第337話

本体キング視点】


「いやぁ、なんとかなったねぇ! みんな、お疲れー!」

「「「お疲れ〜!」」」


 というわけで、ひと仕事終えたばかりの草薙刑事、望月刑事、宮本お母さんとハイタッチを交わす。


 運営の一人であるmasakiはこれでゲームから除外された。


 システムメッセージでも、運営の数が減ったことが報告されたので、これでデスゲームクリアに少しだけ近づいたということになるのだろう。


「いやぁ、それにしても、まさかこんなに上手くいくとはねぇ……」


 まぁ、結果は出たものの、まだその結果が信じられないのか、ちょっと喜び遅れている防衛担当ハートみたいなのもいるけど、作戦自体は概ね私たちの予定通りに進んだわけで……。


 こうなるのも必然というか、こうならなかったら、逆に困るというか?


 そもそも、この作戦の発端は、デスゲームを仕掛けた有名プロデューサーの佐々木幸一を殺したくないというところから始まっている。


 簡単に言ってしまうと、デスゲームをクリアして現実世界に戻りたいんだけど、人殺しにはなりたくないし、更に有名プロデューサーを殺すとか絶対にろくなことにならないから、嫌です、拒否します、といった感じだったのが発端だ。


 そのために、色々と準備を行ってきたんだよね……。


 まずは、相手を殺さないでゲームからログアウトする方法を探すために、PKを使って実験を繰り返したでしょ?


 その結果、どうも、複数の強制ログアウト処理が動いた場合に、なんかバグがあるみたいで、ゲームからいきなりログアウトしてしまうことを発見したんだよね。


 発見というか、開発時にバグが多かったというタツさんの言葉を信じて、ログアウト処理部分にバグがないかをタツさんに聞いて、改めて総ざらいしてみた結果、見つけちゃったというか?


 というか、見つけた後でタツさんに、これどういうことなの? と聞いてみたら、「急ぎのログアウト処理がバンバン飛んできて、その結果、コンピューターがテンパって処理しきれずにスルーしたっちゅーことやないか?」と、わかりやすく教えてくれたよ。


 なるほどねー。


 それだったら、私でもわかるよ。


 あれもこれもと修正点を矢継ぎ早に言われたら混乱するものねー。


 それを機械がやっちゃってるのが面白いところなんだけど。


 機械というか、プログラムのミス?


 タツさんは設計工程でミスが云々言ってたけど、そういう話をされても、私にはよくわからない。


 とにかく、この現象を利用して、運営をどうにか強制ログアウトさせられないかと考えたんだけど、色々と問題が浮かび上がってきたんだよね。


 例えば、古代都市内部調査担当ダイヤが言い始めた、コレ……。


「私、気づいたんだけど――」

「なに?」

「運営がドMで、口内炎熱々タコ焼きの刑が効かなかったらどうしよう?」


 …………。


「いや、それは流石にないんじゃない?」

「でも、四人対十万人の人数差でデスゲームを始めちゃう運営だよ? 私たちの予想を上回るレベルでドMを発揮してくる可能性もあるんじゃない?」


 まぁ、こんな感じの問題が噴出したわけなんだよ。


 なお、この問題については――、


「それなら、パーソナルダイレクトアタックを使おう」

「ぱーそなるだいれくとあたっく?」

「運営の個人的なトラウマをほじくり返して、精神的な恐慌を引き起こす攻撃だよ」

「なにそれ怖い」


 私だって、そんなことやられたら泣いちゃうよ!


 でも、泣かせるぐらいにメンタルグチャグチャにしないと、健康面での警告アラートが発生しないんだから、それが正解だと思うんだ!


 というわけで、パーソナルダイレクトアタックを決行することを古代都市内部調査担当ダイヤと、防衛担当ハートの三人で話し合う。


「パーソナルダイレクトアタックをやるには、まずは相手の情報が必要だよ。というわけで、そこは冒険担当クラブにタツさんから話を聞いてもらって、色々と詰めていこうと思う」

「「わかった」」


 これはこれで話がまとまったんだけど、今度は防衛担当ハートが気になることを言い始めたんだよね。


「あと、ちょっと気になってるのは、運営のハードディスクをパンパンにする方法なんだけど……」

「なんか気になることあったっけ?」

「ほら、PKの人たちは山羊くんを見せて、無抵抗になったところをハードディスクの容量をパンパンにしたでしょ?」

「そういえば、そうだったね」

「その後、精神が元に戻るまでにケアに凄く時間がかかったのは覚えてる?」

「あー、あったねぇ」


 古代都市内部調査担当ダイヤにケアしてもらってたけど、凄い時間がかかったのは覚えてるよ。


 それを運営にもやるのか? って防衛担当ハートは言いたいんだろうね。


「あれ、なんとかならないかな? というか、いつ正気に戻るかわからない運営のケアとか、怖すぎて嫌なんですけど……」

「一理あるね……」


 運営が正気を取り戻していても、取り戻していないフリをして襲いかかってくることがありそうだと、私たちは話し合う。


 で、それを毎回ケアする私たちがビクビクしながらお世話するっていうのも変だって話になって、結論としてパーソナルダイレクトアタックとの同時並行で、ハードディスクを安全にパンパンにする方法も考えるということになったんだ。


