第325話
■□■
【
リリちゃんとタツさんの合同殲滅魔法が終わった。
帝都の街を見下ろすと、予想よりは壊れてないかな? といったところだ。
多分、【必中】のおかげで機械人形や竜に当たって威力が弱まったことで、街の壊滅にまでは至らなかったんだと思う。
それでも、道路や一部の建物はべコボコだし、スチームパンクの世界というよりは『時はまさに世紀末〜』という言葉の方が、街の雰囲気が近くなってる感じだ。
うん。
復興が大変そう。
「アカンな。流石に全滅を狙うんは虫が良すぎたか」
私が見る限りだと、小型竜と機械人形軍団はほぼ全滅。
けど、中型竜の一部……多分三十体ぐらい……と大型竜が四体ほど生き残っているのが確認できた。
虫の息になってる中型竜はまだしも、大型竜がそこそこ生き残ってるのは看過できない問題だよね。
下手すると、さっきの魔神竜ギュスターヴクラスが四体もいるということになれば、それこそ大惨事になりかねない。
あんな子供が考えた死ね死ねブレスみたいなのを街に向けて撃たれたら、どうにもならないからね。
厄介な大型竜はなるべくなら早めに仕留めておきたいところだ。
「こうなったら、MPポーション飲んで二発目や! やるで、リリやん!」
「は、はい!」
「待って下さい! ……何か、聞こえませんか?」
イライザちゃんに言われて、私たちは耳をそばだてる。
そういえば、確かに大気を震わせるようなゴゴゴゴ……という音が聞こえてくるような?
敵の増援?
それとも、なにかのイベントが発動した?
思わず身構えるけど、音が徐々に大きくなるばかりで、周囲に変化が見られない。
「なんや? なんかヤバイ気がするんやけど、なにが起こっとるんや?」
「気の所為、じゃないですよね? 音が段々と大きくなってきてる気がします……」
「わかんないけど、先に竜にトドメを――」
私の言葉を遮るようにして、
ブワッ!
瞬間、上空に掛かっていた雨雲が一気に吹き散らされて、巨大な輪っかが空から落ちてくる。
「はい……?」
え?
でも、なんで上空から降ってくるの?
普通は下から飛んでくるんじゃあ……?
散る雨雲と触れたことで、じゅうじゅうと音と湯気を放ちつつ、巨大な輪っかが……そのままリーゼンクロイツに激突する!
ゴォン!
いや、リーゼンクロイツも巨大な輪っかに負けず劣らずの巨大さなんだけど、ほぼ同じサイズの大質量が上から衝突してくることは想定外だったんだろうね。
今までは優雅ともいえるような佇まいで空中に浮いていたのが、輪っかの直撃を受けたことで、その飛行姿勢がゆっくりと傾いていく。
そして、直撃した輪っかは輪っかで、リーゼンクロイツに張られていた魔力バリアのようなものに弾かれて上昇し、その姿勢を傾けていくんだけど……。
二つが斜めに
「○と✕……」
そう。
○と✕だったんだ。
輪っかの○と、
それこそ、クイズ番組で正解の扉に飛び込めーって、やってる時の光景が思い起こされるぐらいには○と✕。
どちらの選択肢を選んだところで、泥まみれになるわけじゃあるまいし――、
…………。
「選択肢のバランス取ってきた!?」
✕が……✕が既にあったから、○を追加したの【バランス】さん!?
それは、あまりにも豪快過ぎない!?
そもそも、あの○は何!?
どこから降ってきたの!?
【バランス】さんの能力として質量兵器をワープさせてきたの!?
それもう【バランス】関係ないんだけど!?
ゴォン、ゴ……! ゴワン……!
魔力バリアに変な当たり方をして跳ね返った輪っかが、上昇しようとするリーゼンクロイツに何度か直撃する。
やがて、居場所を見つけたかのように、スポッと輪っかが魔力バリアに嵌まってしまった。
多分、輪っかの直径と球型をした魔力バリアの大きさがほぼ同じだったんだろうね。
それこそ、リーゼンクロイツを囲うようにして、輪っかがすっぽりと収まる。
その直後、リーゼンクロイツの高度が徐々に下がっていく。
流石に、巨大な輪っかの荷重に耐えられなかったってこと?
