第342話
【
「というわけで、今日一日だけ私は
「なるほど。それで、雰囲気が違っていたのですね」
とりあえず、やたらグラグラと危なっかしい喫茶店で話し合った結果、私と
いや、嫌な予感はしたんだけどね?
でも、別に断る明確な理由はないし、ちょっと学園担当がどんな生活をしてるか興味があったというか……。
そんなわけで衣装を入れ替えて、学園の門を潜って、今朝になって部屋の前まで迎えに来たユフィちゃんに事情を説明する。
というか、隠していてもしょうがないし。
むしろ、黙っていてユフィちゃんにバレた時の方が怖いし。
「雰囲気違うかな?」
「はい、大分」
ユフィちゃんが言うには、学園担当の方が落ち着いていて雰囲気があるように見えるらしい。
やっぱり
自覚はないけど。
「まぁ、今日一日だけだから、私がポカミスしないようにカバーしてくれると嬉しいかな? ほら、いきなり高度な授業とか受けてもわからないだろうし」
「いいですけど、今日に限ってはその必要がないかもしれませんよ」
「?」
困った時のサポートを頼もうと思ったんだけど、何故だかユフィちゃんは逆に困ったように微笑む。
えーと、その微笑みはどういう意味なのかな……?
■□■
「今日は皆さんお集まり頂き、ありがとうございます。本日、皆さんに集まって頂いたのは他でもありません。来たるべき、魔将杯予選に向けてルールとチーム連携を確認しようと思ったからです。あぁ、申し遅れました。私が現在学園内ランキングナンバーワンのスコットです。皆さん、よろしくお願いします」
えーと……。
ユフィちゃんに連れて来られたのは、学園の地下に作られた、だだっ広い空間。
床も壁も石造りで、とにかく頑丈そうなその空間の中央には巨大なクリスタルでできた魔道具が設置されている。
そんなクリスタルの前に、事情を知らされているのかいないのか、十人の魔物族が集っているような状態だ。
えーと……。
悪魔召喚の儀式かなにかかな?
「ユフィちゃん……?」
「端的に言いますと、魔将杯予選の練習……要するにチェチェック領内の学園対抗戦に向けた特訓が本日の特別授業になります」
「特訓って……まだランキング戦の真っ最中だって聞いたんだけど?」
「その通りです」
私とユフィちゃんの会話を聞いていたのか、スコット君に会話をインターセプトされて、そのままスコット君が喋り出す。
丁寧な口調の好青年って感じだけど、喋りたがりなのかな……?
「従来のチェチェック貴族学園では順位が決まってから、連携などの確認を行っていました。ですが、それでは遅いと私は思うのです」
「遅い?」
「そうですわね。私の聞いた話ですと、チェチェック領にある残りの二つの学園では、一学期終了時点での成績優秀者十名を選抜して、二学期は魔将杯予選に向けて集団戦闘の練度を上げていると聞きましたわ」
オデコ金髪ドリルツインテールちゃんが「オーホッホッホ!」とか言いながら、そう付け足してくれる。
…………。
いや、個性が渋滞しすぎてない?
「それだと、他校は一ヶ月の練度上げの期間を設けてる……いや、夏季休暇を含めると二ヶ月もの間、練度を上げる訓練に時間を充ててることになります。その状況で、私たちが付け焼き刃で対抗戦に出てもボロ負けするのは目に見えていると思うんですよ」
みっちりと集団戦の練度を上げてきた他の学園に対して、我らがチェチェック貴族学園は学園内ランキングが終わって、一週間もしない内に学園対抗戦に駆り出されるので、色々と昨今は成績が芳しくないらしい。
ユフィちゃんに尋ねたら、チェチェック貴族学園は、チェチェック領の代表として、ここ十年ぐらい選ばれたことがなくて、領内対抗戦でも騎士学園と魔法学園に苦渋を舐めさせられ続けているんだそうだ。
あれ……?
もしかして、チェチェック貴族学園ってスポーツ漫画でいうところの、過去には名門、今は弱小とかいうポジションだったりするのかな?
そういうの嫌いじゃないけど。
「そもそも、武芸に自信のある者は騎士学園に通うし、魔法の才に恵まれた者は魔法学園に通う。貴族学園は知識や貴族間のマナー、他にも総合的に鍛えてはいるが荒事に慣れているとはとても言えないだろうな」
ツルヒちゃんが目を瞑りながら、貴族学園が弱い理由を教えてくれる。
落ち着いて考えてみれば、まぁ確かに。
常日頃から体を鍛えてる騎士学園に、魔法の研究に心血を注いでいるであろう魔法学園。
それに対して、貴族学園というのは言葉の響きからして、ちょっと頼りない感じに聞こえるからね。
戦闘能力的には、やっぱり他の二学園よりも劣ると考えるのが普通なのかもしれない。
「けれど、今年に限ってはメンバーが凄く充実してると私は思っています。それこそ、チェチェック領の念願である魔将杯の初優勝だって夢ではないと思うんです……!」
魔将杯の初優勝……?
よくわからなかったので、ユフィちゃんに尋ねてみると――、
魔将杯とは、全国の学園に通う優れた才能を発掘するための大会で、大きくわけて予選ブロックと決勝ブロックがあるらしい。
まず、予選ブロックでは、領内の学園による総当たり戦が行われるんだそうな。
チェチェック領では、現在、貴族学園、騎士学園、魔法学園の三校があり、それが総当たりのリーグ戦方式で戦い、一番強かった学園がチェチェック領の代表になるといった仕組みだ。
ちなみに、ここ十年、チェチェック貴族学園は予選ブロックすら勝ち抜けない体たらくで、今年の領民の期待も、騎士学園と魔法学園の二校に集中してるらしい。
要するに、貴族学園はアウトオブ眼中ってことだね。
いや、悔しいとかはないよ?
だって、十年も結果残せてないなら、それが当然でしょ。
けどまぁ、チェチェック貴族学園に通う普通の学生たちからすると、そうでもないみたい。
スコット君とかは「今年こそは……!」って燃えてる感じがするね。
で、話を元に戻すと……。
予選ブロックを勝ち抜いた場合には、今度は決勝ブロックに進出できるみたい。
決勝ブロックは王都で行われる各領対抗の勝ち抜き型トーナメントになってるらしく、各領を代表して戦うのでとても盛り上がるらしい。
言っちゃうと、サッカーワールドカップのグループリーグ戦をやった後で、決勝トーナメントを戦う感じかな?
とにかく、魔王国としてはお祭り騒ぎ的なイベントになるみたい。
なんだったら、魔将杯のファンだって人も大勢いるみたいだよ?
そして、悲しいことに、その魔将杯でチェチェック領は一度も優勝したことがないらしい。
まぁ、学園の数が一番多くて激戦区を制してくるであろう王都ディザーガンド代表を筆頭に、白兵戦闘に特化したノワール領代表、魔法に関しては並ぶ者なしとされるセルリアン領代表や、攻撃力には定評のあるヴァーミリオン領代表など、おなじみの強豪学園が沢山いるらしくて、チェチェック代表は毎回のように苦戦を強いられてるらしいんだ。
でも、今年に限っては幸運なことに、チェチェック貴族学園には沢山の優秀な人材が集まってるんだよねー。
だから、スコット君はワンチャン全国制覇が狙えるんじゃないか? と夢みてるみたい。
ちなみに、スコット君がそんな希望を抱いたメンバーがこちら。
〘学園内ランキング1位〙
スコット
⇒一学期、二学期共に学園トップを走り続けるオールラウンダー。文武に長ける。
〘学園内ランキング2位〙
ツルヒ・ノワール
⇒元六公ノワール家の次期当主。剣姫の名を冠する魔王国でも屈指の剣士。
〘学園内ランキング3位〙
ユフィ
⇒深い叡智を持ち、ヤマモト教の巫女も務める賢者。
〘学園内ランキング4位〙
ゴン蔵
⇒体格、体力、腕力が規格外のハイトロール。ランキング戦参加者の中で一番戦闘をこなしているという噂があるみたい。学園の表番長を自称してるんだって。
〘学園内ランキング5位〙
ヤマモト
⇒私。
〘学園内ランキング6位〙
エギル・ヴァーミリオン
⇒元六公ヴァーミリオン家の次期当主。傲岸不遜だけどあらゆる分野に才能を見せる天才君。
〘学園内ランキング7位〙
ポール・サン
⇒要塞都市ツォン出身の貴族。
〘学園内ランキング8位〙
ザギラ
⇒全身から刃が飛び出してるシザーマン種族の男の子。実生活が不便そう。あと、女の子を見る目がちょっとヤらしい……。
〘学園内ランキング9位〙
マーガレット・アモン
⇒チェチェックの貴族の中でも魔法に強いとされるアモン家のお嬢様なんだって。オデコ金髪ドリルツインテールと特徴が渋滞してるのが特徴かな?
