第335話

 ■□■


「歓喜だ」


 リーゼンクロイツの甲板に手をかけて、こちらを覗き込んでいた大巨人の拳が、まるで巨大な隕石のように落ちてくる。


「イライザ!」


 男プレイヤーくんが動けない妹ちゃんを庇うようにして覆い被さる中で――、


 あ、ここだ。


 ――と私は思った。


 今ならプレイヤーと運営の意識が完全に私から離れてる。


 仕掛けるなら、今しかないって絶好のタイミングだ。


 だからこそ、私でも気づけた。


 というわけで、刹那でガガさんの魔剣の剣身を伸ばして、大巨人の拳を細切れにしながら走り出す。


 ズババババッ!


 ――ドンッ!


 その場で光の粒子となって弾け飛んだ大巨人のカラフルなシャワーを浴びながら、私は大巨人の強さに驚く。


 いや、瞬殺は瞬殺なんだけど、私のステータスは現在、パッシブスキルの効果も含めて、6000オーバーぐらいはあるんだよね。


 そこに、【神殺し】のスキルが乗ることで5倍に跳ね上がるわけで……。


 つまりは、物攻30000オーバー。


 しかも、ガガさんの魔剣によって、更に物攻が5000ぐらい追加されてるし、【貫通攻撃】スキルによって、物防は無視できるしで、私の攻撃を受けるにはHPが35000以上は要求されるはずなんだよ。


 HP35000以上となると、体力のパラメーターが3500は必要になる。


 神族のステータスが各パラメーター、平均1000前後なので、大巨人の体力のパラメーターは神族平均の三倍以上。


 むしろ、何回も斬りつけたので、下手すると亜神デイダラぐらいにはHPがあったのかもしれない。


 でも、そんな大巨人すらも瞬殺しちゃう私。


 うん、人間の成長の早さをしみじみと感じちゃうね……。


 あ、人間じゃなくて邪神だった。


 まぁ、それはともかく――。


 運営の……masakiと呼ばれたエルフの女がこちらを振り向く。


 何があったのか、理解しようとしているのだろう。


 それと同時に、加速しようとする私の目の前に立ちはだかるのは、背中から翼を生やした天使のような神。


 恐らく、聖神かな?


 彼女は剣身から焔を噴き上げる剣を構えながら、私の目の前に立ち塞がる!


「フフフ、やはり外なる神なら動くと思っていましたよ! ですが、無駄です! 私にはあなたの動きが全て予見できる! 次の瞬間には、三十万通りの斬撃で私を惨殺することでしょう! ……え、三十万通り!? そんなの受け切れるわけが――アブぅ!?」


 なんか立ち塞がったけど、すぐに細切れになってポリゴンと化してしまった。


 なんだったんだろ……。


 気が抜ける中で、今度は目の前に光が迫る。


イカズチを貴様は捉えられるか?」


 試すようにそう言うのは、全身が雷でできた神様だ。


 わざわざ私に顔を近づけてきて、やれるものならやってみろという感じで言うので――、


 【わりと雷帝】で左半身を雷に変えて、雷神の顔をアイアンクローして掴み上げるよ。


 そして、そのまま走り出す。


 なんだろう? 召喚されたのが一番最後なせいか、masakiとの距離が地味に長いんだよね。


 微妙に時間がかかって嫌な感じだ。


 逃げられたらどうしよう……。


「ば、馬鹿な!? 何故掴める!?」

「むしろ、何故掴めないと思ったのさ?」


 【魔鎧】で魔力の鎧を全身に纏えば、普通に実体のないものでも捕まえられると思うけど。


 というか、左半身が雷だと走りづらい!


 ケンケンで大ジャンプを繰り返す感じで、速度が出ないんですけど!


