第298話

 ■□■


『ふんぬらばっ!』


 エギル君が【炎魔法】レベル6の【ヒノカグツチ】で物攻を大幅に上げて、一人で最後の扉を支える。


『行け行け行け! 走れ走れッ!』


 そして、ツルヒちゃんとイザクちゃんくんと幽霊ちゃんが光の網目を抜けて第二エリアのゴールに飛び込んだところで、エギル君も持ち上げていた扉から手を離し、光の網の隙間へと頭から突っ込む。


 まるで飛び込み台からの飛び込みのように飛んだエギル君はそのまま勢い良く転がって走り出そうとし――そのまま躓いてその場に転んでしまう。


 エギル君の信じられないという顔つきと共に、つぅっと垂れ流れる一筋の鼻血。


 流石に【ヒノカグツチ】で物攻を上昇させたとしても、最後の扉を一人で支えるのは無理があったみたい。


 再び立ち上がろうとして、転んで、背後から迫りくる光の網を見て、エギル君はその表情を絶望に染める――。


 ――けど、次の瞬間にはゴールエリアから飛び出したツルヒちゃんとイザクちゃんくんがエギル君の腕を引っ掴み、その体を無理やりゴールエリアへと引きずり込んでいく。


 …………。


 危機一髪。


 あと、ほんの少しでもタイミングが遅かったら、エギル君はリタイアしていたことだろう。


 だけど、第二エリアのゴールである階段の踊り場では……エギル君の腕が高々と上がっていた。


『やったぞ! コラァ! バカヤロー! お前らサイコーだ! あと、ヤマモトは絶対に後で殴る! クソッタレ!』

『はいはい、そりゃどーも』

『そうだな。ヤマモトを殴るのには賛成だ』


 いやぁ、凄い!


 まさに手に汗握る展開だったね!


 思わず、私も息をするのを忘れて見入っちゃったよ!


 いやぁ、エギル君、キミはどこまでこのトラップルームでドラマを見せてくれるのさ? まさにトラップルームの申し子と言わざるを得ないね!


『そして、当然のように次のエリアがあるな』

『少し休憩しようか。流石にヴァーミリオン家のボンボンも暫くは動けないようだし』

『悪ぃが扉だけ開けてくれや。次のギミックを確認してぇからな』


 一応、次が最後のエリアなんだけど、クリアできるかな?


 イザクちゃんくんが扉を開けた先に見えたのは……石畳で舗装されたサーキットだ。


 ただし、勾配30%の超激坂でかなりナナメっている。


 勾配20%の激坂でさえ、普通の人は自転車から下りて上るレベルなんだけど、それを越える傾きというね。


 それを考えると、この坂のサーキットはスターティンググリッドに立つことさえ、かなり無理な体勢を強いられることになるだろう。


 うん。


 スターティンググリッドということは、ちゃんとコースを走るための乗り物も用意してあるよ。

 

『なんだろうね、これ? 何かあるけど?』

『車輪が三つついているな。馬車よりも安定性がなさそうだが……』


 はい、今回このコースに挑戦する乗り物は……そう、三輪車です!


 最終ステージは、ナナメってるサーキットで三輪車をこいで、一分以内にゴールできればクリアというトラップになります!


 …………。


 もはや、トラップでもなんでもないような気もするけど、そこは疑問に思ったら負けだよ!


 いや、コンセプトはスピードを落としたら爆発するバスの映画を元にしてるんだけど、バスを走らせるには室内は狭いなぁ、そうだ三輪車にすれば相対的にコースが広くなるんじゃね? という発想で作ったのが、この第三エリアなのだ。


 なお、第三エリアは部屋の壁に触れると壁が外側に開く仕組みなので、勢い余ってコースアウトしたりすると、そのまま地上に真っ逆さまに落下することになるので気をつけて欲しい。


 かといって、安全運転でチンタラこいでいたら、制限時間の一分には到底間に合わない上に、一分を越えると三輪車の座席の裏に仕掛けられた爆弾が爆発して即死する仕組みになってたりするから、安全運転もオススメできないよ!


