第291話
■□■
襲いかかってくる領主屋敷の執事やメイドたちをちぎっては投げ、ちぎっては投げをして彷徨っていたら、なんだか随分と怪しい扉を見つけた。
というか、RPGでいうなら絶対にラスボスが潜んでいそうなデッカイ扉だ。
とはいえ、LIAには常識が通じない部分が沢山ある。
【バランス】さんとか、【バランス】さんとか、【バランス】さんとか……。
というわけで、私はとても迷った挙げ句に、恐る恐るその恐ろしい可能性を口にしてみることにした。
「もし、この扉がトイレの扉だったらどうしよう……?」
「いや、ないやろ」
「ないとは言い切れないじゃん! LIAだよ、LIA! なにがあっても不思議じゃないし! どうすんのさ、勢い良く扉蹴破ってみて、中でしている最中だったら!」
そんなもの見た日にはトラウマだよ!
正直、そんなもの見るくらいなら、開けたくないって気持ちの方が強いぐらいだよ!
「そん時はそん時やろ」
「なんでそんなに冷静なの!? 見たいの!? 見てみたいの!?」
「ちゅうか、このデカイ扉でトイレはないっちゅう話や! トイレ前提で会話すんのやめぇや!」
「それだったらノックしてみたらいいんじゃないですか?」
ブレくんがわりとまともなことを言う。
というか、ワラワラと湧いて出てくるダーク執事と暗殺メイドの足止めをしているのが、ツナさんとミサキちゃんで、私の周りに残ってるのが、わりと常識がある方のタツさんとブレくんとイライザちゃんってところに、何らかの意図を感じるのは気のせい? というか、君ら談合してない?
「せやな。ノックしたら返事くらい返ってくるかもしれんなぁ。トイレちゃうと思うけど」
「まぁ、一理あるかな? それじゃあ、早速――」
コンコンコ――……ドゴンッ!
「ノックの力加減を間違えた……」
「なんでやねん!?」
蝶番が外れて吹き飛んだドアは、まるで支柱を失くした観覧車のように縦回転。
床にあたって跳ねながら、なんか一人のおっさんを巻き込みながら吹き飛ばしてしまった。
ごめんね、おっさん。
というか、誰か床で寝てるね。
あれ? セドリックさんじゃないの? 何やってんの? 逆五体投地?
「これは……どう見てもトイレとはちゃうな」
「その話題から離れません?」
両脇の壁に沿って、ズラリと並ぶ武装をした屈強な大男たち。そして、最奥の椅子に座るのは任侠映画にでも出てきそうな強面の男。
確かにトイレではなさそう。
「……ケント。ちょっとこっち来いや」
ドスの効いた声で強面が男の一人を呼ぶ。そして、呼ばれた男は強面の前に立ち、直立不動になる。
何これ? 上下関係の厳しい体育会系の部活か何かかな? 怖そう。
「オウコラ、テメェ。俺がこの街をぶん捕った時に言ったよな? 俺がこの街の領主をぶっ殺して手に入れたんだから、絶対に同じ考え方をする奴が出てくるってよ?」
「へい……」
「だから、そういう奴が出て来ないように準備しとけとも言ったよなぁ?」
「へい……」
「それがこの有り様か? どうなんだ、ケント? なんか言い訳はあるか?」
なんか仲間割れしてる?
というか、あの強面の人がフィザ領主? なんか、魔剣を渡すタイミングを逃しちゃったなー。どうしよう? 今から私が魔王軍特別大将軍ですって名乗り出ようかなー?
でも、あっち、立て込んでそうだしなぁ……。
とりあえず、セドリックさんを助け起こして、【オーラヒール】でもかけておこう。
顔ちょっとパンパンマンだったしね。
痛みがリアルだから、相当痛いんじゃないかな、その状態。
「あ、ありがとうございます……」
「いいってことよー」
「ヤマモトさん、無事だったんですね……」
「まぁねー。って、あ、そうだ。無事で思い出した。この迷宮抜けの紐なんだけど、サラさんに渡しといてもらえる?」
「それは、多分自分で渡さないと怒られる奴では……?」
「私もほら暇じゃないからさー。あ、ついでに元気してたって伝えといて?」
「は、はぁ……」
お気楽ムードの私たちとは違って、あっちの強面さんたちはシリアスムードが続いてるみたい。
なんであそこだけハードボイルドな世界なんだろうね?
「問題ありやせん……」
「ほぅ……」
「俺らがここで連中をぶっ殺せば済むことでさぁ……」
「なら、さっさとやってみせろや」
「へい……」
ケントと呼ばれていた大男が、クルリとこちらに振り向く――と、同時に視界の端でクランチャットの着信が……。
なんだろ?
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[ツナ缶うまいですよ♪]
敵が無限湧きして経験値がウマイ。
ゴッドはすぐに敵を殲滅するな。
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いや、どういうこと!?
普通はピンチだから急いでくれ! とか、早く助けに来てくれ! みたいなメッセージが来るもんじゃないの!?
なんで、引き延ばせ! みたいな指示受けてるの私!?
