第346話

「どう、ゴッド? かっこいい?」


 ディラハン系のハイスペックモンスターであるナイトメアであったミサキちゃんは、進化前よりもゴツい姿の黒色の重騎士になっていた。


 なんというか、見た目は凄く鈍重そうなんだけど、これでもスピード特化の回避盾というんだから、ほぼ見た目詐欺だよね。


 ちなみに、種族名はカオスフォートレスというんだそうだ。


 ナイトメアの上位進化候補に、物理に優れていると出てくるデストロイフォートレスという種族と、魔法に優れてると出てくるデスフォートレスという種族があって、更に物理と魔法の両方に優れていると出てくるカオスフォートレスという種族があったらしい。


 なので、両方のイイトコ取りを狙ってカオスフォートレスをミサキちゃんは選択したみたい。


 まぁ、コグスリーを使えば、魔攻を補ったり、物攻を補ったりが自由自在だから、ステータスバランスが良いというのは、様々な敵と戦う上でも大きな武器になるんじゃないかな?


 なお、カオスフォートレスの特徴は、一定確率で敵からのダメージを相手に跳ね返すらしい。


 ギャンブル要素もある辺りが、ミサキちゃんが気に入った要因なのかもしれない。


 というか、ミサキちゃんに渡した特殊武器【ギャンブルクレイモア】もダメージが、運次第で0.1倍から3.0倍まで変わる武器だしね。


 ギャンブル中毒とかになってないといいんだけど……。


 それにしても、ミサキちゃん――。


 見た目が全身鎧で兜まで被った重騎士だから、完全に女の子っぽさを捨ててるんだけど、それでいいのかな?


 どちらかというと、見た目が完全にモビ○スーツだし。


 ミサキちゃん的には、ブレくんにアピールしなくても、もう大丈夫ってこと?


 ゾンビの時のブレくんはアレだったけど、今はちょっと素顔がカッコイイことがバレてきてるから、うかうかできないと思うんだけどなぁ。


「えーと、ミサキちゃん、カッコイイとは思うけど、可愛さは追い求めなくても大丈夫? ブレくんに見限られない?」

「声が可愛いから、ブレもギャップ萌えで悶えてくれるはず」

「なるほど、ブレくんはなかなかの上級者だね……」

「そこ、二人! 本人の目の前でそういうトークはしないでくれませんかねぇ!?」


 多少慌てた感じで、話に割り込んでくるところをみると、案外ブレくんもまんざらでもないのかもしれない。


 そんなブレくんは、赤黒い筋肉の塊みたいなクリーチャーから、体の大きさがひと回り大きくなった赤黒い筋肉の塊みたいなクリーチャーになっていた。


 …………。


 というか、見た目的にひと回り大きくなっただけで、何も変わってないよね?


「ブレくん、進化したんだよね? その割には何も変わってないように見えるんだけど?」

「一応、エビルフランケンからデスクリーチャーという種族に進化しましたよ。この種族の面白いところは、自分で自分の姿をカスタマイズできることですね」

「へぇ?」


 詳しく聞くと、どうやらデスクリーチャーは仕留めたモンスターの部位を自分の体にくっつけて移植することができるらしい。


 つまり、モンスターの翼を切って背中に付けたら空を飛べる翼が手に入るし、モンスターの腕を切って体に引っ付けたら多腕になって、沢山の武器を操れる……といった感じになるのだそうだ。


 エビルフランケンは、ただひたすらにタフネスが売りの盾職タンクといった感じだったけど、今度のデスクリーチャーは色んな方向性に自分で自分の体をカスタマイズできるので、ブレくんもちょっと楽しそうだ。


「とりあえず、体の急所部分の皮膚の下にドラゴンの鱗を埋め込んで、防御力を上げてみたんですけど……逆にいうと、まだそれだけなんで、全然姿が変わってない感じですね」

「でも、それだと【解体】のスキルを取らないと、なかなか理想の改造はできないんじゃないの?」

「そうなんですよねぇ。あまりグロは得意じゃないんですけど、その辺はボチボチ頑張ってみます……」

「要らない肉は頂戴。焼いて食べる」

「ミサキちゃんって、そういうところはちゃっかりしてるよね?」


 まぁ、ブレくんはこれからのカスタマイズに期待ってところかな?