 だから、ギリギリのところをギリッギリで攻めて勝利を得て欲しいと思ってる!


 勝利の鍵は三輪車をこぐパワーやテクニックも勿論だけど、コースをどう攻略するかの戦略も鍵だ!


 さぁ、熱い戦いを見せてよ! エギル君!


『ここにある石板にルールが書かれてるな』

『へぇ、この三輪の道具に乗って移動しろって話かい。しかも、一分以内にゴールしろと……おや、文字が切り替わったようだ』

『魔法でできた石板か? スタート後に床に足をついた場合は三十秒のタイムロスとする、か。スタート位置につかなければ、乗って練習することは可能と……』

『あぁ、また切り替わったね。これはこの部屋のコースかな? 最初の直線が終わったら右にカーブしてそのまま真っ直ぐ……』

『おい、斜面に沿って真っ直ぐ進むと、180°の折り返しカーブがあるじゃないか!』


 そう、最初の難所は勾配30%の激坂で勢いがついた状態で、どうやってヘアピンカーブを曲がるかといった課題。


 勢いが付きすぎるとコースアウトして地上に真っ逆さまだし、ここでタイムを稼いでおかないと、他がほとんど上り坂になるから制限時間が厳しくなるといったイヤらしい仕様だ。


 どうやって進むのか、そこは彼らの作戦に期待したいところである!


『カーブを乗り切ったとしても、この斜面を上って、更につづら折りの上り坂が続くのか……』


 そう、第二の難所は勾配三十%の斜面でつづら折りの坂(三回の折り返しだけど)が続くことだ。


 ここでは三輪車をこぐ力もそうだけど、坂道を上って下ってを続けなくちゃいけないということで、かなりのスタミナが要求されることになると思う。


 プレイヤーのアバターだったら気にならないかもしれないけど、NPCにはきっちりと体力みたいなパラメータが実装されてるから、ここで体力を消費しすぎると、最後でヘバるという事態になりかねない。


 ここもどうやってクリアするのか見物だね。


『で、最後は長い直線を走り切って一分切ればいいってか……』

『エギル殿、もう大丈夫なのか?』

『テメェらの声がデカ過ぎて、休むに休めねぇんだよ。あと、ファンの目の前で情けねぇ姿をずっと見せられねぇだろうが』


 えーと、女幽霊ちゃんがいつの間にか、両手にボンボンを持ってコクコク頷いてるんだけど……。


 本当にエギル君の応援団みたいになっちゃってるんだけど、それでいいのかな……?


 まぁ、本人が納得してれば、それでいいんだけど……。


『とりあえず、この三輪に乗ってみようぜ』


 復活した途端、やる気満々のエギル君はやっぱりこのトラップルームの救世主に違いない! 私は君に期待してるよ!


『幽霊の君はちょっと無理そうだね。そうなると不参加ということになるのかな?』

『元々、第二エリアの時も不参加のようなものだっただろう。大して影響はない』


 あー、女幽霊ちゃんが参加できる仕掛けも用意しとけばよかったね。そこは次回以降の改善点かなー。


『彼女は、俺様のテンションに影響するんだから、いいんだよ! ゴチャゴチャ言わずにテメェらも練習しやがれ! あー、クソ! こぎ辛ぇな、コレ! っていうか、なんだコレ!? 逆にこいでも止まるわけじゃねぇのかよ!?』

『仕方ない。やってみるか……』

『こんなの乗ったことないからね。少し楽しみだよ』


 早速、三輪車のこぎ方を練習し始める三人。


 というか、魔物族には三輪車に乗るという文化そのものがないんだね。


 まぁ、少し考えれば、それもそうかって感じなんだけども……。


「いや、私自身が仕掛けたトラップなんだけど、それを棚に上げて、みんなを応援してる私がいるんだけど……。これは、なんだろうね?」


 やっぱり頑張ってる人を見てると、つい応援したくなっちゃうってことなのかな?


