第297話
【
初の第二エリア到達者が出た日……レーザートラップによってポリゴンとなってしまったエギル君はついに帰ってくることはなかった。
あの激強メンタルの持ち主であるエギル君でも、流石に一度死んでしまうというのは相当ショックだったのかと心配したんだけど、翌日の放課後には、元気にトラップルームに姿を現したので私はほっとした。
しかも、なんか今回は強力な助っ人を連れてきてるみたいだ。
いいね! やる気だね!
『おいコラ、ヤマモト! 見てろよ! 今日こそは絶対にクリアしてやるからな! そんで俺様に魔王軍特別大将軍の地位を寄越しやがれ!』
『『…………』』
同行者二人はツルヒちゃんと……誰だろ? 知らない金髪の子だ。女の子みたいな綺麗な顔をしてるけど、男の子と言われても違和感のない中性的な顔立ち……まさか男の娘!?
その二人はあからさまに興味がなさそうな顔をしてるんだけど、エギル君は気づいてないのかな?
あー、あと画面に映りづらいんだけど幽霊ちゃんもいるね。
この四人でやるってことは、第二エリアの正解に気づいたのかな?
一回挑戦しただけでその答えに辿り着くとか、エギル君ってばバカっぽいけどバカじゃないんだね。
私は魔道モニタ越しに映し出される光景を確認しながら、いそいそとお茶の準備をし始める。
長い間LIAの世界に囚われてると、それが段々と日常になってくる。そして、それが日常になってから気づくんだけど、LIAって思った以上に娯楽が少ないんだよね。
テレビもアニメもゲームも漫画もない。
唯一あるのはギャンブルくらい?
なので、このトラップルーム挑戦を見守るのは、私にとっての娯楽に近い。
自分で作った謎解きを何も知らない回答者に解いてもらっている……もしくは、動画配信を垂れ流しで見る感覚? そういうのに近いんだと思う。
勿論、人死にが出ているものをエンターテイメントとして捉えるのはどうかという部分もある。
けど、そもそもがこのトラップルームは侵入者撃退用に作ったものであり、難易度が凶悪なのは当たり前だし、それに加えて、LIAではスキル、魔法、魔術が浸透している世界観のゲームなのだから、ただのアクティビティと成り下がらないように難しくするのは当然の帰結なのだ。
そんな高難易度のトラップルームに挑む挑戦者たちには、心から拍手を送りたいし、実際に今も拍手してたりする。
うん。
エギルくんたちは勇気あるよ。というか、魔物族の勇者じゃないの? 彼?
私がお茶を片手に魔道モニタを見ていると、まずは幽霊ちゃんがプールの上をすーっと通過していった。
相変わらずのズルっこ手段。
そして、それを見ていたツルヒちゃんが空中を蹴って進み、簡単にプールを越える。
え? あれってイコさんが使ってた【空歩】じゃないの? 空中を蹴って進む奴。
うーん。空中が
そして、金髪ちゃんくん(?)の方は【レビテーション】と【エアウィング】の合せ技で空を飛んで、簡単にクリアしちゃってるし。
やっぱり、第一エリアはクリアできる人にとっては、簡単にクリアできるエリアだよね。失敗してる人は考えが足りないというべきか……。
そして、入り口側に一人取り残されたエギル君はワナワナと震えてる。
『おま……お前ら! それは少しズルくねぇか!?』
まぁ、エギル君は飛べないからね。
気持ちは少しわかる。
『いいから、早く来い。言い出しっぺがまごついてどうする?』
『クソが! ……いいぜ、見せてやるよ! この俺の完璧な泳ぎをな!』
言うなり、エギルくんはザバンとプールに飛び込んだんだけど、五秒もしない内にトゲだらけになってプカーと浮いてくる。
うん。焦ったせいでミスしたみたい。
それでも、エギルくんはガバッとその場で顔を上げると、スタート地点の方に泳いで戻っていく。タフだねぇ。
『くそ! 昨日とトゲの位置が違うじゃねぇか! ふざけんなよ、ヤマモト!』
サーセン。
簡単にクリアできないように、トゲの位置はランダムで出てくるんだ。なので、そこは努力と根性でなんとかして欲しいかな。
『くそっ、HPが足りねぇ! 仕方ねぇ、部屋にあるポーション飲んでくる! お前ら、そこで待ってろよ! あとヤマモト! 後で絶対にテメェはボコす!』
そう言うなりエギルくんは部屋の外に出て行っちゃったよ。
そして、残されたのは、女子三人。
彼女たちは微妙な距離感を保ちながらも、特に何を話すわけでもなく、その場に固まっている。
…………。
いや、何か話そうよ!
