第357話

 ■□■


【サイコパス美視点】


 結局、一日目の試験参加者たちはフェンリルたちを一体も倒すことなく、本日は眠ることにしたようだ。


 試験参加者全員が【ダークルーム】の中で寝に入るのを見届けてから、私は気配を消して【ダークルーム】の外に出る。


 外は塔の中だというのに暗くなっており、天井部には星明かりさえ見えている。


 こういう光景を見ると、ここもダンジョンなんだなーと感じてしまうよね。


 ……まぁ、EODは出てこないけど。


 そして、そんな星明かりの下で眠っていたフェンリルたちの一頭がムクリと警戒したかのように起き上がる。


 いや、普通に警戒してるんだろうね。


 こっちを見て、ずっと視線を切らないし。


『ぐるるる……!』

「るーるるるー、るーるるるー」

「なにをやってる……ゴッド……じゃなかったサイコパス美」

「あ、ツナ……じゃなかった哲さん」


 私がフェンリルをキタキツネを呼ぶみたいに呼んでいたら、ツナさん……じゃなくて、蕎麦屋の哲さんが外に出てきて、呆れた声をかけてくる。


 …………。


 うん、ややこしいね!


 そもそも、どっかの誰かさんが参加者に扮して、入団試験に参加して「同じ釜の飯でも食べてみれば、参加者の人となりや実力もわかるんじゃない?」とか言い出したのがいけないんだよ!


 おかげで、私は頭のオカシイサイコパス美とかいうキャラを演じなきゃならなくなったし!


 誰よ、この企画考えたの!


 そう、私です!


 冒険担当ヤマモトです!


「一日目が終わったところだが、誰か目ぼしい入団希望者はいたか?」


 けれど、ツナさんはキャラがサイコパス美よりもまともなせいか、気疲れしてないみたい。


 ……愚痴ってもいいかな?


「入団希望者云々以前に、サイコパス美とかいうキャラ付けが酷すぎて泣きそう」

「ゴッドはまともに喋ると絶対にボロが出るからな。仕方ない」


 えぇ……、出るかな……。


 …………。


 出るかー……。


 ツナさんに最初に会った時もうっかり零しちゃったもんね。


 実績があるから、タツさんに「このキャラ付けやないと、参加は認めへんで」って言われちゃうのも仕方ないか……。


 ガックシ。


「あー……、私の推しとしては如月ムツミちゃんかな? あの子、フェンリルの攻撃を躱しながら笑ってたし、なかなかの逸材だと思うよー」

「あれはできないことが徐々にできるようになっていくのが楽しかったから笑ってたんだろう。別におかしなことじゃないが、デスゲームの中でやれるのは、かなり図太い神経をしているな……」

「私もムツにゃんの姿は映像越しでしか見たことないしなー。どういう性格をしてるかまではわからないなー」

「ムツにゃん……?」

「年中夢中のファンの間での、如月ムツミちゃんの愛称だよ!」

「ゴッドは彼女のファンなのか?」

「そりゃもう! というか、塵芥じんかい監督の長編アニメ映画『マリトッツォのバケモノウォーズ』見てないの? エンディングの年中夢中の曲『あの頃をもう一度……』が映像と合わせてめっちゃ泣けるんだけど!」


 最低でも、映像配信で五回くらいは見たくらいに、年中夢中ファンな私である!


 まぁ、塵芥監督ファンなだけかもしれないけど!


 それにしても、貰ったサインに『サイコパス美さんへ』と書かれたのは痛恨だったね……。


 いつか、ヤマモトさんへ、と書き直してもらおう!


「なら、ファンを装って話をしてみればいいじゃないか」

「こんなキャラ付けしといて、まともに喋れるわけないからね!?」


 本当、なんでサイコパス美とかいうキャラにオーケー出しちゃったんだろう!


 凄く辛いです!


