第343話
とりあえず、集まった十人を適当に五人ずつに分けて、部屋の中央のクリスタルでチーム情報を登録。
そして、スコット君がゲームを開始すると、一瞬で天井、床、壁――全てが真っ黒に塗りたくられる。
いや、塗りたくられたというよりは、ワープした?
気づいたら周囲の人数も減ってるし、そんな感じかな?
で、目の前に現れたのは、でっかい地図?
でも、この地図……右半分は詳細に表示されてるんだけど、左半分は真っ黒に塗られていて半分しかわからないんだけど……。
そんな地図を凝視してると、
▶ベースクリスタルの位置を決めてください。
「えーと……?」
なんかよくわからない部屋にワープして、急にそんなこと言われても……。
どうしろと? という感じだ。
「皆さん、今回の疑似戦場のマップが目の前に見えますね? 詳細な地形がわかる右半分が、私たちの自陣となります。本番ではなるべく地形は覚えておいて下さい。今回は
私が困っていたら、ユフィちゃんがそう教えてくれた。
というか、こっちのチームにユフィちゃんがいてくれて助かったよ!
誰も説明してくれなかったら、全くわからずにゲームが進行していくところだったからね!
ちなみに、でっかい地図を前にして集まってきたのは、ユフィちゃん、エギル君、ポールさん、ビーちゃんといった面々。
今回の模擬戦では、この五人でチームを組むことになるみたいだね。
よろしくー、と挨拶しておこう。
「で? ベースクリスタルって何かな? ユフィちゃん?」
「ヤマモト様、魔将杯ではデストロイポイント制を採用しているんです。デストロイポイント制というのは、敵を倒したら、その敵に割り振られていたレシオがこちらのポイントとして獲得できるルールのことですね。そして、最終的にポイントが多かったチームが勝ちになります」
「つまり、疑似戦場の中で高いレシオが割り振られた強ぇ敵を探し出して倒せば稼げるってわけか! へへへっ、そういうシンプルな奴は俺様好みだぜ!」
パシンと拳で掌を打つエギル君。
けど、私はまだユフィちゃんがベースクリスタルの説明をしていないことに気づいていた。
言葉の続きを待つ。
「そして、私たち同様にベースクリスタルにもレシオが割り振ってあり、私たちはベースクリスタルを守りながら戦う必要があります。なお、ベースクリスタルに割り振られているレシオは100ですので、クリスタルが割られるとかなりの痛手になるでしょう」
ん?
…………。
え、100?
「なんだそりゃ!? つまり、このベースクリスタルを割られたら、100ポイントも相手に取られるってことかよ!?」
「なので、ベースクリスタルはなるべく隠したり、守ったりする必要があります。特に、最初の設置位置が重要で……」
『あのー……、もう設置場所決定の制限時間が二十秒切ってますけど……』
ガチャガチャと音を鳴らしながら挙手してくれたポールさんが教えてくれる。
うん。
そういうのはもう少し早く言ってくれるとありがたいかな?
「ととと、とりあえず! 陣地の一番奥に設置しとこうよ!」
ビーちゃんの言葉に特に異論はなく、私たちは適当に自陣の奥にベースクリスタルを設置する。
そして、設置が完了したところで……。
▶レシオを割り振ってください。
ベースクリスタルの次はレシオの設定だけど……。
「どうするの? エギル君に10振るの?」
「いや、流石にそれは……」
『無理なのではないでしょうか……』
「いーや、俺様は閃いたぜ! このルールの必勝法をな! だから、俺様に任せとけ!」
「「「…………」」」
「そこは、おぉっ! とか、凄い! とか言うところだろうが!? 泣くぞ、この野郎!?」
よくわからないけど、エギル君がやたらと自信満々なので10レシオをエギル君に割り振って、一人で行かせてあげることにする。
というか、最初なのでみんなちょっと様子見がしたいみたい。
みんなして、どうぞどうぞとエギル君にレシオを譲る。
▶戦闘参加者は開始位置を決めてください。
どうやら、レシオを割り振った後は戦闘参加者が自陣のどこから始めるか、決めなくてはならないみたい。
そこで、エギル君は迷うことなくベースクリスタルの真ん前を選択する。
と、同時にエギル君の姿が消えた。
私たちの目の前にはでっかいマップと、そのマップにエギル君らしきデフォルメされたアイコンが表示され、別窓でエギル君の近辺を映し出しているであろう中継映像が流れ始める。
おぉう、地味に凄い技術……。
異空間か何かに疑似戦場を作り出して、そこに召喚された感じなのかな?
そもそも、今いる空間が異空間とか?
よくわからないけど、エギル君が映ってるウインドウを見る限り、戸惑った様子で周囲の様子を窺ってるようだ。
地図だけじゃよくわからなかったけど、映像を見ると周りは結構深い森の中みたい。
見通しが悪くて、動き難そうな感じだね。
「一応、戦闘に参加できない他のメンバーは、こうして地図を確認しながら、チームメンバーの状況を確認することができます。そして、連絡を取りたいメンバーに意識を向ければ、指示を与えることも可能です。ですので、一人、二人ぐらいは非参加メンバーを作って、作戦参謀として働いてもらうのも有りかもしれませんね」
「なるほど」
いや、ユフィちゃん、この魔将杯ルールに初めて触れるんだよね?