 捕まえた雷神は【吸収】してもいいんだけど、【吸収】は時間が掛かるからなぁ……。


「【魔力浸透激圧掌】」

「ゴフッ!?」


 相手に魔力を流して、相手の核を探し出すと同時に、相手の核を砕く即死技である【魔力浸透激圧掌】を使っておこう。


 私の場合は、【まねっこ動物】でコピーした劣化版になるせいか、即死技ではなくHPの半分を削る技になるけど、それでもある程度の相手の核の位置がわかるので、便利に使わせてもらっている。


 そして、今、魔力を流した感じだと……。


「核はそこ!」

「ごハッ!?」


 掴んでいた顔を離して、鉄拳グーを雷神のお腹辺りに叩き込む。


 雷神はお腹を押さえて、数歩よろけると……。


「俺の核はそこじゃねぇ……」


 ――ドンッ!


 とか言いつつ、光の粒子となって弾け飛んだ。


 …………。


 あり余る物攻で倒した?


 いやいや、きっと核を破壊したに違いないよ!


 雷神もやられたのが悔しいから、負け惜しみ言ってただけだし!


「召喚した神の暴走か。これだから、先に姿を隠しておきたかったんだがな。時間を稼げ、アグニ、ユミル。――【ロングワープ】」


 masakiの足下に幾何学模様をした複雑な魔法陣が、ぼうっと出現する。


 【空間魔法】レベル8である長距離移動魔法の【ロングワープ】だ。


 まぁ、長距離移動魔法といっても、同大陸内の一度行ったことのある街にしか移動できないため、微妙に使い勝手が悪かったりするんだけど……。


 ただ、この場面で敵前逃亡を計るには最適の魔法なんじゃないかな?


 【ロングワープ】は発動後、一分間の待機時間があり、その待機時間内に発動者の半径三メートル以内にパーティーメンバーが集まることで、集団でのワープを可能とする。


 恐らくは、RPGによくある集団ワープ魔法をLIAに落とし込んだ感じなんだろうけど……。


 逆にいえば、一分間は【ロングワープ】は発動しないということだ。


 つまり、制限時間は一分。


 その間に、masakiをどうにかして止めないといけないってことだね。


 ギチギチギチ……!


 そんな私の視界を塞ぐようにして、折り重なる巨大な氷の壁が現れる。


 恐らくは、ユミルと呼ばれた氷の巨人が作りあげたものだろう。


 それで、私の行動を止めたつもり?


 そう思ってたら、氷の壁の内側が明るくオレンジ色に燃えていく!


 これは、アグニと呼ばれた炎の神と連携が取れてない……?


 私が戸惑っている間にも、氷の壁が内部から溶け崩れ、炎が周囲に散ったと同時に大量の水蒸気が周囲を覆い隠す。


 あぁっ!


 時間を稼げと命令されたから、視界を奪いにきたわけね! なるほど!


 前言撤回! 厄介な連携してくるね!


 と思っていたら、今度は周囲の気温がどんどんと高くなっていくんだけど……?


 なにこれ?


 サウナか、熱帯雨林でも再現しようとしてるの?


 いや、サウナどころのレベルじゃなくて……蒸し焼きになるレベルで暑いんですけど!?


 このままじゃ、全身火傷不可避だよ!


「なんだこれ……、暑い……、息ができない……、周りが見えない……」

「アクセル……、私も……、もう……」


 このままだと、【それなりに超?回復】がある私はともかく、妹ちゃんたちが耐えられなさそうだね!


 仕方がない。


 ここは優しい邪神さんがなんとかしてあげようじゃないの!


「【ダークルーム】!」


 【闇魔術】レベル6の【ダークルーム】で二人を囲って上げる。


 これで、【ダークルーム】から出ない限りは、天然サウナ状態のこの場の影響を受けないはずだ。


 後は、masakiの位置を割り出して、早く【ロングワープ】を阻止しないと……。


 というか、さっきからぐんぐんと水蒸気の温度が上がってきてない?


 呼吸するのも苦しいんですけど……。


 それでも耐えられちゃう私の体も大概頑丈だね!


