第326話

 まぁ、焼き肉し始めてるツナさんは置いとくとして……。


 問題は魔力バリアを張ったままのリーゼンクロイツの方だ。


 この魔力バリアは、原理的には暗黒の森の私の領地に張ってあるものと同じもの……なんだと思う。


 リーゼンクロイツが古代文明のなんちゃらとか言ってる時点で、その辺の察しはつくからね。


 だから、大ダメージを与えれば与えるほど、バリアの動力源となっている褒賞石の魔力量を減らすことができて、魔力が尽きた時にバリアが割れるといった仕組みになってるはずだ。


 なので、割るためには魔力バリアに大ダメージを与えなきゃいけないんだけど、それとは別にスキル無効化のバリアが魔力バリアの周囲に張り巡らされていて、分身体の私では近づくこともできないという問題がある。


 リーチが足りないなら、長物を振り回せばいけるかな?


 でも、【魔纏】で建造物を硬くして振り回しても、スキル無効化バリアで【魔纏】が解かれちゃうと威力が大幅に減少しちゃうし……。


 うーん、なかなか良い攻略法が思いつかないもんだねぇ。


「なに悩んでるの? お姉ちゃん?」

「なんか長くて硬いものがないかなぁって」

「長くて硬いもの? それはどう?」


 私の言葉に愛花ちゃんは、地面を指差す。


 そこにはここまで飛ばされてきたのか、枝付きの暗黒の森の木が転がっていた。


 なるほど。


「彼○島最強武器を使えということだね?」

「彼○島が何かは知らないけど、硬くて長いよ?」


 確かに言われてみれば。


 手刀でパパパッと枝払いをしてみたら、なんだかいけそうな気がしてきた。


 肩に担いでみると、割としっくりくる。


「みんな、丸太は持ったかー!」

「「「???」」」


 格好はしっくりきたけど、セリフまではしっくりこなかったみたい。


 魔王と愛花ちゃんが首を捻ってる。


「なにやってんねん、ヤマちゃん……」


 私がフザケてたら、タツさんがここまで降りてきちゃったよ。


 丸太ネタに誰もツッコまないから、関西人の血が騒いじゃったのかな?


「ツッコむ?」

「何にや?」


 逆に聞き返されてしまった。


 別に丸太について、アレコレ言いたかったわけじゃないらしい。


 そして、タツさんが上空から降りてきたことにより、冒険担当クラブとイライザちゃんも上から降りてくる。


 えーと、リリちゃんの姿が見えないんだけど……。


「あれ? リリちゃんは?」

「Takeの方に助っ人にいったわ。デカいのの一体がTakeの方に向かっとったからな。ワイがこっちに来たのは、イラやんにせっつかれてや。どうしても、リーゼンクロイツに乗り込みたいってうるさくてなぁ」

「私が皆さんと行動をしてるのは、このためですから……」


 イライザちゃんが地上に降り立つと同時に――、


「イライザ……?」


 イライザちゃんの名前を呼ぶ声がする。


 振り返ると、ド○クエ3の勇者かってぐらいに髪の毛をツンツン立たせた男の人が立っていたんだけど……誰だろ?


「アクセル……?」

「やっぱり、イライザなのか!」

「…………」


 イライザちゃんの元パーティーメンバーかな?


 それにしても、アクセルってどこかで聞いたことがあるような……?


「やはり無事だったのか! 心配したんだぞ! けど、良かった……。俺たちの元に戻ってきて来れたんだな……」

「アクセル、私は……」


 すぐにでも抱き締めそうな勢いで駆け寄ってくるアクセルくんとは違って、イライザちゃんは俯き加減に言葉を返すしかない。


 まぁ、うん。


 アクセルくんたちに生きてたことを黙って行動してたのも相まって、ちょっと顔を合わせづらいよね。


 私も愛花ちゃんに名乗り出ずにコソコソしてたから、その辺の気持ちはよーく分かる。


「おいおいおい、こりゃまた大勢集まってんじゃねーの?」

「フッ、我々だけで四体も相手にするのは難儀でしたからね。ここは助っ人を頼みましょうか」


 あっ、自称特A級冒険者の人たちも来てくれたみたいだね。


 まぁ、彼らが集まってきたのは偶然でもなんでもなく、大型竜がここに向かって集結しつつあるからなんだろうけど……。


 とりあえず、竜に絡まれる前にリーゼンクロイツの件をなんとかできないかな?


 悩む私にふと【天啓】が舞い降りる。


「とりあえず、そこの自称特A級冒険者の……マスラオだっけ? 少し後ろに下がってもらえる?」

「げ! 魔王軍特別大将軍! まぁ、ここにいるのも当然か……で? なんだよ、俺たちが邪魔だって話か? これぐらい下がればいいのか?」

「もっと下がって〜、もっと下がって〜。オーライ、オーライ〜」

「なんか企んでるんじゃねぇだろうな?」


 疑いながらも、素直に後退していくマスラオ。


 で、マスラオがリーゼンクロイツにある程度近づいたところで、パリンッと何かが割れるような音がした。


 おぉ、もしかして……?


「【ファイアーストライク】」

「うぉっ、何しやがる!?」

「いや、マスラオは狙ってないから」


 ボンッ!