それとも、浮上しようとすれば膨大な魔力を消費しちゃうから、魔力バリアが切れることを恐れて徐々に下降してるとか?
姿勢だけは水平に戻しながら、リーゼンクロイツはゆっくりと落下していく。
「なんやねん、アレ!? どないなってんねん!?」
「わかんないけど……好機到来ってことでいいんじゃない?」
ぐんぐんと高度を下げるリーゼンクロイツを見ながら、このチャンスをなんとかモノにできないかと、私は考えるのであった。
■□■
【
それは唐突に空から降ってきた。
最初は大気を震わせる鳴動。
次いで、雨雲が取り払われたかと思ったら、なにやら巨大な物体がリーゼンクロイツを直撃。
耳を劈くような轟音が響き、やがてそれがリーゼンクロイツを巻き込んで空から落ちてくる。
「ヤマモトか……?」
「いえ、私は何もしてないですよ?」
隣にいる魔王が疑わしげに私に視線を向けてくるが、やめて欲しい。
というか、今まで一緒に投げられる建物を探していたのに、どうやったらあんな大仕掛けができるのか。
私は何もやってないですよ?
「それよりも、どうします?」
「どう、とは?」
「落下予測地点がこの辺りなんですけど? 病院を投げて迎撃します?」
「リーゼンクロイツの重量が増えたことで、この辺の建物を投げたところで迎撃は不可能ではないか? あの大質量を跳ね返せるとはとても思えん」
そうかなぁ?
病院そのものを【魔纏】で頑丈にすれば、いけると思うけど……。
まぁ、それ以前に建物の中の一般人の避難ができてない時点で、その作戦を取るのは難しいかな。
「それよりは、助かる見込みのある一般市民を一人でも多く逃げるように誘導した方がいいかもしれんな。……間に合うかどうかは別として」
見た感じだと結構な勢いで落ちてきてるしねぇ。
今更逃げ出そうとしても、ほとんどの人たちは落下の衝撃に巻き込まれて甚大な被害を被るんじゃないだろうか?
せめて、消防署か、病院のどちらかでも投げられれば、着地地点ぐらいはズラせるのに……。
私は病院と消防署の建物を見た後で、上空に視線を移す。
……あれ?
「○の中に✕印……」
上空では、巨大な輪っかが嵌った
これって……。
「まさか、地図記号――警察署!」
まさか、病院施設、消防署だけじゃ、建物の選択肢の【バランス】が悪いという私の思いを受け取って、警察署(地図記号)をこの地に作ろうとしてくれているの!? 【バランス】さん!?
違う! 違うよ、【バランス】さん!?
確かに選択肢の【バランス】は取れたかもしれないけど、目的はリーゼンクロイツに建物を投げることなんだから!
リーゼンクロイツが警察署(地図記号)になっちゃったら、私は何に向かって建物を投げればいいのさ!?
…………。
ちょっと待って……?
建物を投げることが目的じゃないよね?
リーゼンクロイツを落とすことが目的なんだから……これでよくない?
「ナイス【バランス】」
「何ワケわからないこと言って拍手してるの!」
私が【バランス】さんに賛辞を送っていたら、愛花ちゃんが近づいてきて後頭部を引っ叩かれた。
でも、叩いた愛花ちゃんの方が手を痛そうに押さえてる。
私、そんなに硬いかなぁ?
「イッタァ……というか、ボーッとしてないで早く逃げないと! 魔王さんも早く!」
「いや、不要だ」
「え?」
「ヤマモトなら、これぐらいのことはなんとでもしてくれるのだろう?」
試すような魔王の言葉。
というか、魔王軍特別大将軍ならこれぐらいなんとかしろと言外に言われてる気がする。
魔王軍特別大将軍ならなんでもできるという風潮はパワハラでは?
