第323話
【
▶【バランス】が発動しました。
選択肢のバランスを調整します。
「なんか出てる……」
帝都上空――。
私は視界の端に出たメッセージを見て、一瞬だけ動きを止めたものの、すぐに気持ちを切り替える。
【バランス】さんの動きは気になるけど、それ以上の光景が眼下に広がっていたので、今はそこを気にしてる余裕がない。
「というか、コレどうなっちゃうの……?」
鉄と蒸気の街並みの中では魔導灯の明かりが頼りなく灯っており、それとは別に金色の機械人形の輝きや、雨の中でも燃え続ける施設が水鏡に反射して辺りをテラテラと照らし出している。
そんな中で、まるでカマキリの卵が孵るかのように、ワラワラと竜が街中に出現してるんだけど……。
数でいったら、百や二百?
いや、もっといるのかな?
下手すると千ぐらいいるかも……。
そいつらが巨大化しては街を破壊し始めてる姿は、わりと終末世界観が満載な光景だ。
というか、竜とまとめちゃったけど、現れた竜は形も色もサイズも様々。
小さいサイズの竜は一番数が多く、その辺でぽこぽこ出現してるけど……。
あー……。
どうやら、実力的にはツナさんに瞬殺されるレベルみたいだね。
それだとA級冒険者以上、EOD以下って感じかな?
中くらいの大きさの竜は……全体の割合的には数が少なく、三割程度?
それでも三百体前後はいそうかな?
そして、そんな中型竜と、禍々しい鎧を着た人と白スーツの人が死闘を繰り広げてる。
あぁ、そこを通すと帝城にまで辿り着いちゃうからか。
それだと、必死にもなるよね。
まぁ、通してくれても
うーん。
中型竜は動きを見る限り、EODクラスかな?
クラン・せんぷくメンバーでも単騎討伐は難しそうな気がする。
そんなのが、三百体も街中を闊歩してるとなると、クランリーダーとしては心配になっちゃうよ。
「タツさん、リリちゃん、ちょっと急げない? 事態が切迫してるかも?」
「わーっとるわ! せやかて、集中せなアカンのやから、しゃあないやろ!」
まぁ、急かしてどうにかなるものでもないしねぇ。
見守るしかないか。
「……よっしゃ、えぇやろ」
しばらくしてから、タツさんの準備が整う。
ようやく魔法のイメージが固まったらしい。
「【古代魔法】【マルチダークアバター】」
タツさんの言葉と共に、夜空に展開されるのは十にものぼる自身の影。
それが、実体を持ち、横にズラッと並ぶ様はどこか壮観でもあった。
「よっしゃ、上手く【古代魔法】が発動したわ」
そう、【古代魔法】。
タツさんが使ったのは【古代魔法】だ。
そして、教えたのは私。
いや、ね?
つい先日タツさんやブレくんが死にかけた一件があったんだけど、その流れでクランメンバー全員を色々とパワーアップさせなきゃって使命感に駆られちゃって……。
その流れで、タツさんに希望を聞いたら、武器じゃなくて、【古代魔法】が欲しいって言うもんだからさ。
教えちゃったんだよね、【古代魔法】。
いや、そんな簡単に覚えられるものなの? という疑問はあると思う。
けど、この【古代魔法】――実はスキル取得条件が意外と緩く、一定以上の魔攻と精神のパラメータを持っていれば、誰でも取得できるようなシロモノだったりするんだよね。
条件さえ満たしていれば、後は【古代魔法】の使い手に教えてもらえば、スキル経験値が徐々に溜まり、勝手にスキルが生えてくるといった仕組み。
こう聞くと、取得難易度がとても易しいと感じるかもしれないんだけど、そもそも【古代魔法】を使える使い手がほとんど在野には存在しないというね。
私だって、本体がミリーちゃんに教えてもらって初めて覚えた感じだし。
使い手に出会うということが、まず難易度が高いし、その使い手に時間をとって教えてもらうというのが更に難易度が高いといったような、ちょっと特殊な取得難易度の高さを誇るスキルなんだよね。
なので、タツさんも【古代魔法】が覚えられるかどうかは運次第ぐらいに考えてたらしいんだけど……。
まぁ、こんな近くに使える人がいたっていうね。
ダメ元で聞いてみたらアタリを引いたというかなんというか……。
私的には「え? そんなに喜ぶこと?」って感じだったんだけど、タツさん的には武器なんかよりもよっぽど嬉しかったみたい。
私が教えると言ったら、小躍りしてたよ。
それを「レッドスネーク、カモ〜ン」ってイジったら、「蛇ちゃうわ!」って怒られたけど……。
というか、タツさんは元々【古代魔法】を取得することを念頭において、ステータスを成長させてたみたい。
で、折角教える機会を設けるなら、タツさんだけに教えるのはもったいないから、ついでにリリちゃんにも教えようとなったわけなんだけど……。
「リリやん、やれるか?」
「はい、問題ないです!」
「せやったら、頼むわ。ワイがリリやんに合わせるから、派手にやったろうや」
「はい、やります! 【古代魔法】【ブレイジングブラストシャワー】!」
「「「【ブレイジングブラスト】✕10!」」」
【火魔法】レベル9である【ブレイジングブラスト】。
本来は、火の熱線を相手に向けて放つ魔法だ。
この魔法の面白いところは、消費MPを任意で設定できること。
MPを大量に支払えば、ごん太のビームが放出できるし、MPの消費を押さえれば、細い火線が相手をチョロチョロと炙るみたいなこともできたりする。
リリちゃんは【古代魔法】を使って、その【ブレイジングブラスト】をシャワーのように周囲にばら撒くように改造したみたい。
ちなみに、【古代魔法】は魔力を使って、魔法効果を自由に決めることができるんだけど、当然、無茶な効果を実現しようとすると馬鹿みたいに消費MPを要求されることになる。
なので、考えたはいいけど、『使用MPが足りません!』みたいなことが起こったりする。
その辺はスキルレベルが上がると少しは緩和されるんだけど、今回は既存の魔法を改良する形で、消費MPを抑えたみたいだね。
リリちゃんが使った【ブレイジングブラストシャワー】は【ブレイジングブラスト】を元にして改良したものだし、タツさんが使った【マルチダークアバター】も【ダークアバター】を改良したものだしね。
そして、既にタツさんはユニークスキルである【魔道王】を使っていたみたい。
リリちゃんが発動した【ブレイジングブラストシャワー】のタイミングに合わせて、ノータイムで【ブレイジングブラスト】✕10を重ね合わせて、更に【ダークアバター】十体が【ブレイジングブラスト】✕10を完全に同時のタイミングで重ね掛けしている。
魔術や魔法には、完全にタイミングを合わせて発動すると、その威力が爆発的に上昇するって効果があるんだけど……。
えーと……。
タツさんって、十倍【ブレイジングブラスト】を十一回も重ね合わせちゃったの?
それを同じ【ブレイジングブラスト】系である【ブレイジングブラストシャワー】に同じく重ね合わせた?
多分、【ブレイジングブラストシャワー】って、名前の通り【ブレイジングブラスト】をシャワーのように周囲にばら撒く魔法だよね?
しかも、リリちゃんが発動したから、【必中】効果が乗っちゃうよね?
え、それ、大丈夫?
街ごと吹き飛ばないかな?
キュキュキュ、と異音を発しながら小さな太陽みたいな炎の球がリリちゃんの前で高速回転してるんだけど……。
あれかな。
【ブレイジングブラストシャワー】の消費MP量を徐々に上げていくことで、急な発射を防いでる?
そして、リリちゃんがキョロキョロと眼下を見回す。
多分、狙いを定めてると思うんだけど……。
頼むからプレイヤーとかには当てないでね?
竜や金色機械人形は目立つから、それはないとは思いたいけど……。
万が一だけは本当に勘弁してね?
「いきます――
瞬間、世界から音が消えた。
リリちゃんの目の前にあった小型の太陽が一際強い光を放ったかと思うと、上空に無数の光線を撃ち出し、その光の線が上空で折れ曲がるなり、一直線に地上へと降り注ぐ。
見ていた私はなんとなく和傘の骨みたいだなぁと思いながらも、その火線が刹那で地上の竜と機械人形を捉えて灰燼に帰す瞬間を目撃する。
…………。
いやぁ、ヤバ過ぎるでしょ……。
光の盾が一瞬で融解して、機械人形が秒も保たずにポリゴンになっちゃってるし。
竜だって、火属性とかに強そうな感じなのに、一撃でポリゴンになって消えていくし。
時折、火線を回避しようとして羽ばたく竜もいるけど、あり得ない動きで光線が追尾してきて、一瞬で竜を光の粒子に変えてるし。
ナニコレ? 魔王の所業かな?
