第309話

デスゲーム担当スペード視点】


 さて、二日の船旅を終えて、ガーツ帝国に初上陸した私たち。


 船酔いでヘロヘロになった愛花ちゃんを介抱しながら上陸したんだけど、そんなことすら忘れてしまうぐらいの驚きの光景が目の前に広がっていた。


「いやぁ、これぞスチームパンクだね!」


 目の前に広がるのは、鉄と蒸気と油の世界!


 建物自体は石造りで、ファーランド王国とはそんなに変わらないんだけど、道路は全てが石畳で舗装されていて自然は無いし、街中の至る所にはガス灯かな? 頼りない灯りが立ち並んでいるし、馬車の代わりに白煙を上げて走る蒸気自動車が目立つ。


 そして、夜も遅い時間になりつつあるというのに、街中から光がなくならない!


 建物と建物の間はキャットウォークやら鉄の橋やらで繋がれ、建物同士が繋がれて、まるで巨大なひとつの繭のように見えるから不思議だ。


 あと、やたらと建物に巨大な時計盤と謎の歯車が! スチームパンクって、なんかそういうイメージあるけどさぁ!


 まぁ、その代償というべきか――、


「aikaちゃん、なんかこの国臭くない? それにうるさい……」

「そうねぇ……」


 ミクちゃんと愛花ちゃんが顔を顰めてるように、街中の其処彼処から白い煙が発生していて、正直スモッグが凄くて星空が見えない。


 それに、油とか鉄の臭いがこれでもかと漂ってきて臭いし、シュコー、シュコーと蒸気機関の音が間断なく続いていて、うるさかったりする。


 ついこの間まで自然豊かな……自然しかなかった……リンム・ランム共和国で過ごしていた私たちにとってはかなり刺激が強い光景だよ。


「「グォゥ……」」

「ワビスケとステマルもココは苦手ダテ言ってるヨー……」


 ミンファちゃんがフォレストアサシン二頭の頭を撫でながら困ったように呟く。


 まぁ、動物は鼻がいいっていうもんね。


 そういう生物にとっては辛い環境かも。


 私たちは顔を顰めながらも、魔王一行を警備する冒険担当クラブたちの後に続いて街中を歩く。


 というか、ガーツ帝国はやっぱり魔王国と物理的に距離があるせいか、魔物族自体を見ることが珍しいんだろうね。


 通りを歩くだけで、魔王一行に向けられる無遠慮な視線の多いこと、多いこと。


 こういう時にこそ、ガーツ帝国側は配慮を見せるべきなんじゃないの? とも思うけど、到着した私たちに護衛の一人も寄越さない辺りに、ガーツ帝国の本音が見え隠れするというか……。


 護衛を用意してただけファーランド王国の方がマシだったのかな?


 うーん……。


「……とにかく、フォーズの街のような失態は避けるべきだろう。まずは宿を確保することを提案したい」


 荒神くんの言葉にみんなは頷くけど、その心配はなかった。


「ほっほっほっ、それでしたら儂の商会の系列店を紹介しましょう。そこで船旅での疲れを十分に癒やして下され」


 というわけで、本日の宿はラジス商会の系列店を紹介してもらえるみたい。


 商会から紹介……。


 駄洒落かな?


 …………。


 いやいや、やはり持つべき者はお金持ちの知り合いってことで!


 フォーズの港でのキャンプも楽しかったけど、やはり元引き籠もりとしては屋内でのんびりと過ごすのが性に合ってるというか、至高だよね!


 決して、駄洒落の寒さに気づいて焦ってるわけではないよ!


 ■□■


 というわけで、一夜が明けた今、私たちはガーツ帝国の帝都リヒトヤールに向けて、街道をひた走っている。


 ラジスさんが案内してくれた宿は、ひたすらに豪華だった。


 豪華というか、高価?


 多分、相当な高級宿だと思う。


 魔王も大満足だった。


 というか、珍しく魔王が少し寝坊したもんね。


 でも、気持ちはわかる。


 寝具とか沈んだもんね、手足が。


 あと、室内に入ったらテーブルの上にフルーツ盛り合わせがあったんだよ! あと、部屋には猫足のバスタブまで完備! ベッドも天蓋付きときた!


 そういうの見ると、ちょっとリゾート感あるし、高級っぽくない?


