無敵】の正体を看破したようだな……」

「へっ、まぁな!」

「そうだ。俺は【無敵】というユニークスキルにより【無敵】オーラを全身に纏い、そのオーラ量を全身に振り分けることで、攻撃の威力や防御の威力を調整することができる! そして、俺は今、攻撃にオーラを全振りすることで防御が疎かとなり、無様を晒した!」

「…………」


 え? 【無敵】オーラ?


 なんか、予想しねぇ単語が出てきたんだが?


 でも、まぁ、攻撃の【無敵】と防御の【無敵】があってたんだから、大体あってたということにしよう!


 俺様は間違ってねぇ! 多分!


「目障りな貴様をさっさと殺そうとして、先程は攻撃に【無敵】オーラを回し過ぎた! だが、もはや攻撃に多くの【無敵】オーラは使わん! 俺は全身に防御のための【無敵】オーラを張り巡らせて、そのまま貴様を攻撃する! その意味がわかるか!」


 あ?


 それって、俺様の攻撃は一切効かずに、一方的に俺様が皇帝の攻撃を捌くことになる奴では……?


 それだと、俺様が皇帝をボコボコにする作戦が御破算になり、逆に俺様が皇帝相手に苦戦してる感じに見られるじゃねぇか!?


 折角、公共の場で俺様が皇帝よりも上だということをはっきりさせたにも関わらず、ここで苦戦なんかしたら、俺様の立場というものが……。


「…………」

「理解したようだな! これが皇帝の真の実力というものだ! 【無敵】は破られないからこそ、【無敵】なのだ! ハハハ!」


 シュン――。


 その瞬間、突如として皇帝から受けていた威圧が収まる。


 あ? なんだ……?


「馬鹿な! 何故……何故、俺の【無敵】がいきなり切れる――!?」


 はぁ!? 切れたのかよ!?


 まさか、ツルヒがやったのか!


 皇帝も同じことを考えたようで、ツルヒたちの方を振り向くが……この千載一遇の好機を逃す俺様じゃねぇ!


「【ドラゴフレア】!」

「しま――」


 激しく光る白色の熱線が、皇帝に直撃し、そのまま皇帝の体を燃やし尽くす!


 そして、次の瞬間にはチェチェック貴族学園側にポイントが入ったアナウンスが聞こえた……。


 勝った……のか?


 いや、え? なんで? って思いが強ぇんだが……。


 あ、やっぱりツルヒがやってくれたのか?


 俺様はそう思って、ツルヒに視線を向けるんだが、ツルヒは丁度背後から急角度で曲がり落ちてきた剣を躱すところだった。


 軽く横にズレて躱し、剣が地面に回転しながら激突するのを見て、ツルヒは何の躊躇いもなく、足の甲を使ってその剣を蹴り飛ばす!


「なに!?」


 加速して打ち出された剣は、ツルヒを追尾する軌道に戻るよりも早く、真正面から斬りかかってきたベルンの腹に深々と突き刺さり、


「くふっ!」


 ベルンが口から派手に血反吐を吐いていた。


 あれは、主要な臓器をやったな……。


「馬鹿な……、高速回転してる俺の剣を足蹴にするだと……、足先が切断される恐怖というものがないのか……」

「剣に愛されてこその【剣姫】だ。それは例え、相手の剣であろうと例外ではない。覚えておくといい」

「くそ、ぬかった……」


 ツルヒがベルンの首を刎ねる。


 これでベルンが負けて、【継続】が解かれたわけだが……。


 …………。


 あれ? それじゃ、先程皇帝の【無敵】が解けたのは一体……?


「まさか……」


 俺様は思わず、この場から遠く離れたところに立つ、ヤマモトの姿を見つめるのであった。

 

 ■□■


学園担当ジャック視点】


 エギルくんがこちらを見つめる三分くらい前の話――。


「…………」


 私は、その時とても暇だった。


 というか、ベースクリスタルを割ったはいいんだけど、次にベースクリスタルが復活するまで、三分だか、五分だかのインターバルがあるんだよね……。


 つまり、それまで何もやることがないんだよ。


 というわけで、相手陣地の中央に位置取って、ポケーっとし始めたわけだ。


 ベースクリスタルの復活位置は、沢山いるナビゲーターのみんなが素早く探し出してくれるから、私としては別に探さなくてもいいんだよね。


 だから、本当にやることがない。


 やることがないので、暇潰しにエギルくんたちの戦いっぷりを観察し始めてみる。


 今回の魔将杯準決勝戦――エギルくんは、どうしても皇帝と戦いたかったみたいで、みんなの前で頭を下げてまで、自分に戦わせてくれ! って直訴してきたんだよ。


 あの、プライドがもの凄く高い宇宙エレベーターのエギルくんがだよ?


