第304話

 ■□■


 というわけで、ようやく港町フォーズに到着しましたー。OH YEAHー。


 うん。空はもう真っ暗だ。


 冒険担当クラブのパーティーメンバーだけで進んでいれば、こうはならなかったかもしれないけど、私たちの歩調に合わせると、そうはいかなかったってところだね。


 むしろ、愛花ちゃんたちがタツさんたちと共に行動することで、タツさんたちの実力に驚いてたぐらいだ。


 私会議で聞いた話だと、冒険担当クラブがかなりクランメンバーを追い込んで鍛えたって話だから、成り行きに任せてのんびりと成長していった愛花ちゃんたちが衝撃を受けたのも無理のないことなんだろう。


「しまい終わった。行こう」


 【死の宣告】を終えて馬車をしまったミサキちゃんを待って街中に入る。


 魔王を囲むようにして、二パーティーに加え、第三騎士団まで追随する様子は、それこそどこぞの大名行列もかくやといった感じだ。


 あまりに物々しい様子に、通りを歩いてた酔客が飛び上がって道を譲ることもしばしば。


 私たちはそんな酔客に「ごめんねー」と謝りながらも、港町特有の磯の香りが漂う中をのんびりと歩いていく。


 セカンの街みたいにカラフルな建物が多いってわけじゃないけど、潮風に対応するためか石造りの建物が多い印象。


 それと、こんな時間帯なのに沢山の店が開いて、ドンチャンしてるのはなんか景気が良さそうだね。


 この街の住民は儲かってるのかな?


 もしかしたら、ガーツ帝国との貿易のおかげで街全体が活気づいてるのかもしれない。


「とりあえず、今日泊まる宿と明日の船のチケットを用意しないとだね。この感じだと、まだ店じまいって感じでもないでしょ?」

「お姉ちゃん」

「結構、遅い時間帯だけど、良い宿が空いてるといいねぇ」

「お姉ちゃん」

「あ、こういう時こそ、付いてきてる第三騎士団の人たちに宿の手配やチケットの手配を頼めばいいのかな? ねぇ、私、第三騎士団の人たちに宿の確保と乗船チケットの確保頼めない?」

「わかった。聞いてみるよ」

「お願――」


 グイッ。


 ……うん。


 めっちゃ愛花ちゃんに襟首絞られて、真顔で睨まれてるんだけど。


 えぇっと、なんでしょ?


「私、なんでお姉ちゃんが複数人いるか説明受けてないんだけど?」

「それは、もうちょっと待って欲しいかな?」


 具体的には、船に乗って愛花ちゃんが船酔いでヘロヘロになるまでね! そこまでいったら、怒る気力もなくなると思うし!


「私が船で弱ることを期待してない?」

「ぎくぅっ!?」

「その場合は船から降りた後が酷いからね? ちなみに今ならまだ執行猶予付きで許してあげるけど、どうするの?」

「酷いって……どうなるの?」

「お姉ちゃんの机の引き出しの三段目」

「――待って。待って、待って。わかった」


 私の実家の机の引き出しの三段目って、黒歴史ノートがしまってある奴じゃん!


 なんで把握してるのさ!


「一言一句記憶してるからね? キャラクター設定から喋ろうか?」

「マジでやめて下さい!」


 私の痛々しいオリジナルストーリーやキャラ設定をイジるのはやめて下さい! 死んでしまいます!


 追い詰められた私は愛花ちゃんの前に屈した。


 といっても、色々と話すのは流石に愛花ちゃんだけだ。


 チーム黒姫のメンバーは嫌いじゃないけど、なんだろうね? 愛花ちゃんを通して知り合ったからか、少し信頼が薄い気がする。


 言うなれば、タツさんやツナさんは同じクラスの同級生って感じだけど、ユウくんやアラタくんは妹のクラスの同級生という感じに少し距離がある感じだ。


 アラタくんたちと少し距離を取りつつ、私は愛花ちゃんだけに色々と告白する。


 内容的には、タツさんたちが知ってることと大差ない。


 私が邪神であったり、本体は魔王国の暗黒の森に潜んでたり、私自身は分身体で同じような分身体が八人いるってことだったり、今は魔王軍特別大将軍という地位に就いてて、それなりに偉かったり――。


 そんな内容だ。


 愛花ちゃんは、そんな私の告白を受けて、顔を片手で覆った後にクソデカため息を吐き出す。


「なんでそんな常識外れの状態になっちゃってるのよ……」

「普通にゲームしてた結果だけど」

「そうはならないでしょ!」


 なってるんだから仕方ないじゃん!


 あえて言うなら、LIAだから?


