第327話

冒険担当クラブ視点】


「行っちゃった……。まぁ、これで今回の事件に終止符を打ってくれればいいんだけど……というわけで、魔王様、ここからは私が護衛しますので、よろしくお願いしますね」

「うむ、頼む」


 魔王を庇うようにして立ちながら、私はクランメンバーに号令をかける。


 さて、パパっと作戦会議だ。


「はーい、クラン・せんぷくメンバー集合ー!」


 私の号令に従って、なんだなんだと集まってくる辺りは、割と素直な面々である。


 まぁ、一名ほど焼き肉に夢中で集まってこない人もいるけど……。


「タツさんは上空の奴をお願いできる? 【魔道王】が残ってる今なら対応できるでしょ?」

「構わんで」


 というか、空を飛んで対抗できそうなのが、私とタツさんぐらいしかいないしね。


 なので、消去法としてタツさんにお願いする。


「で、ブレくんとミサキちゃんは砂の奴をお願いね。多分、アレが一番マトモそうだし」

「そうですね。僕もアレが一番やりやすいかなと思ってました」

「ブレがんば」

「ミサキちゃんもやるんだからね!?」


 相変わらず、二人は仲の良さを見せつけてくるねぇ。


 砂の竜を倒せるのかは未知数だけど、ブレくんがいる限り、やられることはないでしょ。


「あと、あの闇の粒子を撒き散らしてる奴は……ツナさん、やれるー?」

「焼き加減が難しいな……。焼き方の研究が必要か……」

「あれは聞いてないね。仕方ない、闇粒子の竜は私が――」

「おい、魔王軍特別大将軍」


 私が最後の竜の相手を務めようと思っていると、突如としてマスラオに声を掛けられる。


 え、何? 急に?


「あの黒い奴は俺たちがもらうから手を出さなくていいぞ」

「いや、あの竜が一番ヤバそうな感じだけど、大丈夫なの?」


 あの闇粒子くん――触れた物が無機物だろうと有機物だろうとグジュグジュに溶けちゃってるんだけど……。


 そんな相手に対抗できるのかな?


 だけど、私の疑問もどこ吹く風。

 

 マスラオは禍々しい鎧の奥で自信を覗かせる。


「問題ない。俺にはあの程度効かんからな」

「スキル無効化かぁ……。わかったよ。譲るけど、ヤバそうなら言ってよね? 一応、手助けはするから」

「ふん、古竜退治を成し遂げたとなれば、S級冒険者の逸話としては申し分なしだ。手伝いなんていらん。……ルーメルやるぞ」

「フッ、こんなに多くの女性たちが見てくれているのだ。こちらも張り切らせてもらおうか」


 というわけで、暗黒竜に関しては、自称特A級冒険者たちが戦ってくれるらしい。


 まぁ、スキル無効化があれば、ヤバそうな効果も無効化できそうだし、心配する必要はないのかな……?


「じゃあ、やろうか――」

「待て!」


 私たちの中で話がまとまったというのに、そこに待ったをかける声が響く。


 えーと。


 彼女は大盾のノルディアだったっけ?


 何か用かな?


「ここの指揮権は私に一任されている! 勝手な真似は許さんぞ!」


 おぉう、指揮権寄越せみたいな横槍……?


 これは一波乱あるかもと思ったら、


「ヤマモトは魔王軍の特別大将軍であり、魔王軍は帝国軍の麾下に入ったつもりはない。そちらこそ、勝手な指揮系統を押し付けないでもらおうか」


 魔王がすっぱりとノルディアの横槍を一蹴してくれる。


 うん。


 偉い人が現場に出てくると、話が早くていいね。


 クラン・せんぷくのみんなも、「なんだ、そうなんだー」って感じで散っていく。


 そもそも、私たちを指揮系統に組み込んだところで足並みが揃わないんだから、指揮下におこうとするのが間違ってると思うんだけどね。


「ぬぐぐ……っ! 帝国の平和を守るのは帝国軍でなければならないというのに、他国の戦力に国を守ってもらうだと……! くそっ、そんなことがあってたまるか! 我々は我々で竜に対してやらせてもらう!」

「そちらが勝手に動く分には、我々も止める手立てがない。好きにするといい」

「言質は取ったからな! 帝国兵よ、人形遊びの次は竜退治だ! 帝国兵の堅牢さを魔王国の者たちに見せつけてやるのだ!」

「「「応ッ!」」」


 うーん。


 国が守れれば、どの国が守ろうともそれでいいんじゃない? と思うんだけど、ノルディアは違うみたいだね。


 この辺、アメリカにおんぶにだっこの日本人的な感覚なのかな……?