「仕方ない。性格に関しては、リリにリサーチしてもらうか……」

「リリちゃんだけは変装してないけど、わりと本気で気づかれてないよね」

「進化した後の姿が知られてないからな。烏と人型では同一人物だとは思わないのだろう」

「あとは、アイルちゃんにもひっそりと動いてもらうかなー。折角、協力してもらってるしねー」


 今回のクラン・せんぷくの入団試験には、SUCCEEDのメンバーや司馬くんたちにも声を掛けていた。


 けど、結果は見事にフラれた形だ。


 というか、普通に考えて、プロゲーマーの集団が素人の下についた時点で、それはもうプロ失格ということらしい。


 というわけで、入団試験には参加してないんだけど、彼らとしては協力関係を結ぶのはやぶさかではないらしく、現在リンム・ランム共和国共同開発体として提携を結ぶことになった。


 まぁ、デスゲーム担当スペードがアスラ戦で世話になったようだし、リンム・ランム共和国はまだまだ未開の部分も多いからね。


 バラバラに行動するよりも足並みを揃えて、集団で進んでいった方が開拓するスピードも上がる……んじゃないかな? といったところだ。


 一応、クラン・せんぷくからは不足しがちな回復アイテムや装備品を提供して、SUCCEEDや司馬くんからは人材や戦力を場合に応じて提供してもらえる約束だ。


 まぁ、そこは取り引きとして、多少の褒賞石は発生するんだけどね。


 というわけで、今回、協力関係を結んだ証にSUCCEED傘下から天王洲アイルちゃんを借りて、ひっそりと【審判の目】でみんなが何を考えてるのか探ってもらっていたりする。


 まぁ、アイルちゃんのユニークスキルは、相手の言葉の真実と嘘を見破るのに特化してるだけで、隠された事実とかがわかるわけじゃないから苦戦してるみたいだけど……。


 それでも、【ダークルーム】内の会話の端々から嘘や本当がわかるらしく……何人かは私を殺すためのPKK? が混ざってるみたいなことをアイルちゃんは言ってたんだよね。


 うーん、人気者は辛いねぇ。


 こんな人気者になりたくはなかったけどね!


「そういう哲さんは、誰か目ぼしい人材を見つけたの?」

「俺の推しはジェイスだな。アイツの負けず嫌いは目を見張るものがある」

「負けず嫌い過ぎて、絶対に突っ掛かってくる未来しかみえないんだけど……」

「みんなの刺激になっていいんじゃないか? 追い抜かれまいと必死になって、良い相乗効果が出ると思うが……」


 どうだろうね。


 少なくとも、私はそういうので熱血できるタイプじゃないんだけど……。


「後で、リリちゃんにも推しを聞いてみようか。……あ、もちろんクランチャットでね」

「わかってる」


 キェー、キェー言ってた人がいきなり素で話し始めたら、めっちゃ怖いからね!


 そこはひっそりと裏で動かないとだよ!


「さて、意見交換が長くなっちゃったけど……やりますか」

「ゴッドも流石に殺意が高過ぎると思ってたのか……」


 いや、【ダークルーム】の中で、どっかの誰かが言ってたけど、流石にこれだけの敵戦力が出現するなんて予想してなかったからね。


 しかも、フェンリルに囲まれてる少年はロキ・レプリカといって、神のクローンモンスターらしく、ステータスが平均で1000くらいあるバケモノだ。


 正直、殺意が高過ぎるとかいうレベルの話じゃない。


 彼一人だけでも絶望的なのに、追加でフェンリル二十体は流石に多過ぎるだろう。


「こっちの戦力が減ったんだから、相応に相手の戦力も減らさないとねー」

「あぁ。そうじゃないとバランスが悪いしな」


 …………。


 まさか、ツナさんに【バランス】が……とか言われるとは思ってなかったから、ちょっと言葉に詰まっちゃったよ。


 まぁ、気を取り直して、と……。


「じゃあ、ちょっとやっちゃいますか、お蕎麦屋さん?」

「頑張ってついていかせてもらおう、サイコパス」


 かくして、私たちはフェンリルの群れに突撃していくのであった――。


 ■□■


 ロキ・レプリカ軍団人数推移


 【一日目結果】


 ・21体 → 11体(10体脱落)

 

 ■□■


学園担当ジャック視点】


 魔将杯予選の前日――。


 私たちはチェチェックの片隅にある高級宿へと集められていた。


 その高級宿の一階には、三百人は収容できそうな大広間があり、そこでチェチェック領内にある三学園の懇親会を開くのが、毎年の恒例行事となっているらしい。


 形式としては、立食パーティー。


 壇上に上がる、この領地の代官だという人の言葉を右から左へと聞き流しながら、私はテーブルの上に並べられた料理の数々に狙いを定める。


 うん。


 やっぱりこういうのは人気があって、すぐに無くなりそうな料理から確保すべきだよね?


 となると、肉系かな?