 そして、最後にすっかり姿が変わってしまったTakeくんなんだけど……。


「あと、Takeくんは姿が縮んだ? というか、生き物としての種別が違うよね?」

「狼から犬になっちまった。あまり触れないでくれ……」


 Takeくんの元々の種族はカオスファングという大きめの黒い狼だったんだよね。


 で、毛もモッサモサだったので、クラメンの女の子たちはモフモフしたいなぁというのを全員我慢してるような状態だったんだ。


 それが、今ではでっかいドーベルマンみたいな姿になっちゃって、フワモコ感が足りない感じになってしまった。


 これがいいんだか悪いんだかわからないけど、とりあえずモフモフしたい欲求は抑えられたのでいいということにしておこう。


 ちなみに、勝手にモフモフしようとすると、Takeくんはめっちゃ怒る。


 Takeくん曰く、「他人の手で勝手に体撫で回されてみろ! 気持ち悪いだろうが!」とのことなんだけど……。


 女の子でもダメ? って聞いてみたら、「恥ずいから嫌だ!」って返されるんだよねぇ。


 うん。流石の常識人である。


「ちなみに、種族とか聞いてもいい?」

「ヘルハウンドだ。種族スキルで口から炎を吐けるのが特徴だな。【火魔法】のようにクールタイムがないのが楽だ。これで俺もそこそこの殲滅力が備わった感じだな」

「あれ? Takeくんってヒーラーじゃなかったっけ?」

「避けタンク兼ヒーラー兼魔法アタッカー兼物理アタッカーだな」

「えぇ、なんか器用貧乏過ぎない……?」

「お前らがっ! 好き勝手やってるからっ! 俺に皺寄せがきてるんだろうがっ!?」


 ものすごい怒られた。


 Takeくんってば、口調は荒っぽいんだけど、意外と気遣いできる人だからね。


 他の人のカバーをしようと考えて、そういうスキル構成になっちゃったらしい。


 普通はそんなスキル構成だと、SPカツカツになるし、どの役割も中途半端になりそうなものだけど、私が渡したチート級装備と本人の努力とPSでなんとか回してる感じなんだろうね。


 というか、クランメンバーが私抜きでダンジョンに行く時も、Takeくんがついていくか、いかないかで大分安心感が違うからね。


 そういう意味でいえば、貴重な人材だと思うよ。


 本人は他のメンバーの尻拭いをしてる感じなので、不本意なのかもしれないけど。


「まぁまぁ」

「まぁまぁじゃねぇよ! ちったぁ反省しろ!」

「ちゅーか、Takeの件で思い出したんやけど、ヤマちゃん、そろそろクランを拡充せえへん?」

「ほへ?」


 タツさんの唐突な申し出に、私は思わず間抜け面を曝すのであった。


 ■□■


 ――つまり、タツさんが言うにはこうだ。


 元々、私たちのクランは内輪でワイワイやりたいけど、大手クランに顎で使われたりするのは嫌だから、少数精鋭の誰の命令も受け付けないような強いクランを目指してきた。


 ――で、実際に強くなっちゃったと。


 なったこと自体は問題ないんだけど、強くなる過程で色々といざこざの種を蒔いてきたので、そういうのに対応するためにも相応にクランを拡充する必要があるんじゃないかって話みたい。


 というわけで、リビングにみんなで集まって、クラン拡充についての臨時会議を始める。


 会議といっても、お友達内閣みたいなものなので、軽食を取りながらの緩いものだったりするけどね。


 うん、タツさんたちが途中の店で買ってきてくれたタマゴサンド美味しい。


 朝御飯を抜いて、もうお昼だったから、気分的にお腹減ってたんだよねー。


「始めてえぇか?」

「あ、お構いなく〜」


 ちなみに、司会進行はタツさん。


 というか、ウチのクランでは話し合いの司会進行は大体タツさんだ。


 まぁ、今回の議題を持ってきたのもタツさんだけど。


「現状、ワイらは運営を倒したってことで、PK扱いされてPKKに目の敵にされとるところや。その上、リンム・ランム国主のヤマちゃんの関係でメルティカ法国とも絶賛敵対中や。更には、運営が竜を連れてたことから、竜の国とも敵対関係になると予想しとる。更には、運営の一人をヤマちゃんが倒しとるから残りの三人の運営にも、ヤマちゃんがかなり恨まれとるのは確実や。……そこまではわかるな?」


