第292話

 うわぁ、五十人以上はいる大男たちを相手に、タツさんとブレくんが無双ゲーしてる……。


 というか、タツさんが操る【フレア】が気持ち悪い動きしてるね! なにあれ! 伸びたり縮んだりぐねぐねしたり! まるで船上に釣り上げられた魚みたいに勢いよく動いてるよ!


 超高速で動く炎の鞭と鉄壁の大盾が、まるで防壁と機関銃のように機能し、迫りくる大男たちを近寄らせない!


 これは、大男たちにしてみたら、たまったものじゃないね!

 

「とりあえず、巻き込まれたら困るから、イライザちゃんとセドリックさんは少し離れてようか?」

「そ、そうですね」

「凄いですね、あの二人……」


 私の誘導に従いながらも、イライザちゃんが感心した声を出す。


 そう、凄いんだよ、あの二人。


 特に、ブレくんの装備はちょっと特殊で、クランメンバーのコグシリーズの中では、唯一、防御力特化で作られている。


 というか、ブレくん自身が『防御力や体力が高いほどダメージが出る』といったスキルを好んで取っていることもあって、そっちの方向性で装備を作らされた感じなんだよね。


 そのため、ブレくんの火力はクランメンバーの中では一線級とは言えないんだけど、硬さだけで言えば、クランメンバーの中でも私に次ぐ硬さを誇っているんだ。


 そんなブレくんが前衛を務めているんだから、タツさんに迫れる相手なんてほとんどいなくて、ただただ大男たちがタツさんの炎の帯で嬲られ続けていくという状況が続いている。


「確かにこれは、ツナさんが言ってたように経験値稼ぎにはもってこいかも……」


 相手の攻撃手段が物理のみで、特に怖い特殊攻撃もないというのであれば、ただ処理し続ければいいだけだしね。


 気持ち的には、シミュレーションRPGで敵の増援をひたすら呼び込んで、レベル上げ作業をやってるような気分だ。


 このまま何事もなくいければいいんだけど……。


「あぁ、そうだな。俺は何を期待していたんだ。最初から分かってただろうに……」


 私の思考がフラグだったのかな?


 強面がそう呟いた瞬間に室内に光が満ちる。


 ――ドォォォォンッ!


 次いで、耳を劈くように轟いたのは爆音。


 視界がチカチカして、状況が良くわからない中で、何かが私の目の前まで飛んできたので、私はそれを思わずキャッチする。


 え、なにこの長いの?


 ――って。


「タツさん!?」

「ゲホ! ゴホゴホゴホ!?」


 キャッチしたのは、ボロボロになったタツさんだ。


 そんなタツさんが飛んできた方向では、もうもうと煙が立ち込めており、目がチカチカするのと相まって状況が良くわからない!


 一体なにが起きたの……?


「待ってて、今回復するから! 【オーラヒール】!」

「す、すまんなぁ……」


 タツさんの体の傷があっという間に消えていく。


 タツさんはHPが低いから、少しのダメージでもすぐに死にかけるんだけど、少しの回復でもすぐに全快するのは便利だよね。


 で、なにが起こったんだろう……?


 というか、ブレくんは……?


 ようやく目が慣れて、煙が晴れてきたところで、私は部屋の惨状に気がつく――。


「え? ――ブレくん!」

「…………」


 ガクンとブレくんの両膝が床に落ちる。


 そして、ブレくんの目の前に立っていたのは剣を振り下ろした姿勢で立つ強面の男。


 その強面の男の周囲には多くの光の粒子が舞っており、数を頼りに押しかけてきた男たちの姿が今は驚くほど少なくなっている。


 まさか、仲間たちごと巻き込んだ……?


 タツさんたちの不意をつくために……?


「俺以外は誰も信用できない――そんな簡単なことも忘れちまってるとはな。錆びついたもんだぜ」


 強面の男が片手に持っていた剣を肩に担ぐ。


 あの武器でブレくんを攻撃したんだろうけど……ブレくんの物防は500オーバーはあるんだよ?


 魔剣にも見えないあんな普通の武器で、ブレくんの物防を貫けるはずが……。


「――ッ!? 【鑑定】!」


====================

【魔鉄の剣】

 レア:6

 品質:高品質

 耐久:998/1000

 製作:okam

 性能:物攻+112 (斬属性)

    【500ダメージ】

 備考:ダンジョンの扉などにも使用されていることで知られる魔鉄でできた剣。並の剣に比べても頑丈。

====================


 ユズくんの【ダメージ】特性が付与されてる!?


