第322話

デスゲーム担当スペード視点】


「うぉぉぉぉ! スゲェ! 一瞬で竜を倒しちまったぞ!」

「あんな変質者風味なNPCいたか!? 強すぎだろ!?」

「やっぱり、時代は変質者だな! 変質者こそ正義!」

「「「変質者! 変質者! 変質者! 変質者!」」」


 なんだろう。


 周囲が変質者の話題で盛り上がってる。


 世の中に空前の変質者ブームでも到来したんだろうか?


 だとしたら、嫌な世の中だよね。


「やはり、あのデカブツに命中させて落とすとなると、これぐらいの規模と頑丈さは必要だろうな」


 おっと、いけないいけない。


 意識を他に向けてたね。集中しよっと。


「けど、流石に病院施設を投げるわけにはいかないですよね、魔王様?」

「まぁな。そもそも、中の一般市民をどうにかしないと使えまい」


 入れ墨ハゲを撃退(?)した私と魔王は、ドルトムント皇帝から質量兵器として『公共施設なら使っても良い』という許可を得たので、そのとなる建物を探していた。


 この帝都は、ガーツ帝国の首都ということもあってか、それなりに公共施設が多い。


 だけど、帝都はつい先程から爆撃を受けてる上に、金色機械人形が暴れていることもあって、なかなか原型を留めている建物が少なく、程よい投げやすさの建物を探すことが困難だったのだ。


 例えば、冒険者ギルドは半壊して投げ難そうだったし、商業ギルドは消火活動が間に合わなかったのか全焼状態で投げる部分がなかったり、とかね。


 教会は投げるのに向いてそう(なんか尖ってるから)だったんだけど、あれはメルティカ法国の建物だから、ガーツ帝国の公共施設には含まれないみたいで、投げちゃダメって魔王に言われちゃったし。


 他は帝国軍の軍事施設にも行ってみたんだけど、市民のために体張ってる軍部に対して、その仕打ちはあんまりだろう!? と拒否されちゃったんだ。


 そして、ようやく投げられそうな大きな建物を見つけてやってきた結果、なんか病院と消防署を見つけたんだけど……。


「消防署ならいいかなぁ?」

「こちらも中に人がいるようだ。それに、雨が降っても火災が続いている場所もある。この騒動が終わって、そこを鎮火するための組織も設備も無くなっていたら困るだろう」


 というか、そもそも投げられて困らない建物なんてないんじゃあ……?


 あ、解体作業前のビルとかなら……。


 いや、そんな建物都合良くあるかなぁ?


「それにしても、魔王様」

「なんだ?」

「こう……足りなくないですか?」

「足りない? 何がだ?」

「警察署とか」

「ケーサツショ?」


 私の感覚だと、病院と消防署があるのに、警察署がないことにモヤっとするんだけど。


 なんだろう、こう、病院と消防と警察は三点セットというか、三種の神器というか。


 なんで警察署だけないんだろうね?


 治安維持には軍隊があるから、警察は要らないってことなのかな?


 それとも、騎士が警察の役割を担ってるから、警察という概念そのものがないとか?


 うーん……。


「そもそも、魔王様は警察ってわかります?」

「なんだそれは」


 やっぱり、警察機構そのものがLIAの世界観の中にないっぽい?


 私がそんなことを考えてると――。


 ▶【バランス】が発動しました。

  選択肢のバランスを調整します。

 

 視界の端にいきなりバランスさんのメッセージが現れたんだけど……。


 いや、選択肢のバランス……?


 …………。


 どういうこと?


 ■□■


【Take視点】


 唐突だが、俺は今絡まれている。


『グルルル……!』

『ギュルルル……!』


 真っ白いヒョウなのか? それともチーターか? 多分、猫ではないと思うのだが……。


 とにかく、でっかい豹柄のアニマルに絡まれていた。


 いや、こちらもカオスファングという真っ黒な巨大狼だから、縄張り争い的なものを意識して、警戒されているのかもしれないが……。


「こら! ワビスケ、ステマル! ステイネ!」

『『キューン……』』


 さっきまで『やんのか? お? やんのか?』みたいなステップを踏んでいた白豹(?)二頭が女冒険者の足下に縋り付く。


 確か、この女冒険者は……ミンファと言ったか?


 リンム・ランムで活動している冒険者パーティーのテイマーだと、ヤマモトには説明されたような……?


 ということは、この白豹はこの女のテイムしたモンスターということなんだろう。


 少々躾がなってない気がするが大丈夫か?