 駅伝中継とかで、足切りギリギリのタイミングで走ってる人を見るとつい応援したくなっちゃうのと同じ感覚なんだろうね。


 というわけで、言っておこう。


 頑張れ、みんな!


 ■□■


 三十分の練習、十五分の休憩を挟んだ後、幽霊ちゃんを残した全員がスターティンググリッドにつく。


 けど、その姿は三輪車の座席の上にはない。


 彼らは皆、後ろの車軸に足を掛けたキックボードスタイルでの発進を選んでいた。


 ルールでは、スタート後に足をついてしまった場合はタイムが三十秒加算されてしまうペナルティがある。


 けれど、スタート前にはそのような規則ルールはないので、規則の穴をついたイイ作戦なのではないだろうか?


 スタート後には右に曲がりながら下り坂が待ち受けてるし、こがなくてもヘアピンカーブまではキックボードの要領で辿り着けるはず……。


 けど、速度が出過ぎるとペダルが物凄い勢いで回転するからね。


 こぐ必要が出てきた時に、上手く三輪車に乗れるかってところはポイントになるかもしれない。


『お、なんか出てきやがったな』

『なんらかのマジックアイテムか? ボードのようなものに数字が書いてあるようだが……。10から徐々に減っている?』

『多分、0になったら開始じゃないのかな?』

『そういうことか。おい、スタートしたら話す暇がなくなるだろうから、テメェらに先に言っとくぞ』


 エギル君の言葉に二人の視線が集まる。


 そして、どうということもないとばかりにエギル君は言い放つ。


『別にゴールすんのは、俺様じゃなくて構わねぇ……けど、誰かは絶対にゴールしろ! ヤマモトのニヤけ顔なんざ見たくもねぇからな!』

『それを言うなら、エギル殿……』

『まずは自分が気概を見せないと、だね』

『…………。ハッ、違ぇねぇ!』


 数字が0へと変わる。


 その瞬間、三人は地面を思い切り蹴り三輪車を前に押し出す。


 体幹が弱かったりすると、ハンドルがブレて加速出来なかったりするものなんだけど、そこはきっちりと全員がロケットスタートを決めたね。


 そして、そのまま坂の斜面を利用するようにして右カーブを曲がっていく。


 さぁ、ここからは斜面に沿って、ほぼ直滑降。スピードが出るエリアだけど、その先には地獄のヘアピンカーブが待ち受ける!


 スピードを出し過ぎたらコースアウト必至だけど、出さなければ一分という制限時間に間に合わなくなるよ! さぁ、みんなどうする!


『【ジェットストリーム】!』

『『!』』


 エギル君とツルヒちゃんが三輪車の座席に腰掛ける中――イザクちゃんくんだけが、自らに【ジェットストリーム】をぶち当てて加速する。


 このままじゃ、コースアウトまっしぐらだけど――、


『【アースハンド】!』


 ヘアピンカーブの先端部分に【土魔術】を使って、巨大な土の手を作り上げる。


 そして、そのままイザクちゃんくんが【アースハンド】の手の上に足を付き……止まる。


『バカヤロー! 何やってんだ! それじゃ、三十秒のペナルティだぞ!』

『いいんだよ、コレで……』


 叫びと共にヘアピンカーブに突っ込んでくるエギル君を、イザクちゃんくんがそのまま受け止める姿勢になる。


 これは――、


『元々、ボクはヤマモトの姿が見たかったってだけだし、勝ちたかったわけじゃない! だから、ヴァーミリオン家の若大将……アンタが勝て!』


 言うなり、イザクちゃんくんがエギル君を三輪車ごと受け止めて、ヘアピンカーブの出口に向けてエギル君を三輪車ごと押して加速させたぁ!?


 いや、まさかの自己犠牲精神!?


 君たち、そんなに仲良かったっけ!?


『礼は言わんぞ。だが、気持ちは汲んでやる』

『頼むよ――っと!』


 そして、イザクちゃんくんはツルヒちゃんまで加速させて発進させてるし!