なんでそんなに気まずい雰囲気なの!?
私がやきもきしていたら、ツルヒちゃんが動いた。
おぉ、ここで動くのは勇気あるね!
『そういえば、名前を聞いていなかったな』
『イザクだよ』
『そうか』
『『…………』』
…………。
え? 会話終了?
幽霊ちゃんが喋れないのは想定内だけど、二人の会話が短過ぎる! というか、なんでこんなに空気が重いの?
そう思っていたら会話が続いた。
どうも二人共、距離感を測りかねてるらしい。
『イザク殿は何故私たちに付いてきた? エギル殿の頼みも断っても良かっただろう』
『そういうツルヒも最初は断ってたじゃないか』
『休み時間の度にウチのクラスまで来て勧誘しにきたからな。いい加減、うんざりして折れた……』
『ボクは勧誘されなかったけど、ヤマモトに会うって聞いて付いてきただけさ。だって、学園内をウロウロしても彼女が一向に捕まらないからね』
そういえば、最近は授業が終わるとすぐに自室に戻って、トラップルームのモニタリングに勤しんでいたから、人との出会いや何かをするみたいな機会がなかったかも……。
うーん。
生活が完全に引き籠もりのそれっぽくなってるかな?
もっと健全に生きないとユフィちゃんに怒られそうだ。
頑張ろうっと。
『会ったところで何があるわけでもないと思うが……』
『そうかな? ボクはそうは思わないけど』
『『…………』』
…………。
エギル君、早く来てくれー!
この二人会話があんまり弾まないんだよー!
私は地球にやってきたサ○ヤ人二人を目の前にしたゼ○ト戦士たちの気持ちになりながら、そう心の中で叫ぶのであった。
■□■
結局、エギル君が来てくれるまでの十五分間、それ以上の会話はなかった。
私は動かない画面を見続けるという、とても無駄な時間を過ごしたわけだけど……。
その思いはツルヒちゃんやイザクちゃんくんたちも同じだったみたいで、
『ヤマモト! 今度は絶対に失敗しねぇからな! 見てやがれよ!』
『本当に真剣にやってくれ!』
『流石に二度同じ失敗はやめて欲しいかな!』
『お、おう、わかってるよ……』
二人の目が笑ってないのを見て、エギル君がちょっと震え上がってるんだけど……。
うん。
やっぱりあの空気の重さはキツイと二人共思ってたんだね。私の気の所為じゃなくて良かったよ。
二人からの必死(?)の応援もあったせいかエギル君はミスもなくサクッとプールエリアをクリア。
そして、四人揃って第二エリアに到着したわけなんだけど、ここのレーザートラップを前にして、エギル君が全員に説明を始める。
彼らの目の前では、一直線の廊下を前後する光の網と、その奥にデカデカと存在感を主張する魔鉄の扉が見えたはずだ。
第二エリアは、如何にスムーズに魔鉄の扉三枚を開けて、奥に進むかがポイントとなるよ!