「ワビスケ、ステマル、皆仲良くヨ!」


 ミンファの命令を受け入れたのだろう。


 二頭の白豹がゆっくりとこちらに近づいてくる。


 なんだ? 詫びでも入れる感じか?


 そう思っていたら、白豹たちはおもむろに俺の背後に回り込もうとしてくるではないか。


 …………。


 ――!


 おい、やめろ!


 俺のケツの臭いを嗅ごうとしてくるんじゃねぇ!


 俺は狼型の魔物族だが、プレイヤーだ!


 そういうことをやる習性はねぇんだよ!


 円を描くようにささっと逃げ始めると、そういう遊びだと思ったのか白豹二体が、俺の後ろを若干本気になって追いかけてくる。


 …………。


 いや、息荒くなってるし、なんかスイッチ入ってねぇか!?


 ネコ科はそういうトコあるから嫌なんだ!


 俺は二頭の白豹と追いかけっこをしながらも、ミンファと呼ばれた女を睨みつける。


「馬鹿野郎、笑ってないでコイツらを止めやがれ!」

「ゴメンヨ! ワビスケとステマルのフレーメン反応が見たかったネ!」

「俺のケツがクセェ前提で話すんじゃねぇ!」


 アバターだから生理現象とかはないし、臭くはないはずだ! ……多分!


「おい、そこの冒険者たち! フザケてるんじゃない! ここを抜かれたら多大な犠牲者が出ることになるんだぞ! 真面目にやれ!」

「す、すまないネ……」

「悪かった……」


 帝国軍の将兵に怒られる。


 そして、主人が謝ることになったからか、白豹二体が俺に物凄くメンチを切ってくるんだが……。


 いや、お前らのせいで怒られたんだからな?


 なんで、そんな事実はなかったみたいな顔して調子に乗れるんだよ?


 モンスターだからか? モンスターだからなのか?


 そういう精神性してるからモンスターなんだよ! このケダモノめ!


「まぁ、あまりふざけない方がいいよ。皆もピリピリしてるし……」


 ユウという冒険者が、まぁまぁと宥めてくる。


 そう。


 俺は現在、リンムランムの冒険者パーティーと一緒に防衛線を支える手伝いをしている。


 どうやら、帝都の守備隊は帝都の真ん中辺りにある病院施設と消防施設を守るために、そこに陣を敷いたらしい。


 現在は【土魔法】の使い手の活躍もあって、その施設までの侵攻ルートを二つまでに絞り込み、敵軍の数が多い表ルートをガーツ帝国軍四天王、大盾のノルディアが防衛し、敵軍の数が少ないであろう裏ルートをノルディアの副官であるバーツという男が防衛しているといった状況だ。


 まぁ、少ないと言っても、見える範囲でわりと機械人形がうじゃうじゃしており、決して油断できる状況ではないのだが……。


 というか、道幅が狭い分、一斉に飛び掛かってこれないというだけで、数から言ったら本隊オモテが受け持っている分とどっこいどっこいなのではないだろうか?


 俺は、クラン・せんぷくのメンバーとして、ただ一人こちらの本命ではない裏の侵攻ルートの守備に割り当てられている。


 というか、クラン・せんぷくのメンバーの割り当て、おかしくねぇ?


 表ルートに、ツナ、ブレ、ミサキ。


 裏ルートは、俺だけって……。


 戦力格差が大きいと思うんだが?


 まぁ、それだけこっちのルートは負担が少ないと考えることにしよう。


 ちなみに、タツとリリとイライザとヤマモトは上だ。


 上空から、一気に機械人形どもを狙い撃ちするつもりらしい。


 だから、俺がやるのは相手の殲滅ではなく、時間を稼ぐことになる。


 時間さえ稼げれば、後はリリたちがなんとかしてくれるはずだ。


 だから、そこまで絶望的な状況というわけでもない。


 あと、こちらの防衛線にはリンムランムの冒険者パーティーから、ユウ、アラタ、ミク、ミンファ、荒神が参加している。


 ヤマモトが紹介してきた連中なのだから、とりあえず数だけは多いメサイアの有象無象よりは頼りになる……はずだろう。多分。


 まぁ、ヤマモト自体が信用できねぇんだが……。


 俺が苦い顔でそんなことを考えていると、何やら周囲の様子がおかしい。


 まだ機械人形との距離があるために待機中だった冒険者のプレイヤーたちが、急にザワザワとし始めた。


 なんだ? 異常事態か?


