第372話
「いや、それ普通だからな?」
魔将杯メンバーに声を掛けて、いつもの訓練場に集めて、私がキャーキャー言われた話を披露したら、エギルくんからなんとも冷たい一言が返ってきた件。
「というか、むしろ、お前のそれは少ない方だからな?」
そう言って、エギルくんが腕を振るうと、なにやら手紙の山がバサーと……。
【収納】から取り出したみたいだけど……なにこれ?
「俺様宛に来たファンレターだ。中にはラブレターも入ってる」
なん……、だと……?
「何故、エギルくん如きに……?」
「如きはねぇだろ!? 如きは!?」
「魔将杯予選で、【アタッカー】の中で一番得点数が少なかったじゃん!」
「グハッ!? 俺様が一番気にしてることを!?」
ガクーンと膝から崩れ落ちるエギルくんは放っておいて……集まったゴン蔵くんやダク郎くんを見るとちょっと嬉しそうに複数の封筒を掲げてる。
これはまさか……。
「人生で初めて、ファンレターなんて貰っちまったっべよ〜!」
「こりゃ、ゴン蔵くん、ファンレターくれた子たちと結婚するしかねぇな!」
「やっぱそう思うか? ダク郎?」
「俺もファンレター貰ったから、一緒に告白しに行くべよぉ!」
「んだ、んだ!」
いや、ファンレターはラブレターじゃないからね……?
というか、二人共見事な舞い上がりっぷりだよ!
『二人が舞い上がるのもわかりますよ。予選でなんの活躍もしていない私ですら、普段関わりのない生徒から、「頑張って!」「次は活躍できるように応援してるよ!」と暖かく応援してもらいましたから……』
ポールさんがちょっと照れたように言うけど、それは多分、応援じゃなくて同情だと思う。
「そういうことだ」
あ、膝から崩れ落ちてたエギルくんが復活したね。
口の端から血を垂れ流しながら、言葉を続ける。
「今、この学園は魔将杯フィーバーが巻き起こってんだよ! 貴族学園がチェチェック領の予選を勝ち抜いたのは百四十年ぶりだって話だし、決勝戦の試合内容もすこぶる良かった! だから、今年こそはチェチェック領が魔将杯で優勝できるんじゃねぇかっていう期待感と、俺たちが奇跡を起こした高揚感で、領全体が浮足立ってやがんのさ!」
「いや、なんで血反吐吐きながら、そんな説明を……?」
「お前の論理パンチが俺様の急所を的確に打ち抜き過ぎて、悔しさのあまりに歯を食いしばった結果、歯茎から出血したからだよ!? いちいち説明させんな!」
怒られた。
というか、そうかー。
みんな、魔将杯で貴族学園が久し振りに勝利したから浮かれまくってるんだね。
「でもこれ、決勝トーナメントで負けたら、どうなっちゃうのかな……?」
「「「…………」」」
あれ?
ちょっとした純粋な疑問だったんだけど、そんなに静まり返る……?
「幽霊族の女の子以来のファンをようやく獲得したんだぞ。そんな簡単に、この空気を終わらせてたまるか……」
「んだべなぁ、俺もまだまだモテてぇ……」
「俺だってまだまだチヤホヤされてぇべ……」
男の子たち三人の浮ついた空気が一瞬で霧散した件。
いや、言ってることは邪なこと、この上ないんだけど……。
というか、やっぱり負けると、このフィーバーは終わっちゃうって認識なんだね?
個人的にはチヤホヤされようが、されまいがどっちでもいいんだけど、魔将杯で負けることによって、魔漏病で寝込んでる仲間たちが魔将杯に参加できなくなるのが嫌なんだよねー。
折角、頑張ったんだからさ、やっぱりみんなで参加したいじゃない?
