第377話
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ヤマモト領に着いてから、一日が経過した。
その間……雰囲気は何故かドン底レベルで重かったけど……それ以外は、特に目立った衝突もなく、穏やかな日常が過ごせたと思う。
というか、お祭りの笛の音が翌日の昼くらいまで続いてたのにはビックリしたね!
種族ごとの伝統的なお祭りって言ってたし、どこの種族かは知らないけど、そういう風習なのかな?
その後は、お祭りの音も止んで、領地にひと時の静寂が訪れた感じだ。
そして、静寂が訪れたことで、ちょっとした変化もあったんだよね。
そう、魔将杯決勝トーナメントに出場する他の三校の生徒たちの刺々しい気配が、ちょっとだけ薄まったんだよ!
更には、三校の代表が集まって、固く握手を交わしたりして、「引き分けだな」、「勝負は決勝トーナメントに持ち越しですね」みたいな爽やかな会話を繰り広げてるのも目撃したんだ。
なので、同じ学生代表として集まらないといけないのかなー? と思って近づいていったんだけど……。
「「「シッシッ!」」」
手を振って盛大に追い払われちゃったよ……。
というか、私は犬かい!
そして、お祭りの笛の音が止んで一時間後くらいかな?
最後の一校である天空騎士学園が満を持して合流したんだけど……。
彼らはなんとグリフォンに乗ってやってきたんだよ!
飛竜部隊によるコンテナ輸送じゃなくて、グリフォンによる自力飛行でヤマモト領にまで辿り着いたんだ。
勿論、飛竜部隊の人たちも天空騎士学園の生徒たちを守るように、ある程度距離を開けて飛んできたみたいだけどね。
なんか、グリフォンに飛竜が近付くと、グリフォンが
ちなみに、騎獣の躾なんかも騎乗者の腕に関わる部分なので、それだけ天空騎士学園の生徒の腕がいいって評価らしい。
「天空騎士学園リーダーのヘカテーです。短い間ですが、よろしくお願いします。……? なんだか、みなさんギスギスしてませんか?」
そして、恒例のリーダー顔合わせが行われたんだけど、やっぱりヘカテーちゃんも気づくよね?
目を血走らせ、イライラMAXといった具合の私以外のリーダーたちの様子を見て、ちょっと引いてるみたい。
「いえ、別に……。三日ぶりの睡眠を一時間程度で邪魔されたことに腹なんて立てていませんから……。気にしないで下さい……」
え? 三日も睡眠を取ってなかったの?
だから、なんか刺々しかったんだ……。
というか――、
「なんで睡眠取らなかったの? そういう儀式?」
「「「…………」」」
痛い! 痛い! 視線の圧が痛い!
私、なんか悪いことした!?
とりあえず、身の危険を感じたので、これ以上余計なことは言わずに大人しくしておく。
やがて、昨日と同じように解散したんだけど、あの三人の刺々しさは結局お祭りの最中と同じレベルにまで戻っちゃったみたいだ。
うーん。
仲良く……とまでは言わないけど、せめて関係を正常に戻したいんだけど……。
……無理そうだね。
「やはり、みなさん決勝トーナメントが近いとあって、殺気立ってるんでしょうか?」
自分たちの野営地まで戻る道のりで、そう話しかけてくれたのは、ヘカテーちゃんだ。
なんか、やっとマトモに他の学園の人と話せた気がするよ。
「多分、寝てないからイライラしてるだけなんじゃないかな?」
「そうなんですね。……あ、改めまして、ヘカテーです。よろしくお願いします」
「ヤマモトだよ。よろしく」
ヘカテーちゃんとガッシリと握手を交わす。
ヘカテーちゃんはウェーブの掛かった金髪に青い瞳をして、背中に真っ白な翼まで生やしてる見た目、完全に天使な女の子だ。
というか、本当に天使だったりするのかな?
「ヘカテーちゃんは天使種族だったりするの?」
「いえ、私はハイウイングマンといって翼人種族の一種ですね。この白い翼のせいで、よく伝承にある天使と間違われたりするのですが……。ちなみに、本物の天使は頭上に黄金の王冠を浮かべてるらしいですよ?」
黄金の王冠?
あ、天使の輪っかのことかな?
「へぇ、そうなんだ」
「あ、すみません。私ばかり喋っちゃって……」
「いや、いいよ。……というか、他の学園のリーダーたちがあんな感じだから、むしろ安心したよ」
普通はこうだよね? というちょっとした安心感がある。
でも、ヘカテーちゃん的には、出しゃばり過ぎたと思ってるみたい。
頬を押さえて恥ずかしがってる。
「バイオレット様にも、なるべく粗相がないようにと注意されていたのに……。やってしまいました……」
「あ、そっか。マーマソー領の代表だから、ルーシーさんのところからやってきたんだ?」
「はい。バイオレット様から、ヤマモト様によろしくお伝えするよう承っております」
ルーシーさんのところのマーマソー領とウチの領は、交易の関係でズブズブだからね。
いつも美味しい魚介類を輸送してきてくれて、こっちこそありがとうといった感じだよ。
「また、『たまにはマーマソー領に遊びに来られてはどうか?』と伝えるように言付けられておりますが……」
「うーん、その辺はなかなか難しいね。いつか領民を連れて遊びに行きたいんだけど、ウチの領民も特殊だからねぇ……」
マーマソー領は、巨大な亀の背にできた回遊都市ということもあって、主な産業が農業でも工業でもなく、レジャー産業なんだよね。
だから、バカンスに行くのにはピッタリなんだけど、なかなかその時間というのがねぇ……。
あと、ヤマモト領の領民というのが、他の種族に軽視されやすいというか、虐げられているというか……。
そんな領民を連れてマーマソーに向かったら、絶対に何か問題になるだろうし……。
かといって、私だけが行って、「ヒャッハー!」とか言って楽しむのはちょっと気後れするというか、遠慮がちになっちゃうというか……。
もっとこう、「民草は黙って私のために働いていればいいのだー! ガハハハ!」みたいな悪徳領主だったら、そんなことにも困らずに行けるんだけどね?
ほら、私、意外と小心者だし。
他人の目が気になっちゃうタイプだし。
「まぁ、行けるようになったら行くよって伝えておいて」
「はい。わかりました」
結局、結論を先延ばしにしちゃったよ。
まぁ、この辺は一人で決めることでもないし、本体とかと相談だね。
『あ、ヤマモトさん、おかえりなさい。リーダー会議どうでした?』
「会議じゃないよ、ただの顔見せ。それと、彼女がマーマソー領代表のヘカテーちゃんね」
『あ、はじめまして。ポール・サンです』
「サン、さん……ですか? ウフフ、ちょっと可愛いですね♪ ヘカテーです。よろしくお願いします」
天空騎士学園の野営地への通り道に、私たちの野営地があったので、ついでにヘカテーちゃんをポールさんに紹介する。
二人は女の子同士なだけあって、すぐに打ち解け合って握手を交わしたんだけど……。
その様子を少し離れてたところで見てたらしいゴン蔵くんとダク郎くんの鼻息が荒い……。
まぁ、ヘカテーちゃん、見た目が本当に天使みたいで可愛いからね。
ゴン蔵くんたちは、お近付きになろうとしてるのか、ゴシゴシと自分たちの手をズボンの布で拭いてるけど……流石に、野獣たちに美女は紹介しないよ?
……と思っていたら、ゴン蔵くんとダク郎くんが【収納】から何かを取り出して、あっという間に光の粒子に包まれる。
その光が消えたと思った次の瞬間には――、
パリッとスーツを着こなした二人の姿が!
…………。
いや、王都に行くために用意すべき物はもっと他にあったでしょ!?
モテたいがために、そんなもの用意してきたの!?
そして、何のための練習なのか、何かを抱き締めるポーズをして、チュッ、チュッ、チュッとやってる……。
…………。
「【ロック】」
「「…………」」
とりあえず、気持ち悪かったので、ゴン蔵くんとダク郎くんを空間に固定しちゃったけど、これはこれで互いのキス顔を至近距離で見せ続けるという地獄ができあがってしまった……。
どうしよう。
『あ! 私、グリフォンちゃんを近くで見たいんですけど、いいですか!?』
そして、その地獄にポールさんも気づいたらしい。
大きな鎧の体を遮蔽物にして、ゴン蔵くんたちの姿をヘカテーちゃんから隠す。
うん、ポールさん、ぐっしょぶ!
「構いませんよ。あ、ヤマモト様もどうです?」
「え!? み、見せてくれるの? 行く行く〜!」
というわけで、なんとかヘカテーちゃんの視界に汚いものが映らないように、ポールさんとフォーメーションを組みながら移動。
背後から、「お前たち、なにやってるんだ!?」というリィ先生の声が聞こえてきたから、後はリィ先生に任せよっと……。
■□■
というわけで、ヘカテーちゃんを逃がすために、なんだかんだと理由を付けて天空騎士学園の野営地までやってきたんだけど――、
「おー、近くで見るグリフォンはやっぱり大きいねー」
『これだけいると、壮観ですねー』
――総勢五体のグリフォンが鎖に繋がれて、野営地の一角で翼を休めてる姿が見れたので普通にハシャいじゃったよ!
気分的には動物園の檻越しに巨大な虎を見てる気分だね。
なんていうのかな?
毛並みはモフモフツヤツヤで思わず撫でたくなるんだけど、それとは裏腹に獰猛な爪や嘴があるから、ただ可愛いだけじゃないところがあるというか……。
触れるのは怖い、けど、だからこそ触れてみたい! みたいなね?
シャー! っていう猫を抱き締めたくなる感覚かな? わからないけど。
ルーシーさんが、この領地を訪ねて来た時にも、グリフォンは見たことがあるんだけど、そんなにじっくりと見てなかったから、ちょっとした新鮮さもあり、私はまじまじと見ちゃうよ。
「鷲の頭ってちょっと怖いイメージがあったけど、よくよく見てみると結構愛嬌があるよね」
『わかりますー。つぶらな瞳でこっちを「なぁに?」って感じで見てるのが癒されますよねぇー』
「お二人共、もうちょっと近くで見てみます?」
「『是非』」
というわけで、ちょっと近づいてみる。
飛竜の場合はこの距離まで近づいたら、お腹を見せちゃってたけど……グリフォンはそうしないみたい。
その代わりに、「なんぞお前ら?」といった感じで、じーっとこちらを見てる。
あれかな?