 時間があったら、もう少しのんびりと宿の中を見て回りたかったんだけど、結局、明日も早いってことで、すぐに寝ちゃったんだよねー。


 そして、今朝方にはラジスさんに見送られながら(ラジスさんはファーランド王国で手に入れた貿易品の荷卸しがあるので付いてこない)、街道を走って帝都にまで向かっている。


 まぁ、走っているといっても自分の足ではない。


 ラジスさんに使ってない荷馬車の荷台部分を借りたので、ミサキちゃんの馬車に連結して、二両編成でラクラクと進んでいる感じだ。


「やっぱり、持つべきものは資本! お金はいいよねぇ!」

「お姉ちゃん、言い方ぁ……」

「そんなこと言ってぇ〜? 愛花ちゃんも自分の足で歩かなくていいから、楽ちんだって言ってたくせにぃ〜?」


 ウリウリと頬を人差し指でつついていたら、ペチンとウリウリしてた手を叩かれた。


「「…………」」


 うん。


 平手はやめて。


 ステータスに関わらず痛いから。


 思わず真顔になっちゃったよ。


 なお、黒姫パーティーは全員が荷馬車に乗って移動している。


 これは、クラン・せんぷくのメンバーとは敏捷ステータスに差があるためだ。


 荷台に乗ってないと普通に置いていかれるからね。


 そして、流石にこれだけの大人数を引いていると、ミサキちゃんの馬車も遅くなるみたい。


 ファーランド王国で爆走してた時より出力が下がってる。


 それでも、その辺の蒸気自動車には負けないのか、何台も蒸気自動車をぐんぐんと抜いていくのは流石だ。


「それにしても、海ひとつ挟むだけで随分と様子が変わるなぁ」


 追い越した蒸気自動車を視線で追いかけながら、ユウくんがしみじみと語る。


「ファーランド王国では、馬車や徒歩が主流だったのに、こちらでは蒸気自動車が主流だし。旅をするにしたって、こんな立派な街道はファーランド王国にはなかっただろう? 文明の差があり過ぎないか?」


 ちなみに、現在、私たちが通っている街道は大街道と呼ばれていて、ガーツ帝国の東西南北に伸びる主要な街道らしい。


 車線でいえば、十車線ぐらいあってアメリカの高速道路かってぐらいに広い。


 そして、そんな大街道は、確かにファーランド王国には存在していなかったものである。


「だよねー。蒸気自動車とか、ファーランド王国に輸出されたりして、流行ってもおかしくないのに、こっちでしか見ないのはなんでなんだろうね?」

「それは多分、街道整備の差だろう」


 ミクちゃんの質問にアラタくんが答えを返す。


 まぁ、そうかな?


 蒸気自動車は平坦な道には強いけど、荒れた道は馬の方が強そうだし、そもそもファーランド王国はガーツ帝国ほどに街道整備に力を入れていない印象がある。


「……俺が聞いた話だとモンスターの強さによるのも大きいと聞いたな」


 出たよ、荒神くんの独自情報。


 どこで、そんな情報を集めてくるんだろうね?


「……ファーランド王国よりも、ガーツ帝国の方が出るモンスターが強力らしい。だから、一般の商人や旅人が対抗するのが難しいそうだ。だが、蒸気自動車で走っていると自然とモンスターが寄ってこないんだとか」

「それは、わかる気がするネ」


 荷台と並行して走るワビスケ、ステマルを見守るミンファちゃんの目がどこか愁いを湛えている。


 蒸気自動車は燃料(石炭? 魔石?)を燃やして、水蒸気を発生させてエンジンを回してるっぽいから、その臭いや音を嫌ってモンスターが襲ってこないんだろうね。


 それは、昨日のワビスケとステマルの態度からもわかる。


「襲ってこないというが、ゼロというわけじゃないだろ。あの様子じゃあな」


 アラタくんの視線の先には、峻険な山の姿。


 といっても、私たちが良く知る山とは少し違っていた。なにせ、その山には圧倒的に緑が少なかったからだ。


「酸性雨とかの影響で木々が根腐れを起こしてるんじゃないか? 結果、自然が少なくなり、生態系に影響を与えて、腹を空かせた凶悪なモンスターが増えている……とかになっていそうだよな? そして、我慢できなくなったモンスターが襲ってくるとかさ」

「いくらLIAといえども、スチームパンクの世界観に環境問題まで落とし込んでくるかしら?」

「LIAならやるんじゃないか? むしろ、やりそうな気がする」


 LIAはなんでもありな部分もあるからねぇ。


 とか思いつつ、何気なく葉っぱの生えてない木を遠くから【鑑定】してみたら、トレントっていうモンスターだった。


 …………。


 もしかしたら、環境問題関係ないかもしんない。


 そこからは、愛花ちゃん、ユウくん、アラタくん、ミクちゃんで現実の環境問題について、あれこれと議論をし始める。


 なんか大学のゼミでそういう研究をアラタくんがしてたらしい。


 で、その話題について四人ともそれなりに知識があるみたいで、廃物利用がどうのこうの、地球温暖化がどうのこうの、海洋汚染がどうのこうのとか言ってるんだけど、正直、中学レベルの知識しかない私にとっては、高尚なお話過ぎてついていけない。


 興味がないともいう。


 ぼんやりと流れていく景色を眺めながら、現実の環境問題の話でなく、もっと喫緊の問題について頭を使った方がいいかな?


 ……眠くなるし。


 というわけで、私は船上で魔王と村長さんと会話した時のことを思い出していた。

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