第345話

冒険担当クラブ視点】


「ふわぁ、おはよー……」


 結局、昨日は学園で魔将杯の練習をした後で、学園担当ジャックと会って、互いに情報交換をしあってたら、かなり遅い時間の帰宅となってしまった。


 というか、学園担当ジャックは、自分のミスを自分でフォローしたかったから、私と役割を入れ替わりたかったみたいなんだよね。


 それなら、別に私と役割を入れ替わらなくても、学園を少し休んでダンジョンに潜ればいいと思うんだけど……。


 どうも魔将杯の訓練の日程と被っちゃったので、私を利用したらしい。


「ほら、みんながスケジュールをあわせて連日頑張ってるところに、一日でも穴開けちゃうと後から合流しにくいし……」

「まぁ、その気持ちはわからなくもないけど……」


 それでも、私に嘘をつく必要はなかったんじゃないかな?


 そのことを学園担当ジャックに告げたら――、


「素直に自分の失敗を話して、力を貸して下さいって頭下げられる?」

「いや、時と場合によるでしょ……」

「じゃあ、時と場合によったんだよ」

「さよーで」


 少なくとも学園担当ジャックは、同じ私に弱みを見せたくなかったみたい。


 問題が解決した今なら笑い話になるから、言ってもいいやって判断なのかな?


 うん。


 そういう判断だね。


 同じ私だからわかるよ。


 というわけで、色々とゴタゴタやってたこともあり、帰宅したのは深夜。


 寝たのが遅い時間だったため、私は先程ようやく目を覚ました感じだ。


 陽気がポカポカと暖かいから、もう昼ぐらいなんじゃないかな?


 まぁ、チェチェックにはクランハウスがあるから、宿の手配に気を回さなくていいし、夜遅くに帰ってこようと、朝遅くに起きようと誰も文句を言わないので快適なんだけどね。


「あ、ヤマモトさん、おはようございます」

「おは――」


 リビングまでやってきて挨拶をしかけて、私はクランハウスのソファに見慣れない美少女がいるのを見て、動きを止める。


 …………。


 え、誰?


 全身を覆うフード付きの黒の外套に、下にはゆったりとした黒のローブ、そしてさらりと流れる黒髪に白い肌に柔和な笑顔……。


 うーん……。


 見たことがないけど、誰だろう……。


「えーと、どちら様ですか……?」

「酷いです! 私ですよ! リリですよ!」

「えぇ、リリちゃん……?」


 というか、リリちゃんって三本脚の烏じゃなかったっけ?


 あ、もしかして……。


「進化した!?」

「はい! 帝国での戦いでレベルがカンストしちゃったので、昨日教会に行って進化してみたんです!」

「おー、おめでとー!」

「えへへ……」


 それにしても、烏から人型って進化し過ぎじゃない?


 原型が全く残ってないんだけど……。


 でも、言われてみると、インプ時代のリリちゃんの面影はあるかも?


 あの時はちっちゃい女の子って感じだったけど、今は完全に美少女って感じだ。


 ジロジロと見てたら照れたのか、リリちゃんはフードを目深に被って顔を隠してしまう。


 うん、可愛い♪


「えーと、前までの種族って、八咫烏だったっけ? 今度は何になったの?」

「バズヴっていう神様みたいです。烏を出したり、消したり、操れたり、烏になったりできるのが特徴みたいです」

「人型なのに烏の特徴は残るんだ……」

「むしろ、私のユニークスキルの特徴的にも空を飛べないと困っちゃいますんで……」


 まぁ、それはそうかも?


 それにしても、これでクラン・せんぷくも私、ツナさん、リリちゃんで三柱の神様を抱えることになったわけだね!


 なんとなく戦力が充実してきてる感じがするよ!


 まぁ、今までもそれなりに充実してた気もするけど!


「確かに、帝国での戦いはみんなして頑張ってたもんねぇ」

「はい。フィザの領主館での戦いも合わせると、結構な経験値を得てたみたいで、昨日はみんなで揃って教会に行ってきたんですよー」

「へー、みんなで揃って教会にねぇー」


 ん?


「え? ということは、他のメンバーも進化してるの? なにその一大イベント? 私も行きたかったんですけど……!?」

「えーと、ヤマモトさんは昨日クランハウスにいなかったですよね……?」


 いなかったけど!


 前日に学園に泊まってて、そのまま魔将杯の訓練に行って、帰りも遅かったから教会に付き合う暇なんてなかったけど!


 けど、メンバーの進化イベントって一大ドキドキイベントなわけじゃない!?


 それに、参加し損ねるなんて……!


「悔しい! 邪神しちゃう……!」

「邪神しちゃうってなんなんでしょう……」


 多分、胸がジャシジャシすることだと思うよ?


 それにしても、リリちゃん以外のクランメンバーがいないんだけど……一体どこに行ったのかな?


「そういえば、他のみんなは?」

「進化して、レベル1に戻っちゃったので進化の塔にレベル上げに行ってますね」

「大丈夫かなぁ……?」


 レベル1に戻ったってことは、弱くなっちゃってるってことだよね?


 それなのに、いつもの調子で進化の塔に挑戦するなんて、危険じゃないの?


 私が心配していると、リリちゃんが片目を手で押さえてニッコリと笑う。


「今、烏とリンクした視界で見ましたけど、無理はしなかったみたいです。もう、みんな進化の塔を出て、クランハウスに向かってるみたいですよ」

「烏とリンク?」

「はい、私の種族スキルで【烏の女神】というのがあるんですけど、そのスキルで烏を召喚して使役することができるんです。更に片目を瞑ると、使役してる烏と視界を共有することができるんですよ」

「つまり、タツさんたちに今、召喚した烏を同行させてる感じなのかな?」

「はい。スキルに慣れるのも兼ねて、百羽くらい同行させて、遠隔で操作してたんですけど、今は十羽くらいにまで減っちゃいました。まだまだ遠隔操作の練習が必要です」


 リリちゃんの【烏の女神】は、私で言うところの山羊君の召喚に近いのかな?


 山羊君ほど思考力があって勝手に動くような存在じゃないけど、代わりに烏と視界の共有ができるみたい。


 やっぱり神様だけあって、便利なスキルを取得してるよね。


 そして、仕様が山羊君と同じなら、クランハウスにいながらにして、烏が戦闘参加した分の経験値が入ってきてるはず。


 リリちゃんはなかなかイイ感じの種族に進化したみたいだね。


「あ」

「あ?」

「クランハウスの前で何かもめてるみたいです」

「もめてる? もしかして、PKK?」


 タツさんに教えてもらったんだけど、今、世間では私が運営を殺したPKとして扱われてるみたいで、正義感に駆られたプレイヤーがプレイヤーキラーキラー……要するにPKKとして私を殺そうとしてるらしいんだよね。


 まぁ、タツさんからの話だけで、肝心の本物には会ってないんだけどさ。


 そういう危ない人たちもいるって聞いてたので、ちょっと警戒してたんだけど、どうやらそうじゃないみたい。


「えーと、どうやら、クランに入れてくれっていう入会希望者の方たちみたいです」

「へー、奇特な方たちもいるもんだねぇ」

「前々からそういう人たちは結構いましたよ? でも、ウチのクランの実態を知って逃げちゃう人がほとんどでしたけど……」


 そう。


 実は、クラン・せんぷくには定期的に入会希望者が現れてたりする。


 けれど、そういう入会希望者は大体がクラン・せんぷくに所属すれば、あっという間に強くなって自分もヒーローになれるんだ、と考えてる考え激甘プレイヤーがほとんどなので、このクランの実態が【蘇生薬】が友達ってぐらいの死にゲーを体感しながら、スキルを磨きつつ、レベルを無理やり上げて、装備を整えて――ということをやってるクランだと知られると……ドン引きされる。


 特に、薄っぺらい功名心に突き動かされただけのプレイヤーなんか、進化の塔から帰ってきたタツさんたちの顔を見ただけで竦むもんね。


 そりゃあ、何回も死んで、生き返って、死闘を制して――ってやってきたタツさんたちは凄絶な顔してるもん。


 軽い気持ちでクランに入れてくれなんて言えるわけがないよね。


 私がそんなことを考えてたら、


「帰ったでー」

「あ、帰ってきました」

「それは、流石に私にもわかるよ。お帰り、タツさん。……?」


 タツさんを先頭にドヤドヤと帰ってきたクランメンバー。


 その先頭のタツさんを凝視するんだけど……。


 あれ? なんか変わった?


 私にはいつも通りの大きい蛇にしか見えないんだけど……。


 えーと、全長が伸びた、とかかな?


 よし、その線でいってみよう!


「進化して脱皮したんだね! おめでとう、タツさん!」

「頑張って違いを探してもろたところ悪いんやけど、ワイは変わっとらんで? ちゅうか、まだ進化しとらんし」


 えぇぇ……。


 みんなで教会に行ったっていうから、てっきりみんな進化したものとばかり……。


 進化してないってパターンもありなの?


「ワイとツナやんは、ちと進化するのに条件が付いてなぁ。今すぐ進化っちゅーわけにはいかなかったんや。まぁ、いきなり、全員のレベルが1に戻っても困るしな。バランス的には良かったんとちゃうか?」


 まさか! こんなところにも【バランス】さんの影響が……!?


 ……いや、それはないか。


「進化するのに条件?」

「特殊なアイテムを持ってたり、特殊な称号を持ってたりすると、特殊な進化先が表示されるんやが、その進化をするのに特定の場所に行かんとできんみたいな表示がされてな。ワイの場合はフィザとギザリアの間にあるキャラウェイ火山っちゅうダンジョンの中の『竜の祭壇』ってトコに行かんと駄目らしいわ。ツナやんは……」

「俺は海底神殿と言われる場所だな。どの辺にあるかは詳しくは知らん」

「タツさんの所はフィザの先に進んでいく道中で寄れそうかな? ツナさんの所は……」


 場所の見当もつかないのは、どうしよう?


「マップ上にピンが立ってるから、暇をみて行ってくる。多分、海の中だ」

「あー、ウチのメンバーの手助けが必要なら言ってね? みんな手伝ってくれると思うから」

「わかった」


 でも、海底神殿とかいう名前の時点で、あんまり役に立ちそうにもないのがなんとも……。


 進化した他のメンバーが水中戦に強い種族だったらいいんだけど、普段の戦い方やらスキル構成やらを考えてみると、それも望み薄だろうしねぇ。


「ちゅーか、ヤマちゃんの時はそういうのなかったんか? ヤマちゃんも多分特殊進化やろ?」


 えーと、私の場合は確か……。


「実績との【バランス】をとられて……気づいてたら特殊進化してたパターンかな?」

「ほーん。そんなケースもあるんやなぁ」


 いや、特殊なケースだと思うよ?


 なんせ、【バランス】さんが絡んできてたからね。


「それじゃあ、今回進化したのは……」

「リリやん以外やと、あっちの三人やな」


 というわけで、改めてタツさんの後ろにいる三人に目を向ける――。

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