 よし、この場には育ち盛りの男子生徒とかも多そうだし、まずは肉を確保だ。


 魔物族に育ち盛りとか、そういう概念があるのかどうかは知らないけど……。


「それでは、諸君の明日からの健闘を祈って――乾杯!」

「「「乾杯!」」」

「あ、乾杯」


 乾杯が一拍遅れたのは、ちょっと頭にプロージット! の画が浮かんだからなんだけど、流石にそれをやる人はいないみたい。


 大広間の片隅に待機していた楽団が優雅な楽曲を演奏し始め、壇上から代官が消えたところで、この場に招かれた学生たちが歓談を始める。


 一応、この懇親会では礼服の着用が義務付けられており、私も貴族学園が用意してくれたドレスを身にまとってるんだけど、パッと見る限り女性の服装に関しては結構自由な感じだね。


 まぁ、そもそも、魔物族は見た目がバラバラなので、同じ規格が入らないだけかもしれないけど……。


 ただ、各学園にはシンボルカラーがあるらしく、騎士学園は赤、魔法学園は緑、貴族学園は青を基調としてるっぽいね。


 私のドレスも青メインな感じで、ちょっと爽やかな系である。


「あの、ヤマモト様、取り過ぎでは……?」

「え? ……あ」


 【多重思考】を使って、思考をしながら料理を集めてたら、気づかない内に取り皿の上に料理が山盛りになってしまっていた。


 これでは、ほぼ次郎系である。


「タッパーないかな? タッパー?」

「たっぱ?」


 ユフィちゃんの反応を見る限り、LIAの世界にタッパーはないようだ。


 仕方ないので、ちょっとずつ料理を【収納】にしまい込み、次郎系状態を緩和する。


 一応、私も魔王軍幹部だし、お上品に食べないといけないよね?


 もぐもぐと食べながらも、次の料理に狙いを定めるためにキョロキョロとしていたら、やたらと別学園の生徒同士で活発に交流している姿が目立つ。


 シンボルカラーを見る限りだと、あれは……騎士学園の生徒と、魔法学園の生徒かな?


 互いに近づいては挑発と自慢と嫌味を繰り返してるように見えるね。


 しかも、それは一箇所だけではない。


 三箇所ぐらいで同時に行われてる?


 なにこれ? 風物詩?


「ご飯が不味くならないのかな?」

「一応、チェチェックの懇親会では、あれが恒例行事みたいですよ」

「そうなの?」

「あのように舌戦を繰り広げることで、明日からの予選に出る選手のメンタルを削るのが狙い……と、昔読んだ本に書いてありました」

「嫌な恒例行事だね。……あれ?」


 というか、赤と緑がいがみ合ってるばかりで、私たちは無視されてるような……?


 私がそのことをユフィちゃんに尋ねると、ユフィちゃんが半笑いで返す。


「相手にされてないんですよ。貴族学園は毎回魔将杯予選では一勝もできずに最下位が確定してますから、他の二校に脅威に思われていないんです」


 だから、メンタルを削りにくる意味もないと。


 それはそれで悔し――……。


 いや、別に悔しくはないね。


 邪魔されずに料理も堪能できるしね。


 と思ってたら、誰かがこちらに近づいてきた。


 あれ?


 こういうのって、学園のリーダー相手に近づいてくるもんなんじゃないの?


 だとしたら、リーダーはスコットくんだから、私に近づいてきてもらっても困るよ?


 深い緑を基調としたタキシードを着た彼は、アンデッド種族のようだ。


 タキシードから覗く顔や手は死体を思わせるほどに血色が悪い。


 うーん。これは、レイスって奴かな?


 それとも、リッチかも?


 スペクターってセンもある……?


 アンデッド系って種類が沢山あるから、見た目だけじゃ良くわからないね。


 でも、魔法学園所属だから、魔法系の種族だとは思うんだけど……。


「久し振りだな、ヤマモト」


 …………。


 えっ、知り合い!?


 私はその青白い顔をしげしげと眺めてみたけど……誰だか思い出せない。


 というか、魔物族なんて進化することで、いくらでも姿が変わるし、元の面影がなくなってるなら誰が誰だかわからないよね?


 ここは、素直に聞いてしまおう。


「えーと、どちら様でしょうか……?」

「フッ、僕の顔を見ても思い出さないとは、フザけた奴め……」


 ということは、この姿の彼と会ったことがある……?