『いいか。まず厄介なのがこの光の網だ。この網は高密度の魔力を高速で射出してるのか、霊体だろうと肉体だろうと容赦なくバラバラに斬り裂くとんでもねぇ兵器だ。だから、俺様たちは網に当たらないように移動しなきゃなんねぇ』
『ふむ。だが、網の目を抜けられるようには見えないが?』
『網は十メートルほどの距離を端から端まで移動する。そして、端まで移動したタイミングで網目の間隔が変わる。見てろよ』
エギル君が言った通り、エギル君の目の前にまでやってきた光の網目は、その間隔を迫ってきた時とは別の間隔に変えたかと思うと、そのままゆっくりと奥へと移動していく。
うん。
網目の隙間が折り返しの度にランダムで変化するから、隙間がすごく開いたりすると、簡単に網目の向こう側に移動できるんだよね。
慌てて第二エリアをクリアしようとしなければ、そこにはすぐに気づくはず。
『見ろ。場合によっては網の目の間が凄くデカくなる場合もある。あの隙間を通って奥に行く。奥に行ったら、全員であの奥の扉に手をかけて上に引き上げるぞ』
『話を聞いてみたら簡単そうなんだけど、なんで人数を集めてたんだい?』
『決まってる。扉が一人で上げられないほどに重いからだ』
そう。
エギル君と幽霊ちゃんは、レーザートラップ自体は簡単にクリアしていた。
けれど、レーザートラップを抜けたところにある扉を開けようとして、それが一人の力では開かないことに気づいたんだよね。
そして、扉を開けようと悪戦苦闘してる内に戻ってきたレーザートラップに引っ掛かってズンバラリン。
普通なら、扉を開けるだけの膂力が足りなかったと自分の体を鍛えに走りそうなものなんだけど、エギル君は冷静だったみたい。
通路が思ったよりも広く、何人かが並んでも問題ないほどにスペースがあったことに気づいたみたいだね。
そう、実は第二エリアのトラップのキモは、このレーザートラップよりも扉開けの方にあったりする。
通路に設置された扉の枚数は全部で三枚。
その一枚一枚の扉を開くには、物攻が300、400、500と必要になってくる。
まぁ、私やユフィちゃんぐらいに物攻があれば、一人でもクリアできたりするんだけど、そこまで物攻が高くないのであれば、協力プレイが推奨になるのだ。
とはいえ、第一エリアは特に協力してクリアすることが前提ではないので、第二エリアでいきなり協力プレイを推奨されてもクリアするのは難しいだろう。
エギル君のファインプレーは、最初の挑戦で幽霊ちゃんと一緒に第二エリアに挑んだことだろうね。
それによって、一人で挑戦しなければならないという固定観念が消し飛んだんだと思う。
だから、柔軟な対応を取ることができたんじゃないかな? こうやって仲間を連れてやってくるみたいな、ね。
『計画としては、縦一列になって、向かってくる網の目の間を通過。その後、ダッシュで扉に取りついたら三人がかりで扉を押し上げる。そして、押し上げたらその扉の下に体を滑り込ませろ。そして、扉を押し上げたまま、先のエリアを観察すんぞ』
『扉の下?』
『扉が細切れになってないってことは、光の網はあそこまで届かないってことだ。束の間のセーフゾーンのつもりだろう』
エギル君、冷静に観察してるねぇ。
その通り。扉の下は
そこまでわかってるなら、こりゃもう攻略されるのも時間の問題かな?
だけど、エギル君にはまだひとつ疑念があったみたい。視線をイザクちゃんくんに向ける。
『大体の計画は今言った通りだが、懸念点もあるにはある』
『懸念点?』
『ソイツだ。ツルヒのファンだっていうが、俺様たちの動きに付いてこれるのか? あと、あの扉を開けられるほどの力があるのかって疑ってんだが?』
『それは……』
ツルヒちゃんは言い淀むけど、イザクちゃんくんはあっけらかんと言い放つ。
『それなら心配しなくていいよ。ボクはヤマモトよりも強いからね』
『あぁ……!?』
なんだか不穏な雰囲気。
エギル君たちのクリアに暗雲が垂れ込めてきた感じだけど、大丈夫かなぁ?
…………。
ちなみに、私よりも強いとか弱いとか、果てしなく興味がないので、どうでもいいといった感じである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます