第294話
■□■
結論から言うと、フィザ領主を真人間に戻そう計画は失敗した。
というか、普通の相手なら死んで生き返ってを繰り返せば精神が壊れて従順になったり、死生観が変わったりして、大人しくなったりするものなんだけど、フィザ領主は真性の悪党だとでもいうのか、生き返っても全く性格が変わらずに私たちを「殺してやる!」とがなり続けたのである。
むしろ、心を挫くどころか、恨み骨髄に徹するといった感じになってしまった。
こうなってしまえば、どうしようもない。
頑固親父のワガママみたいなもので、その意見を他人が覆すというのは途端に難しくなってくる。
というわけで、イライザちゃんに悪の心を消してもらえないかなーと頼み込んでみたんだけど……。
「消してもいいですけど、この人多分廃人になりますよ?」
「え?」
「こういう悪い心がメインの人の悪い心を消すってことは、その人の生きる活力を奪うってことですから。これだけやられて心変わりしないのですから、多分ベースからして悪一色なんでしょうし、それを消すってことは心が空っぽになるってことです」
「それって、つまり無気力人間になるってこと?」
「簡単に言ってしまうとそうです。あと、心とか思考とか記憶とか、なかなかゲームデータ内でも複雑そうなものを消そうとすると反動も凄くて、個人的に消したくないんです。すみません……」
というわけで、成果も大して上がらない上にリスクばかりが高いこともあり、イライザちゃんによる記憶消去は諦めることになった。
けど、そうなってくると、問題は今後のフィザ領主をどうするかってことになってくる。
現フィザ領主を許して、もう一度治めてもらう?
いやいやいやいや。
それだとフィザでの次期後継者レースが収まらないだろうし、そもそもこれだけやっちゃった後で、「もう一度フィザを治めてね♪」 とフィザ領主に言ってもブチ切れ案件だろう。
じゃあ、次男か三男にでも街を治めてもらう?
それはそれで選ばれなかった方に遺恨が残りそうなんだよねー。
そして、そんな状態じゃ、何をキッカケにして、また街が二分されるかわかったものじゃない。
こうなったら、魔王に相談して全く新しい領主を王都から派遣してもらうとか……?
それはそれで住民の反発があったりするのかな? でも、このフィザの街で善政を敷いていた感じもないし、反対を受けることもないかな?
うーん、どうしよう。
私が迷っていると、ツナさんからクランチャットが……。
なんだろう? もうボスを倒してもいいよって連絡かな?
私が確認すると、
====================
[ツナ缶うまいですよ♪]
長男見つけた。
どうする?
====================
えぇ? 廃人になった長男?
…………。
試しに再生工場してみる?
■□■
「誠心誠意、フィザ領主の任、務めさせて頂きます!」
再生しました。
「いや、なにやったん? ヤマちゃん?」
タツさんにやたらと怪しまれたけど、私は何もしていない。
というか、長男……えーと、
素直というか、世渡りが上手いタイプ?
「俺が、俺が!」というよりも周りを見て、周りが期待する自分を演じられるタイプらしい。
ツナさんが連れてきた幽鬼のように痩せ細っていたアルバレートくんを、魔剣フィザニアを回収してザクッと斬りつけて、年相応の若々しい姿を取り戻させたんだけど、その直後にフィザ領主はアルバレートくんの目の前で光の粒子となって砕けちゃったんだよね。
普通は、目の前で親を殺されたら怒ると思うんだけど、アルバレートくんは違った。
いち早く、私に臣下の礼を取ったのだ。
元々フィザの街は、フィザ領主の圧倒的な暴力によって治められていた。
街の人々はフィザ領主を恐れながらも敬い、そしてアルバレートくんもまた同じように実の父を恐れていたらしい。
で、そんな父親には逆らうことも、自分の意思を見せることもできずに、父親が望む息子の姿として、暴君の道を突き進んでいたらしいんだけど……。
そんな絶対君主である父親をあっさりと倒す
環境に適応するのが得意なアルバレートくんは、彼の中の優先順位を父親から私に変更。
で、私が望むのがフィザの街をまともに治める領主ということをいち早く察し、その結果、先の「誠心誠意治める」発言になったということらしい。
なお、「私がどういう心変わり?」と尋ねると、今の説明をペラペラと喋ってくれたよ。
超従順!
これが親父さんの教育の賜物だとすると……うん、ちょっと悲しくなるね。
「いや、コイツ信用できるんか?」
事情はわかったらしいけど、納得いってないらしいタツさん。
私もアルバレートくんみたいなタイプじゃないから、なんとも言えないんだけど……そこは親の教育と本人の資質が噛み合った結果なんじゃないのかな?