「おいおいおい、何かさっきよりも金色のロボの数が増えてねーか!?」

「誰だよ! こっち側の守りの方が敵少ないから楽だって言った奴!」

「っていうか、待て! アレを見ろ!」


 徐々に数を増やす機械人形の集団。


 そして、その機械人形の集団を追い立てるようにして、後方で大きく両翼を広げる巨大な生物の姿――。


 立派な角に鋭い鱗、牙も爪も恐ろしく巨大で鋭く、コウモリのような両翼と長い尾は見間違えようがない。


 あれは、竜だ!


 ファンタジーでの定番要素!


 だが、この状況で出くわすというのは完全に予想外だった。


 というか、機械人形に攻められてるだけでも苦しいのに、それに加えて竜?


 無理ゲーが過ぎるだろ!


「ヒィッ!? 俺は降りるぜ! あんなのと戦うだなんて聞いてない!」

「俺だって、メサイアに入って楽してオイシイ思いがしたかっただけだ! あんなのと戦ってたら命が幾つあっても足りねぇよ!」

「そ、そうよ! 逃げましょう!」


 何人かのメサイアのメンバーらしき冒険者たちが踵を返して逃げ出す。


 逃げたところで、向こう側は向こう側で戦闘中だろうに……。


 だが、敵前逃亡をしたプレイヤーがいたことで、少なからず他の連中に動揺が走る。


 俺も俺も、と逃げ出す冒険者が続出する中で――、


「落ち着かんかっ!」


 それを律したのは、バーツというこの集団の統率を取っているNPCだった。


 見た目の印象は茶髪角刈りの堅物。昔気質の軍人といった感じだ。


 その男が、ともすれば潰走しそうになっている集団に喝を入れる。


「我々の目的は、この帝都の民を守ることだ! そして、その目的を達成するためには、我々は任された持ち場でそれぞれの任務を真っ当しなければならない! それは例え相手が竜であってもだ! 死ぬ気でこの場を守れ! 腹を括って帝都を守る気概を見せろ!」


 言ってることは気合の乗ったいい言葉だっただろう。


 だけど、具体的な策は何もない。


 ただ、国のために死ねと言われただけか?


 だが、バーツの声の圧は凄かった。


 おかげで走っていた動揺がピタリと止んだ。


 そういうスキルでも持ってるんだろうか?


