第305話

 ■□■


【リセマラ7回目視点】


 俺の名は、リセマラ7回目。


 ファーランド王国第三騎士団に所属するプレイヤーの一人だ。


 元々は普通の冒険者をやってたんだが、ファーランド王国の地方の村を襲う野盗たちを自警団と協力して撃退した功績が認められ、騎士団にスカウトされたという……自分で言うのもなんだが……ちょっと変わった経歴のプレイヤーである。


 正直、LIAで冒険者をやってる奴っていうのはわんさといるが、騎士になったってプレイヤーは聞いたことがない。


 だから、功名心とか目立ちたい精神とかそういうのに突き動かされて、騎士団に入ったんだが……。


 なんというか、騎士団が思ってたのとちょっと違うんだよな……。


 あぶな○刑事みたいにスリルとアクションに富んだ刑事モノかと思ったら、踊る○捜査線みたいなサラリーマン気質の刑事モノが始まったみたいな? ガン○ムかと思ったらパ○レイバーだった、みたいな?


 違う、そうじゃない、みたいな感じの騎士生活を送ってたりするんだよ……。


 まぁ、具体的に言うと、「あの先輩騎士はどこそこの貴族家の次男だから絶対に逆らうな! おべっか使え!」だとか、「面倒臭い先輩相手には言質を取られないために遠回しな言い方をしろ」だとか、「あの先輩はこういうルーティンがあるから十五分前には必ず来て準備しろ」だとか、後は任務が街中パトロールして、スリやゴロツキを引っ捕らえるだとか……。


 これが騎士の生活かぁ? っていうのが延々と続く感じだ。


 むしろ、騎士というか兵士?


 どうしても腑に落ちない部分が多かったので、先輩騎士に聞いてみたら、王国で起きた反乱騒動の際に多くの兵士や騎士が死んだので、臨時の騎士って感じで多方面から人材を集めてるんだとか……。


 なるほど。


 だから、王様による任命式もなかったのか……。


 というか、完全に騎士という名目で兵士を釣ってる感じだよな?


 どうりで簡単に騎士団に入れたわけだよ。


 猫の手も借りたいって奴じゃん。


 で、今回――。


 俺は、魔王国からやってきたという魔王……そいつの警護任務についている。


 ぶっちゃけ、魔王に警護なんていらないだろ、強いんだし……と思ってたんだけど、確かに警護は要らなそうだ。


 というか、魔王の護衛にクラン・せんぷくがついてる。


 掲示板の情報のまんまのパーティー構成だから間違いないわ。


 しかも、掲示板でチラッと触れられてたけど、ヤバいぐらいに強い……!


 遠目で戦闘風景を見ただけなんだが、敵を確認して、その五秒後には敵が殲滅とかいうおかしなことをやってる……。


 俺たち騎士団でも十分、十五分は掛かる相手をたった数人で秒殺だもんな。ヤベェよ……。


「どうだった? 魔王たちの顔は?」

「あれはまるで敗残兵でしたよ。肩を落としてしょぼくれて、港に向かってトボトボと歩く姿は今思い出しても……クックック……」


 で、その強さが副団長たちの癪に触ったようだ。


 いや、そもそも、騎士団をぶっちぎって先行するという態度に副団長が切れてしまったのが先か?


 こっちが善意で護衛をしてやろうとしたら、頑なに断るわ、ぶっちぎるわ、護衛の仕事はないとばかりにモンスターを瞬殺するわ……第三騎士団の存在自体を全否定してくる魔王一行に副団長も我慢がならなかったみたいだ。


