第376話

 ■□■


 結局、特に何事があるわけでもなく、空の旅は快適に続き、数時間も暇を持て余し続けていたら、ゴゴン……という音と共に地上に降ろされたよ。


 これは……ようやく到着かな?


「なんだべ、もう着いたっぺか?」

「降りんべ、降りんべ」

「おい、待て! 私の負け分を取り戻すまでは終わらせないぞ!」

「やめとけよ、先生……。言っちゃ悪いが、アンタ、あんまり賭け事強くないぞ……?」


 男子は暇潰しに小額の賭けポーカーをしてたみたいだけど、主にカモになったのはリィ先生だったみたい。


 リィ先生は、ゴン蔵くんたちを逃さないって血走った目で見てるけど、ゴン蔵くんたちはもう終わったこと、みたいな感じで降りる準備を始めてる。


 うん。


 リィ先生は賭け事にのめり込むよりも、教師という職業にもっと一生懸命になった方がいいと思うんだ。


『ヤマモトさん、私たちも降りましょうか?』

「そうだね」


 ちなみに、私たちは男子たちに混じらずに、ひっそりと勉強をして過ごしてたりする。


 ほら、魔将杯に参加するために特別授業と称して、通常の授業を休んでたりするからね。


 ユフィちゃんみたいに優秀じゃないし、エギルくんみたいに天才気質でもない私としては、授業を受けなかった分はこういうところで頑張って取り戻すしかないのだ。


 それにしても、ポールさんが【中級魔法陣学】を得意にしてて良かったよ。


 おかげさまで、わからない部分を教えてもらえたからね。


 ちなみに、ポールさんはポールさんで飲食できないこともあって、良い暇潰しだとばかりにノリノリで私に教えてくれたので、WIN-WINの関係……ということにしておきたい。


 …………。


 後で鎧用のワックスでも送っておいた方がいいかな……。


 ピピピーピーピー! ピーヒャラー!


 ん?


『笛の音、ですかね?』

「そうみたいだね」


 そういえば、領地では今収穫祭をやってるとか言ってたような気がする。


 二、三日前の私会議の情報だったはずなんだけど、まだ続いてるみたいだね。


「もしかしたら、お祭りをやってるのかも?」

『お祭りですか? 見てみたいです!』

「どうだろ? もうそろそろ終わるかもしれないよ?」


 確か、三種族の伝統的な収穫祭を三日かけてやるって二、三日前に言ってたから、もうそろそろ終わるんじゃないかな?


『えー、もう二、三日続いてくれませんかね?』

「そんなには続かな――……」


 私たちが喋りながらコンテナの外に出たら、飛竜たちがヘソ天状態で道を作ってくれてたんだけど……。


 うん、その歓迎は要らないかな……。


 そして、そんな飛竜たちの道の先で、三つの集団が私たちを値踏みするように待ち構えている。


 これは……。


『や、ヤマモトさん……』

「うん、ビビらないように堂々と行こう……」

『飛竜ちゃんたちがヘソ天してます……! 超可愛いですよね……!』


 え? あ、うん……。


 …………。


 ……そっち?


 ちょっと気勢を削がれながらも、三つの集団の前に進み出る私たち。


 そんな私たちと集団の間に入るようにして、見知った顔が現れる。


 確か、魔王軍飛竜部隊隊長のシルヴァさんだっけ?


 なんか見た目が、すっごい若返ってるように見えるけど、シルヴァさんでいいんだよね……?


「遠路はるばるようこそ! 私は魔王軍飛竜部隊隊長のシルヴァだ! 貴殿らがチェチェック貴族学園の代表生徒と顧問教師で間違いないな!」

「はい。引率をしているリィです。よろしくお願いします」

「うむ、よろしく頼む!」


 ピピピーピーピー! ピーヒャラー!


 二人がガッチリと握手するのを祝福するかのように、激しい笛の音が鳴る。


 なかなかニクイ演出だね。


 そこから、シルヴァさんの『ヤマモト領での過ごし方』の説明が行われたんだけど……。


 基本的には、食材が配布されるので、それを自由に使って調理しろということらしい。


 で、今は同じエリアに魔将杯決勝トーナメントに進む他の三校がいるので、問題などは起こさないように、という説明が続く。


 うん。


 別に問題行動を起こすつもりはないんだけど、何故か他の三校が妙に殺気立ってるんだよね……。


 何かしたかな? 私たち?


「一応、学園同士で揉め事などがあった場合に備えて、各学園のリーダー同士でも面識があった方がいいだろう! 各学園のリーダーは前に出たまえ!」


 シルヴァさんによって、各学園の引率教師同士の顔合わせが終わったかと思ったら、今度は各学園の代表生徒同士の顔合わせがあるらしい。


 こういうのは、本来はスコットくんの仕事なんだけど、スコットくんは魔漏病になって寝込んじゃってるし……どうするんだろ?