でも、一理あったりすることがなんとも言えなかったりする。
えぇ、まぁ、やれなくもないです。
「魔王様、愛花ちゃん、ちょっと強風が吹くかもしれないので、頑丈そうな建物の影にでも隠れといて下さい」
私がそう言うと、迷わず魔王と愛花ちゃんが私の腕をがしっと掴んで、私を盾代わりにして隠れ始めたんだけど……。
私を頑丈な建物と一緒にしないで欲しい。
……まぁ、いいや。
「それじゃいきます――【収納】から開放! 木!」
「「…………」」
リーゼンクロイツの落下地点に、根本から伐採されたであろう木の山がこんもりと山のように積まれる。
それを見た魔王と愛花ちゃんから何か言いたげな気配が漂ってくるが、ちょっと待って欲しい。
そもそも、リーゼンクロイツにはスキルを無効にしてしまうバリアが張られている。
なので、私が近づくことはおろか(分身体なので消えちゃうし)、魔法やスキルの類で迎撃するのは不可能な状況なのだ。
なので、私はアイテムを使うことを思いついた。
アイテムは別にスキルじゃないから無効化されないしね。
というわけで、リーゼンクロイツの落下地点に積み重ねたるは暗黒の森産のやたらと頑丈な木の山。
暗黒の森の木たちはやたらと好戦的なせいか、山羊くんと戦闘を行っては倒されて、結果として山羊くんが戦利品として持ち帰ってくるもんだから、数だけはあるんだよねー。
というわけで、ほぼ処分品の木を積み重ねてクッションにすれば、墜落の衝撃を緩和できるんじゃないのかな? と考えたわけである。
まぁ、積み方が適当だから、あまり効果ないかもしれないけど。
それでも、地表にそのまま激突するよりかはマシだと考えたい。
「墜落するジャンボジェット機レベルを木で受け止められるわけがないでしょー!」
「昔、木がクッション代わりになって飛行機がバラバラになるのを防いだみたいなニュースを見たことあるけど……。それに暗黒の森産の木だよ?」
「どこ産とか関係ある!?」
「いや、それなら防げるかもしれん」
ゴンゴンガンゴンガンゴン!
変な跳ね方をする木もあったけど、積み上げられた木が魔力バリアを受け止めて、リーゼンクロイツの落下速度を著しく軽減し始める。
うん。
枝払いしてなくて良かった。
「嘘ぉ……」
それと同時に周囲に強風が吹き荒れ、目を開けているのも辛い状況に陥る。
あー、目が乾くー。ドライアイだー。
強風はしんどいけど、それでも、あの大質量がそのまま落下してきたら土砂が噴き上がって、この辺一帯がクレーターになってただろうし、これぐらいで済んでるのはまだマシな方だろう。
ゴンガンゴワングワン!
なお、暗黒の森の木はリーゼンクロイツの着地の衝撃を受け止めるだけで、落下地点をズラしたりできるわけじゃないので、リーゼンクロイツの巨体の下に入ってしまった建物はメリメリと圧殺されるように潰れることになるんだと思う。
ガン、ゴン、ギン!
流石に、建物の中に人がいるとは考えたくないけど……。
コンッ……、カンッ……。
この事態が落ち着いたら、【蘇生薬】が使えないか確認しといた方がいいのかもしれないね。
「風が止んだかな? おー、上手く着地できたみたいだねー。魔王様に愛花ちゃん、無事ですかー?」
「いや、お姉ちゃんこそ無事なの! 突風と共になんかめちゃくちゃ物飛んできて当たってたけど!」
「え?」
目が乾いて痛いから、目を閉じてたんだけど、そんなに当たってた?
とりあえず、目を開けて体を確かめてみるけど傷ひとつない。
「嘘ついてる……?」
「なんで疑わしげなの!」
愛花ちゃんの様子を見る限りでは本当に当たってたらしい。
ということは、私が頑丈なだけってことかな。
……女の子としてどうなの? それ?
「ヤマモトよ、悠長にやってる場合ではないぞ。敵もまた動き出した」
魔王の言葉を裏付けるようにして、
大通りの向こうから――、
建物の向こうから――、
はたまた空を飛んで――、
その辺の建物を破壊しながら――、
大型竜が集まってくる。
なるほど。
向こうとしても、本丸を落とされるわけにはいかないってことかな?
けど、敵の戦力が集まってくれば、こちらにも頼もしい味方が集まってくるわけで……。
ジュゥゥゥゥ……。
「この熱を持った輪っか、竜肉を焼くのに丁度いいな」
「ツナさーん、怒られますって! やめましょうよー!」
「ツナ焼き過ぎ。それじゃ、肉が固くなる」
「…………」
リーゼンクロイツに嵌った輪っかに銛を突き刺して足場を作るなり、そこでいきなり焼き肉を始めてしまうツナさん。
うん。
頼もしいじゃなくて、楽しい味方が集まってきたみたいだね。
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