なんでそんなに詳しいの?
え?
図書館の資料に魔将杯の研究について書かれてる本があった? それを読むだけでそんなに詳しくなれるもんなの?
あ、なるんだ……。
そう……。
うん、なんというか、地頭の違いを思い知らされた気分だよ……。
そんなことをグダグダとやってたら、ようやく試合開始。
マップの上部にデフォルメされた参加者のアイコンが並び、それと同時に、
【Aチーム 0−0 Bチーム】
の数字が表示される。
Bチームの文字の隣にエギル君のアイコンが表示されてるから、こっちがBチームかな?
そして、相手のアイコンの数は一、二、三……あ、五人全員参加なんだ。
ということは、五人全員にレシオが割り振られてるはずなんだけど……。
その割り振りが2、2、2、2、2の合計10なのか、6、1、1、1、1の合計10なのかは、ちょっとわからない。
この辺、レシオの最大値と人数を合わせない方が、誰が強いのかわかりにくいから、相手を幻惑させるにはいいかもしれないね。
つまり、十人全員参加だと相手のレシオは全員1だと断定できるから、怖さがないと思うんだ。
逆に人数が少なくて、レシオの配分がわからないと、誰が強敵なのかすぐにはわからないから、ちょっとした怖さがあるよね。
そんなこんなで戦闘開始したわけなんだけど、何やら必勝法があると豪語していたエギル君が……動かない。
えーと、それが必勝法なの……?
「なるほど。引き籠もり作戦ですね」
「引き籠もり作戦?」
なんだろう。
ちょっと安心する響きだ……。
「現状のエギル様のステータスは通常時の十倍。ちょっとやそっとの相手に倒されることはないでしょう。ですが、エギル様が打って出ると、ベースクリスタルの守りが手薄になります。それを考慮して、待ち受ける作戦に出たのだと思われます。ちょっとやそっとでは倒されない自身をベースクリスタルの盾にして、ベースクリスタルを守りつつ、近づいてきた相手を各個撃破していく……つまり、引き籠もり作戦というわけです」
『えーと、その作戦の名前はもうちょっとなんとかなりませんかね……?』
「…………」
うん。
なんともならないみたい。
まぁ、それはそれとして――。
開始五分くらいは動きがなかった。
マップが広いのもあると思うんだけど、こっちは最奥にエギル君一人だけで引き籠もってる状態だからね。
接敵してないんだから、動きがあるわけもない。
けど、ついに森の中からザギラ君が姿を現したことで、状況が変わる。
ザギラ君は相手を見つけたら、逃げろという指示でももらってたのか、エギル君を見て脱兎の如くに逃げ出すんだけど、流石に相手は戦闘力十倍のエギル君。
一瞬で追いついてザギラ君を撃破したね。
【Aチーム 0−2 Bチーム】
すると、マップの上部に表示されていた点数が0−2に変化した。
ということは、ザギラ君は2レシオが割り振られてたってことかな?
それをあっさり撃破する辺りは、流石の10レシオだね。
「おー! リードした! これ、エギルの大将だけでなんとかなっちゃうんじゃない!?」
『さ、作戦的にも悪くないですよね!』
たった2点とはいえ、リードはリードなのでビーちゃんとポールさんの二人が両手を組んで、その場で踊ってる。
陽気な人たちだなーとか思ってると、ユフィちゃんがここが解説チャンス! とばかりに解説してくれるよ。
「ちなみに、倒されたザギラさんは自陣のベースクリスタルの近くで三分後に復活します。なので、エギル様とこちらのベースクリスタルの位置はすぐにでも、相手の知ることになるでしょうね。そうなると、苦しくなってくるのはこちらの方になります」
「あー……、束の間のリードだったね……」
『うん……』
喜ぶのも早ければ、諦めるのも早すぎるでしょ!
けれど、開始三十分が経っても、Aチームはなかなかエギル君の前に姿を現さなかった。
エギル君相手にベースクリスタルを巻き込んで飽和攻撃をすれば、多分勝ちだと思うんだけど……。
何をそんなに慎重になってるんだろうね?
「恐らく、スコットさんたちはエギル君以外の伏兵を探してるのではないでしょうか?」
「え、なんで? ……あっ、全員が戦闘に参加しちゃってるから、エギル君一人しか戦闘に参加してないことに気づいてないんだ!」
「はい。そして、エギル様を攻撃してる間に、伏兵にベースクリスタルを割られることを恐れているのでしょう。もう時間もありませんし、恐らくはベースクリスタルの防衛に一人を残して、残りの四人でこちらのベースクリスタルを割りにくると思います」
ユフィちゃんの予想を、私からエギル君に伝えると、
『へっ、やれるものなら、やってみやがれ! 今の俺様は無敵だっつーの!』
という不敵な意見が。
うん。
何故だろう、とてもフラグっぽい。
「それにしても、こうも見通しが悪い森だと、敵がいつ襲い掛かってくるかわからないから緊張感が半端ないね」
「はい、他にもマップは色々と存在しており、そのマップに合わせた戦力を投入するのが有効なようです」
一応、ユフィちゃんに確認したら、魔将杯のマップでは森はオーソドックスな方で、砂漠や雪山、大河を挟んだマップなんかも過去にはあったみたい。
「川とか森とかはあんまり私には関係ないかなー」
ビーちゃんはハーピー種族だからね。
空を飛べる種族は、あんまり地形とかは気にならないのが強みだろうね。
「あ、始まりましたね」
というわけで、開始から四十分。
森の奥に身を隠したスコット君たちが、遠くから範囲魔法をバンバンと連発してくる。
エギル君はその程度じゃダメージは受けないと思うんだけど……。
パリーン!
【Aチーム 100−2 Bチーム】
「あちゃぁ、ベースクリスタルが割れちゃったね……」
「結構、脆いとは聞いていましたが、あれくらいの攻撃でも割れてしまうんですね……」
というわけで、ここで100−2とかいう大差がついちゃったんだけど、エギル君はベースクリスタルが割れちゃった時点で、気持ちを切り替えて、森の中へ突っ込んでいっちゃった。
【Aチーム 100−8 Bチーム】
「おー、反撃してる、反撃してる」
「焼け石に水ですけどね」
その後は、特に得点に変動はなく、説明のための試合は結局私たちの負けということになってしまった。
うーん、残念。
ちなみに、割られたベースクリスタルは三分後に自陣の好きな位置に置き直しが可能で、その辺の仕様も把握できたから、説明用の試合としては良かったんじゃない? とは思うんだけど……。
「後半戦もやらせろよ! ベースクリスタルの壊し合いに持ち込めば、俺様が勝ってたっつーの! というか、最後の範囲魔法連打は汚ぇだろーが! アレが許されるなら、ヤマモトに無差別爆撃魔法連打してもらえば、どんな相手でも勝てるじゃねぇか!」
まぁ、負けた当事者のエギル君は不機嫌になるよねー。
「一応、範囲攻撃には【ダークルーム】でベースクリスタルを守るというようなことも手もあるんですけどね……」
「【ダークルーム】……。くそっ、そんなマイナー魔術、誰が思いつくんだよ……!」
そうかなぁ?
結構、使う機会が多い気がするけど……。
というか――、
「【ダークルーム】でベースクリスタルをずーっと覆ってれば無敵じゃない?」
「その戦法は、過去の魔将杯で横行した記録がありますね」
横行て……。
「その結果、魔将杯では疑似フィールド内での【ダークルーム】の持続時間は5分しかもたないように弱体化されてしまったようです」
「魔王国はちゃんと
聞いてる、運営?
魔王国はちゃんとおかしいと思ったら弱体化するんだってさ!
……まぁ、聞いてないだろうけど。
「他にも超遠距離からの攻撃はダメージが落ちるとか、細かな調整はされてるみたいです」
「そういった細かなルールや、各人の適正を調べて、どういった戦い方がベストなのかを考えていこうというのが、今回の趣旨になります。というわけなので、何回か戦闘を繰り返しましょう。一人ひとりの適正を見る意味もありますのでレシオを振らないというのは無しでお願いしますね?」
スコット君に苦笑されてしまう。
まさか、いきなり初戦からエギル君に10レシオを割り振るとかいう意味不明な行動に出るとは思わなかったのだろう。
あっちも想定外過ぎて、攻めるタイミングを逸してた感じだったしね。
「それでは、
というわけで、それから何戦か戦闘を繰り返しながら、細かなルールと各人の得意分野なんかを確認しつつ、こうしてみたらどうだとか、これはよくないだとかアイデアを出し合って、みんなで戦術を詰めていく。
当然、そのアイデアには使えるものもあったし、全然使えないものもあって、とんとん拍子に話が進んでいったわけじゃないんだけど……。
……なんだろうね?
何もなければ、本当はこういうかけがえのない時間を学生時代に友達と一緒に過ごしてたんだろうなぁーって思うと……何だか感傷的になっちゃうよ。
まぁ、当時はわからなかったけど、今だからわかる感傷というか……。
少ししんみりとしていたら、ユフィちゃんに小声で話しかけられる。
「あの、大丈夫ですか?」
「え、何が?」
しんみりしてたから、心配になって話しかけてくれたのかな?
フフッ、ユフィちゃんってば可愛いね……とか笑っていたら。
「魔将杯のルールとか、今日話し合ってること、ちゃんといつものヤマモト様に説明できます?」
「……説明?」
「説明」
私は眉間を指で強く揉んだ後で……。
虚空を見つめると、改めて感傷的な表情になるのであった。
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