「私が健在の間は、とりあえず問題ないんじゃない?」
私の中では、とりあえずそういう評価だ。
長い物には巻かれるタイプだし、虎の威を借りるタイプなんだろうけど、だからこそ私の機嫌を損ねることはやったらダメというのが伝わってるはず。
だから、まともな善政を敷くと信じたい。
「ちなみに、どのように街を治めればいいですか? 父のように街の住民が脅えて暮らすように暴力と水で支配したらいいですか? そういうのは得意ですよ?」
「ダメやろ、コイツ。まず、まともな政治が何かを教えないとアカンやん」
「まぁ、学園でも一番下のクラスに所属してたらしいからね……」
うん。
やっぱり、魔王に頼んでちゃんとした教育係を寄越してもらおうかな?
まずはそこからだね。
■□■
【
「おはよー。唐突だけど、大変なことが起きてしまったね……」
私はいつものように教室に入り、最前列にいるユフィちゃんの隣に席を陣取ると、神妙な顔をしてユフィちゃんにそう告げる。
その内容については、ユフィちゃんも心得ていたのか、同じく神妙な顔をして頷いてくれる。
流石は
言いたいことが以心伝心で伝わってるね。
「はい、おはようございます。本当に大変なことになってますね……」
「ユフィちゃんの耳にも入った?」
「はい。学園中の噂になってますから」
「そんなに
「はい」
そうかぁ。そうなるかぁ。
ちょっと頭に来たからってやり過ぎちゃったもんなー。
おかげさまで、閉園寸前の遊園地か! ってぐらいに人が寄り付かなくなってるもんなぁ。
どうしたものかなぁ……。
「びっくりしましたよね。シーザ・セルリアン様が無名の生徒に負けて、そのことを気に病んで、いきなり学園を辞めるだなんて……」
「え?」
「え?」
いや、違う違う。
違うよ、ユフィちゃん!
というか、そんな噂話初めて聞いたし!
私が言いたいのはそんなことじゃないんだよ!
「そっちじゃなくて! 他にあるでしょ、他に!」
「え!? ほ、他にですか? え、えーと……?」
ないかー。
ユフィちゃんの耳まで届いてないかー。
「最近、私、寝込みの時間を刺客に襲われ続けてたんだけど……」
「えぇっ!? それは初耳です!?」
「それを撃退するためにトラップハウス? トラップルーム? を作ったんだよね。でも、作ったはいいんだけど、それと同時にパタリと襲撃が止んじゃってさぁ。開店休業状態でどうしたらいいのか、凄く悩んでるんだよ」
「それは……ぐっすり眠れていいのでは?」
「でも、折角作ったのに誰も挑戦してくれないのは寂しいもんじゃない?」
「そういうものでしょうか?」
ユフィちゃんはこてんと首を傾げてるけど、私としては結構大掛かりな施設を作ったのに、誰も来てくれないというのは寂しいのだ!
どれぐらい寂しいかというと、クリスマスパーティーに友達を招待したけど、誰も来てくれなかった星飛○馬くらいに寂しいのである!
「それでは、今まで襲撃してきた人たちに襲撃を続けてもらえるように頼んでみたら如何でしょう?」
「それも、もうやったんだよね」
「あ、そうだったんですか」
「救護室から【追駆】で追っかけてさー。襲撃者の部屋をひとつずつ回って、『女の子の寝込みを襲う変態野郎のくせに、その女の子に傷一つつけられなくて、逆に撃退されるのって、ねぇどんな気持ち?』とか『アバズレの母とヤク中の父から愛されもせずに生まれてきたゴミ汁同然の存在なんだから、私に傷一つ付けられなかったとしても落ち込まないでね?』とか言って回ったんだけどねー。誰も私のトラップルームにもう一度やってこないんだよ。なんでだろうね?」
「それは頼んでないのでは? むしろ、煽ってますし、下手すると心をへし折ってませんか?」
「いやいや、変則的なお願いの仕方だよ。顔真っ赤にして再挑戦してくるかと思ったんだけど、むしろ、音沙汰ないってどういうこと? って感じだよ」
「普通はそこまでやられたら、もう一度挑戦しようという気にはならないかもです……」
そういうものかなぁ?
むしろ、ナニクソー! って燃えるものじゃないの?
「というか、それには色々とカラクリがあるようですよ」
「あ、ロウワンくん、おはよー」
「ロウワンさん、おはようございます」
「お二人共、おはようございます」
「で? カラクリって何? あと、藤崎くんはまた遅刻?」
「そうですね。昨日も徹夜で魔道モニターと魔道カメラのセットを作ってもらっていたので、一、二限目は寝ると言ってましたね」
ロウワンくんから買った魔道モニターと魔道カメラのセットが手作りだった件!
というか、アレを一から手作りするって……やるね、シュトレー藤崎!
「追加で入荷したの? だったら、四セットある? あれば四セット全部買うよ」
「欲しいと言ってましたからね。作らせましたよ。もちろん、四セットあります」
というわけで、魔道モニターと魔道カメラのセットを四つ買ってしまう。
人は全然来てないんだけど、エリア自体は増やしたからね。そこを監視する目はどうしても必要だったから、これは必要経費といったところだ。
いそいそとロウワンくんに褒賞石を支払う。
「それで、カラクリってどういうことなの?」
「本来ならば、情報料を頂くところですが、ヤマモト様にはカメラセットを沢山買ってもらいましたので、タダでお教えしましょうか」
ロウワンくんってば、ただの商人じゃなくて情報屋も始めたみたい。
いや、私とロウワンくんの最初の出会いも情報のやり取りだったし、これは元からかな?
「ヤマモト様の寝込みが襲われなくなったのは、ヤマモト様を襲うように指示していた黒幕がシーザ・セルリアン様だったからですよ」
「「えぇーーーっ!?」」
ユフィちゃんと一緒になって驚くけど、
「いや、ごめん、誰?」
「「…………」」
なんか聞いたことあるような、無いような名前だけど……多分知り合いなんだよね?
「ヤマモト様に言わせますと、髪ファサくんです」
「あぁ、髪ファサくんか!」
ようやく合点がいったよ!
でも、なんでそんなことをロウワンくんが知ってるんだろうね?
私がロウワンくんにそれを尋ねてみると、
「シーザ・セルリアン殿が退学するためですよ」
と、シンプルな回答をしてくれた。
うーん?
わかるような、わからないような?
私が理解していないことに気がついたのか、ロウワンくんが続けてくれる。
「仮にヤマモト様の寝込みを襲っていた者たちをセルリアン派と呼称しましょうか? 彼ら、セルリアン派はヤマモト様に対する嫌がらせ目的と、ヤマモト様を弱らせる目的の二つの目的を持って、毎日のようにヤマモト様の寝込みを襲っていました。それも全てはセルリアン家の次男、シーザ・セルリアンに指示されていたからです」
ふむ。
「そんなセルリアン派は、ヤマモト様の不興を買ってもセルリアン家に守ってもらえるという思いがあったので、ヤマモト様に対する嫌がらせをバンバン行いました。それこそ、毎晩二回に分けてヤマモト様の眠りを妨げるという念の入れよう。そして、それを徹底して行っていくことでヤマモト様を弱らせていこうとしていたのですが……彼らのバックにいたはずのセルリアン家の次男、シーザ・セルリアン様が急に学園を辞めることになってしまったので、さぁ大変」
あぁ、なるほど。
段々、カラクリが見えてきたかも。
「ヤマモト様の機嫌を損ねた状態なのに、そのヤマモト様から守ってくれるはずのセルリアン家というバックが消えてしまった。セルリアン派は一瞬で肝を冷やしたことでしょう」
「あと、ヤマモト様は先程の話ですとセルリアン派を全員追い込んでますよね?」
ユフィちゃんに言われて、そういえばと思い出す。
頼りにしていたバックがいきなり居なくなった上に、この学園で一番関わっちゃいけなそうな相手に喧嘩売った状態で、更には一人ひとりの居所まで突き止められてるとか……夜の襲撃がパタリと止んだ理由がわかったかも。
「あまりにも追い詰められてしまった彼らは、苦肉の策として私に事情を説明し、ヤマモト様との間を取りなしてもらえないかと泣きついてきたわけです」
「あー、だから、事情に詳しいんだ」
なんで、髪ファサくんが夜の襲撃を指示したことまで知っているのかと思ったら、ロウワンくんに泣きついて、全部事情まで説明してたからなんだね。
なるほど、なるほど。
いや、待って?
「というか、取りなすまでもなく、私は別に気にしてないんだけど?」
「え? そうなんですか?」
「そりゃ、毎日夜襲を受けて寝不足でイライラしてたけど、魔将杯のルールでは寝込みを襲っちゃダメというルールなんてないわけだし、実力差だってあるんだから作戦を練るのは悪いことじゃないでしょ? それに対して、私も対策を取ったわけだし」
むしろ、対策を取った後でパタリと夜襲が止んで困ってるんだけど?
「だから、あまり気にしてないよ。というか、もっと襲ってきてって伝えて」
「も、もっと襲え、ですか……?」
「そうそう。あぁ、更に私のトラップルームをクリア出来たら豪華賞品もプレゼントするって言っておいて」
「襲った上に賞品までもらえるんですか?」
「襲うという概念が崩れますね……」
「なんだったら、ユフィちゃんやロウワンくんも挑戦しにきていいよ? クラスの知り合いにも広めちゃっていいし」
「「は、はぁ……」」
二人はなんだか理解ができないって顔をしてるけど、私としては折角トラップルームを作ったんだから、色んな人に挑戦してもらいたいんだよね。
うーん、これで少しは挑戦者が増えてくれるといいんだけどなぁー。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます