第324話

防衛担当ハート視点】


 うん、うん……うん。


「うん、わかんないや」


 ここは暗黒の森の地下にある古代都市の中にあるターミナルタワーと呼ばれる施設。


 古代都市には、現代では遺失技術ロストテクノロジーと呼ばれている技術が今も稼働しており、この施設もそんな施設のひとつとなっている。


 で、そんな施設の中で何をやってるのかというと……。


「宇宙ステーションを手動で操作できれば、運営の追跡とかに役立つと思ったんだけどなぁ……」


 そう。


 この星を周回軌道してるらしい宇宙ステーション。


 その操作をなんとか手動でいじれないかなーと、マニュアル本を片手に頑張っていたのである。


 ほら、やっぱり逃走犯を追跡するのに、上空からの監視の目があると便利じゃない?


 だから、いっちょやってみよー! って思って始めたんだけど……。


 やっぱり、そんな簡単にいくようなものじゃなかったみたい。


「どうしたものかなー」


 カップに注がれた冷めたコーヒーで喉を潤しつつ、流石にここまで時間が掛かると、諦めという選択肢も見えてくる。


 うーん、根性をみせるか、次の手を打つか、悩ましいところだねぇ……。


「あ、やっぱりここにいたんだ」


 私が悩んでいたら、背後の自動扉が開いて、今回の元凶である人物が部屋に入ってくる。


 私はそんな元凶に軽く手を振るよ。


「おつかれー、古代都市内部調査担当ダイヤ。というか、元々はアンタが技術書読んでて、こんな技術があるって見つけちゃったせいでこうなってるんだから、手伝ってよー」

「技術書読んでたのは確かに私だけど、実際に宇宙ステーションを操作してる施設を探し出して、マニュアル操作しようとし始めたのは防衛担当ハートでしょ? ほぼ私関係ないと思うんだけど?」

「そこをなんとか。後生だからさー」

「まぁ、少しだけなら付き合うけど……。思考能力は同じなんだから状況は多分変わらないと思うよ?」

「一人だけでやってると寂しいから、いてくれるだけでも助かるよ」

「まぁ、気持ちはわかるけど」


 同じ私だから、その辺の気持ちは分かりあえるんだよねー。


「ところで、私を探してたみたいだけど、なんかあった?」

「なんか、ガーツ帝国で色々と大変なことが起きてるらしくって。それを知った本体キングが『愛花ちゃんたちを助けに行かなきゃ!』とか言って、飛び出していきそうだったから止めて欲しくって……」

「いや、私たちと同じ分身体が三人も行ってるんだよ? それでどうにもならない事態なんて、まず起こらないでしょ?」

「そう言って説得してるんだけど聞かなくてさー」


 まぁ、本体の心配性なところもわかる。


 私たちの思考回路は本体を元にしてるからね。


 多分、肉親や友達が死んだってなったら、精神的にショックを受けるだろうから、それを防ぎたくて本体も行動しようとしてるんじゃないかな?


 けれど、本体の心配性マインドは私たちにも受け継がれてるわけで……。


 もし、卑劣な罠にでも掛かって本体がやられちゃったら、それこそ色々と大変なことになるって気持ちの方が私たちは強いんだよね。


 だから、簡単には本体を行かせられないというか……。


 そこは本体にも理解して欲しいところだね。


「で、その本体は今何やってるの? 物理的な拘束なんて意味ないでしょ?」


 本体のステータスは私たち(山羊くん含む)が取得した経験値や称号や褒賞石やスキルなんかが、全て吸い上げられて集積されており、正直、今の分身体全員で戦っても本体を拘束することができない強さにまで達している。


 そんな本体を力尽くで止めようとしても、簡単に突破されちゃうわけで……。


 だから、どうやって足止めしてるのかな? と聞いたんだけど、


「『厨二ゼリフ対決で、厨二ジョーカーに勝ったら行ってもいいよ』って言ったら大人しくなったよ。多分、今頃、一生懸命厨二ゼリフを考えてるんだと思う」

「あー、それはかなり効きそう」


 本体は厨二よりも良識があるからね。


 羞恥心を捨て去った厨二に勝てるかと言われたら、多分無理なんじゃないかな?