「ヤマモト、君が代表として挨拶しなさい」

「え……」


 そんなことを思ってたら、リィ先生に指名されちゃったよ。


 代表とか、そういうのガラじゃないんだけどなぁ……。


「エギルくんとかじゃダメなんですか?」

「ウチの中では、君が一番地位が高いし、それにヤマモト領は君の領地だろう? 何かあった時には、前に出て一番収めやすいのが君なのだから、この場は君が相応しいだろう」


 そうかなぁ?


 まぁ、とりあえず先生の指名を断るわけにもいかないので、仕方なしにシルヴァさんのもとに集まる。


 その場に集まったのは、ケモミミのイケメンくんに、迷彩服を着た目付きの鋭い男の子、それと金髪色黒のとてもチャラい感じの男の子で……正直、印象としては多種多様なんだけど、全員が全員、やけにピリついてるのは何なのかな……?


 というか、初対面でこんな感じだと絶対に問題が起こりそうなんだけど……。


 あっ。


 こういう時こそ、『やさしい礼儀作法』の授業で習った、ウィットに富んだ会話というものを試す時なのかもしれない!


 よし、場の空気を和ませアイスブレイクするために、軽い話題を振ってみよう!


 ついでに、刺々しい空気が消えるように微笑んでみたらいいかな?


 よーし、やるぞー!


「はじめまして、こんにちは。チェチェック貴族学園の仮リーダー兼、ここのヤマモト領領主のヤマモトです。どうです? お祭りの方は楽しんで頂けてますかぁ……?(ニチャア……)」

「「「…………」」」


 うん。


 笑顔がちょっと強張って、半笑いみたいになっちゃったけど……私は最大限努力したよ!


 まぁ、それに【偽装】スキルのおかげで、ちょっと変な笑顔になったとしても気づかれてないんじゃないかな?


 せいぜいが口元が笑ってるAm◯zonのロゴぐらいにしか認識できないと思うんだけど……。


 だから、そこまで変なことにはなってない……はず!


 よし、これでこの場の雰囲気も柔らかくなったことでしょ!


「そういうことかよ……。全部、テメェの領を使っての仕業か……」

「なるほど……。お祭りにかこつけて嵌められましたか……」

「二人に付き合ったのが仇となったZe……。魔王軍の特別大将軍になった手腕を甘く見てたYo……」


 えっと……。


 他の三人が全然友好的になってくれないんですけど?


 というか、むしろ三人の殺意レベルが二段階ぐらい上がったような……?


 お祭りを楽しんでるか聞いたことが、そんなにいけないことだったのかな?


 ピピピーピーピー! ピーヒャラー!


 私が戸惑っていたら、ちょっと遠くにあるお店から、厨二担当ジョーカーが出てきたね。


 そして、こちらに近づいてくる。


 なんだろう?


「チッ、いけ好かねぇが、罠にはまったのはこちらの落ち度だ……。仕方ねぇから自己紹介ぐらいはしてやる……。俺はフィザ領の少数精鋭ゲリラ学園のリーダー、ハヤテだ……。決勝トーナメントであたったら覚悟しとけよ……」


 えーと、ゲリラ学園のハヤテくんね……。


 ん? なに……?


 なんか厨二担当が急に耳の中をいじり始めたんだけど……。


 あ、なんか取れたね?


 えーと、あれは……耳栓?


 耳栓をどうしろって……?


「僕はエヴィルグランデ領、拳闘学園のリーダー、輝龍です。ライコ様の後釜となった方ということでしたから、拳を交えるのを楽しみにしていたのですが……とんだ卑怯者でしたね。残念です」


 で、ケモミミくんが、キリュウくんね。


 って、卑怯者?


 あれ? 聞き間違えかな?


 というか、厨二担当はさっきから何やってるの?


 ジェスチャーゲーム?


 四角い? えーと、箱? 箱、入れる……? 整理? 格納?


 取り出した……あ、もしかして【収納】?


 【収納】に耳栓を……ポイー?


 ???


 あ、【収納】から耳栓を取り出した。


 え? 全然意味がわかんないんですけど!?


 あ、痺れを切らして【収納】から取り出した紙に何か書き始めたね!


 最初からそうすればいいのに!


「オレっちはフォーザイン領代表、波乗り学園のリーダー、ジョニーだYoー。決勝トーナメントであたったら、その時は今回の恨み晴らさせてもらうZe……!」


 えーと、波乗り学園のジョニーさんね……。


 それで、厨二担当はなに?


 ――『【収納】に入ってる耳栓をみんなに配れ』?


 それでみんなハッピーになれるって?