「燃えろ!」

「凍りつけ……」


 私が平気そうなことに気がついたのか、水蒸気の中を激しく光る炎が奔り、巨大な氷柱がドカドカと足下に刺さっていく。


 それらを寸でのところで躱しながら、私は位置指定を終えた魔法を解き放つ。


「【ブラックホール】!」


 【闇魔法】レベル10。【ブラックホール】は小型の重力球を指定位置に作り出す魔法だ。


 超重力の黒い塊が、私の目の前で渦巻き、迫りくる破壊の炎と氷を飲み込み、ついでに水蒸気までをも飲み込んでいく。


 もう、三十秒くらい経ってるかな?


 視界が少しでもクリアになればいいんだけど……。


 masakiの姿が少しでも捉えられれば、まだチャンスはある……!


「見えた!」


 私の期待に応えるようにして、渦巻く水蒸気のヴェールの隙間――、一瞬ではあるけど、masakiの姿が確認できた!


 それと同時に、込める魔力を【魔力操作】で増大させて、使う魔法の射程を伸ばす!


 これでも……喰らえ!


「【マインドブレイク】!」


 【混沌魔法】レベル7。対象者は全ての状態異常に掛かりやすくなる魔法だ。


 それが、masakiの体にどんよりとした闇となって絡みつく。


 けれど、この魔法自体に攻撃効果はない。


 masakiもそれを知っているのだろう。


 無駄な行動ご苦労さまといった感じでニヤリと笑う。


 だけど、本命はここからだ!


「【スキルシール】!」

「くっ!? こいつ、よりにもよって【ロングワープ】を邪魔キャンセルするか……!」


 【空間魔法】レベル5の【スキルシール】は、一時的に相手のスキルを封印する魔法だ。


 それは、既に発動中のスキルであろうとも強制的に封印する。


 じゃないと、常に発動し続けてるパッシブ系のスキルが封印できなくなっちゃうからね。


 一律でスキルを封印するって仕様なんだと思う。


 勿論、これだけ強力な効果なので、【スキルシール】の成功率はそう高くない。


 けど、デバフが効きやすくなる【マインドブレイク】と組み合わせることで、飛躍的にその成功率を高めることができるのである!


 まぁ、ちょっと賭けだったけども!


 割と冷や汗ものだったけども!


「ショートカット――【パナケイア】」


 けれど、折角スキルを封印したのに、状態異常回復薬パナケイアで【スキルシール】の効果が即座に解除されてしまう。


 時間制限を取り払った上に、こちらが断然有利になったと思ったのに! 酷くない!?


「なるほど。どうやら、ただのNPCの神ではないようだ。NPCの暴走にしては、ピンポイントでこちらを狙って来ている上に、【ロングワープ】をキャンセルさせられるとは思わなかった。まさか、プレイヤーか? だが、この時点で神族にまで到達しているプレイヤーなど……」

「そう、通りすがりのただの邪神です」

「…………。そうか、ヤマモトか」


 通りすがりのただの邪神だって言ったのに、特定されてる!


 あと、私の動揺につけ込んで、炎の球と氷の塊が薄くなってきた水蒸気を割って飛んでくるんですけど!


 そこは空気読んで!?


 ちょっと腹が立ったので、ガガさんの魔剣で炎の球と氷の塊を打ち返しとこう。


 ボンッ! ボンッ! ゴンッ! ボンッ! ゴンッ! ボンッ! ガッ――ゴスッ!


 打ち損ねた氷塊が脛に当たった……。


 超痛い……。


 しかも、御丁寧に35000ダメージ食らってるし……。


 というか、打ち損ねた氷塊に関しても、私の攻撃判定になるの?


 HP300000なかったら、普通にピンチになってたところだよ?


「どうやら、君はステータスは高いが運動神経が悪いらしい……」

「今の時代、そういうのは個性って言うんだよ? それに、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるでしょ?」


 私は全身鎧の奥でニヤリと笑ってみせるけど、打ち返した氷塊は明後日の方向に飛んでいき、炎神にも氷神にも掠りもしない。


 というか、氷神は体が大きいから当たると思ったのに!


「数を撃っても当たらないようだが?」

「私の運動神経がことわざを上回ったようだね……」

「ポジティブの達人か?」


 ちょっと強がってるだけです!