 流石に、そこまでやられちゃうと、エギルくんに「いいや、その作戦は許可できない!」とスコットくんも言えなかったみたいなんだよねー。


 なので、結局、今回はこういう作戦になっちゃったみたい。


 でも、一応、私の方も【無敵】対策は考えてきてて……。


 それを、ちょっと試したいかなー?


 なんて、思ってたりする。


 というか、よくよく見てみたら、ちょっとだけエギルくんが苦戦してる感じだし、ささっと手助けしても文句は言われないんじゃないかな?


 よし、ちょっと試してみよう!


 ……何より暇だしね。


 というわけで、【収納】からペンと紙を取り出すと、紙にさらさら〜っとね……。


 はい、『無敵』と書いてみました!


 これで、準備完了!


 これを、同じく【収納】から取り出したハサミで切ります!


 チョキン!


 ▶【バランス】が発動しました。

  『無敵』が切られたため、相手の『無敵』も切ります。


 ほらぁ、簡単に切れたじゃん!


 私の立てた【無敵】対策も捨てたもんじゃないね!


 そして、【無敵】の切れた皇帝がエギルくんに瞬殺されてる……。


 あれ?


 【無敵】が切れただけで弱くなり過ぎじゃない?


 ちょっと悪いことしちゃったかな……?


 いや、【無敵】に頼りまくって戦ってきて、【無敵】が切れた時の戦い方を用意してない方が悪いんだよ!


 とりあえず、ベースクリスタルの復活まで、また待ってよーっと。


 数分後、復活したベースクリスタルを速攻で割った私は、また敵陣のど真ん中でポケーっとしてたりする。


 フィールドの中央辺りでは、皇帝が復活したのか、またエギルくんと戦ってるみたい。


 いいなぁ。


 あっちは楽しそうだなぁ。


 でも、やっぱりエギルくんが苦戦してるみたいなので、私はまたしても【収納】から紙とペンを取り出して、無敵と書き込んだんだけど……。


 今度はそれをハサミで切るよりも早く、炎の光線が予期していない場所から飛んできたんだよ!


「えぇ? なに……?」


 炎の光線が飛んできた方向をみると、私たちの自陣に攻め込んでた……ケルンだっけ? が、私目掛けて魔法を撃ち込んでくる姿が確認できた。


 これは……。


 向こうもベースクリスタルの復活まで暇なんだね……。


 ピュンピュンピュン!


 レーザーみたいな炎の光線をこっちに向けてドヤ顔で撃ってくるケルン。


 射程がやたら長いけど、【魔力操作】で魔力を多めに込めてるのかな?


 一瞬、私は『打ち返そう!』と思ったんだけど、何故だか自打球でダメージを受けていたことを思い出し、その行動を控えることにした。


 え、今の記憶何? もしかして、本体の記憶? というか、運動神経悪過ぎでしょ、本体! なにやってんの! ……あ、私も人のこと言えないや!


 でも、一回「痛そう……」とか思っちゃったら、もう打ち返そうという気にはならない。


 仕方がないので、その光線をひらり、ひらりと運動神経の欠片もない動きで躱してたんだけど……。


 ▶【バランス】が発動しました。

  『無敵』が燃やされたため、相手の『無敵』も燃やします。


 あっ。


 いつの間にか、手に持ってた紙が燃えてる!


 どうやら、躱してたつもりが上手く躱し切れていなかったらしい。


「ギャアアァァァァーーー!」


 そして、それとほぼ同時にフィールドの中央辺りで大炎上する皇帝。


 ……いや、これは私悪くないよね?


 というか、【無敵】が燃えるってどういうことなの……?


 なんかまぁ、見る限り火達磨になることはわかったけど……。


 あ、皇帝が光の粒子になって散っちゃった。


 ケルンの方もその辺は、やっちまった……と思ったのか、こちらへの魔法攻撃が止んだね。


 あ、止まったのは、やっちまったと思ったわけじゃなくて、ベースクリスタルが復活したから!?


 こっちのベースクリスタルも復活してるから、早く壊せ! ってナビゲーターのみんなが耳元で叫んでうるさいんですけど!?