 うーん……。


 まぁ、わざわざ店から出てきてまで言うんだから、それなりに意味のある行動なんだろうけど……。


 よしっ!


「くだらねぇ自己紹介は終わったな。それじゃ、俺たちは仲間のもとに戻る……馴れ馴れしく話しかけてくるなよ?」

「その前に受け取って欲しいものがあるんだけど……」

「あぁ?」

「耳栓。必要なんでしょう?(ニチャア……)」

「「「…………」」」


 また笑顔をしようとして、頬の筋肉が強張っちゃったけど、今度の発言はみんなに喜ばれるはず!


 だって、厨二担当のアドバイスによるものだからね!


 まぁ、理由は知らないけども!


「煽ってんのか、テメェ……?」

「ハハハ、ここまで来ると魔将杯決勝トーナメントが楽しみになってきましたよ……」

「策でハメておきながら、オレっちたちに降伏を勧めるとか、イイ性格してやがるNa……!」


 えーと……。


 あれ? めちゃめちゃ怒ってない……?


 ちょっと厨二担当――って、いなくなってる!?


 え、なに? これどういうこと?


 とりあえず、シルヴァさんに言われて、その場を離れるんだけど……非常に納得いかない結果になったんですけど?


「ポールさん、私なんか変なことしたかな……?」

『私には普通に見えましたけど……』

「だよね? 私、おかしなことしてないよね?」

『あえて言えば、初対面で耳栓を渡そうとしたことぐらいですかね?』

「もしかしたら、初対面で耳栓を渡すのが、彼らの地方ではとても言葉にできないような汚いスラングだったのかもしれないね……」


 だとしたら、悪いことしちゃったかな?


 今度からは、初対面の人に耳栓を渡す時は気をつけよう……。


「おーい、みんな聞いてくれ。シルヴァ殿が言うには、明日にはマーマソー領から天空騎士学園が到着し、その後、一泊した後で全員で一斉に王都に向かうんだそうだ。なので、我々の学園は本日からここで二日間ほど野営を行うことになる。その辺はあらかじめ言っておいたから、準備はできてると思うが……大丈夫だよな?」


 シルヴァさんと話し合ってたリィ先生が戻ってきて、そんな情報を教えてくれる。


 一週間も野営してたら疲れるかもしれないけど、二日間だけだったらキャンプ気分で楽しめるかな?


 ピピピーピーピー! ピーヒャラー!

 

「野営はいいんだが、あの笛の音はなんとかならねぇのか? アレを続けられると俺様は眠れねぇんだが? せめて、音量下げるとかできねぇか?」


 マイ枕発言もそうだったけど、エギルくんって結構微妙なところで繊細だよね。


 こういうところで、ちょっとしたボンボンっぷりを見せつけてくるし。


 あっ、そうか。


「エギルくん、耳栓ならあるけどいる?」

「…………。……無いよりマシか」

「あ、スラングじゃないからね?」

「は?」


 というわけで、希望する人全員に耳栓を配って回る。


 あぁ、もしかして、厨二担当が言ってたのは、私の仲間たちに耳栓を配れってことだったのかな?


 だとしたら、ちょっと勘違いしてたね。


 失敗失敗。


 まぁでも、手違いはあったけど、こうしてみんなに耳栓を配れたんだから問題ないでしょ。


 そして、耳栓を配ったことで何故か周囲の視線が厳しくなった気がするんだけど……。


 耳栓を配ることで、なんかこう、暗喩になったりするのかな?


 お前は実の母親から愛の言葉を囁かれずに生まれてきたんだー、みたいな?


 いや、知らないし!


 そんなスラングまで、全部把握して行動しろなんて言われたら、何も行動できなくなっちゃうからね!


 私は私の自由に生きるよ!


「おい、テント立てるから女子も手伝えー」

「私は私の自由に生きる!」

「いいから手伝えってぇの!?」


 自由を決断した直後から不自由を強いられる……。


 人生とはなかなかままならないものです。


 はい。





 ■□■


※本編とは何の関係もないCM劇場


デスゲームに巻き込まれた山本さん、気ままにゲームバランスを崩壊させるの2巻が電撃文庫様より、2024/8/9(金)に発売されます!


えー、今回もね……。


書いたり消したり書いたり消したり色々しました……。


元々530ぐらいだったかのページ数があったのをね、400ページぐらいにまで圧縮したんですよ……。


いや、それ、どんな感じになっとるん……? という怖いもの見たさを覚えた人は手にとって頂ければ、自分も浮かばれます(死んでない)


あと、久賀フーナ先生の可愛らしいイラストが見たいという方にもオススメできる一品です!


※なお、書いた本人はあまりの修正作業の多さに何を書いたのかほとんど覚えてないもよう……。


というわけで、CM劇場でしたー。


ではまた次回ノシ

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