 いや、全然わかんないんだけど……。


「ヒント、ヒント」

「僕はクイズを出しにきたわけじゃない。ヒントなんて出すわけがないだろう」


 にべもなく断られる。


 それだと、ずっと心の中で名無しの権兵衛さんと呼ぶことになっちゃうんだけど……。


 まぁ、彼にとってはどうでもいいのかな。


「僕はあの時の屈辱を晴らすために、この魔将杯に参加することを決めたんだ。予定通り、君が貴族学園の代表として出てきてくれて嬉しいよ。これで、あの時の雪辱を果たすことができるからね……!」


 クックックッ、と笑う権兵衛さん。


 だけど、本当に覚えがない。


 一体誰なんだろう?


 というか、口ぶりからするとプレイヤー?


 うーん……。


「しかし、君たちも馬鹿だね。この懇親会の時点で、もう勝負は始まってるというのに」

「え?」

「欲深き自分の罪を嘆いて、明日はベッドの上で苦しむといいさ。ハハハ……!」


 それだけを言い残すと、権兵衛さんは去って行ってしまった。


 存在も謎なら、言い残した言葉も謎だ……。


 中二病でも患ってるんだろうか……。


「ヤマモト様は、魔法学園のMerlinさんと知り合いなのですか?」

「まーりん……?」

「はい。今年の魔法学園で目覚ましい活躍をしてると噂の魔法学園のエースです」


 流石、ユフィちゃん。


 敵の情報もきっちりと把握してるね。


 でも、残念ながら……。


「ちょっと、マーリンなんて名前に心当たりはないかな……」

「そうなんですか? 親しげに見えましたけど」

「親しげというか、恨みを買ってるっぽい?」

「まぁ、ヤマモト様は魔王軍特別大将軍ですからね。知らないところで恨みを買っていても不思議では――」


 グラリ……。


 その時、急にユフィちゃんの体勢が崩れたので、私は思わずユフィちゃんの背後に回って、その体を支える。


「ちょっと、大丈夫?」

「あ、平気です。なんか、少し熱っぽかっただけなので……」


 そういうユフィちゃんの顔が赤い。


 というか、支える腕が熱い……?


「えぇ、なにこれ……!?」


 気づけば、ユフィちゃんの体を真っ赤に照らすようにして、ユフィちゃんの体の中から膨大な量の赤い魔力が立ち昇り、その場を照らしていた。


 これは、なんなの……?


「おい、大丈夫か!」


 混乱する私のもとに真っ先に駆けつけてくれたのはツルヒちゃんだ。


 そして、ツルヒちゃんが、ユフィちゃんを見てギョッとする。


「これは、まさか『魔漏病』か……」


 魔漏病……。


 え、病気……!?


「だったら、ほとんどの病気を治すという【パナケイア】を使って治せば――」

「やめろ!」


 私が【収納】から【パナケイア】を取り出すも、ツルヒちゃんの鋭い制止の声に動きを止める。


「なんで、止めるの……?」

「この病気は治してはいけない……。治してはいけないんだ……」


 ツルヒちゃんの言葉に、私は戸惑った表情を返すしかなかった――。




 ■□■


※本編とは何の関係もないCM劇場


編集さん「電撃文庫公式でヤマモトさんのキャラクター紹介とかしてますので、よかったらPRしておいて下さい」

自分「はーい」


 …………。


自分「……公式って多分Xのことよな? でも、自分Xしてないし、キャラクター紹介って何やってるんだろ? どうにかして見れんかな? あ、そうだ。公式ホームページで公式Xの内容を見れたりするパターンがあったりするやんね? 公式ホームページを見てみたら、どこかに載ってないかなー?」


カチカチ。


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デスゲームに巻き込まれた山本さん、気ままにゲームバランスを崩壊させる


発売日 2024年6月7日発売 ←

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自分「閃いた」


木彫りの熊をカーン!


▶ 情弱の極みを閃いた。


 …………。


というか、公式ホームページを見て、初めて正式な発売日を知ったんですけど……?


どういうことなの……?


あと、編集さんがハッシュタグは「#デスゲーム山本さん」でいいですか? とか言ってたので、多分、そのハッシュタグでXをなんだかんだすればキャラクター紹介とか見れると思います! 良くわかってないですけど! なんだかんだすれば!


まぁ、思ってたよりも発売日が近かったので、その内、近況にて書籍版のお話なんかも書けるといいですね……。


それでは、CMでしたー。ではではノシ

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