 こう聞くと、私関連でかなりヘイト溜めてるのがわかるね。


 そんなに暴れた覚えはないんだけどなぁ……。


「しかも、ワイらは今回、運営の帝国侵攻を阻止してもうた」

「それは良いことじゃないんですか?」


 ブレくんがアイスコーヒー片手に確認するけど、タツさんは首を横に振る。


「えぇことやけど、逆にいうと、次に攻めてくる時はが確実に予想されるっちゅうことや。しかも、帝国ん時はワイらだけやなくて、他のクランやNPCの手も借りて、なんとか踏み留まったような状態やろ? 正直、今のクラン規模やと次の運営の侵攻を跳ね返せるんかは微妙なところやないかとワイは思うとるんや」

「あれ以上の規模かぁ……」


 正直、戦力的には分身体わたしたちと山羊くんがいれば、どうとでもなりそうな気がするけど……。


 それでも、山羊くんは姿を見せただけで敵味方関係なく被害を及ぼすし、分身体は分身体でスキル無効の効果にすこぶる弱いという弱点があるからね。


 その辺を補うためにも、戦力の拡充は必要かもねぇ。


 特に、先の帝国決戦では手が足りてないと感じることも多かったし……。


 Takeくんなんかには、後で凄い怒られたしね。


「ちゅうわけで、ウチもそろそろクランを拡充した方がえぇんやないかなと思ったんやが……。その辺の意見をみんなにも聞きたいっちゅう話やな。なんか意見あるんなら、言うて欲しいわ」

「俺は拡充に賛成だ」


 そう言って、意外にも話し合いの口火を切ったのはツナさんだった。


 太い腕を組んで、うんうんと頷きなからも、ボリューミーなカツサンドを食べてる。


 ちょっと、そのカツサンド美味しそうだね。


 私も食ーべようっと。


「俺と肉クイーンの二人だけでは料理のレシピに限界がきそうなことは薄々勘づいていたからな。メンバーの増員は大歓迎だ」

「それはそう」

「料理のレパートリーのために、クランメンバーを増やそうっちゅう話はしとらんからな……? あと、ツナやんはわかるけど、ミサキよりもブレの方が頑張って飯作っとる回数が多いからな?」


 まぁ、あの二人はそういう基準になるんだろうね。


 そして、御飯のレパートリーは案外とブレくんが豊富だったりする。


 色んなところでバイトしてたから、料理のレパートリーが色々あるんだってさ。


 地味なところで小器用だよね、ブレくん。


「別にメンバーを増やすことに反対はしねぇが、ソイツの人間性は見とかねぇとマズイだろ。俺たちは何度かパーティー組んだりして、互いを知ってたから悪い奴じゃねぇってわかってたが、PKや悪党を知らずに鍛えることになったら、周囲に与える被害がとんでもねぇことになるんじゃねぇのか?」

「口は悪いけど、中身は常識人のTakeくんが言うと説得力が違うね」

「一言多いんだよ、ヤマモトは!」


 おっと、心の声が漏れちゃった。


 でも、Takeくんの言ってることももっともだよね。


 下手に鍛えて強くなったプレイヤーがその強さに溺れて、弱いプレイヤーを大量に虐殺したとかになると、現実に戻った時に殺人幇助の罪とかに問われるかもしれないし……。


 そう考えると、確かに人間性は見といた方がいいのかな?


「僕もクランメンバーを増やすのは問題ないですけど、気難しい方だったり、怖い方だったりするとちょっと……」

「怖い人は私もちょっと……」


 ブレくんとリリちゃんの気弱組は、人間性重視といった感じかな?


 あと意見を言ってないのは……。


 あ、私か。


 みんなの視線が集まる中で、とりあえず烏龍茶で口の中のものを飲み下して、と――。


 みんなの意見をまとめるとクランメンバーの拡充には前向きだけど、新しいメンバーは人間性も重視した方がいいってことだよね?


「私もメンバーを増やしてもいいと思うけど、新規メンバーが悪人だと困るから――」


 となると、そうだね。


 アレやってみようか?


「同じ釜の飯食べてみちゃう?」


 私は、そう提案していた。

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