いや、リアル魔王は別にいるんだけども。
「と、とんでもないですね……」
光線が地上に降っては竜や機械人形を瞬く間に排除していく様子に、イライザちゃんが恐れ慄いたように呟く。
確かにとんでもない威力だけど……。
それでも、その攻撃が通じない相手もいる。
「そのとんでもないのが通じない相手もいるようだけど?」
「ですね……」
上空に浮かぶリーゼンクロイツ。
そちらにも幾条かの光線が飛んだんだけど、光線はリーゼンクロイツに当たる前に光の粒子に分解されて儚く散っていた。
やはり、いくら威力があろうともスキル系は無効化されちゃうってことなんだろうね。
リーゼンクロイツは相変わらず上空で健在だ。
「イライザちゃんは、アレにどうしても乗り込みたいの?」
「はい。待ってる人がいますので」
「そっか」
イライザちゃんが言うには、どうしてもあのリーゼンクロイツの奥にまで乗り込みたい理由があるらしい。
そもそも、私らと出会ったのも、元を辿ればリーゼンクロイツの奥に行こうとして無茶を押し通そうとした結果だしね。
それだけ本気ってことなんだと思う。
「じゃあ、取りあえず、どうにかして乗り込む方法を――」
『この痴れ者がぁぁぁっ!』
瞬間、私たちの眼下で何かがキラリと輝く。
何? と思った瞬間には、リリちゃんの【ブレイジングブラストシャワー】を避けて、こちらに向かって高速で飛翔する白銀の巨体が見えた。
それは、巨大な竜。
小型竜よりも、中型竜よりも巨大な、他の竜とは格が違うと言わんばかりの大型竜だ。
これは、もう、なんというか……。
見た目からしてヤバイ相手っぽい……?
『我こそは魔神竜ギュスターヴ! 永き時を生き抜いてきた古竜の一柱なり! その我に、ほんの僅かであろうとも死を覚悟させよったなぁぁぁ! この罪は重いぞぉぉぉ!』
うん。
ヤバイ相手確定だね。
そして、激おこである。
まぁ、こちらから倒しに掛かってる時点で、ゴメンナサイは通じないんだろうなぁ……。
『我が怒りに触れし、矮小なる者たちよぉぉぉ! 我が最高の秘術を以て今すぐ砕けよぉぉぉ! 死ねぇぃ、【フリーズデストラクションブレス】!』
げげっ! 空中でいきなり動きを止めたと思ったら、問答無用でブレスを放ってきた!
しかも、普通の炎とかそういうタイプじゃない!
真っ白い霧だ!
突き進む霧が広範囲に拡散しながら、私たちの元まで一気に迫ってくる!
『ブハハハッ! このブレスに触れた者は何者であろうとも全身が凍結し、僅かな振動でも粉々に砕け散る氷像と化す! お前たちはもう終わりだぁぁぁ!』
なに、その即死攻撃モドキ!
ズルくない!?
流石に、触れたらダメっぽい霧に触れる勇気はない。
かといって、剣が霧に触れただけでも粉々に砕けそうなので、剣を伸ばして攻撃するというのも躊躇する。
となると、えーと、えーと……。
「ふ……、ふぅ~」
とりあえず、息を吹いてみた。
ゴォォォォォッ!
『ば、バカなぁ! 我がブレスが突風に押し戻されて、戻って来るだとぉぉぉ! こ、このままでは我が氷像にぃぃぃーーー!』
ビキッ!
…………。
うん、でっかい竜の氷像ができあがって、ヒューンと地上に落ちていくね。
「それでえぇんか……?」
タツさんが何か言いたそうだったけど、私的にはみんな助かったんだし、万々歳なんだけど……。
なんか反省する点とかあったかな?
…………。
ないね。
▶【ヤマモト流】に【邪神ブレス】が登録されました。
私が自省してないのを見計らったかのように、メッセージが表示される。
というか、人の「息ふぅ〜」を【邪神ブレス】とかいう禍々しい名前に変更しないで欲しい!
一応、登録された技の詳細をチラッと確認してみると、
====================
【邪神ブレス】
邪神の息は死の香り。
====================
それだと私の口臭がクサイみたいじゃん!
このフレーバーテキストには断固抗議だよ!
私がプンスカ怒っていると、カチカチに凍りついた大型竜が地面に激突して砕け散る。
あちゃぁ、また派手に飛び散ったなぁと見ていたら……。
<匿名のプレイヤーたちの手によって、ネームド『魔神竜ギュスターヴ』が退治されました。>
▶ネームド『魔神竜ギュスターヴ』を初討伐しました。
▶称号、【魔神竜殺し】を獲得しました。
▶【神竜の素養】を獲得しました。
▶【旧神の克服(弱)】を獲得しました。
「「「…………」」」
すんごい目でみんなに見られるんですけど。
いや、待って?
今のは、私悪くないよね?
襲い掛かられたから撃退しただけだし。
そもそも、自分の攻撃が自分に通るんかいって話だし。
なんかあっさり風味強めなのは、ネームドなのに三下っぽく登場してきて、三下っぽくやられちゃうのが悪いんだよ。
だから、私は悪くない!
「じゃあ、取りあえず、どうにかして乗り込む方法を考えないとね――」
「いや、今の流れ、完全になかったことにする気なん……?」
…………。
え? なんかありましたっけ?
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