第351話
サンディさんは、オークカイザー戦の際にオークカイザーを【絶世の美女】というスキルで操ってた黒幕さんだったらしい。
そのサンディさんをオークカイザー討伐を兼ねて懲らしめたはいいんだけど、その際に何故か顔が私とそっくりになっちゃったんだって。
目元を覆う仮面をつけてるせいで、はっきりとはしなかったけど、確かに言われてみると、サンディさんの顔の半分って鏡を見た時の私の顔だね。
「まぁ、それを説明されても全然思い出せないんだけど」
「お前、マジかよ!?」
多分、
そうなると、わからないと言うしかない。
なんか、ごめんね?
「まぁ、いい……。とにかく、コイツはアンタと同じ顔をしてる。そんな奴を野放しにしといて、悪事でも働かれたら大問題だからな。仕方ねぇから、ここまで連れてきたんだよ」
「私は悪さなんてしないわ! ただ、ちょっとユニークスキルのせいで、昔から大勢にチヤホヤされてないと気が済まないだけよ!」
「な? なんか悪さをしそうだろ?」
「なんでよ!」
ごめん、正直、フンフの意見が正しいと思う。
まぁ、サンディさんの事情についてはわかったよ。
となると、後の二人は何者?
私の目には、気難しそうなドワーフのおじいさんと、美人だけどへにゃりと崩れた笑顔をしてるエルフさんに見えるんだけど……。
そんな私の視線に気づいたのか、フンフが肩を竦める。
「あぁ、こっちの二人か……。こっちの二人は頭のおかしい奴らだ。王国の火種を消し回ってた時にたまたま知り合った。暗黒の森の領地に連れてけって、うるせぇから連れてきたが……要らねぇなら暗黒の森に放り出して構わねぇよ。それでも、生きていけるような奴らだからな」
なるほど。
それだけの実力者ってことだね?
これは人材不足が深刻な我が領地へのフンフからの贈り物ってことかな?
というわけで、二人には早速自己紹介をしてもらおう。
「お初にお目に掛かる! 某はエルダードワーフのダンカンと申す者! この地では、音に聞こえし、暗黒の森の素材を自由に利用できると聞いて参った次第! 宜しければ、某を殿の配下の末席に加えてはもらえぬだろうか!」
エルダードワーフのダンカンさんは、喋り方が武士で、とにかく声が大きい人だ。
わざわざ、加工が難しい暗黒の森の素材を使いたいって理由でここまで来たとなると、腕には相当自信があるんだろうし、性格も相当変なんだろう。
だけど、エルダードワーフというのは魅力的だね。
物作りが下手なドワーフなんて聞いたことがないし、登用すれば色々と作ってくれそうだ。
まぁ、職人としては、一応、チヅキさんのツテでノワール領から将来有望そうな若手の職人を引き抜いて、ウチの領地に勧誘してたりするんだけど、それでもまだ人手が足りないんだよね。
凄腕の職人だとしたら、欲しい人材なんだけど……。
けど、なんでだろう?
志望動機と、半ば強引にフンフに付いてきたという状況のせいか、ウチの領地で好き勝手に素材を使って、好き勝手に需要のなさそうな物を作ってる未来しか見えないんだよね。
うーん、どうしたものかな……。
そして、もう一人のエルフさんも自己紹介だ。
「あー、私はー、ハイエルフのミアですー。私は毒を作るのが好きでしてー、暗黒の森の素材で毒が作りたいからここに来ましたー。私もここに住まわせて下さいー」
間延びした口調で自己紹介するのが、ハイエルフのミアさん。
この人もこの人でかなりヤバい気がするんだけど……なんか、ムンガガさんと気が合うんじゃないかとは思えるね。
まぁ、あっちは究極の料理として、毒料理を作ってただけで、毒を研究したい学者肌のミアさんとは、ちょっと違うのかもしれないけど。
まぁ、なんだかんだで学者肌の知識人というのは貴重な存在だ。
現状、ウチの領地に知識人はオババさんだけしかいないし、オババさんの負担を減らす意味でも積極的に採用したいところだけど……。
でも、毒を研究したいというのが、どうも引っ掛かる。
この狭い領地でバイオハザードとか起こされたら、溜まったものじゃないからね。
こちらのミアさんも、ちょっと危険な香りがするよね。
うーん……。
基本的には、どちらもこの領地に欲しい人材なのは間違いない。
ただ、この二人、個性が強過ぎて領地に馴染めるかどうかが非常に不安だ。
領民と軋轢を生むのは避けたいんだけど、どうしたらいいのかなぁ……?
――あ、そうだ。
「それじゃ、ダンカンさんは、ウチの領地で取れる素材を使って、ひとつ作品を作ってもらってもいい? ミアさんもひとつ何か作って私に提出で。期限は今から一週間。その提出された物を、領主である私が気に入ったら、この領地に住むことを許可するよ」
「ほぉ、面白い! 某を試すか! 見てるがいい! 最高の一品を作り上げてやろうではないか! ガハハハ!」
「なるほどー、お題ですかー。なかなか難しいですねー。一週間ですかぁー。足りるでしょうかー?」
というわけで、変人二人には領地に住むための課題を出してみた。
別に何を作ってきても移住はOKにするつもりだけど、何を作るのかを考える際に、少しでもこの領地のことを考えてくれたらなーという打算もある。
そこで領民とコミュニケーションを取ることで、少しでも領地に融和してくれると嬉しいんだけどね。
二人には製作物をお願いしたこともあって、早めに退席してもらって、あとはフンフとサンディさんに残ってもらったんだけど……。
「フンフは何かやりたいことある? こっちが誘った手前、ある程度は融通するけど?」
「そうだな。のんびりとバーなんか営みてぇな」
バー……?
バーっていうと、お酒を飲む、あのバーだよね……?
なんだろう?
田舎で余生をのんびり過ごしたいとか、そういうこと?
いや、待って。
フンフはどこに行っても重宝されてる有能な人材だよ?
彼がそんな単純な話をするわけがない。
これは、もしかして――、
ふふっ、なるほどね。
「既にこの領地の内情を調べて、娯楽が少ないことに気づき、領民のモチベーションを上げるためにも、バーを開いて領地を活気づけようという腹積もりということかな? 流石、フンフだね」
「いや、平和になったら、バーを開くのが俺の昔からの夢で――」
「そして、バーを経営しながら、領民たちの不平や不満を聞き出し、それを領主に裏から知らせて、私の統治にひと肌脱ぐ計画とは恐れ入ったよ! 流石はフンフ! 千年前の戦争を生き抜いてきた猛者だけはあるね!」
私がズビシ! と指先を突きつけると、フンフは解せぬといった顔を向けてくる。
どうやら、演技でしらを切るつもりらしいけど、私は誤魔化されないよ!
「事実を都合よく捻じ曲げようとする、アンタの思考回路に、俺は恐れ入るんだが?」
「まぁ、フンフがそこまで私の領地のことを考えて、バーを経営したいっていうのなら任せるよ」
「過程がどうあれ、結論がそこに落ち着くんなら、俺としては文句ねぇけど……」
「じゃあ、フンフはそれで……サンディさんの方はどうするの? フンフのお店でお手伝いでもする?」
サンディさんは、私の言葉に少しだけ考えた後で――、
「私は領民にチヤホヤされたいわ! そういう仕事に就かせて頂戴!」
「そんな仕事ねぇよ!」
間髪入れずにフンフにツッコまれてるんだけど……。
私的には、ご当地アイドルとかなら有りじゃないかな? って思ったんだよね。
あ。
でも、そうなると、私の顔でご当地アイドルをすることになるのかな?
イベントに参加して、歌って、踊って――。
歌……、う……?
…………。
「ねぇよ!」
「なんで時間差で領主様にまでツッコまれるの!」
ごめん。ちょっと言わずにはいられなかったんだよ……。
■□■
【ダンカン視点】
「ほう! 魔物族の作る工房というから期待していなかったが……炉は古い形式ながら、その他の設備は整っておるし、何より広い! 複数人が鍛冶を同時に行えるのは効率的で良いな! 気に入った!」
某の名はダンカン。
齢千年を超えるエルダードワーフだ。
武具を作るのを生業とする傍ら、武器の試し斬りと称して凶悪なモンスターを狩るため、各地を転々としている傭兵でもある。
そんな某の夢は、鍛冶職人として最高の作品を作り上げること。
それは、剣なのか、槍なのか、斧なのか、それすらも決まってないが……全身全霊を込めた最高の作品を作りたいと思ってはいる。
そして、今までに作ってきた武具は、某を満足させるに足るものではなかった。
技術はこの千年に培ってきた確実なものがある。
ならば、足りないのは素材か。
だからこそ、この地の領地化に成功したと聞いた時は胸が震えた。
この地に来さえすれば、きっと某の最高傑作ができるに違いないという、どこか予感めいたものがあったからだ。
「頼もう!」
「え? ドワーフ?」
「ドワーフが鍛冶場に来た? なんで?」
「邪魔するわけではない! ちょっと見学させてくれ、兄弟!」
鍛冶場に籠もり、先に作業をしていた魔物族たちの手が止まる。
どうやら、戸惑ってるようだのう。
ははは、それも無理はないか!