 ちなみに、古代都市内部調査担当ダイヤがパーソナルダイレクトアタック作戦の担当。


 で、ハードディスクを安全にパンパンにする方法については防衛担当ハートがアイデアを出すことになったよ。


 そして、私はその二人を監督する立場になったんだけど、ここからが本当に長かったんだよね。


 私はしんみりと過去を振り返る……。


 ■□■


「タツさんから、運営のトラウマになりそうな情報教えてもらったよー」

「へー、どんな感じ?」

「佐々木は自分の作ったゲームを馬鹿にされてキレたことがある……。日野は佐々木のことを馬鹿にされて、社内で取っ組み合いの大喧嘩をしてるのを見たことがある……。宮本は家族と仲悪いっぽい……。あと、楠木はBL好きと逆ハー好き……」

「その情報で相手のメンタルをズタズタにできるとでも……?」

「だよねぇ。なんかシチュエーション考えないとダメだよねぇ……」


 ■□■


「なんかミリーちゃんに聞いたら、相手の時間を止めて封印できる牢屋が古代都市の中にあるみたい。それを使えば、運営のハードディスクも安全にパンパンにできそうじゃない?」

「そんな便利そうなのがあったんだ。でも、PK相手には使ってなかったよね?」

「うん、アストラル体しか封印できないらしいから。PKにはそもそも使えなかった」

「幽体専用の牢屋かぁ。運営が幽体なら文句なしに動きを封じれたんだけどねぇ……」

「もう少しなんか探してみるよ」

「お願いー」


 ■□■


「運営のメンタルをズタズタにするシチュエーションを考えたよ!」

「へぇ、どんな感じ?」

「まず、私たちはデスゲームをやって寝たきりなので、病院のベッドから目を覚ますところから始めます!」

「……待って。それって一度、運営に現実世界に戻ってきたって思わせるってこと?」

「そうそう。それで他の運営は死んじゃったけど、君だけは運良く生き残ったんだよって告げるの」

「んんん?」

「そしたら、ショックで強制ログアウトしないかな」

「ちょっと弱くない? というか、その場合、病院のセットを作らないと駄目だよね? あと目を覚ました運営に対して説明する役が必要かな? その辺、どうするの?」

「えーと……。ちょっと待って。持ち帰って考えさせて……」


 ■□■


「相手の種族を無理やり幽体に変える【古代魔法】を編み出したよ。その名も【永遠エターナル】」

「牢屋の仕掛けをどうにかするんじゃなくて、種族を変える方に舵を切った!?」

「ふふふ、逆転発想だよ。まぁ、発動してから三十秒以内に相手を倒さないと相手の種族を変えられないんだけどね。しかも、消費MPも馬鹿高いし」

「外したら、とんだ自爆技じゃん!?」

「あとは、小型培養槽と封印できる牢屋を組み合わせて、小型の封印魔道具を作れば……完成だよ!」

「そもそも、肝心な部分がまだ完成してなかった!?」


 ■□■


「病院のセットを古代都市の片隅に作りましたー。はい、拍手ー」

「作った!? 思いつきで行動するの早いね、私!?」

「ついでに古代都市で暇そうにしてた幽体の人たちに寸劇に付き合ってくれるようアポも取ったよ。まぁ、古代語しか喋れないから、まずは現代語を教えるところからなんだけど……」

「計画が杜撰過ぎる!」

「まぁ、四人分のストーリーを考えなくちゃいけないから、むしろ計画の長期化は望むところというか……」

「せめて、期限切って!? ダラダラやるのはやめよう!?」


 ■□■


「幽体が寝転ぶと、なんかちょっと力が抜けて起き上がれないベッドを病室のセットの中に設置したよー」

「いや、そんなの頼んでないけど……」

「ほら、小芝居の最中に運営が暴れ出したら困るでしょ? だから、そのベッドで寝てる間は倦怠感が取れないような仕掛けが欲しいって、古代都市内部調査担当ダイヤが言ってたからさ。作ったんだよ」

