第293話
■□■
正直、私は内心でビビっていた。
相手が、地球破○爆弾を使ったり、バイツァ・○ストを使ってくる可能性に脅えているというのもあったけど、それ以前の現実的な問題として、私に攻撃が通るということに脅えていたのだ。
ユズくんが作り出したダメージ特性付与武器は、それを装備しているだけで、あらゆる攻撃によって敵に問答無用で固定ダメージを与えることができるメチャクチャ優秀な武器なのである。
これは、特性付与武器による直接的な攻撃だけでなく、先の【爆弾】のようなスキルや魔術、魔法にも適用されて、効果が乗るのだ。
多分、ダメージ計算が武器有りの時の攻撃力を元にしていて、そこに付与の効果もついでに乗ってしまっているのではないかと思っているんだけど……その辺の内部システムに詳しいわけじゃないから合ってるかどうかはわからない。
そして、今回の武器の特性である【500ダメージ】というと、大体私のHPの100分の1くらいのダメージ量なんだけど……自分の体の中で100分の1くらいの負傷をイメージすると、果たしてどうなるか。
…………。
多分、足の小指の爪のひとつが剥がれるくらいのダメージになるんじゃないかな?
……アカン。想像するだけで超痛い。
そして、爆風に触れでもしたらその痛みがやってくるって、ちょっとキツくないですか?
しかも、閉じられた屋内って……。ダメージを喰らわない自信が正直ないんですけど?
なので、私はどうにか話し合いで解決できないかとまずは対話を試みる。
これで、戦いが終わってくれれば、万々歳なんだけどねー。
「しつこいようだけど、もう一度言っとくよ? 私は魔王軍特別大将軍、ヤマモト。魔王軍のナンバーツーであって、別にフィザ領主の座を簒奪にきたとか、そういう賊ってわけでもないからね? それを知った上でもまだ戦うの? 思わずノリと勢いでやっちゃったとかいうなら、ここで土下座してゴメンナサイすれば、今までの非礼も見なかったことにするんだけど、どうする?」
「ふん、大した妄言だな。そもそも、魔王軍特別大将軍なんて地位はない。その前提が成立しない以上、テメェらは俺の屋敷に不法侵入してきた賊なんだよ。それに、魔王軍特別大将軍の話が本当だとしても、逆にお前を殺せば、俺が魔王軍のナンバーツーになるってことだ。そんなオイシイ状況でなんで俺が降参すると思うんだ?」
まぁ、知ってた。
はぁ、やだやだ。痛いのヤだよー。
でも、タツさんとブレくんがやられた分くらいは返さないとなー。クランリーダーとしての面子もあるしなー。
とか考えていたら、いきなり足下から光が溢れる。
あれ、これ、地雷型発動された? いきなり爆発したから、フィザ領主の意思で起動させた感じかな?
私は爆風に押し上げられるようにして、空中へと放り出される。
そして、爆風を受けた足がやっぱり痛いんですけど!?
足の甲を猫の爪で引っ掻かれて、血がダクダク出たくらいには痛い!
全然致命傷じゃないし、【それなりに超?回復】のせいですぐに回復するけど、痛いものは痛い!
あと、ノータイムで爆発するのは厄介だね。油断してたらこれだよ。アイタタ……。
「空中に放り出されれば、回避できまい! ナマスにしてくれる!」
「なんで空中だと回避が出来ないって思い込むかなぁ……」
とりあえず、【わりと雷帝】を発動して下半身を雷に変えた私は空中を走って、刹那でフィザ領主の背後を取る。
それと同時に【収納】から魔剣フィザニアを取り出すと、それを背中からお腹に突き抜けるようにブスリと突き刺す。
――ドスッッッ!
「こ――……」
この野郎、と言いたかったのか、この程度で、と言いたかったのかは不明。
というか、既に私の近くの空間が光を放ち始めているので、戦意はあるもよう。
私はダメージ覚悟でフィザ領主の後頭部を引っ掴むと、無理やり床へと押し倒す。
と同時に、私の背後で爆発。
痛い! 熱い! 跳ねた油の飛沫が腕にかかったレベルで超痛い!
ちょっと涙目になりながらも、フィザ領主をそのまま床に魔剣フィザニアで縫い付ける。
そして、
「【ロック】」
魔剣フィザニアを床に深く突き刺したところで固定する。
フィザ領主は立ち上がろうとするけど、魔剣フィザニアの柄が邪魔になってか、うまく立ち上がることはできない。
さて、今の内に……。
「【アースウォール】」
フィザ領主を囲むようにして、コの字型に土壁を作っていく。
はい、これでフィザ領主の視界は封じたね。
「なんのつもりだ……? そして、何故、俺は剣に貫かれたのに痛みを感じない……?」
「それが、魔剣フィザニアだよ。あなたが探し求めていた魔剣がそれ」
「フィザニア、だと……。本当に実在していたのか……」
「その魔剣には斬った者を治癒する効果があるんだよ。だから、あなたは斬られつつも治っているから痛みがない。この魔剣を探してるって聞いた時は、廃人になっている長男を治すために探しているのかと思ったけど……」
「ふん、魔剣探しは方便だ。息子同士を殺し合わせて成長させるためのな。既に風化したような御伽噺の魔剣なんぞ存在しとるとも思っとらんわ」
「見つからない物を探させるなんて、なかなかエグいことを考えるね」
私の言葉と同時に、土壁の中から爆発音が聞こえる。
この感じだと、どうやら予想通りってところかな。
「ちっ、硬いな」
「あぁ、やっぱり。そのユニークスキルって視線が届かない所にまでは効果が及ばないんだね? おかしいとは思ってたんだよねー。味方ごとドカンとやっちゃうような非情な相手がさ、私やイライザちゃんたちを巻き込まないように爆発を起こさないって。普通に考えてありえないでしょ?」
ユニークスキルの射程が短いせいで爆発がこっちに届かなかったか、見える範囲でしか爆発を起こせないのかのどちらかだと思ってたけど、後者だったっぽい。
あの時、タツさんとブレくんが前に立ってたせいで、こっちの様子まで見えなかったんだろうね。だから、私たちに不意打ちが無かったんだ。
なお、射程が短かった場合も考慮して、フィザ領主とは【風魔術】レベル5の【ウィスパートーク】で会話してたりする。
えぇ! 念には念を入れて、しっかりやってますとも!
「これで、俺を封じたつもりか?」
そう言うなり、土壁の向こうでパンパンと音がし始める。どうやら、土壁を壊すつもりらしい。
自分の爆発に巻き込まれてダメージを受けたりしないのかな? とも思ったけど、ダメージ特性があるから、ほんの僅かな爆竹並の小さな爆発でも、連続して土壁にあて続ければ土壁は崩れるんだよね。
これ、正解は多分、相手の剣を奪い取ることだったっぽいなー。
けど、爆発で熱かったし、痛かったし、正直そこまで気を回してる余裕はなかったし。けど、このままじゃ脱出されちゃうかもしれないし……。
うん、本腰を入れよう。
「【グラビティフォール】」
「ぐっ、ごっ……がっ……!? ――ぶしっ!?」
【星魔法】レベル7。指定の範囲に超重力を作り出す魔法が【グラビティフォール】だ。
【星魔法】というと、ちょっと聞き覚えがないかもしれないが、LIAでは【土魔術】系の最上位魔法が【星魔法】になる。当然、上位魔法なのでその威力も凄い。
ちらりと土壁の切れ目から中を覗くと、既にフィザ領主は人の形を保っておらず、その場に人の形をした血の染みしか残っていなかった。
まるで、巨人に踏みつけられたかのような圧死――。
いや、そうじゃない。
圧死なら、血の染みじゃなくて、今頃ポリゴンが舞っているはずだ。
「これは……予想以上に魔剣フィザニアが凄い?」
床に突き刺された魔剣フィザニア。
今は血の染みの上に突き立っているようにしか見えないんだけど、フィザニアと血の染みの間から一瞬だけど、肉片が膨張しようとしては血の染みになる光景が繰り返されている。
そう、まだフィザ領主は生きている。
…………。
生きている……?
この状態を生きているといっていいのかはわからないけど、魔剣フィザニアのおかげで圧死と再生を繰り返している状態になっているようだ。
多分、【グラビティフォール】を解いたら、復活するんじゃないかな?
「【ポルターガイスト】」
とりあえず、【ポルターガイスト】でダメージ特性を付与された魔鉄の剣をズリズリと床を這わせて取り上げる。
これで、厄介なダメージ特性はなんとかできたね。
「これで、よしっと……。後はあの性格を矯正できるかだねー。【グラビティフォール】を解いて、復活させて……それを二、三回繰り返せば真人間に戻るかな? それで駄目なら、イライザちゃんにフィザ領主の悪い心でも消してもらうのがベストかな? ねぇ、タツさんはどう思う?」
魔鉄の剣を【収納】にポイっとしながら、タツさんたちのもとに戻る私。
そんな私を見たタツさんは、顔だけをイライザちゃんに向けると――、
「イラやん、ちなみにヤマちゃんの邪悪な心は消せへんの?」
「えーと、それをやると、反動で一年くらい私が消えます」
「さよか」
――二人してため息を吐いてるんだけど。
いや、ボスを倒した可愛い邪神ちゃんに、その扱いは酷くないかな……?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます