第350話

学園担当ジャック視点】


「――というわけで、最終的な学園ランキングが変わってしまったんだ。そして、彼が新しくランキング8位になったダク郎くんだ。みんな、よろしく頼むよ」

「えぇっと、よろしくだっぺよ……」


 えーと……?


 学園ランキング最終日になって、どうやらランキングが変動したみたい。


 8位のザギラくんが何故かランキングから脱落して、その位置にダク郎くんというゴブリン種族の男の子が入ったみたいだね。


 というか、このダク郎くんってどこかで見たことがあるような……?


 あ、ゴン蔵くんのお友達だっけ。


 それにしても、ザギラくんもツイてないねぇ。


 学園ランキングが決定する日に負けちゃうなんてさ。


 そもそも、昨日はランキングの変動を防ぐために、学園内を歩き回らないで部屋に閉じ籠もってようって話だったのに、一体何をしてたんだか……。


 そして、唐突な魔将杯メンバーの変更なんだけど……意外にも女性陣には好評みたい。


 連携とかもリセットされるし、手間でしかないと思ってたんだけど、なんでなのかなぁ、と聞いてみたら……。


「正直、奴の視線は不快だったからな。いなくなって清々する部分はある」

「そうなの?」

「だよねー! こっちの体をなめ回すように見るしねー! 模擬戦でも隙あれば、いつも女の子狙って接近戦仕掛けてきてたしねー! 女の肉を斬り刻ませろーって怖かったし!」

「ヤマモト様はそういうことはありませんでしたか?」

「私はないかなぁ……。ポールさんは?」

『私は動く鎧なので、興味持たれなかった感じですね……。肉がないのがいけないのでしょうか? ちょっと悔しいです……』


 それはまぁ、その……、ねぇ?


 いや、興味持たれない方がいいだろうって、ツルヒちゃんたちがポールさんを慰めてるんだけど……。


 私も興味持たれてなかったんですけど?


 そっちは慰めないのかな?


 泣いちゃうよ?


 なお、スコットくんはザギラくんが抜けたことを少し惜しいと思ってるみたい。


「彼は女性相手に対して嗅覚が非常に鋭かったので、居てくれると作戦が立てやすかったんですけど……。居なくなってしまった以上は仕方ないですね。ダク郎くんの特徴を掴むために何度か模擬戦を行って、その上で戦術の調整を行っていきましょう」


 というわけで、何度か模擬戦を行ってみたんだけど、どうやらダク郎くんは【シーカー】タイプみたいだね。


 地形の把握や隠密行動とかは得意っぽいんだけど、直接戦闘はそこまで得意ではなさそうな感じだ。


 けど、それだけじゃザギラくんに勝てるとは思えないから、他にも何かあるのかな?


 見た感じだと戦闘能力はザギラくんの方が上で、探索能力はダク郎くんの方が上って感じがする。


 不幸中の幸いというか、ダク郎くんも【シーカー】が任せられそうなのは、連携とかに大きな影響が出なそうで良かったかも。


 三戦ほど模擬戦をやって、本日は終了。


 そして、明日は朝から講堂の方で魔将杯予選の壮行会が行われるらしい。


 なんでも、出場選手は名前を呼ばれたら、前に出て、壇上に上がらないといけないんだって。


 というわけで、その日は遅刻しないようにとスコットくんに釘を刺されたわけだけど……。


 目を逸らす人が多数。


 うん。


 みんな割と自由人な感じだしね。


 早起きは苦手って人もいるみたい。


 ちなみに、壮行会の次の日にはチェチェック領の学園三校が集まっての懇親会が行われて、次の日には魔将杯の予選が行われるんだってさ。


 なかなかタイトなスケジュールだよねー。


「模擬戦としては、このメンバーで三戦しか試せなかったのが、少し不安を残しますが、それでも私たちはできるだけのことをやったと思います! 後は、魔将杯の予選を勝ち抜いていくだけです! みんな、全力で戦い抜きましょう!」

「「「おー!」」」


 みんなに混じって、おー! と言いながら、青春を満喫する私。


 うーん。


 この楽しさは、本体に直接味わわせてあげたいけど、本体は今頃何してるんだろうね?


 ■□■


本体キング視点】


「なるほど、ね……」


 冒険担当クラブから、ツナさんやタツさんが進化する時に、特別な場所に行く必要があるという情報を聞いて、もしやと思って領地の教会にやってきたんだけど……。


 ▶神の声が聞こえます……。

  ヤマモトの現在のレベルは412/999です。

  次のレベルまでの経験値は35,603,157です。


  ヤマモトの素養で現在進化できる進化先は以下です。


  ・ザッハーク(退化)

  ・アスタルト(退化)

  ・這い寄る混沌

  ・全にして一、一にして全なる者

  ・絶対悪神

  ・恐怖の大王

  ・天魔

  ・悪霊の王

  ・白痴の魔王


  進化を行う場合は、司祭に声を掛けて進化の間まで進んで下さい。

  ※進化の間を使用するのには10万褒賞石が必要です。


「うん、わからない」


 なんで、急に進化先が異名表示になってるの?


 クイズ形式で私の知識を試そうっていう感じ?


 まぁ、全部が全部わからないってわけじゃないけどさぁ……。


 這い寄る混沌は、多分、ニャル様でしょ?


 この辺は知名度が高いので、私でも知ってるし。


 というか、私のシュブ=ニグラスとほぼ同格の存在だよね?


 クトゥルフ神話の上位の邪神ってカテゴリーだと記憶している。


 後は、全にして一、一にして全なる者はヨグ=ソトースだった、かな……?


 これもクトゥルフ神話系で、シュブ=ニグラスと同列……だと思う。


 進化先としては、正統に強くなるというよりは別パターンの進化先にお邪魔する感じになるのかな?


 つまり、シュブ=ニグラス、ニャルラトホテプ、ヨグ=ソトースは全部同列で、その上にその三柱の神様を生み出した大神みたいな存在がいるわけだ。


 それこそが、多分、正統進化先……存在としては、正統な強化先となるわけなんだけど……多分、それが白痴の魔王なんじゃないかな?


 いや、異名表記のせいであまり自信が持てないんだけど……。


 そもそも、他の選択肢も微妙にわからないし!


 ここで、選択を間違えるとエラいことになる気がするから、慎重に選ばないと……。


 いや、そもそもにおいて、私が白痴の魔王を選択しようとすると……。


 ▶この進化先に進化するためには以下の素材が必要です。

  魔王の素養(大)✕1

  旧神の克服(大)✕1

  ※素材を満たしていない場合でも進化は可能です。ただし、本来の力が発揮できない可能性があります。


 ▶進化しますか?

  ▶はい/いいえ


 まぁ、こんな表示が出てくるんだよね。


 魔王の素養(大)に関しては一応あるんだけど、旧神の克服は(小)しかないので、ちょっと進化するには不安が付き纏う。


 それでも、進化しますかで『はい』を選ぶと……。


 ▶進化をするには、下記の特別な場所に行き、進化をする必要があります。

  ・白痴の魔王の玉座


 といった表示が出てくるので、今すぐには進化できないみたい。


 なお、行き先については、意識を集中すると視界の端に矢印が表示されるのと、マップ上にピンが立つので、それに従って進んでいけばいいみたい。


「まぁ、そもそも論として進化の必要があるのかって話なんだけど……」


 私の場合、ディラハンからシュブ=ニグラスに進化した時に馬車を失った。


 そして、今のシュブ=ニグラスという種族では、黒の仔山羊召喚、肉雲化、他者に不老を与える特性を新たに手に入れてるんだよね。


 けれど、進化すると、それらの種族スキルを全て失う可能性がある。


 特に山羊くん召喚の能力は、現在進行形で物凄く活用してたりするので、失くなったりするととても困る。


 まぁ、進化先は進化先で便利な種族スキルがあるかもしれないから、そこは一種の賭けになるのかな?