 今頃は厨二セリフを考えては、部屋の中で悶え転げてそうだ。


「まぁ、審判員が私な時点で、本体に勝たせる気はないんだけど」

「本体が、あれなんかおかしいぞ? とか、勝負する意味ある? って気づく前に屋敷担当クイーンたちがどうにかしてくれるといいんだけどね」

「そうだね。本体って変に律儀だから、しなくていい勝負にもわざわざ乗ってくれるんだよね。……で? 防衛担当の方は何に詰まってるの?」

「あー、これこれ。見てよ、コレ」


 私の目の前に映るのは空中に投影された地球ゴマのような立体映像と、その説明文だ。


「おー、宇宙ステーション」

「そう、宇宙ステーションの操作画面にまで来てると思うんだよ」


 来てるとは思うんだけど……。


 説明文が全部英語で書かれてるので、何の説明なのか良くわからないんだよね。


 とりあえず、空中に投影された文字に意識を向けると、次々と文字が切り替わっていく。


 で、何か機能一覧みたいな一覧表が出てきて、そこの項目のひとつに意識を向けると、機能の説明文と[OK]と書かれたボタンが表示されるだけ。


 ここから、導き出される予想としては――、


「宇宙ステーションの機能一覧表から、その機能のオンオフ? が選べるところまでは発見したんだけど、その機能を操作することができない感じに見えるんだよね」

「なるほど。なんかセキュリティ掛かってるとか、そういうのじゃないの?」

「私たちにこの都市の全権が委譲されてるのに、セキュリティとか掛かるかなぁ?」

「とりあえず、英語の説明文を読んでみれば?」

「中学レベルの英語も怪しい私に、この小難しそうな英文をバリバリ読めと?」

「FPSゲーで外国サーバーにいった時は散々に煽るくせに」

クソ野郎ビ◯チ負け犬ルーザーありがとうセンキューしか知らないよ?」

「三分の二が煽り用語なんだけど……。とりあえず、単語くらいならいけない? ……いけないか」


 愛花ちゃん辺りに聞けば教えてくれそうなんだけど、ひとつひとつの機能の説明文が全部違うから、全部尋ねてたら流石にキレられそう。


 なので、わかる範囲で読んでいこうとするんだけど、今のところ開いた項目は、全て説明文と[OK]ボタンしか表示されてなくて、機能を操作できそうな気配が全くない。


 こんなことで宇宙ステーションが操作できるのかな?


「とりあえず、項目を片っ端から開いてって選択肢みたいなものがないかどうかだけでも確認してみたら? で、選択できる項目を見つけたら、その説明文を読んで、操作できそうなら操作するって形で」

「そうだね。そうしよっか」


 というわけで、古代都市内部調査担当ダイヤの意見を採用して、膨大な項目群をひとつひとつ確認していくことにする。


「「…………」」


 けど、設定を変えられそうな項目が全くない。


 項目説明を開いては閉じてを延々と繰り返す作業が続く。


 そんな作業を一時間もやったところで、とうとう古代都市内部調査担当ダイヤが音を上げた。


「そろそろ私、本体の様子を見に行ってくる」

「ん、わかった」


 相応の名目で脱出するには丁度いい時間帯なんじゃないかな?


 というか、なんの身にもならない調査を二人でボーっと一時間も続けてると、これでいいんだろうか? って気にもなってくるしね。


 で、ここからは延々と一人で項目を確認していく。


 というか、意味もわからない言葉を無心で確認していくって、ホント辛い。


 まるで修行でもしてるかのようだ。


 いや、修行はちゃんと自分の身になるから、まだやりがいがあると思うんだけど、これは見たこともないような文字の辞書を一ページずつ確認していくような作業だからね。


 私の目が徐々に死んだ魚の目のようになっていくのも仕方のないことだと思うよ?


 学校での勉強は嫌いじゃなかったけど、勉強が苦手な子ってこんな感じだったのかなーと、なんとなく悟りを開いてしまうぐらいには辛い。


「というか、さっきから[OK]ボタンばかりで、選択肢が現れないっておかしくない? 少しぐらいは[Yes]/[No]みたいな選択肢が出てもいいんじゃない? バランスおかしいでしょ……」


 私がそう愚痴をこぼしたからだろうか。


 ▶【バランス】が発動しました。

  選択肢のバランスを調整します。


 視界の隅に表示されたシステムメッセージと共に、空中に表示された説明文にプラスして[Yes]/[No]の選択肢が表示される。


「え、なになに? なんか選択できるようになった? え、どうしよう……」


 【バランス】さんのおかげかな?


 選択できるようになったのは嬉しいんだけど、説明文で何を問われているのかは私にはよくわからない。


 なんたらかんたらという機能をピュルゲする? って聞かれてる気がするけど、ピュルゲってなんだろう?


 とりあえず、[No]だとなにも変わらないと思うから、[Yes]を選んでみる?


 うーん。


 よし、ピュルゲpurgeしてみよう!


 というわけで、[Yes]を選択。


 次の瞬間、目の前に浮かんでいた宇宙ステーションの立体映像が回転の動きを遅くして止まり始める。


「ん?」


 そして、完全に動きが止まったと思ったら、ボボボンッと小さな爆発が立て続けに起こり、宇宙ステーションの周りを回っていた輪っかみたいな部品のひとつが外れて、ゆっくりと落下していく。


 あれ?


 なんか予想外の事態が起きてるような?


「え? あれ? これ、リアルタイム映像? え?」


 輪っかの部品は立体映像の下側へと落ちていってしまい、そのまま姿を消してしまった。


 これが、本当にリアルタイム映像だとすると、その落っこちていった先には……この星があることになる?


「み、見なかったことにしよう……」


 私は素知らぬ顔で、立体映像を映し出していたコンソールの電源をスッとオフにするのであった。

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