 おぉ、リーゼンクロイツ目掛けて放った【ファイアーストライク】が見事に命中したね!


 これって、スキル無効化バリアも、魔力バリアも解けたってことかな?


「これはどういうことだ? リーゼンクロイツに張られていたスキル無効化バリアと魔力バリアが消えている……?」


 魔王の瞳が紅く光って、その状況を的確に分析してくれる。


 ということは、今なら侵入するのに障害となる要素はないってことだね。


「恐らくですけど、マスラオのスキル無効化のユニークスキルとリーゼンクロイツのスキル無効化バリアが相殺しあって、なんか、こう……いい感じになったのでは?」

「なんで、企図した本人が疑問形なんだ……」

「なんとなく試しただけなので」

「…………」


 いや、無効化スキル同士が干渉しあったら、どうなるのかな? って思ってやってもらっただけなんだけどね?


 だから、どうなるかは正直わからなかったんだよ。


 でも、結果としてはイイ感じになったみたい。


 これ、人は結果オーライという。


「悪いが、相殺じゃねぇよ」


 けど、私の予想を覆すかのようにマスラオが笑う。


「相殺程度なら、俺は自分の装備に呪い殺されて即死してらぁ。スキル無効化バリアに加えて、魔力バリアだったか? その二つが消えた上に俺もピンピンしてるってことは俺の一人勝ちってことだ。つまり、俺が一番強ぇってことよ!」


 言われてみれば、スキル無効化同士で相殺しあっていれば、魔力バリアが消えてる理由が説明できない。


 これはどういうことなんだろう?


 無効化スキル同士でも優劣があるってことなのかな?


 特にマスラオの無効化スキルは効果範囲が本人接触時のみに限定されてるから、普通の無効化スキルよりも効果が強いとか?


 まるで、念○力みたいだ。


 まぁ、原理は良くわからないけど、道が拓けたのは確かみたい。


 いち早く、それに気付いたであろうイライザちゃんがリーゼンクロイツに向けて走り出す。


「イライザ!」


 次いで、イライザちゃんの後を追って、アクセルくんも走り出して――って、二人だけで行っても、どうにもならないでしょうに!


冒険担当わたし!」

「なに? 私?」

「イライザちゃんを追いかけるから、魔王様の警護をお願い!」

「おっけー、任された」


 というか、元々は冒険担当クラブの仕事なんだけどね!


 私が駆け出そうとしたところで、何かに引っ張られる感触――。


 振り返ると、そこには真剣な表情をして私の虚無僧衣装を掴む愛花ちゃんの姿が……。


「私も行く」

「いや、ダメだよ、愛花ちゃん。危ないって」

「そんな危ないところに、お姉ちゃんだけ行かせられないじゃん!」

「いや、私、分身体だし。最悪、死んでも復活できるし……」

「だから、心配なんじゃない! お姉ちゃんは自分の命を軽く見過ぎてる!」


 …………。


 最悪、死んでも大丈夫というのは言い過ぎたかも……。


 一応、分身体が死んだ場合は、分身体個々の記憶は本体にフィードバックされる。


 なので、愛花ちゃんたちとリンム・ランムで過ごした日々の記憶が失くなるわけではない。


 むしろ、本体的には記憶の統合がされるので、「あー、こういうことあったんだー」とちょっと安心感というか、お得感があることだろう。


 けど、その記憶が統合された本体から新たに生み出される私は私なのだろうか?


 今までの私ではない記憶を持ちながら、今の人格のままで、もう一度愛花ちゃんたちに出会えるんだろうか?


 それとも、アスラ戦で多くの分身体の記憶が統合された影響で既に本体の人格がある程度変わってしまってるのかな?


 そんな本体から生み出されたら、私は今の私とは完全な別物になるんじゃあ……?


 その辺は色々と考えると怖いことになりそうなので、あまり深くは考えたくないところだ。


 とにかく、愛花ちゃんとここで押し問答をしている時間はなくなっちゃったらしい。


「おい、魔王軍特別大将軍! 突入するなら早くしろ! もう来るぞ!」


 マスラオの言葉に応えるようにして、


『ゲバッ、ゲバッ、ゲバッ! こんな所にエサが集まってやがったぜぇ!』

『ヌゥーン……』

『グブブブ、落ち着きなさぁい……。我々の目的は、その巣に近づく羽虫を殲滅すること……。手分けしてやるわよぅ……』


 空を蛇のようにクネクネと泳ぐ竜……龍? が現れ、


 全身が砂でできたような竜が石畳を砂礫に変えながら大通りに姿を現し、


 全身が黒い粒子に覆われた竜が周囲の建物全てをグズグズのコールタールのような何かに変えながら現れる。


 もう一体、鉄塊みたいな巨大な竜がいたんだけど、それはTakeくんの方にいったのかな……?


 敵性戦力揃い踏みというわけだ。


 しかも、いずれもネームドクラスの強敵と見た。


「流石に戦闘中もここに留まれねぇぞ? 行くなら、さっさとしてくれや!」

「迷ってる暇はないか……。仕方ない、愛花ちゃん行こう」

「うん!」


 私は愛花ちゃんの手を引くと、リーゼンクロイツに向けて走り出すのであった。

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