第360話

学園担当ジャック視点】


 試合開始と同時に、私は伸ばしていた【うごうごエストック】を水平に振るう。


 【うごうごエストック】は刺属性の武器だから、山を斬るにはどうかなー? と思ってたんだけど、豆腐に包丁を入れるレベルで抵抗なく刃が土に入るのを見て、「イケる!」と確信した次第。


 あとは、開幕ゼロ秒での超先制攻撃を実行!


 相手が「洞窟を潜ってくるから、こちら側に来るまでには時間がかかるだろう。ウフフ♪」とか、悠長な考えをしてたらシメたもの。


 刹那で【うごうごエストック】を振り切った瞬間――、


【貴族学園 110−0 魔法学園】


 私の視界の端に、得点が変動したことを告げるメッセージが出たよ。


 よし、まずは先制だね!


「エグいんだよ! お前のその最速ベースクリスタル破壊攻撃はよぉ!?」

「あ、エギルくん。もう来たの? 早いね」


 ちなみに、チームメイトのみんなには、私の攻撃が終わるまでは、私より前に出ないようにお願いしてたりする。


 だって、下手に前に出てたら、まとめて斬っちゃうもんね。


 なお、この魔将杯では仲間撃ちフレンドリーファイアが可能なので、気をつけないといけない。


「お前ほどじゃねぇけどな! というか、あんなの初見じゃ、誰も対応できねぇだろ!」

「でも、模擬戦では最後の方は開幕【ダークルーム】で対抗されちゃったよ?」

「そりゃ、何回もやられてれば、それなりに対応策も思いつくってぇの! ……ってか、本番はこっからだ。気合入れろよな!」

「もう、作戦も何もないもんねー」

「そういうこった!」


 現状、私たち貴族学園のメンバーの役割分担はこうなってる。


【ストライカー】

 エギル、ゴン蔵


【シーカー】

 ダク郎


【ディフェンダー】

 ポール


【オペレーター】

 なし


【自由】

 ヤマモト


 そう、オペレーターがいないのである!


 じゃあ、私がオペレーターをやればいいって話なんだけどね?


 やろうか? って言ったんだよ?


 そしたら、全員に「ヤマモト基準で指示出されても、その指示に従えないから!」って言われて断られちゃったんだ。グスン……。


 まぁ、そもそも訓練の時も、私はオペレーターには向いてないって散々言われてたしね。


 というわけで、慣れてない役割をやらせるよりは、練習してきたポジションで頑張ろうと……そういうことになったわけである。


 でも、現状のメンバーたちだとかなり攻撃寄りで、探索や防御の人員が薄いのが欠点だ。


 なので、私たちの作戦としては、このままリードを守り切るよりも、攻めて攻めてガンガン追加点を取りにいこうっていう作戦に決まったんだよ!


「とりあえず、俺様はこの洞窟から先に進んでいくが……一緒に行くか?」


 私の目の前にぽっかりと穴を開けてる、ちょっと広めの洞窟の入口。


 準備時間の中で、3D映像でできたフィールドマップを確認した限りだと、両陣営の山裾に三つの入口があり、そこのどこから侵入しても中央部分の地下空洞で合流するような造りになってるようだ。


 普通に考えれば、中央の巨大な地下空洞がメインの戦場となるわけで、なるべくなら足並みを揃えて戦力を集中させて進んでいきたいところなんだけど……。


「ゴン蔵くんは?」

「アイツ足遅ぇからな。置いてきた」


 まぁ、スコットくんみたいにまとめてくれる人がいないと、こうなるよねー。


 ダク郎くんはダク郎くんで、最初の準備時間の中で単独行動するって宣言してたし。


 ポールさんは当初の訓練通り、クリスタルを守るために自陣の奥深くに引き籠もってるし。


 みんなバラバラだよ!


 究極のゴーイングマイウェイ作戦だよ!


「遅巧より拙速だろ。ヤマモトの攻撃で動揺してる今が叩き時だ。俺様は行くぜ――で、お前はどうすんだよ?」


 ついてくるかってこと?


 うーん。


 私は少し考えた末に、山頂を指差す。


「じゃあ、私は登ってみるよ!」

「そっか、気を付けてな――……ん?」


 ムギュ!


 そして、すぐにエギルくんに頬を抓られる。


 ……痛いれす。


「いくら自由フリーな役割だからって、行動まで自由にしろとは言ってねぇぞ?」

「いや、よく考えへもみへよ……」

 

 私は頬を抓られつつも、エギルくんに説明するのであった――。


 ■□■


 私の先制攻撃が成功したことで、普通の感性の持ち主なら、地面にもう一度ベースクリスタルを設置しようとは思わないはずだ。


 何故なら、私が二撃目を繰り出さないとは限らないからである。


 だから、地面よりも高い位置に復活したベースクリスタルを設置したいと思うんだよね。


 そりゃ、いくら私でも高さや位置がわからないものを、ピンポイントで狙っては壊せないからね。


 特異なところに設置されてたら、それこそ当てずっぽうで壊すのは無理だし、その間、魔法学園の生徒たちの当面の心の安寧は守られるというわけだ。


 けれど、そうなると魔法学園側はベースクリスタルをどこに隠すのかが問題になる。


 私たちの陣地も見てみたけど、結構、木がスカスカの雑木林って感じで、地面に設置するのを嫌がって、木の上とかにベースクリスタルを設置したら、ものすっごい目立つと思うんだよね。


 こんなの、洞窟を抜けてきた私やエギルくんやゴン蔵くんが見たら、「!?」ってなって、真っ先に狙いに走るレベルだよ。


 じゃあ、どこにベースクリスタルを設置したらいいんだろう? って考えた時に……思いついちゃったんだよね!


「山ー!」


 そう、平地じゃない場所で、更に侵入者まで自動で追っ払ってくれる番犬ワイバーンがついてくる便利な場所があるじゃない!


 というわけで、私は山を登り始めたんだけど……。


 それにしても、予想以上にワイバーンの集団さんがいるね!


 なんだろ?


 椋鳥の群れかな? ってくらいワイバーンが上空に集まっては、私に向けて垂直降下を繰り返してくるんだよね。


 面倒くさぁ、と思いつつ避けてたら、ワイバーンの数がどんどん増えちゃってさ。


 ワイバーンのせいで空が暗くなってきたから、【木っ端ミジンコ】で晴れやかな青空に変えてあげたよ。


 けれど、それも一時的なもので、すぐにまたワイバーンが大量に集まってくるんだけどね……。


 適当に受け流しつつ、たまに【木っ端ミジンコ】を使ったりしつつ、山を登りー、下りー、してたところで……見つけた。


 山の中腹辺りが不自然に黒く染まってる。


 あの闇っぽさは、【ダークルーム】に違いない!


 そして、そんな【ダークルーム】で守らなきゃいけないほどの貴重なものといえば……そう、ベースクリスタルだね!


「よし、早速破壊しよう。とりあえず、【ダークルーム】はどうしようかな……?」


 確か、スコットくんの説明では、魔将杯のフィールドの中では【ダークルーム】は五分しかもたなかったはず。


 それなら【ダークルーム】が切れるのを待ってもいいし……と、そんなことを考えてたら、


「あれ? えぇ……?」


 【ダークルーム】の中からゾロゾロと黒い人影が沢山出てきたんですけど……?


 というか、この人型の影はどこかで見たことがあるような気が……?


「あ、【ダークアバター】か」


 【闇魔術】レベル8。【ダークアバター】は自分の影を実体化させて、操ることができる【闇魔術】だ。


 私も何度か使ったことがあるけど、結構操作が難しくて、自分の動きを真似させるぐらいしかできなかったんだよね。


 でも、魔法学園の生徒は優秀だね。


 完全に本体から切り離されて、遠隔操作されてるみたい。


 そして、その【ダークアバター】が外に出てきて、【ダークルーム】をかけ直してる。


 なるほど。


 一日一回しか使えない【ダークルーム】だけど、新たに生み出された【ダークアバター】なら、生み出される度にその制限がリセットされると……。


 そして、五分ごとに【ダークルーム】をベースクリスタルにかけ直し続ければ……実質物理攻撃、魔法攻撃の両方とも無効になると……。


 よくもまぁ、そんなズッコイ手を思いつくね!


 まぁ、私の開始ゼロ秒ベースクリスタル破壊も大概だけどさ!


 そして、【ダークアバター】に関しては影が実体化したものだからか、ワイバーンの攻撃対象にはならないみたい。


 さっきから断続的にワイバーンに襲われてるのが、私だけなのはちょっと不公平に感じるよ!


「まぁ、言っても、延々と【ダークアバター】が生成されるわけじゃないだろうし、ここにいる二、三体の【ダークアバター】を倒して、五分ぐらい待てば、【ダークルーム】が解ける――」


 ――と思ってたんだけど、その目論見は甘かったみたい。


 【ダークルーム】の中から【ダークアバター】がゾロゾロと出てくるんですけど……。


「もしかして、【ダークルーム】の中に魔法学園の生徒がいる……?」


 それで、【ダークルーム】内で【ダークアバター】を作っては外に送り出して、【ダークルーム】を張り直し続けてるってこと?


 どんだけ無敵状態を維持したいの?


 うーん……。


 コツコツコツコツ、とても大変な作業をしてる中、とても申し訳ないんだけど……。


「【ライトフィールド】」

「「「!?」」」


 【光魔術】レベル5。光の魔法陣が地面に広がって、その範囲内にある【闇魔術】を強制的に解除してしまうという、ただそれだけの魔術だ。


 これ、取得した時には何に使うんだろう? と思ってたけど、魔将杯の訓練をする中で、ユフィちゃんに【ライトフィールド】を使って【闇魔術】を上手く解除されちゃった時に、「あぁ、こう使うんだ……」と理解した魔術である。


 で、当然、【ライトフィールド】が張られた箇所では、【闇魔術】が解除されてしまうので、ベースクリスタルと三人の魔法学園の生徒の姿が丸見えになる。


「ヤマモトぉぉぉ……! 貴様、貴様……! 僕の考えた必勝の策をぉぉぉ……! よくもぉぉぉ……!」

「あ、権兵衛くん。上、上」

「上がどうし――」


 バクンッ!


 うん。


 ワイバーンさんたちのオヤツになってしまったね。


 ご愁傷様。


 そして、残ったベースクリスタルを易々と破壊する私。


 パキン!


【貴族学園 213−0 魔法学園】


「よし、もっと得点を稼ぐぞー!」

「グギャア!?」


 私は拳を振り上げて、襲いかかってきたワイバーンを殴り飛ばしながら、気勢を上げるのであった。




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以下、CM。


本作の書籍版が多分発売しています!


いや、今日一歩も外出てないので、確認してないのですけどね?


そして、以下のサイトに購入特典とかをわかりやすくまとめてもらいました! ありがたし!


あと、応援コメントが豪華すぎるので、そちらも見て頂ければと思います(笑)


https://dengekibunko.jp/product/deathgameyamamoto/322401000389.html


以上、CMでしたー。

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