「それは必要かもしれないけど……。というか、封印用の魔道具はできたの?」

「バッチリ。これが【ディビュークボックス】ね。幽体を一週間ぐらい閉じ込められる装置になるよ」

「なんで一週間?」

「動力源に使ってる魔石の容量がそれぐらいなんだよね。気になるなら、魔力を注ぎ続ければ半永久的に動作し続けるはず」

「魔力を流し続ければ……? まぁ、それならいいかな? 防衛担当ハート的にはこれで作業はひと段落? だったら、古代都市内部調査担当ダイヤの作業を手伝って欲しいんだけど……」

「わかった。暇な時には手伝うよ」

「お願いね」


 ■□■


「えー、我らが劇団死期が形になってきました」

「名前!」

「いや、運営に死をもたらす劇団なんだから、間違ってないでしょ?」

「むしろ、失敗したら私たちに死が訪れそうなんですけど……」

「とりあえず、運営四人のストーリーはできたよー。病室で起こされて、自分以外の運営が死んでることを告げられて、気持ちがどんよりと落ちてるところに、トラウマドーン! でメンタルをズタボロにする作戦ね」

「仲間の死に打ち拉がれているところに、追い打ちをかける感じかぁ……いいんじゃない?」

「そして、それに伴って劇団員も増やしました!」

「そこに力を入れない!」

「ゆくゆくは魔王国中で公演する夢を持っています!」

「魔王軍特別大将軍の地位を変なところで利用しようとしないで!?」

「あと、寸劇なんだけど、幽体の人たちって体型や顔の形を変えることも自由自在なんだけど、佐々木のリアルの顔とかがわかる資料ってないかな?」

「えぇ……? 頭の中にはあるけど資料ってなると……。うーん……」

「できれば用意して欲しいんだけど」

「まぁ、考えてみるよ……」


 ■□■


「kskbさんから、捜査資料をもらったよ!」

「流石、本体! 交渉してみるもんだね!」

「というか、刑事さんと偶然知り合うデスゲーム担当スペードが運良すぎなんだよ!」

「いやいや、それでも交渉で捜査資料を公開してくれるなんてことないでしょ! そこは、本体の交渉力の賜物だよ!」

「ふふふ、私たちの言う事聞かないと、現実世界に戻れませんよ? って脅したら一発だったよ!」

「……それは、後で逮捕されないかな?」

「いや、事実だし。とりあえず、これで佐々木の顔や体格までわかるよ。あと、他の運営の家族や親しい友人なんかの情報もあったから活用してみて」

「いや、ホント助かる〜」

「あとは喋り方とかまでわかればいいんだけどね……」

「そこは起き抜けの混乱を上手く利用して、なんとかするしかないかな?」

「もうひとつぐらい、何かピースがあればいいんだけど……」


 ■□■


「masaki捕まえた! masaki捕まえた!」

「網! 網!」

「魚じゃないよ!? というか、冒険担当クラブのクランに仮で入ってた子が、運営の知り合いを匂わせてたでしょ! あの子、多分、masakiの妹だから! 古代都市内部調査担当ダイヤの台本とすり合わせて、冒険担当クラブを通して口調とか確認できるところは確認取って! 演技の修正とか含めて一週間で仕上げられる!?」

「一週間!? ぐぬぬ、なんとかやってみる!」

「お願い! あと、防衛担当ハートはハードディスクにゴミファイルをぶち込む作業を手伝って!」

「わかった!」

「一応、一週間後には決行だって関係各所には伝えといてね! あと、幽体相手だからね! 失敗して逃げられる可能性も考慮して、手の空いてる分身体も全員呼び戻しといて!」

「「了解!」」


 ■□■


 そんなわけで、まぁ、なんとかなってよかったよ……。


 ここにくるまで本当色々とあったからね……。


 というか、寝てるmasakiを見張るのも、古代都市の住民にやらせたら不安だってことで、私が看護師に扮して見張ってたんだよね。


 ちょっと、目を覚ました時の演技が棒になっちゃったかもしれないけど、そこは気づかれなかったようで安心したよ。


「本体、顔がチベットスナギツネみたいな顔になってるよ?」


 古代都市内部調査担当ダイヤに言われて、顔をムニムニする。


 どうも、苦労が顔に出てたみたい。


「ちょっと、今までの苦労を思い出して、どんよりしてたみたい」

「まぁ、今日はとりあえず、色々と上手くいったことを祝おうよ!」

「そうだねぇ……」

「それで、劇団デッドエンドの全国公演の話なんだけど……」

「…………」


 デッドエンドって、もしかして死期をモジッた?


 英語力無いのがバレちゃうから、そういう残念なのはやめよう?


 私の顔は、またチベットスナギツネのようになるのであった。

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