 いや、違う。


 彼らは仲が良いわけじゃない。


 ただ、このトラップルームの中で勝利するためには、協力する必要があると考えて、その最善手を取っただけなんだ。


 それが、たまたま自己犠牲精神に則ったものだったってだけで……。


「熱いじゃん……!」


 超激坂を上半身を傾けて激走するエギル君とツルヒちゃん。


 現時点でまだ十秒ほどしか経っていない。


 だけど、ここからは真っ当に超激坂を三輪車で上がっていかないといけない。


 しかも、三段のつづら折りが待ち構える! どうしたって速度が落ちるけど、どうする……!?


『ぐぉぉぉぉ! 根性〜〜〜!』


 作戦じゃなくて、根性だった!


 いや、根性だけじゃない!


『こげ、エギル殿』

『剣姫、お前、俺の背中を押して……』


 踏み続けていたペダルが急に軽くなって、エギル君も気づいたのだろう。


 エギル君の後ろを走っていたはずのツルヒちゃんがエギル君の横に並び、その背を片腕で押している。


 多分、ツルヒちゃんの方が体重が軽い分、上りではエギル君より速度が出ているんだろうね。


 だったら、ツルヒちゃんがエギル君よりも先に行った方がいいと思うんだけど……。


 ツルヒちゃんはそうは考えていないみたい。


『この折り返しの坂、下りなら体重の重いエギル殿の方が優位に進む』

『剣姫……』

『そして、体力では私よりもエギル殿の方が上だ。長い目で見たら、エギル殿にバトンを任せた方が勝率が高い』

『剣姫、お前……』

『ヤマモトを殴って来るんだろ?』

『……あぁ』

『なら、ここは私に運ばせろ』

『……頼む!』


 ツルヒちゃんの押す力と、エギル君のこぐ力が相まって徐々に速度が上がっていく。


 そして、三段のつづら折りを抜けて、最後の直線にエギル君の姿が現れる。


 だけど、ツルヒちゃんの姿は……ない。


『行け、エギル殿……!』


 ツルヒちゃんはつづら折りの三段目で既に足をついていた。そして、そのままの体勢でエギル君の勇姿を見守る。


 けれど、最後の直線に入ったところで、残り時間は十秒ほどしかない。


 ギリギリ間に合うか、間に合わないか。


 私はその結末を生で見届けたくて、椅子から立ち上がる――。


 ■□■


【エギル視点】


 気が急く程に足が回らず、もどかしくなるほどに速度が出ない。


 ゴールはもう目の前に見えてるっつーのに、湖の底を歩いているかのように体が重い……。


 大体なんなんだこの乗り物は! 脚が長い俺様には不釣り合いなんだよ!


 だが、文句を言っても始まらない。


 俺は脳の血管がブチ切れそうなほどに懸命になりながらもペダルをこぐ。


 頭に血が上り過ぎてんのか、視界が狭くなり、声が遠くに聞こえる。


 集中してるせいか、時間の流れもゆっくりに感じるほどだ。声援が間延びして聞こえる。


 ……分かってんよ。


 脚が千切れてもこげっていうんだろ……?


 けどよ、目一杯こいでんだよ! それで、この亀の歩みなんだ! 全力でやってこれなんだよ!


 俺様の中で諦めという感情が一瞬、思い浮かぶ。


 だが、その度に剣姫の、剣姫のファンの顔が、そして俺様のファンの顔が、脳裏に浮かんでは俺に諦めるなと鞭打ってくれる。


 何よりもここで諦めちまったら、アイツらに合わせる顔がねぇ……!


「クソが! 気概を見せるしかねぇだろうが!」


 動かねぇ体を無理やり動かして、ゴールを睨みつけたその瞬間――、


 パカリ。


 ゴール付近の地面が突如として上に開き、そこから見知った顔が現れ――、


 プツン。


 俺様は、その時、自分の中で何かが切れる音を聞いた。


 ■□■


学園担当ジャック視点】


「おーい、エギル君、がんば――」

「ヤ、マ、モ、トォォォォォォォーーーッ!」

「!?」


 いや、え!? 嘘でしょ!?