 というわけで、しばらくはベースクリスタルを壊すことに専念する。


 ダッシュで指示された場所に行って、うごうごエストックでパリーンっとね。


 ■□■


 勝負的には一進一退の攻防が続く。


 点数的には、ベースクリスタルを壊した数は一緒らしく、そこまで点差は離れていないんだけど、エギルくんと皇帝や、ツルヒちゃんとベルンくんたちの攻防の結果がしっかりと点数差になって表れてる感じだ。


 ちなみに、今はチェチェック貴族学園が三十点ぐらいのリード。


 勝負としては接戦になってるし、見てる方としては楽しいんだろうけど……。


 私的には、この待たされる時間が、わりと暇なんだよねー。


 というわけで、手持ち無沙汰でまた紙に無敵って書いて――、


 あ。


 筆圧強過ぎて、紙が破れちゃった。


 ▶【バランス】が発動しました。

  『無敵』がやぶれたため、相手の『無敵』もやぶれます。


「ぐわぁぁぁぁぁーーーっ!」


 いや、その『やぶれた』は敗れたであって、破れたじゃないよね!?


 【バランス】さん、サービスしすぎだから!


『ヤマモトくん、相手の皇帝がなんかよくわからないが敗れたようだ!』


 そして、ナビゲーターのスコットくん!


 その、なんかよくわからない部分をちゃんと説明して欲しいんだけど!?


 一体なにが起きたっていうのさ!?


 ■□■


 そんなこんなで、まぁ、前半戦が終わったわけなんだけど……。


 点数的には、


【チェチェック貴族学園 1385−800 ゴダ中央学園】


 結構、大量の点差がついちゃったみたい。


 まぁ、途中で私が「ケルンを排除すれば、自軍のベースクリスタルを割られないじゃない?」と気付いてからは、点数差がぐんっと開いた感じだね。


 というか、もっと早く気付けよって話なんだけど……。


 後は、暇に飽かして皇帝やベルンにもちゃちゃを入れ続けた結果――、


 …………。


 後半戦に、皇帝たちが現れなくなってしまいました……ッ!


 どうやら、心折れちゃったみたい。


 というわけで、後は消化試合。


 控えメンバーを出してきたゴダ中央学園の思い出采配に付き合ってあげながら、きっちりと勝ち切ることに成功したよ!


 というわけで、これで魔将杯もようやく決勝進出が決定だ。


「なんか、腑に落ちねぇ……」


 けれど、一人、チェチェック貴族学園が勝ったことに不満そうな顔をしてる人がいる。


 なんでエギルくんは、そんな顔してるんだろうね?


「全く実力で勝った気がしねぇ……」


 フィールドから闘技場に呼び戻されて、チームメンバーが笑顔で迎えてくれる中で、エギルくん一人だけが渋い表情だ。


 まぁ、【無敵】のユニークスキルを破ってたのは、大体私か、ベルンと戦ってたツルヒちゃんだったからね。


 だから、不完全燃焼なんじゃないのかな?


「実力の方はどうだったかわからないけど、エギルくんが皇帝よりも勝ってる部分はハッキリとしたからいいんじゃない?」

「俺様が皇帝に勝ってる部分なんてあったか?」


 私が慰めるようにそう言うけど、エギルくんは不貞腐れたような表情をみせる。


 というか、あんなにわかりやすいストロングポイントもないと思うんだけど、エギルくんは気付いてないみたい。


 じゃあ、教えてあげようかな。


「メンタル。エギルくんなら、多分、後半戦にも出てたんじゃない?」

「…………」


 私がそう告げると、エギルくんはノッシノッシとチームメンバーに近付いていって、


「よーし、お前ら、そこに並べ! 俺様とハイタッチだ!」


 御機嫌にハイタッチをしようとする。


 …………。


 まぁ、なんというか、自分でもそこは絶対に負けないって自信があるからこその御機嫌な態度なんだろうね……。


「なんでエギルとハイタッチなんかしねぇといけねぇっぺよ! するなら、女の子としてぇっぺよ!」

「んだんだ!」

「なんだと、コノヤロー!? そんなこと言うなら、ヤマモトとハイタッチさせるぞ!」

「それだったら、エギルでいいっぺよ!」

「んだんだ!」

「…………」


 そして、エギルくんが御機嫌になる一方で、今度は何故か私が不機嫌になるのであった。


 ■□■


 〜試合結果〜


【◯チェチェック貴族学園 2935-1000 ✕ゴダ中央学園】


 チェチェック貴族学園、決勝進出!

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