 …………。


 あ、なんか凄く説得力あるね。


「それで、愛花ちゃんには聞いておこうと思ったんだけど」

「なによ?」

「現実世界に帰らない?」

「……え?」


 愛花ちゃんは私の問いかけに一瞬呆けた表情を見せるのであった。


 ■□■


 元々、現実世界に戻す方法自体は確立されていた。


 問題は、本当に現実世界に戻れているのか、無理やり戻った場合に副作用はないのか、そういった細かな部分に対して、確信が持てなかったということだ。


 けれど、それもkskbさんの到着によって解決した。


 つまり、愛花ちゃんを現実世界に戻すことは可能なのだ。


「待って」


 私なら、すぐにでも飛びつくような提案をしたつもりなんだけど、愛花ちゃんは答えを保留した。


 ユウくんとかミクちゃんとかのことが気になってるのかな? だったら、彼らもまとめて現実世界に戻してもいいんだけど……。


「少し考えさせて……」


 けど、愛花ちゃんは答えを急がない。


 その辺は即断即決しちゃう私とは違って、愛花ちゃんの思慮深いところだと思う。


 というわけで、結論を先延ばしにされながらも私は考える。


 実際問題、「このデスゲームから脱出できるみたいなんだけど脱出する?」って聞いたら、私の知り合いはどれぐらい脱出するんだろう?


 まず、タツさんは……脱出する、しない以前に運営の情報を提供してもらわないと困るから帰せないでしょ?


 ツナさんは、まだ全ての美味しいものを食べてないとか言って帰らなそう。


 リリちゃんも、現実世界では交通事故の影響で色々と生活が大変みたいだから、帰りたがらないかもしれない。


 そうなると、リリちゃんに借りがあるTakeくんも必然的に残るかな?


 となると、クラン・せんぷくのメンバーで帰りそうなのは……ミサキちゃんとブレくんぐらい?


 ミサキちゃんは読めないところがあるから、場合によってはブレくんも巻き込んで残るかもしれないけどね。デスゲームに巻き込まれた御礼参りがしたいとか言ってさ。


 イライザちゃんは……まだ付き合いが長くないからよくわからないや。


 あと、黒姫パーティーは……愛花ちゃんが迷ってるけど、他のメンバーはミンファちゃんと荒神くんを除いて全員が帰還を選択しそうな気がする。


 ミンファちゃんが帰還を選択しないのは、今回のデスゲームをクリアするためにやってきた中国のプロゲーマーだから。


 だから、クリアする前に撤退はしないだろうと予想。


 荒神くんは……なんか義理堅いから脱出できるとなっても、困っている人たちをギリギリまで助けたいとか言って残りそうなイメージ。


 プロゲーマーといえば、ミタライくんや司馬くんたちもプロゲーマーなので脱出しないかな?


 アイルちゃんはどうかな? 脱出できるよ、と声をかければ脱出しそうだけど……最後まで残る根性を見せそうな気もする。うーん、どっちだろ?


 後は……誰だろう? 私会議で話を聞いたユズくんとか、イチカさんとか?


 ユズくんは承認欲求の塊というか、英雄願望の強いタイプだから運営を倒すまでは絶対に逃げないかな? そういう意味でいえば、絶対に運営に寝返ったりしないので安心安全な精神マインドの持ち主だと思う。


 逆にイチカさんは安全第一で脱出を選びそうかな。ユズくん次第で残るかもしれないけど。


「うーん……」


 こう考えると、あまり現実世界に戻りたい人が知り合いにいない気がしてきた。


 そもそも、私の知り合いってデスゲームの中でも精力的に活動してる人が多いから、逃げ出したいって考える人が少ないのかもしれない。


 そんなことを考えながら、しばらく街の中央にある噴水広場で待つ。


 一応、現在は第三騎士団を通して、泊まれる宿を確保してもらおうとしてるんだけど、これだけ時間が掛かっているということは、交渉が難航してるのかもしれない。


「私たち二パーティー分の宿を確保するだけだったら、そんなに時間掛からないんじゃないの?」


 冒険担当クラブがぶつくさ言ってる。


 確かに。


 私たちだけじゃなくて、第三騎士団の分の宿まで確保しようとして、時間がかかってたりするのかな?


 もしくは、魔王という存在に合わせた特別な宿を用意するために奔走してたり?


 何にせよ、徐々に夜は更け始めており、先程までは活気のあった酒場や飯処も段々と閉まりつつある。


 このままじゃ、野宿になっちゃうんじゃないかな?


 そんな心配をすること、更に一時間――。


「申し訳ないが、魔王殿ほどの方が泊まれる宿をこちらで用意できなかった。すまないが、本日の宿屋についてはそちらの方で用意して頂きたい」


 どこか薄ら笑いを浮かべた第三騎士団の騎士を冷めた顔で見る私たち。


 うん。


 これは、もしかしなくてもハメられた奴だね。

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