「兄弟? 俺らは魔物族だぜ? 人族とは兄弟どころか、種族からして違ぇよ」
「ガハハハ! 某はこの地に移住しようとしているダンカンと申す者! 殿に認められれば、正式に鍛冶師として、ここで作業することになる! そうなれば、某とお主らは同じ工房で働く同僚であり兄弟だ! さぁ、急いで手を動かせ! 素材が冷えてはつまらんぞ!」
「な、なんだ……、コイツ……」
「まぁ、新しい鍛冶師ってことじゃないか?
「爺さん! 見学したいなら勝手にしてくれ! 作業がしたいのなら、空いてる場所で勝手にやってくれ! けれど、作業中の奴に話しかけるのはやめてくれ! 危ないからな!」
「心得た!」
さて、この工房ではどのような物を作っておるのか、見学させてもらおうか!
むむっ、アレはなんだ……?
早速、見たこともない素材を扱おうとしておるな! いいぞ!
見た目は虫の甲殻のように見えるが、そのサイズは片手で扱う丸盾と同じような大きさ! そして、色は毒々しい紫!
それを火鋏で掴んで、炉の中に無造作に焚べておるではないか!
馬鹿な!
金属のインゴットでもあるまいし、そんなことをしては素材が燃え尽きるぞ!
だが、某の予想を裏切って、炉に焚べられた甲殻は赤熱化するばかりで、形すら崩れようとしない。
まさか、火竜の素材並の火耐性があるのか……?
しかし、いつまで加熱する気だ……?
あの熱の放射をいつまでも浴びていては、職人の方がもたんだろうに……。
…………。
おぉ、ついに素材を炉から取り出したぞ!
そして、金床に置いて、鎚を振るって形を整え始めおった!
むむっ!
あの金床に、あの鎚は……アダマンタイト製か!
アダマンタイトは頑丈さは元より、金属としての密度が高い!
故に重いという欠点はあるものの、逆にその重量を利用して、強く鎚を叩くことが可能になる!
良い品を作るには必要不可欠な鍛冶道具と言えよう!
見やれば、他の職人の道具もほとんどがアダマンタイト製!
うぅむ、見る者がみれば、それこそお宝の山だな……。
アダマンタイトは希少な鉱石であり、その精錬技術や加工技術はドワーフ族の中でも秘中の秘として知られておる。
故に、アダマンタイト製の道具は市場に出回らず、希少価値も付いて馬鹿みたいに高いのだ。
まぁ、ドワーフの里に行けば、どの工房にも必ず一セットは常備してあるものだが……。
だが、この工房では一人一セットが用意されておる!
いや、一人一セットどころか、その辺に掛けられている道具も全てアダマンタイト製だ!
どれだけ、この領地にはアダマンタイトが豊富にあるのだ!
叫びたくなる気持ちを抑えながらも、某は作業を見守る。
熱せられ、赤くなった素材を鎚で叩いて形を整えていく。
叩き潰し、折り重ね、元の素材よりも小さく、固くなった素材はイエティ種族の手の平ほどに小さくなっていた。
それを今度はヤスリを掛けて、刃を付けていく。
そして、その刃の研磨が終わり、柄を付けて出来上がったのは――、
「包丁……?」
幅広の包丁であった。
「馬鹿な!」
見たことのない素材であるから、その素材の真価はわからぬ!
だが、あれだけの熱に耐え、アダマンタイトの工具でもなければ、加工も難しい程の堅牢な素材であることは明白!
武具として生成するならともかく――何故包丁なのだ!
「ふー……、できたなぁー……」
「御仁、ひとつ聞かせてはくれぬか!」
「あん? ドワーフの爺さんじゃねえか? どうしたい?」
「何故、その素材を武具にせなんだ! 日常雑貨など、普通の鉄のインゴットでも事足りるだろうに!」
「そりゃ、毎日使うもんなんだから、丈夫で、いつまでも切れ味が落ちない方が喜ばれるだろ」
「それはそうかもしれぬが!」
「そもそも、武器なんか作ったところで売れねぇしな」
「馬鹿な! 素材の特性を全て知るわけではないが! その素材は加工にも相応の設備と技術がないと難しい代物だろう! 裏を返せば、戦闘でも折れず、曲がらず、斬れ味衰えずと、自分の命を預けるに足る武器となる! そんな武器であるならば、冒険者がこぞって買い求めるはずだ! それが売れないはずがあるまい!」
「いや、いねぇんだよ、冒険者」
「……は?」
「この領地には、冒険者ギルドがないんだから、冒険者も寄り付かねぇんだ。だから、武器なんて作ったって売れねぇんだよ。そもそも、暗黒の森のモンスターも強いしな。普通の冒険者も、頭のいい冒険者も、この領地には近づかねぇんだよ」
な――、
「なんだとぉ〜〜〜!?」
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