『グブブブ、相談は済みましたかぁ……?』


 そして、竜たちもここまでの私たちのやり取りを見守ってくれていたみたい。


 問答無用の先制攻撃をしてこない辺りに、紳士さを感じてしまう。


 いや、単純にゲームとして、ボス前に戦闘準備を整えさせてくれただけかもしれないけど。


「わざわざ待ってくれたの?」

『脆弱な人間如きが、いくら知恵を絞ろうとも竜には勝てぬということを思い知らせてやろう――とセベクが言うのでねぇ……』

「セベク?」

『目の前にいる砂神竜ですよぉ……』

『ヌゥーン……』


 …………。


 私にはヌゥーンとしか言っていないように聞こえるんだけど……。


 竜同士の何か高度なコミュニケーションでもあるのかな?


 【竜語理解】は持ってたはずなんだけど、あの砂の竜が何を言っているのかさっぱりわからない。


『ゲバッ、ゲバッ! ようやく準備万端で動き出したかぁ! 動き出したってことは、攻撃していいってことだ! だったら、まずはさっきのお返しをしねぇとなぁ!』


 空を飛ぶ龍の口に、青白く輝く炎が集っていく――。


 これは、色的にもマズい奴……?


 だけど、その炎が宙を奔るよりも先に、収束された熱線が龍の口を貫いて、青白い炎を龍の口内で霧散させていた。


『グッ!? ……っの野郎!』


 それと同時に、【レビテーション】と【エアウィング】の重ねがけをしたタツさんが一気に空中へと飛び出す。


 【ダークアバター】✕10を従えた今のタツさんは、普通の魔法や魔術の威力が十倍以上に跳ね上がるレベルだからね。


 悪いけど、かなり強いよ?


「悪いなぁ。アンタの仲間ぎょーさん焼いたんはワイや。せやから、狙うんやったら、ワイ一人を狙うんやな」

『ゲバッ! 随分と殊勝な心掛けじゃねぇか! いいぜ、気に入ったぁ! まずはテメェを食い殺してから、地上の連中を皆殺しにしてやる! ゲババッ、俺様は青龍ブループ! 青のフィールドこそが俺様の領地! 腐れ地上なんざとは違う空の戦い方を身を以て味わわせてやるぜ、未熟な龍よ!』

「確かに、ワイは未熟な龍かもしれん。せやけど、それで勝利を諦めるほど殊勝な性格はしてへんのや。悪いが、アンタを倒して成長の糧にさせてもらうで……!」

『ゲババッ! 上等だ青二才! 掛かってこいや!』


 うわー、空中で高速戦闘が始まっちゃったよ!


 多分、タツさんは【ジェットストリーム】の重ねがけや【フォローウインド】の重ねがけで龍に対抗してると思うんだけど……。


 というか、むしろ、速度的にはタツさんの方が押してる感じ?


 これもう、時間限定で魔王軍四天王よりもタツさんの方が強いんじゃない?


 ちらっ、と魔王を見てみたら、なんか目を輝かせてる気がするし。


 ツナさんの次に目をつけられるのは、タツさんになるのかな?


『ヌゥーン……』


 そして、空の龍が動き出すのと同時に、今度は砂の竜も動き出した!


 こっちは地上にいることもあって、帝国軍が盾を構えて交戦し始めるんだけど……。


「なんだ、この風は……?」

「いや、ペッ、ペッ……ただの風じゃない……砂が混じってる……」

「これはまさか……!」


 帝国兵がそれに気づくよりも早く、強烈な砂の嵐が帝国軍の大盾部隊を包み込み、その全身をズタズタに切り刻んでいく。


 あっという間に真っ赤に染まる砂嵐はまるで血風だ。


 帝国兵が痛みに悲鳴を上げるのを見て、ノルディアが顔色を変える。


「全員後退しろ!」


 命令を下すけど、前衛が後退すれば砂嵐が前進するだけだし、砂嵐の中に巻き込まれた兵士には命令が聞こえていないのか、次々と光の粒子ポリゴンになって消えていく。


 この接触は、流石に迂闊だったんじゃないかな?