「まぁ、君の運動神経が壊滅的だろうと、それはどうでもいいことだ」


 masakiにとってはそうでも、私にとっては由々しき事態だけどね!


「私は今、非常に腹立たしい思いでいっぱいなのだ。だから、そんな些事には、かまけていられないのだよ」

「それは、わざわざ召喚した神様を私が倒しちゃったから怒ってるって話……?」


 masakiは軽く首を横に振る。


「いや、そうじゃない。私が憤っているのは、あんなに憎くて仕方がなかった妹なのに……その妹が超高温スチームの中で死なずに生き残ってしまったことに、心の片隅で安堵している自分自身の弱さ故だよ……」

「肉親が死ななくてホッとするのは普通のことでは?」

「君にはわからないか。私の気持ちは……」


 デスゲームを始めちゃう運営の気持ちをわかろうとは思わないけど……。


 というか、目の前に私がいるのに、随分と余裕があるのもなんだか不気味だ。


「そんな自分語りしちゃって、私なんか眼中にないってこと?」

「そうだな。アグニ、ユミル――【送還】」


 炎神と氷神にmasakiが手を翳すと、二柱は光の粒子となって、ゆっくりと姿を消す。


 なるほど。


「この通り。私が【送還】しようと思えば、君も簡単にこの場から【送還】できる。脅威に思う理由がない」

「手を翳される前に素早く移動すれば、送還拒否できるかな?」

「できると思っているのか?」


 シュシュシュシュン!


 軽くステップを踏んで、残像を沢山残して移動してみたら、masakiの顔色が変わった。


「バケモノめ……だが、手を翳さなくとも、【送還】は可能だ。残念だったな」


 マジで?


 つまり、私ってば絶対絶命のピンチ?


 いや、絶対絶命ではないかもしれないけど……。


「だから、ここからの一分間は、ただの八つ当たりだ。妹を殺せなかったことへの苛立ち……、妹が生き残ったことに安堵してしまった自分への憤り……、それらの気持ちを晴らすために、君にはサンドバッグになってもらおう……【ロングワープ】」

「だから、それは――」


 私が、【マインドブレイク】を使うよりも早く、masakiの姿がその場から消え失せる。


 まさか、私よりも早く動ける!?


 いや、違う……。


 確かに、この場から神がいなくなったことによって、【神殺し】が発動せずに私のステータスは6000程度にまで落ちたけど、masakiがそんな私を圧倒できるほど強いとも思えない。


 ――パァン!


「痛ぁッ!?」


 そんなことを考えてたら、背後から撃たれたんですけど!?


 慌てて背後を振り向くけど、masakiの姿はない。


 これは……もしかして?


「驚いているな。LIAのステータスは確かに相手との強さを比較するために優秀だ。だが、ステータスの優劣が勝負を決定づけるものではない。そうだな、この動きが君にわかるか?」


 私の視界には、masakiの姿が現れたり、消えたりしているように見えていた。


 これは超スピードで残像ができるとか、そういうことじゃない。


「【縮地】と【空間魔術】の【ショートワープ】を【SCスキルキャンセル】で繋げた芸当だ。当然、【発動時間短縮】のスキルも発動させて、スキルの回転速度は上げている。そして、【貫通攻撃】によって、君の防御を無視して、ダメージを通す」


 パパパパパンッ!


 四方八方から飛んでくる銃弾を【野生の勘】と【未来予知】を駆使してギリギリで躱す。


 微妙に避けづらいのは、射線を計算して撃ってるからなのかな?


 それとも、なにかスキル使ってたりする?


「わかるか? こういう戦い方もあるということだ。LIAはステータスのゴリ押しが通用するほど甘くはないということだ」


 残り三十秒くらいかな?


 masakiの攻撃には少し面食らったけど、この三十秒間で思い出したことがある。


 それは……この動きは経験したことがあるということだ。


「……【永遠エターナル】」

「聞いたことのないスキルだな? 【古代魔法】か? 何をする気かは知らないが、この動きに初見で対応できたなら大したものだ。如何にバケモノステータスの恩恵があるとはいえ……」


 ――ココだ。


 masakiの【縮地】に合わせて、私も【縮地】で動く。


 瞬間、今まで狙い撃ちにしていた私が居なくなり、masakiの動きが止まる。


「何!」


 悪いけど、消えたり出たりの勝負はボクデン戦で百回以上もやってるんだ!