 距離七十メートル。残り三秒。


 こりゃ、間に合わないかなーと思って、私が直接顔を覗かせた瞬間――、


 瞬だ。


 エギル君が三輪車をしゃかりきにこぎ、まるで弾丸のような勢いでゴールテープを切っちゃったんですけど!?


 タイヤ痕がどこぞのデ○リアンの消えた後かってぐらいに燃えてるし、時間を測っていたボードの計測時間も58秒で止まってる……。


 いやいや、雷の落ちた時計台じゃないんだから……。


 というか、勢いのつきすぎたエギル君はゴールテープを切ると同時に三輪車ごとすっ飛んで、そのままサーキットの上にゴロゴロ転がって動かなくなっちゃったんだけど……。


 死んでないよね?


 あ、ピクピクしてる。


 生きてるみたい。


 良かったー。


「まぁ、魔王軍四天王候補と呼ばれていた人たちをこれだけ追い詰めたんだし、私のトラップルームもなかなか捨てたもんじゃないことが証明されたかな」

「死ね……、お前……」


 倒れ込みながらも文句が言えるエギル君は正直凄いと思う。


 まぁ、クリアされてしまったものは仕方がない。


 ここは当初の宣言通りに賞品を出そうじゃないの!


「それにしてもお見事! まさか、私のトラップルームをクリアする人が現れるとは思ってなかったよ! というわけで、エギル君……キミは見事私のトラップルームを完全クリアしたよ!」

「あ!? ……ん? 終わったのか!」

「そうそう。完全制覇者ね」

「ぃよっしゃあ! これで、俺様が魔王軍特別大将軍だぁ!」

「あ、それは全然別の話だから」

「え?」


 エギル君が一瞬で押し黙る。


 そして、暫く考えた後でもう一度「え?」と言っていたけど……うん、多分噂話か何かに踊らされたんだと思うよ? どんまい。


「今回は、エギル君だけじゃなくて他のみんなの活躍もなければ、この最終エリアはクリアできなかった! だから、ここにいるみんなにご褒美を振る舞おうと思います! そして、今回のご褒美は……暗黒の森で現在開発中の激ウマ料理、ラーメンの試作品だー! 結構美味しいから、みんな感動すると思うよ!」

「「「…………」」」


 あれ? なんかみんなの反応が薄い?


 ラーメンよりもスイーツの方が良かったかなぁ?


 そんなことを考えていたら、


「悪いけど、ヤマモト、ボクはその賞品をキャンセルさせてもらうよ」

「ふぇ?」


 イザクちゃんくんに拒否されてしまった。


 あれ? ラーメン美味しいよ? 美味しい物に興味はないのかな? 我慢は体に毒だよー?


「その代わりに、ヤマモト。ボクと少し手合わせしてくれないか?」


 まさかの賞品変更を告げられる。


 手合わせ……ってことは、殺し合いとかじゃないんだよね? なんか、訓練的な奴ってことでいいのかな?


 学園の授業でやってるような模擬戦みたいなものでいいのなら、別に引き受けてもいいけど……。


「別にいいけど、今日やるの?」

「いや、日時はこちらで指定するよ」

「まぁ、殺し合いとかじゃないっていうのならいいよ」

「そう、よかった。それじゃあまた。……君たちも。なかなか楽しい思い出になったよ」


 そう言うと、イザクちゃんくんは部屋の壁を外側に押し開けて出ていってしまう。


 あ、部屋の壁のトラップに気づいてたんだね。


 ここ、五階ぐらいの高さがあるんだけど……まぁ、イザクちゃんくんなら空も飛べるし、平気かな?


「受けたのか、ヤマモト……」

「ん?」


 三輪車を乗り捨てて立ち上がったツルヒちゃんが、イザクちゃんくんが去っていった壁の一面を厳しい顔で睨む。


「アイツ、強いぞ」

「え? ツルヒちゃんよりも?」

「…………」


 答えはなかったけど、言いたくないってことは強いんだろうなぁ。


 これは、安請け合いしちゃったかな?

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