「まずは金色の機械集団に対応する! 竜に関しては適宜対応せよ! 魔法部隊、前へ!」


 帝国軍の魔法部隊が前に出る。


 それに合わせて、冒険者の中でも魔術や魔法に秀でた者たちも前に出る。


「じゃ、アラタくん。行ってくるね」

「気をつけろよ、ミク。危ないと思ったら下がるんだ」

「あははは、竜が後ろに控えてるからねー。ブレス吐かれたら一巻の終わりかも……」


 リンムランムのパーティーからはミクというプレイヤーが前に出ていくので、俺も伴うようにして前に歩き出す。


「あれ? Takeさん、だっけ? キミも魔法使い系のビルドなんだ?」

「まぁ、それなりにといったところだ」


 大武祭の時に覚えた【火魔術】。


 リリとのダブル後衛をやったりしている時に使う機会も多く、勝手に育ってしまった。


 それに、ミチザネ戦で【火魔術】や【火魔法】のスキル経験値を荒稼ぎしたこともあり、【火魔法】の中級ぐらいなら俺でも使える。


 だから、俺も魔法部隊として参加する。


「魔法部隊、撃てぇー!」


 【火魔術】、【火魔法】、【風魔術】、【闇魔術】など、様々な魔術や魔法が飛んでいく。


 そんな飽和攻撃に機械人形たちも堪らず、前面を守るようにして前方に光の盾を構え始めた。


 これは、正面から撃っても無駄だな……。


 狙うなら――、


「そこだ。【フレイムボム】」


 【火魔法】レベル2の【フレイムボム】を機械人形たちの足下で発動させてやる。


 【フレイムボム】は設置型の魔法で、指定した位置に強力な爆発を起こし、爆発ダメージを与えると共に、炎症によるスリップダメージを与える魔法だ。


 普通の遠距離攻撃系の魔法だと、光の盾に防がれてしまうが、光の盾が前方を守っている今だったら直接足下を爆発させることで、ダメージを与えることができる。


 俺の意図に気付いた何人かが、同じく設置型の魔法を機械人形の足下に放ち、着実にダメージを与えていく。


 少なくない数の機械人形の動きが鈍ったのが何よりもの証拠だ。


「よし、盾職タンクは前に出て、機銃掃射を誘発させよ!」


 バーツの号令一下、大盾を持った帝国兵が前に出て、冒険者の中でもタンクと呼ばれる物防とHPが高い者たちが前に飛び出していく。


 そして、俺も魔法を撃ち終えたので、前に飛び出していく。


「おいおいおい、大丈夫なのか、アンタ!」


 走りながら、俺に声を掛けてきたのはアラタという冒険者だ。


 彼は筋骨隆々のがっしりとした体格で、見るからに盾職という言葉が似合いそうに見えた。


 一方の俺は、図体はデカいが盾も持てない四足歩行の魔物族。


 タンクという感じには見えないことだろう。


 だが、元々はタンクをこなしていたし、この進化先になってからも避けタンクとして前衛に出たりすることも多かったりするのだ。


 相手の攻撃を誘って躱すぐらいなら、俺にだってできる。


「避けタンクだから、アンタらほど役には立たないかもしれないが、それなりに役に立ってみせるつもりだ」

「それならいいが、突出するなよ? 集中砲火を受ければ、瞬時に消し飛ぶからな?」

「わかってる」


 ウチのブレあたりなら集中砲火を受けても平気そうだが、やはり死ぬのだろうか?


 気になるといえば、気になるが、今は現状に集中しよう。


 大盾を構えた男たちが、機械人形たちの機銃掃射を引き出す中で、俺は味方の隊列をチェックする。


 やはり、か。


 冒険者の中に少しだけ突出してしまったらしい人影がある。


 本人は気づいてないんだろうが、なかなか盾に当たる銃弾のエフェクトが酷いことになってるな。


 俺はソイツの近くに行くと、銃弾の収束を防ぐために射撃の範囲に飛び込んでは離れて、といった動きを繰り返す。


「おい、邪魔だ! ワンコロ! 蜂の巣になりたいのか!」


 ソイツからは怒られたが、そういう台詞は盾の耐久値を確認してから言ってもらいたい。


 俺が攻撃を釣ってなきゃ、その罅の入った盾はすぐにでも粉々になって死んでたんだぞ?


 一応、「盾の耐久確認しとけ」とだけ告げて、その場を離れる。


 換えの装備を用意してれば、いいんだが……。


 やがて、機銃掃射で溜まった熱を放熱する時間となり、接近戦が得意な冒険者が我先にと突っ込み始める。


 それこそ、バーツの号令が一拍遅れるぐらいには、血の気の多い連中が集まっていたらしい。


「命令を聞かぬか! えぇい、冒険者隊! 掛かれッ!」


 というわけで、俺も突撃する。


 近くで「え?」という声を聞いた気がしたので、視線だけを向けると、冒険者部隊に割り振られていたのか、後方から走ってきたユウと目が合った。


「いや、Takeさんってアタッカーなんですか?」

「避けタンクができるからな。当然、アタッカーにもなる」

「そ、そうですか」


 元々、避けタンクのメリットはスピードを活かして相手の攻撃を避けながら、そのままアタッカーに転じることもできる点にある。


 ウチのクランメンバーではミサキが受け持っているポジションではあるが、アイツは最近普通にアタッカーのような動きをすることが多くなっているので、俺が代わりにそのポジションで動いたりすることもあるのだ。


 もちろん、ミサキほどの動きはできないが、ヤマモトが作った強力無比な装備の力を借りれば、俺だって相応にアタッカーとして機能できる。


『グルゥ!』

『ギャオゥ!』


 機械人形たちの集団に飛び込んでいった白豹二頭の後を追い掛けながら、俺も前脚に装備した爪武器で機械人形たちを撫で斬りにしながら、戦場を縦横無尽に駆け回る。


 ――ガッ、ピッ、ガッ、ガァァァァ……!


「お、おい、なんだ!? 急に機械人形たちが同士討ちを始めたぞ!?」

「いや、こっちは急に石化し始めてるぞ!」

「なんだ、このエフェクト!? 毒か!? なんで!?」


 そして、唐突に始まる機械人形たちの混乱。


 魔王護衛の依頼の前に「みんなにはパワーアップしてもらうよ!」とか言って、ヤマモトから渡された真っ黒い爪の装備……。


 【うごうごクロー】とかいうフザけた名前のくせに、「絶対に【鑑定】しちゃダメだから!」と念押ししてたから、なんか嫌な予感がしてたんだが、攻撃をあてた相手が完全におかしくなってるじゃねぇか!