飛竜よりも野生が薄いとか、直感が鈍いとか、そんな感じかな?
「ちょっと警戒されちゃってますね」
『グリフォンって警戒心が強いんですか?』
「やっぱり、慣れてない相手だと警戒するかもしれません」
それでも、頑張って近づいてみようとしたら――、
「「「ケェェェェェェーーーン!」」」
「鳴いた……」
『鳴きましたね……』
というか、鳴き声は鷲に近いのかと思ってたんだけど、どちらかというと雉に近い?
私たちが近づいた分、警戒するようにしてグリフォンたちは後退りする。
「どうもこれ以上は無理そうですね。グリフォンたちも警戒してるみたいです。警戒しないようなら、撫でてもらおうと思ったのですが……」
『まぁ、警戒しちゃってる以上は仕方ないですよ』
「ちなみに、警戒を解く方法はないの?」
「餌を持って近づけば、警戒よりも興味が勝るかもしれません」
そういうところは野生の動物と一緒なのかな?
そういえば、【収納】の中に沢山生肉が余ってたような……?
ゴソゴソ。
あった。
「ちょっと、この肉で気を引いてみるね?」
「ちなみに、その生肉は何の肉ですか? 随分とサイズが大きいですけど……」
「え? ドラゴンだけど?」
「「「ケェェェェェェーーーン!」」」
『ヤマモトさん、警戒度が上がりましたよ!』
えぇ……?
ドラゴンの肉なんて滅多に食べられないものだから、喜ぶかと思ったのに……。
「恐らく、ドラゴンに対する本能的な恐怖を感じてるのかもしれません。もう少し、ランクを下げたお肉はありませんか?」
「んー、暗黒の森のモンスターのお肉とか?」
【収納】からヒョイと取り出してみると、
「「「ケケケェェェェェェーーーン!」」」
『むしろ、悪化してるよ!』
「それはドラゴンよりもマズイです! 早くしまって下さい!」
えぇ……。
暗黒の森のモンスターって、そういう扱いなの?
ドラゴンよりも下かと思ってたよ……。
「それじゃ、テンジンダンジョン産のオーク肉とかでいいのかな? ……あ、近づいてきた」
私が【収納】からオーク肉を取り出すと、興味津々とばかりにグリフォンの一頭が近づいてくる。
けれど、やっぱり私が気になるのか、なかなか手渡しでは食べてくれない。
フンフンフン、とお肉の匂いを嗅ぐばかりで食べようとしないけど……。
「どうしよう? 一度地面に置いた方がいい?」
「もうちょっと粘ってみて下さい。刺激を与えなければ、危険な相手じゃないとわかって、手から食べてくれるようになるかもしれません」
『ヤマモトさん、がんばれ!』
よ、よーし、頑張っちゃうぞ……!
というわけで、なるべく微動だにせずに、グリフォンから視線も外す。
そう、見てない。見てないよー。
だから、そんなに警戒しなくていいよー。
……!
あ! なんか、手の中のオーク肉が引っ張られる感触がある!
チラッ。
おぉ〜! 警戒を解いてくれたのか、グリフォンが私の手からお肉を食べてくれてるよ!
これ、アレかな?
今ならフワフワの首筋の羽毛とかも撫でられちゃうかな?
私はヘカテーちゃんにその辺の意見を聞こうと振り返って――、
「「「…………」」」
ものすっごい不機嫌そうな顔をしたハヤテくん、輝龍くん、ジョニーくんの三人の顔を見てしまう。
…………。
うん、まぁ、その……。
ちょっと騒がしくしちゃったかな……?
多分、寝ようとしてたところをグリフォンの鳴き声に起こされてイライラしてるんだよね?
でも、これはなんというか、不可抗力というか……。
だから、一旦落ち着こう? ね?
そんな私の気持ちを知ってか知らずか、
「ケェェェェェェーーーン!」
私の手からお肉を啄んでたグリフォンが一際大きな声で、その場で鳴くのであった。
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特に本編には関係のないCM劇場。
バランスの良いヤマモトさんの2巻が8/9(金)に発売されるようです。
それに伴って、電撃文庫様のXの方でも徐々にキャラクターのビジュアルとかを公開してくれてるようなので、気になる方は――、
#デスゲーム山本さん
で、検索してみて下さい。
ツナさんとか、ブレくんとか、ミサキちゃんとか、リリちゃんって、こんな感じなんだーというのが確認できるかと思います。
ちなみに、個人的には屋台絵のキタコちゃんの右脚に巻かれたリボンが凄い好きです。
わかってもらえるかはわかりませんが……(笑)
あ、キタコって誰? と思われた方は書籍版1巻の方をお求め頂ければと思います。グヘヘ……(宣伝)
それでは、今回はこの辺で。
でわでわノシ
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