 結果、このフォーズの街でも一番人気の高級宿……その最上階を借り切っていた商人に「魔王が使うから」と言って、そのフロアを接収。


 今は、そのフロアを第三騎士団が借り切っているという状態を作り出していた。


 要するに、魔王の名前を使って、第三騎士団が贅沢してるってわけだ。


 なかなか副団長も意地の悪い意趣返しを思いつくもんだよな。悪巧みにしても凄いわ。俺は思いつかねえもん。


「ソイツはケッサクだな」

「それにしても、魔王の名前を出しただけで、ここを我々に譲るなんて、商人ってのは何を考えてるんですかね?」


 さっきから、部屋の中央に設えた巨大なソファに腰を下ろして、副団長と小隊長が機嫌良さそうに話している。


 一方の下級騎士である俺たちは隅っこの方で直立不動だ。


 まぁ、文句を言うと怒られるので言わないけど。


「そりゃあ、褒賞石かねだろ。魔王と知己を得ることで商機が増える。ここで恩を売っておいて損はないと考えたんだろう」

「こんな豪華な宿の最上階全てを貸し切るだけの褒賞石があるのに、商人ってのはまだ商機を求めるもんなんですか?」

「連中は褒賞石があればあるほどいいと考えているのさ。俺たち騎士には全く理解のできん価値観だがな」


 そう言って、副団長たちはヘラヘラと笑っている。


 散々小馬鹿にされた魔王御一行に仕返しができて上機嫌みたいだ。


 けど、なんでだろう。


 ここにきて、俺は何故だか非常に嫌な予感を覚えていた。


 というか、副団長たちの会話が小悪党のそれにしか聞こえないのが悪いんだよな。


 これが勧善懲悪の物語だったら、絶対にこちらが討伐される側だろ……。


 それが嫌な予感を覚えさせるんじゃないか? ……正直やめて欲しい。


「それにしても、魔王相手に堂々と嘘をついていいんですか?」

「嘘なんてついてないだろう?」

「え?」

「メルティカ法国の教義によれば、魔王国は人族を攫って奴隷同然に働かせ、富を吸い取り魔物族一人ひとりが贅沢な暮らしをしているという。特に魔王なんかは全てが黄金でできた巨大な城に住むというじゃないか。そんな城と比べたら、こんな宿の最上階のビップルームなんぞ、魔王にとっては犬小屋同然だろう」

「それで、宿と?」

「そういうことだ」

「これは、副団長も人が悪い……クックック……」


 まさに屁理屈。


 その屁理屈を通した結果、魔王は野宿をすることになり、俺たちはぬくぬくと豪華な宿に泊まれるようになったというわけだ。


 まぁ、俺としては屁理屈万歳ってところか。


「こんなことドライ団長に知れたら、どうなることか……」

「――おい、騎士ローリエ。何か言ったか?」


 やべっ。


 こういう時だからこそ、正義感を出しちゃう騎士がいることを忘れてたわ。


 俺と同じ壁際で待機していた金髪の女性騎士が顔に浮かんでいた不満を隠そうともせずに、副団長に向かって口答えする。


「相手は他国の王ですよ? 我々の配慮の欠けた行動のせいで戦争でも起きたら、副団長はどう責任を取るつもりですか?」

「知らなかったのか、騎士ローリエ? 王国第三騎士団は戦争歓迎派だ。このことが団長の耳に入ったとて、褒められこそすれ、怒られることなどありえんよ」

「我々はそれでよくとも、戦争が起きて苦しむのは民草なのです。貴方も騎士であるなら、言葉は良く考えて発言されてはどうです」


 騎士ローリエ。


 金髪、巨乳、ポニテに少しキツイ目つきといい、俺としてはドストライクな見た目をした女騎士NPCだ。


 俺が第三騎士団に入ったばかりの頃には、ローリエに騎士団の規則やら何やらを教わっており、何ていうか身近な優しいお姉さんって感じで……ローリエがいなければ、俺はこんな騎士団なんかさくっと辞めてるぐらいに心酔してる。


 っていうか、惚れてる。


 いや、NPCだから、惚れてるというよりは推しか?


 ただ、このローリエがとにかく堅物なんだよなー。


 正義感は強いのに、恋愛に関してはどこぞの鈍感系主人公か? ってレベルで酷い。


 それでも、俺はローリエが好きなんだけどな!


 むしろ、その堅物なところが好きっていうか、推し活せざるを得ないというか!


 まぁ、そんな感じだ。


「貴様、副団長殿になんという口の聞き方だ! 口を慎め! 副団長殿がその気なら、お前をクビにすることだってできるんだぞ!」

「……ッ!」

「そうだよなぁ? 逆らえんよなぁ? お前さんが騎士職を辞することになったら、病気の母の高額な薬代が払えなくなっちまうもんなぁ? それとも何か? 娼婦にでも身をやつして薬代を稼ぐっていうんなら、逆らってもいいんだぜ?」

「…………」


 ローリエも俺と同じ臨時騎士。


 ローリエみたいな真面目な娘が、このちゃらんぽらんな騎士団を辞めないのは、病気のお母さんのためなんだよな。


 腐っても公務員だから、賃金の面では安定してるし、臨時でも騎士ということでそれなりに高給取りだったりするんだ。


 けど、その金をローリエは全て母親の薬代に当てていて、本人は貧乏生活。


 この辺の設定バックボーンを知った時は、マジローリエ天使ってなっちゃったんだよなー。


 そして、ローリエは貧乏なので、たまに食事を奢ったりすると、凄い喜んでくれるから、こっちも嬉しくなっちゃったりしてさぁ。


 ホント、推しが尊いわぁ……。


「分かっているなら、いちいち口を挟むな、堅物が」

「ですが、私は……」

「まだ言うか!」

「待て、小隊長。ならば、第三者にも意見を聞いてみようではないか……」


 あ、このパターンは……。


「リセマラ7回目、お前はどう思うんだ?」

「リセマラ7回目……」


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 俺は――、


 ▶副団長たちの意見が正しいです。

  ローリエに賛成します。

  そんなことよりも釣りの話しましょう!

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 出たよ! 視界の端に出てくる謎選択肢!


 というか、なんで俺だけこんな恋愛ゲームみたいな要素を毎回強制させられてるんだよ!


 LIAが今までにない自由なゲームだというのは知ってたけど、こんなことまでやらされるとは思ってもみなかったわ!


 あと、こんな恋愛ゲームみたいな要素で進むって知ってたら、プレイヤー名をウケ狙いで付けたりなんかしなかったっての!


 くっそぉ……。


「リセマラ7回目、早く答えろ」

「リセマラ7回目……」


 あぁ! プレイヤー名付け直してぇ!


 ■□■


【???視点】


「大旦那様、本当によろしかったので?」


 もはや、開いている店が少ないほどの歓楽街を丁稚の一人と警護の者たちと共に歩く。


 丁稚は、まだあの宿の最上階の部屋に未練があるのか、儂を試すようにそう言うが、当然、儂にはそのような未練はない。


「構わんよ。元々、貿易で儲けすぎてしまった分をこの街に還元する意味合いで、あの宿の最上階を貸し切っておったのじゃからのう。褒賞石を消費できれば、あの宿を使う者は儂でも魔王でも構わんよ」

「流石、大商人ラジス翁、器が大きい!」

「それに、この街には儂の商会の支店もある。そこに泊めてもらえば、宿の心配もないしのう。それで魔王に恩が売れれば儲けものじゃわい」

「そして、しっかりと計算もしている! 流石です、大旦那様!」

「ほっほっほっ、照れるわい」


 丁稚に褒めそやされて、悪い気がせんのう。


 儂の名は、ラジス。


 ガーツ帝国に本店を持つ、ラジス大商会の総責任者じゃ。


 今回は王国第三騎士団の要請を受けて、魔王に高級宿のワンフロアを差し出したが、それとは別に魔王にはちょいとした借りがある。


 じゃから、それを返す意味合いでも、ここはこれぐらいサービスしといても良いと思っとったんじゃが……。


 どうやら、その行動が丁稚に感銘を与えたようじゃな。ふむ、善き哉、善き哉。


「それにしても、魔王というのは酷い奴ですね! 大旦那様がこれだけ配慮をしていらっしゃるというのに顔ひとつ見せないなんて! せめて、面と向かって礼ぐらい言えばいいのに!」

「どうかのう? あちらも長旅で疲れていたのではないかのう?」

「それでも、です! この街に足を踏み入れておいて、ラジス翁に挨拶もしないなんてモグリですよ、モグリ!」

「ほっほっほっ、そう言ってやるでない。外国からのお客さんじゃ、儂の存在を知らなくても無理はないじゃろう」


 逆にいうと、この街に住んでいて儂の存在を知らんとなると、相当な致命傷になるがのう。


 儂はのんびりと歓楽街の道を歩き、丁稚はその後ろを半歩下がった位置をキープしながら歩く。


 そんな状況を続けていたが、護衛の一人が儂の元へとスルスルと近づいてくる。何かあったかのう?


「翁」

「なんじゃ?」

「西の空をご覧下さい」

「ふむ」


 見やれば、西の空が僅かに明るくなっておる。


 あちらは港の方か。


 港には、儂らの商会船も停泊しておる。


 ちと気になるのう。


「翁、空だけではありません。闇夜に紛れてはいますが……」

「ほう。ぼんやりとではあるが、巨大な建物の輪郭が見えるのう。あんな所に灯台なんぞ建っておったか?」

「あ、本当ですね! というか、あの位置は我が商会の専用の船着き場では? 我が商会の倉庫も近くにありましたし、何だか心配です」


 ふむ、そうじゃな……。


「ならば、ちょいと見に行くとしようか」

「えぇっ!? 大旦那様、危険ですよ!?」

「警護上の観点からも感心できません」

「なぁに、現在この街には魔王に加えて王国の第三騎士団まで駐屯しておる。おかしなマネをすれば、すぐに捕まるような状況で大それた犯罪を行っておるアホもおるまい。それに、儂の商会の船に傷ひとつでも付けるような輩がおるようじゃったら、文句のひとつも言ってやらんとのう」


 ほっほっほっと笑いながら、儂は白くなった顎髭を撫でつける。


 これは経験則じゃが、こういうおかしな状況の時にこそ商機が転がってたりするものなのじゃよ。


 さて、オーガが出るかナーガが出るか。


 それでは、運試しといこうかのう?

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