 後衛の魔法部隊も前衛を巻き込む形で魔法が使えないので、ただただ前に出た前衛部隊だけが見殺しになっていく。


「これは……」

「さがって下さい、魔王様。危ないです」


 帝国の兵士たちを助けてあげたいところだけど、ここで【蘇生薬】や回復魔法を使っても、同じように砂嵐に巻き込まれて、痛みに苦しんで死ぬだけだろうし……。


 生き返らせるにしても、タイミングを見計らうことが必要だよね。


 ちなみに、命令に忠実な帝国兵と違って、プレイヤーらしき冒険者たちは真っ先に病院や消防署の建物付近にまで逃げ出している。


 砂嵐が発生した時点で……というか、竜が現れた時点で既にそこまで後退していた印象だ。


 やはり、デスゲームを生き残ってきた猛者だけあって、危険に関する嗅覚は鋭いものを持ってるよね。


 私はその辺鈍いけど。


「どうするつもりだ、ヤマモトよ?」

「どうすると言いましても……」


 砂の竜……確かセベクだったかな? の姿は砂嵐の中に紛れて見えない。


 むしろ、砂嵐自体がセベク?


 こんな実体もないような相手をどうするのかと問われても……どうしよう?


「えーと、砂嵐に突っ込んで、無闇矢鱈に攻撃をすればなんとかなりませんかね?」

「それは無策という奴ではないか?」

「でも、やってますよ。ほら」

「そこじゃない、ブレ。右、あ、左下行った。今度はもっと右上」

「うぉー! 体のどこかに当たってくれー!」

「…………」


 砂嵐の外から指示を出すミサキちゃんの声に従って(声が届いているかは不明)、ブレくんが一人で砂嵐の中に突っ込んでいってワチャワチャ頑張ってる。


 いや、頑張ってると言っていいのかな……?


 砂嵐に嬲られてる感じだけど……。


 まぁ、大したダメージは受けてないみたいだし、ダメージを受けたところで即座に回復してるみたいだから、放っておいていいのかな?


「大丈夫なのか? 彼は?」

「問題ないですよ。ある意味、私よりも死に難いですから」

「そうなのか」


 そして、黒い粒子を纏った竜に対しては、マスラオが前面に立って、激しい戦闘を繰り広げ始めたようだ。


 あっちはマスラオごと黒い粒子に包まれちゃって、あの空間だけが闇の帳が降りたように中の様子がわからないんだけど……。


 激しい戦闘音は聞こえてくるので、中で戦っていることは確実なんだろう。


 というか、スキル無効化の効果であの黒い粒子が一気に消えてもおかしくないと思うんだけど、消えないってことは延々とあの竜が黒い粒子を撒き散らし続けてるのかな?


 あの黒い粒子に触れたら溶解するし、帝都の街の人にとっては迷惑な話だよね。


 というわけで、各所での戦闘が開始されて、どこも相応に善戦してるように見える。


 私としては、経験値ドロボーと言われたくないので、ギブアップ宣言が出ない内は静観するつもりだ。


 それにしても、ずっと立ちっぱなしで見てるというのも手持ち無沙汰だよね。


 見られてる方も授業参観されてるような気分で落ち着かないんじゃないんだろうか?


 となると……よし。


「魔王様」

「む?」

「立って待つのも何ですし、座りながら戦況でも見守りませんか?」

「…………。いや、我々のために戦っている者たちがいるのだ。この状況でのんびり座って観戦など――」


 私は【収納】から魔導リクライニングチェアを取り出すと、その場に設置する。


 で、座ってから背もたれをビーッと倒すと、飲み物なんかを飲んでみたりもする。


「魔王様のお好きなリクライニングチェアを用意しましたよ。どうです? お座りになられては?」

「いや、上に立つ者として、この状況で座って観戦など――」

「あー、ビールうめー」

「…………」

「屋外で飲むビールってなんでこんなにも美味しいんですかね? 丁度、砂嵐の風も吹いて心地良いですし。魔王様もどうぞどうぞ」

「お前は……、お前は……、私なんかよりもよっぽど初代魔王様に近い鬼畜だな!」

「えぇっ!? 観戦されてるみんなの心理的負担を軽減しつつ、魔王様が気兼ねなく座れるように気を使っていたのに!?」


 ちょっと酷い言われようじゃない!?


 ▶魔王に魔王らしさを認められたため、下記のアイテムを取得しました。

 【魔王の素養(中)】を取得しました。


 ▶【魔王の素養(中)】を既に取得済みのため、【魔王の素養(大)】に統合します。


 ▶【魔王の素養(大)】を取得しました。


 そして、なんか取得してるし!


 クランメンバーたちの戦闘が激しさを増す中、魔王の葛藤も激しさを増す。


「ビールじゃなくて、魔王様用にはエナドリも用意してますよー。冷え冷えキンキンシュワシュワぷは~っですよー」

「ゴクリ……」


 でも、こっちの葛藤は結構早く決着がつきそうな感じがするのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る