 なんだこれ!


 状態異常に特化した武器か!


 こんなの誤って味方にあてたらどうすんだよ!?


 危な過ぎて気楽に使えねぇだろうが!


 そういうことはちゃんと説明しとけよな!?


 戸惑いながらも、機械人形たちに状態異常をバカスカとばら撒いていく。


 戦況が優位になるなら……と今は文句を飲み込んでおこう。


 でも、絶対に後でヤマモトには文句を言わねぇとな!


 とりあえず、機械人形たちを倒すのではなく、一撃を加えては状態異常にすることをメインに立ち回る。


 やがて、十分にかき回したところで後退の合図が出たので、部隊の後方へとみんなと一緒に戻っていく。


「いやぁ、なんか良くわからないが、ロボの動きがおかしくて助かったな!」

「もっと同士討ち多くても良かったよな!」

「な!」


 同じタイミングで戻ってきた連中から、そんな言葉が聞こえてくるとちょっと嬉しい。


 だが、喜んでばかりもいられない。


「アラジン、大丈夫ネ!?」

「……しくじった」


 後方に戻ったら、冒険者部隊に配属されていた荒神が負傷したらしく、石畳の上に寝かされていた。


 聞けば、目の前の機械人形が突然奇妙な動きをし始めたせいで、攻撃を上手く躱せなかったらしい。


 …………。


 いや、それ、俺のせいじゃん!?


 むしろ、ヤマモトのせいか!?


「傷が結構深いヨ! 【ポーション】ないネ!?」

「aikaちゃんが使った方が効率がいいからって、aikaちゃんに全員分の【ポーション】預けてたの忘れてた! ど、どうしよう!? 今からaikaちゃん呼んでくる!?」


 慌てふためく女性陣。


 そんな二人を押し退けて、俺は荒神に近づくと、


「【オーラヒール】。これで治っただろ?」

「……助かった」


 荒神の傷を癒す。


 まぁ、俺の手に負えないような傷じゃなくて良かったぜ……。


「いや、待って待って? Takeさんって攻撃魔法の使い手じゃなかったの?」

「えぇ? アタッカー思てたヨ? ワビスケもステマルも見てた言てるシ……」

「いや、避けタンクとしてタンク隊に参加してたよな?」


 アラタまでやってきて、俺の役割ロールが何かでゴタツキ始める。


 というか、クラン・せんぷくのメンバーが全員揃った場合での俺の役割は……。


「俺はクランの中での役割は回復職ヒーラーだぞ?」

「「「えぇ……?」」」


 そもそも、他の役割はスペシャリストが揃っていて、俺がその役割を担うのは難しいからな。


 アタッカーはツナだし、タンクはブレ、避けタンクにミサキ、魔法職にはタツもリリもいる。


 というか、回復職もヤマモトがいるから、そうなると俺はサブ回復職ヒーラーか……?


 実は、俺、クラン・せんぷくにとって要らない子だったりするのか……?


「すまん。もしかしたら、俺はクランの中で不必要な存在なのかもしれない……」

「「「いやいやいや、それはない」」」


 そうか……?


 だがなぁ……。


「というか、クラン・せんぷくのメンバーって、aikaちゃんのお姉さんだけじゃなくて、メンバー全員バケモノなの? いや、どうなってるの、ホントに?」

「俺はむしろ普通の方だが」

「「「いやいやいや、それはない」」」


 そんな一斉に否定しなくても……。


 というか、俺をヤマモトのようなバケモノと同列に扱うなよな?


 どう考えても、器用貧乏の木っ端なんだし……。


 だが、ヤマモトからもらった武器の威力を理解できたのは僥倖だった。


 というか、クラン・せんぷくのフルメンバーで行動すると、直接攻撃の機会が無くて、威力を確認できないんだよな……。


 けど、今理解した感じだと、これを使えば竜相手でも倒すとまでは言えないが、時間稼ぎを行うくらいならできそうだ。


「休憩時間は終わりだ!」


 さて、そろそろ機械人形たちが隊列を組み直して侵攻を再開する時間か……。


「魔法部隊、連中の侵攻を止めよ!」

「あ、呼ばれてる。行かなきゃ」

「それじゃ、俺も行くか」


 やっぱりクラン・せんぷくおかしいって……というような会話を背に受けながら、俺は自分の仕事を全うするために動き出す。


 俺の名はTake。


 クラン・せんぷくでのポジションは回復職ヒーラー兼なんでも屋。


 器用貧乏な男である。

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