だからまぁ、負けたくないって気持ちは、エギルくんたちと一緒だね。
でも、気持ちだけでなんとかできるほどに魔将杯は甘くない……と思う。多分。
だから、少しでも勝率を上げるために、みんなを集めたわけなんだけど……。
「まぁ、フィーバーもいいんだけどさ、私としては魔漏病で倒れてるみんなが合流するまで、勝ち続けたいって思ってるんだよ」
「別に、俺様たちだってそれは思ってる。というか、魔将杯を勝ち抜くためのモチベーションとしては、どっちも相反するものじゃねぇし、理由は色々あっていいだろ」
それってなんだか不純な気もするけど……。
まぁ、一石二鳥や三鳥を狙ってるって考えれば、不純でもないのかな?
「そこで、一応、魔将杯決勝トーナメントを勝ち抜いた他領の学園の情報を手に入れたから、みんなに伝えときたいなーと思って集まってもらったんだよね。ほら、相手の情報を知っとけば、百戦危うからずとか言うじゃない?」
「いやそれなら、己の情報も知っとかなきゃダメだからな?」
エギルくんが意外と細かいってことは、今知ったけどね!
そういうトコがスマートじゃないんだよ!
『ヤマモトさん、決勝トーナメントにあがってくる他校の情報を集めたんですか? 王都に行くまで、そういう情報を集めるのは難しいと思ってたんですけど……』
「なんか伝わってきたね」
集めたというか、王都から直でこっちにダイレクトアタックされたよ!
まとめるの苦労したんだから、要らないってのはやめてね!
『へぇ〜。それで? どんな学園が決勝トーナメントに出てくるんですか? わくわくっ』
「いや、その情報の出所について、もっと言及した方がよくねぇか……?」
「細けぇこと言ってるとハゲんべ」
「んだ、んだ」
「ハゲてねぇよ!?」
とにかく、放っておくと喧嘩を始めそうだったので、順番に決勝トーナメントに残った学園の名前とその特徴を話し始める。
みんなは大人しく最後まで聞いてくれてたけど、なんだかエギルくんの様子がおかしい。
ハゲって言われたことを気にしてるのかな?
それとも、何か思うところでもある……?
「どったの? 難しい顔して?」
「テメェに言ってもわからねぇだろうが、ゴダ中央学園は俺様が元々通ってた学園なんだよ……」
「おめでとう?」
「ありがとう――……いや、違ぇよ! なんでおめでとうなんだよ!」
あれ? 元々通ってた学園も魔将杯決勝に出られたから嬉しい〜って話じゃないの?
「元々通ってた学園だからわかる。ゴダ中央学園はとんでもなく強ぇぞ。俺様が在学中にずっと四番手に甘んじてたぐらいだからな……」
「エギルくんが四番手……!?」
それって、エギルくんよりも強い相手が確実に三人もいるってこと!?
エギルくんは、このチェチェック貴族学園の中でも上位の実力者だっていうのに、ゴダ中央学園では四番手だなんて……!
…………。
チェチェック貴族学園実力者ランキング。
一位、私。
二位、ユフィちゃん(本体の十分の一のステータスをしてるから)
三位、ツルヒちゃん(エギルくんに稽古つけてあげてるから)
四位、エギルくん
…………。
「よく考えたら、そんなに驚くことでもなかったね」
「驚けよ! 結構、ヤバい話だろうが!」
むしろ、前の学園と同じ立ち位置ぐらいだから、現状維持だと思うんだけど……。
だけど、エギルくんは今の自分の立場に納得いってないのか、必死に説明を始める。
「特に、ゴダ中央学園の『皇帝』ミヒャエルには気をつけろ! 奴のユニークスキルは【無敵】っていって、一切の攻撃が無効化される上に、攻撃も一撃を食らえば致命傷になっちまうっていうとんでもねぇスキルだ。文字通り、“無敵”だからな、いくらテメェでも勝ち目がねぇかもしれねぇぞ……!」
「【無敵】……」
「んな無茶苦茶なスキルが許されるっぺか!?」
「当然、弱点はある。それが継続時間の短さだ。せいぜいが十分程度。それぐらいで【無敵】は切れる。――が、厄介なのはゴダ中央学園のナンバーツーと組んだ場合だ。ゴダ中央学園のナンバーツー、ナンバースリーは双子なんだが……ソイツらのどっちかが【継続】っていうユニークスキルを持ってやがる。それを使うことで、ミヒャエルの【無敵】は永続化することになる。俺様もそれを攻略することができずに、常にナンバーフォーの座に甘んじてきたんだ……」
【無敵】……。
それは、ちょっとズル過ぎなのでは?