 とにかく、ここはちょっと慎重になった方がいい気がする。


 運営が落ち着いてるであろう、このタイミングで進化しときたいところだけど、分身体や山羊くんを解き放って、ネズミ講よろしく経験値をガッポリ稼いでる態勢が崩れるのはよろしくないし……。


 難しいところだよねー……。


「まぁ、とりあえず、今回は進化キャンセルで……」

「終わったのかい?」


 私が進化をキャンセルしたところで、オババさんと出会う。


 一応、この教会は、私を祀った礼拝堂の隣に建てられた簡素なものだ。


 掘っ立て小屋と言い換えてもいい。


 そのショボい風体でも教会を作る必要があったのは、領地の中に教会がないと色々と不便なことも多いらしく、領民の要望に応えた形だったりする。


 ちなみに、教会の司祭としては、オババさんを任命した。


 というか、オババさんぐらいしか教会の司祭の仕事ができなかったので、自動的にオババさんになったというか……。


 オババさんには領民の子供たちの教師役に加えて、礼拝堂の管理人、更には教会の司祭まで任せちゃってるので、頭が上がらない。


 まぁ、それだけ人材不足ってことなんだけどね……。


「うん。こっちの用事は終わったよ」

「それじゃ、領主館に顔でも出してきな。アンタにお客さんが来てるよ」

「お客さん? 誰だろ?」


 というか、そういう領地に訪ねてくるお客さんの対応は屋敷担当クイーンの仕事なんだけど……。


 まぁ、たまには私が顔を出してもいいのかな?


 そもそも、この領地は悪意のある相手は入れない魔力バリアが張られているため、そうなってくると出入りできる相手も限られてくる。


 なので、基本的には、魔王軍関係者か暗黒の森に興味のある変人かなーと思って、領主館に顔を出してみたら――、


「おう、来たぜ」

「…………。フンフじゃない! 久し振りー!」

「お前、今、俺の顔忘れてただろ……」


 領主屋敷の食堂で寛いだ様子でお茶を飲んでたであろうフンフにジト目で睨まれる。


 いや、だって久し振りだしねぇ。


 デスゲーム担当スペードは前に会ってたみたいだけど、彼女は分身体の中で唯一死んでないから、その記憶が私にフィードバックされてないんだよね。


 なので、【遠話】の魔法陣で「フンフと会った」という報告は受けてたけど、実際に会ったのは本当に久し振りとなる。


 で、フンフの隣に見知らぬ人が三人もいるんだけど……。


 誰だろう?


「それで、今日は何の用?」

「お前を訪ねていって、お前の配下になれば厚遇するって、お前が言ったんだろうが……。だから、来たんだよ」

「え? なってくれるの?」

「シュヴァルツェンさんへの義理は果たしたし、王国の各所に撒いてた火種も消してきた。後腐れないように全てを整理したつもりだ。それに、この領地に来てみたら、本当にハーメルン種族を囲い込んでるじゃねぇか。お前さんの下につかねぇ理由はねぇよ」

「おー! 優秀な人材はいつでもウェルカムだよ! ……あ、ウェルカムドリンクとして温泉のお湯飲む?」

「もうちょっとマシなウェルカムドリンクねぇのか!? あと、お茶貰ってるからな!?」


 ウチの領地の温泉のお湯は、美容や健康、若返りの効果まで確認されてて大好評なんだけどなぁ……。


 まぁ、いきなり、お湯を出されてもハードル高いかな?


「それで、フンフはわかったけど……そっちの三人は?」

「一人は俺の元同僚だ。お前も知ってるだろ。サンディだよ」

「久し振り、といっていいのかしら? その節はどうも。サンディよ」

「…………。ひ、久し振り〜、元気してた……?」

「その反応は絶対忘れてる奴だろ!」


 ごめん、フンフ。


 正直、そのサンディさんが誰だか全然わからないんだよね……。

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