 正直、シュシュシュン勝負では、masakiよりもボクデンの方が数倍動きが鋭い!


 そして、私はそんなボクデンを制してるんだよ!


「くそ! 何処に!」


 【縮地】からの【ショートワープ】。


 私の姿を見失ったmasakiなら、


 戦場が見下ろせる上空――。


 ボクデンが私の姿を見失った時に、よくこの行動パターンに移ることは把握していた。


 ボクデン側としては、奇襲を受け難く、相手の位置を確認するのに便利だから、当然の選択ということになるのだろう。


 それこそ、上空に来ることを先読みされていない限り、安全に相手の位置が確認できるはずなのだ。


 先読みされていない限り――だが。


「何故、お前がここにいる!」

「先読みしたからだよ!」


 あらかじめ上空に【縮地】で移動していた私はガガさんの魔剣を振りかぶる。


 ボクデンにダメージを与えられる機会は少なかった。


 基本的には相打ち狙いの、肉を切らせて骨を断つ戦法が主軸だった。


 だけど、そんな戦闘の中でも、幾つか確実にダメージを与えられるパターンがあって、そのひとつがこれだった。


 けれど、私の目の前にわざわざ【ショートワープ】で出現したmasakiは、ボクデンではない。


 だから、これは賭けだったんだけど……。


「くそ、【送――……」

「ボクデンをデザインしたのは、あなただったんだね?」


 私の言葉に【送還】と言いかけていたmasakiの言葉が止まる。


 masakiの動きはボクデンに似ていた。


 いや、masakiは開発側の人間だから、逆か。


 masakiが、理想とする戦闘スタイルをボクデンに反映したのだ。


 だから、masakiの動きはボクデンのようであり、またボクデンはmasakiのような行動パターンを得るに至ったのではないだろうか?


 そして、そんなボクデンと百回近くも殺し合いを重ねてきた私もまた、masakiの動きが読めてしまった。


 ただ、それだけのことである。


 賭けにしては、分の良い賭けだったように思える。


「そうか、ボクデンを倒したのか……。あれは、強過ぎるから実装するなと、ササさんの反対を押し切ってまで実装したんだが……。そうか、負けたか……」


 ボクデンを知り、そして、ボクデンの動きを知る私を見て、その戦闘の結末を知ったのだろう。


 masakiが項垂れる。


 残り十秒――。


 【ロングワープ】の魔法陣が赤く光り始める。


 もはや時間がない中、彼女は一瞬逡巡した後で口を開く。


「どうだった?」


 私に【送還】と一言告げれば、結果は変わっていたのかもしれない。


 まぁ、言う前に叩き斬ってたかもしれないけど……。


 けれど、彼女はデスゲームの揺るぎない続行よりも、自分の仕事の成果について尋ねてしまっていた。


 それは、彼女に残っていた僅かばかりのクリエイターとしての矜持だったのかもしれないし、彼女の中の承認欲求が疼いてしまったのかもしれない。


 とにかく言えるのは、デスゲームの運営としてプレイヤーを苦しめてきた期間よりも、もっと長い期間を彼女は開発者クリエイターとして過ごしてきており、その背景バックボーン故に、彼女はデスゲームの続行よりも、ユーザーの生の意見を聞きたがってしまったということだ。


 だから、私も正直に答える。


「クソボスだったよ! クソボス!」

「…………」

「けど、最高に楽しかった!」

「そうか……」


 masakiの顔に微笑が浮かぶ。


 それと同時に、私はガガさんの魔剣をひと息に振り下ろし――、


 ■□■


<匿名のプレイヤーの手によって、デスゲームクリア条件のキープレイヤーが倒されました。>


<デスゲームクリアまで、残りのキープレイヤーは3/4人です。>


<プレイヤーの皆さん、頑張って下さい。>

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