というか、ユニークスキル同士のコンボっていうと、アクセルくんとイライザちゃんを思い出すけど、ちゃんとNPCの中にも、そういうコンボで戦う人たちがいるんだね。
というか、そういうコンボになるように、運営側が配置してるってことかな?
「幸い、魔将杯は正面切って戦って相手を倒せとかいうルールじゃねぇから、ゴダ中央学園とあたった場合は、逃げ回りながらベースクリスタルの破壊を目指すのがベストだと思うぜ?」
「俺たちは逃げねぇべ!」
「んだ、んだ! 逃げんのはへっぴり腰のエギルだけだべ!」
「んだと! 俺様が親切心で教えてやってんのに、なんだその態度は! テメェらなんぞ、ミヒャエルにやられちまえ!」
「「んだと〜!?」」
売り言葉に買い言葉じゃないけど、エギルくんとゴン蔵くん、ダク郎くんで口汚い罵り合いを始めちゃったよ。
一応、手が出てないあたりは、じゃれ合ってるって範疇でいいのかな?
『それにしても、【無敵】だなんて、凄いユニークスキルを持ってますね……』
「ポールさんの【内蔵】もなかなかとんでもないスキルだと思うけどね」
動く鎧であるポールさんのユニークスキルは、その内部になんでも【内蔵】して、その能力を自分の力にすることができるというものだ。
要するに、私 in ポールさんみたいなことができるのである。
しかも、制御は完全にポールさん主導になるらしく、【内蔵】された方は力を貸し出すことしかできない。
一応、【内蔵】限界時間がきたら、勝手に吐き出されるらしいけど、ある意味とっても怖い感じのスキルである。
「【無敵】の人ごと【内蔵】できたら、【無敵】のポールさんの完成じゃない?」
『相手は【無敵】なんですよ? 近付く前にやられちゃいますよ〜』
そんな怖いユニークスキルを持ってるポールさんだけど、中身は気弱な女の子だ。
いや、
「そういえば、ポールさんの出身地ってメロウィ領なんだっけ? メロウィ領ってどんなトコ?」
『そうですねぇ……』
一応、学園の授業でも魔王国の地理については習ってる。
それによると、エヴィルグランデ領の南東にある難易度激高っぽい森を抜けるとノワール領に辿り着くらしくって、ノワール領を更に南東に進むと、魔王国最南端大都市、メロウィ領に辿り着くらしいんだよね。
ノワール領は、ツルヒちゃんの生まれ育った土地で、力こそが全て、勝利者こそが正義! みたいな風土らしくって、まぁ、暗殺、不意打ちなんでもござれみたいな世紀末みたいな街ってことはツルヒちゃんに聞いたことがあるんだけど……。
メロウィ領はどんな感じなんだろうね?
『メロウィ領は基本的にはアンデッド天国ですね。ゾンビやスケルトン、リビングメイルやゴースト系なんかが、昼間でも普通にウロウロしてますよ』
どうやら、天然のお化け屋敷なのがメロウィ領らしい。
…………。
あんまり近付きたくない土地だというのは理解したよ!
というか、下手に行って、不意打ちでビックリさせられたら、驚きのあまり街ひとつを消し飛ばしてしまうかもしれないし……近づかないのが賢明かな?
あ……。
『楽しいところですから、是非いつか遊びに――』
「……いや、でも生きてる魔物族がいないということは、街ひとつが消し飛んでも実質被害はゼロなんじゃない?」
『――あ、やっぱり絶対に遊びに来ないで下さいね?』
こうして、何故か私はひっそりとポールさんにメロウィ領を出禁になるのであった。
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