 そりゃ、防御とか関係なしにブレくんも膝をつくわけだよ! というか、ユズくん、コイツに武器を売ったの!?


 いや、ユズくん的には『お金命!』なんだから、そりゃ相手がワルモノっぽい領主だったとしても儲かるなら売るだろうけど……。


 なんにしても、これはブレくんに取って相性が悪い。


 いや、HPで受けられる……受けられたせいでまだ死んでない……んだろうけど、こういう武器を敵が持っているんなら、掠らせもしない戦い方をする必要があると思うんだよね。


 けど、相手の攻撃を受けることを前提に立ち回るブレくんの戦い方だと、非常に相性が悪いわけで……。


「まだ息があるか。トドメだ」


 強面が剣を振り上げる。


 ヒュン!


 けど、剣を振り下ろした先には何もない。


「ブレくん、大丈夫?」

「すみません、ヤマモトさん……」


 私は強面が剣を振り上げた一瞬で、ブレくんを抱え上げ、その場から脱出していた。


 いや、危ない、危ない。


 これ以上の状況になっていたら、私がミサキちゃんに怒られるところだった……。


 間一髪。セーフ、セーフ。


「お、大口叩いといて、このザマです……。面目ない……」

「【オーラヒール】っと。いや、ブレくんたちは勝ってたよ。ちょっとイレギュラーがあったせいで、結果的にこうなっちゃったけどね」


 それもこれも、アイツに武器を売り渡したユズくんが悪い!


 というか、敵対する可能性があるNPCに売ったらダメでしょ! そもそも、クランメンバーにしか売らないんじゃなかったっけ!?


 …………。


 あれ? そうなると、ユズくんじゃなくて、クランメンバーが直接この強面に売った可能性がある?


 巨大クランだから、ユズくんも御しきれてないのかな? なんか、そっちが正解っぽいね。


「ブレ、すまんなぁ。ワイのダメまで肩代わりしてもろうて……」

「タツさんのHPじゃ、即死ですから……。それが盾役の仕事ですから、気にしないで下さい……。痛てて……」

「ククク、ブサイクな顔しとるわ……」

「お互い様ですよ! 痛ぅ……。ヤマモトさん、もう一回、回復魔法もらえません? まだ全快してなくて……」

「はいはい、【オーラヒール】っと」


 うん、回復魔法のおかげで少し元気出てきたかな?


 後の面倒はイライザちゃんにでも任せようかと、私がそんなことを考えていたその時――背後に不穏な気配が!


「ちっ、面倒くせぇな。……【爆弾ボム】!」

「【ブラックホール】!」


 【闇魔法】レベル10。なんでも吸い込む小型のブラックホールを、私は自分の背後に向けてノールックで発動する。


 それは、ほとんど勘みたいなものだったけど、私の【野生の勘】も捨てたもんじゃなかったらしい。


 一瞬の後には背後で光が溢れ――直後に消えていく。


 不意打ちを嫌って正々堂々と戦うタイプのNPCもいるけど、フィザ領主はどうやらそういうプライドは持ち合わせていないみたいだね。


 勝利至上主義者みを凄く感じる!


「ヤマちゃん、気ぃつけぇ! ソイツのユニークスキルは恐らく見えない【爆弾】を作り出すスキルや! 設置、時限、起爆スイッチ型……恐らく、なんでもありや! この部屋ん中にも山ほど設置されとると考えといた方がえぇ!」


 へぇ、【爆弾】を作り出すユニークスキルかぁ。なるほどねぇ。


 …………。


 ん?


「ごめん、タツさん。流石に地球破○爆弾とか作られたら守りきれないかもしれない……」

「いや、それはないやろ」

「ないことはないでしょ!? LIAだよ、LIA! なにがあるかわからないじゃん!」

「このくだり、どこかで見たことあるなぁ」


 流石に不毛だと思われたのか、イライザちゃんに「ちゃんとやって下さい!」と叱られながらも、私はタツさんとブレくんを下がらせてから、嫌々ながらにフィザ領主と対峙する。


 …………。


 いや、本当に地球破○爆弾使ってこないよね……?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る