「なるほど。ヤマちゃんは時間をかけて、敵を嬲れっちゅうことやな」
「違うと思う」
とりあえず、ツナさんの希望を聞くと【木っ端ミジンコ】は使用不可で、なるべく時間をかけて相手と戦えって感じ?
いや、ノックひとつで巨大な扉を破壊しちゃうような人間が、そんな器用なマネできると思う?
私は無理だと思うんだけどなー。
「というか、とりあえず相手がフィザ領主っぽいんで、魔王軍特別大将軍だって名乗ろうと思うんだけど……」
「いや、そういう空気ちゃうやろ?」
「なんかもう、今にも襲いかかってきそうですよ?」
はたから見ると、私兵をけちょんけちょんにしながら突き進んできた不法侵入者だもんねー。
そりゃ、聞く耳持たないわーという感じはする。
けど、ここはちゃんとフィザ領主に名乗っておかないと、あとあと面倒くさそうだからね。
やめといた方が……と言う、タツさんとブレくんを振り切って、私は一歩前に出るよ!
「静まりなさい! 我が名はヤマモト! 魔王軍特別大将軍である! 私は無益な争いは好まない! 今すぐに武器を収めなさい!」
やった! 言ってやったよ!
けど――、
「魔王軍特別大将軍だぁ? 知らんなぁ……? それに、魔王軍のお偉いさんがこんな片田舎にまで来るわけがねぇだろうが。大方、俺の地位を狙った居直り強盗ってとこかぁ? テメェら、遠慮することはねぇ。魔王軍の名を使った騙りなんざ極刑よ。コイツらを今すぐ畳んじまえ」
「「「おおおおぉぉぉぉぉ!」」」
いや、待って。
本当に魔王軍特別大将軍の名が通じないんだけど!?
本当にどうなってんの、フィザの街!?
「ま、こうなると思ったわ」
「タツさん?」
「仕方ないです。御老公は僕たちで護りましょうか」
「ブレくん?」
戸惑う私に、大男たちが波のように押し寄せてくるんだけど、それが炎の鞭と大盾によって、ものの見事に跳ね返される。
そして、私を守るように一歩前に出たのは、タツさんとブレくんだ。
えぇ、なにそれ、ちょっとカッコイイじゃん……。
「ま、僕らも経験値は欲しいんで」
「そういうことやな。せやから、ヤマちゃんは『懲らしめてあげなさい、タツさん、ブレさん』って言ってくれればオーケーや」
その御老公扱いは、暗に私が年増だと言ってたりする?
「いや、でも大丈夫? タツさんもリリちゃんと同じで、屋内戦は苦手なんじゃ……」
私がそう尋ねると、タツさんは自信ありげに目を細める。
「リリちゃんはユニークスキルに頼り過ぎやから、屋内戦が苦手なんや。一流の魔法使いやったら、屋内は屋内で屋内戦用の戦い方ぐらい確立してあるもんやで。例えば、【フレア】――」
タツさんの言葉と共に、タツさんの目の前に帯状の炎が現れる。【火魔術】レベル10の【フレア】だ。
このフレアの帯状の炎は普通だと直線的に進んで、相手に触れるなり相手を炎上させることができたり、手元で動かすことによって、蛇行するように動かすことができたりするんだけど……。
でも、タツさんが出した【フレア】は炎の帯が一定の長さで、空中に留まり続けている。
大男たちも、その【フレア】を恐れてか、なかなか近づいてこない。
というか、【フレア】って出したらどこまでも進んでいくものなんじゃないの? えぇ?
「驚いとるようやな。まぁ、仕掛けは簡単や。【魔力操作】で魔力が丁度【フレア】の先っぽのところで霧散するように魔力の出力を抑えとるだけや」
「へー、魔術や魔法って規格が決まっていて、あんまり変えられないイメージがあったんだけど、発動した後だったら出力の調整が――」
「おい、テメェら!」
え、なになに!?
急に話しかけられたのかと思ったけど、そうじゃなかったみたい。
さっきの強面に怒られたケントって人が周囲に立つ大男たちを叱責してる。
「ビビるんじゃねぇ! 魔王軍の幹部を騙ったんだ、むしろ正義はこっちにある! さっさとコイツらをぶっ殺して、街中に死体をばら撒いてやれ! それこそ、二度と俺たちに逆うような馬鹿が出ないようにな!」
あぁ、なるほど……。
なんかフィザ領主が妙に兵隊をかき集めてるなぁと思ってたんだけど、さっきの強面との会話も鑑みるに、現在のフィザ領主は以前のフィザ領主から領主の地位を簒奪してるっぽいんだよねー。
だから、自分もそれをやられることを恐れて兵隊をかき集めてたってことみたいだね。
ようやく合点がいったよ。
けど、数を集めてもウチのクランメンバーをどうにかできるような実力者がいなければ、所詮は烏合の衆だよね。
ツナさんも言ってたけど、良い経験値稼ぎにしかならないと思うよ?
「魔法に恐れんな! 殺っちまえ!」
「ブレ、近づく奴優先で跳ね返したれ! あと、ワイの射線に入るんやないぞ!」
「わかってますよ! できるだけ頑張ります!」
そうして、タツさん、ブレくんと大男の戦闘が始まったんだ――。
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