〘学園内ランキング10位〙
ビー
⇒ハーピー種族の女の子。空戦が得意なのもあり、ランキング戦でも割と優位に立ち回り、ランキングに入ったらしい。
うん。
結構な実力者が集まってるような……? 気もする……かな?
まぁ、確かに、私、ユフィちゃん、ツルヒちゃん、エギル君辺りは魔王国内でもトップクラスの実力者だとは思う。
十人中四人がそのレベルなんだから、スコット君が全国制覇の夢を見ちゃうのも無理はないのかもしれないね。
「確かに個人の実力を考えれば、優勝を狙えてもおかしくはないですわ。ですが、魔将杯はレシオバトルのデストロイポイント制です。個々の力が突出しているだけでは勝てませんわよ」
んんん?
なんかよくわからない単語が出てきたんだけど?
というわけで、よくわからない時はユフィちゃんに確認だー!
「えーと、まず、魔将杯では擬似戦場を作成する魔道具……そこの大きなクリスタルの装置ですね……を使って、様々なフィールドを作り出して、そのフィールドの中で二つのチームがポイントを競って争うというのが基本的なルールなんですね」
「ほむほむ」
「そして、レシオバトルについては、各チームにレシオと呼ばれる資本が割り当てられると思ってください。魔将杯では各チームに十レシオずつレシオが割り当てられます」
「ふーむ?」
「そのレシオを対抗戦に参加するチームメンバーに任意に割り振ることで、割り振られたメンバーが対抗戦に参加できるようになるんです」
えぇっと、割り振られたメンバーはというと……。
「割り振られなかったら、参加できないってこと?」
「そうです。例えば、十人に1レシオずつ割り当てれば、十人全員が対抗戦に参加できますが、例えば……一人に5レシオ、もう一人に3レシオ、もう一人に2レシオと割り振った場合には三人しか対抗戦に参加できません。残りの七人は補欠として、外部から味方を応援する役割になりますね」
「それは……どうなの?」
学園の代表とか、領の代表とかになっといて、レシオを割り当てられなかったら、その戦闘に参加もできないって……肉親が応援に来てたら、気まずいなんてもんじゃないと思うけど……。
いいのかな?
「そったらことになったら、オメェ、やっぱ十人で戦うチームの方がツエぇべよ?」
どうやら、私と同じであまりルールを理解してなかったっぽいゴン蔵君が、話を聞いてたのか割り込んでくる。
でも、ユフィちゃんはわかってますとばかりに続ける。
「そこがレシオバトルの妙なのですが、レシオを割り振られた者は、割り振られたレシオ倍、ステータスが変化するんです。例えば、ステータスがオール100の人がいたとして、その人が3レシオ割り振られた状態で対抗戦に参加した場合には、ステータスがオール300となってゲームに参加できます」
「つまり、割り振られたレシオ次第では実力差がひっくり返るってことかよ……」
こちらもあまりルールとかに詳しくなかったっぽいエギル君が食いついてる。
でも、これは戦略性の高いルールなんじゃないのかな?
レシオの配分次第で、数の暴力でいったり、足りない実力を補う形でレシオを配分したり、少数精鋭で挑んだりと、色んな形で戦うことが考えられる。
もちろん、前提として元々の実力が高いに越したことはないだろうし、そこを蔑ろにしたルールじゃない辺りが面白いね。
「よし、わかった! お前らは俺様に10レシオを寄越せ! そしたら、俺様が一人でお前たちを優勝させてやる!」
「「「えぇぇ……」」」
ルールを理解したからか、エギル君が調子に乗り始めた。
まぁ、勿論、そういう作戦もないわけじゃないんだろうけど……。
「特殊ルールはレシオだけではないんですけど……。まぁ、ここからは実際にやってみた方が早いかな? では、ちょっとチーム分けして実際に魔将杯ルールで戦ってみましょうか?」
スコット君の提案で、私たちはルールを理解するために、魔将杯ルールで早速一戦やってみることにする――。
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