第290話

冒険担当クラブ視点】


 まぁ、なんというか、タツさんたちに色々と私が持ってる情報を話し始めて二時間――。


 流石に、古代都市の話はできなかった(あそこは私の最終隠れ家なので……)けど、私が分身体であったり、魔王軍特別大将軍であったり、次に受ける護衛依頼が魔王からの特別依頼であったり、イライザちゃんの身の上話だったりをペラペラと喋ったところで、クランメンバー全員が頭を抱えてしまったのは……うん、想定の範囲内としておこう。


 その後で、「これからどうしたらいいと思う?」と全員に相談してみたんだけど、流石に情報が出過ぎてて、誰も上手いこと返せなかったんだよね。


 結局、まずは目の前にあることをひとつひとつ片付けたらいいんじゃない? ということになり、魔剣フィザニアを領主に渡すことになったわけなんだけど……。


「ちわー、三河屋でーすって感じで届けに行くんじゃダメかな?」

「そんな気楽に領主の屋敷に出入りできたりするもんなん?」

「いや、流石に止められると思いますよ?」

「ゴッド一人じゃ不安だから皆で行く」

「それが無難かもな……」


 というわけで、クランメンバー全員+イライザちゃんといったメンバーで領主の屋敷を訪れることにしたんだよ。


 で、フィザの領主屋敷に到着したんだけど――、


「魔王軍特別大将軍? 魔王軍に特別大将軍などという役職はない! からかっているなら帰れ!」


 と、屋敷の門番に一喝される始末……。


 いや、本物ですけど!?


 嘘もついてないのに、犬みたいにシッシッと追い払われるのはどうなのコレ!?


「ちゅうか、フィザって地理的にも、雰囲気的にも閉じた雰囲気あるしなぁ。情報が届いてないんとちゃうか?」

「いや、もしかしたら、ヤマモトさんが本当に勘違いしてる可能性もありますよ……」

「誰かに踊らされてるとかな……」


 そして、隠し事があまりにも多かったせいか、クランメンバーに信用されてない!


 このままだと、私が嘘つき扱いになっちゃう! と思ったので、門番に「本当なんですぅー、信じて下さいー」って縋りついたら、「お前の態度次第では、考えてやってもいいぞ……?」って、肩に腕を回されて、あまつさえ胸にまで手を伸ばそうとしてきたんで――、


「【木っ端ミジンコ】」


 門番を爆散しました。


「「「なっ!?」」」


 そりゃもう、セクハラされそうになったからには戦争ですよ?


 私の目の前で粉微塵になった門番。


 そして「て、敵襲ー!」と叫ぶ、ちょっと離れた所に立つ門番。


 更には、


 「南無三」と呟くツナさんに、


 「こここ、これ大丈夫なんですか!?」と慌てるブレくん。


 そして、「女の敵、死すべし」と嫌悪感も露わに唾を吐き捨てるミサキちゃんと、


 「誰か止めるんじゃねぇのかよ……」と諦念の表情を見せるTakeくんに、


 「ヤマさん、大丈夫ですか!? ポリゴン眩しいですぅ……」と心配してくれるリリちゃん。


 「いや、え、いや……?」と全く理解できていないイライザちゃんがいて、


 そして――、


「やったなぁ、ヤマちゃん」


 何故か少し楽しそうな顔付きドラゴンフェイスでタツさんが言う。


 えーと? あれ? 怒ってない……?


「やらかしたなぁでんがなまんがなって怒らないの?」

「関西人馬鹿にしとるん……?」

「いや、怒られると思ってたから」

「なに言うてんねん。相手から手ぇ出して来たんやで? しかも、魔王軍特別大将軍にやらかしたんやから、メタクソにされても文句言えへんやろ。こんなもん、大義名分を得たのと同義や。クックックッ、正義のための戦……ワイは大好物やで」


 いやぁ、タツさん、悪い顔してるわぁー。


 まぁ、タツさんの言葉を聞いて、私もおんなじ顔してると思うけど。


「元々フィザ領主って悪い噂しか聞かんかったんや。所詮は噂やろ? とか思っとったんやが、今の部下の行動を見る限りやと、当たらずとも遠からずとちゃうか? こんなん馬鹿正直に領主に魔剣渡すことないで、ヤマちゃん」

「それはそれでこの街の次期領主問題が永遠に片付かないことになるし、魔剣は渡すことにするよ。まぁ、ちょっとOHANASHIすることにはなると思うけど」


 ワラワラと領主館から湧いて出てくる私兵を横目に、私は指の関節をポキポキと鳴らそうとして……上手く音が鳴らなかったので諦める。


 とりあえず、世紀末救世主伝説っぽい顔つきにはなっておこう。キリリ。


「というわけで、ダイナミック家庭訪問することに決まったんで、みんなよろしくー。逃げる人は追わなくてもいいけど、歯向かう相手はボコボコでよろしくー」

「やってることが悪党なんだよなぁ……」


 ブレくんがボヤいてるけど、これもフィザの街の機能を正常に戻すため!


 言うなれば、聖戦ということを理解して欲しい!


 まぁ、領主に魔剣を渡しに行くだけだけど!


「なら、ここは俺とリリで押さえといてやるから、お前らは先に行ってこい」

「おや、珍しい」


 そう言って、一歩を踏み出したのはTakeくんだ。Takeくんはこういう状況で進んで戦うタイプじゃないと思ってたのに、一体どういう風の吹き回しなんだろ?


「つーか、元々リリは狭い屋内戦で活躍できるタイプじゃねぇし。それに、運営に喧嘩売るつもりなら、今は少しでも多くの経験値が欲しいんだよ。一レベルでも上げとかねぇと不安で仕方ねぇからな」


 なるほど。


 もう既にTakeくんの目は現状よりも未来を見据えているってことね。


 そして、その未来に待つ出来事の規模が大きいからこそ、これくらいは些事と考えているってわけだ。


「だったら、ここはお任せしようかな? 前衛なしでもいける?」

「【鑑定】が通って相手のステを見たが大した連中じゃねぇ。せいぜいがB級冒険者ってトコだろ? その程度なら、俺の半端な回避盾でもなんとかなるはずだ」

「Takeくんが頑張るっていうのなら、リリも頑張ります〜!」


 Takeくんは半端だって言うけど、半端なりにも回避盾が出来ちゃうところがTakeくんのヤバさだと思うんだよねー。


 初期は前衛のガチガチ盾職やってて、片腕を失った後は後衛職のバフ兼ヒーラー役やってて、そして、今は回避盾兼ヒーラー役の中衛やってるっていうね。


 あんまりゲームをやってこなかったはずのTakeくんが、これだけ目まぐるしく役職を変えてるにも関わらず、どれもソツなく普通にこなせてしまうところにヤバさがあると私は思うんだけど、本人は本職に比べてまだまだだと思ってるのか、自己評価が不当に低かったりする。


 それもこれも、周りにおかしなのがいっぱい居過ぎるのがいけないのかな?


 それで自己評価が低い――と、おかしなのの筆頭が言ってみたり。


「じゃあ、屋敷までの道程は僕たちが切り開きますよ」

「一度、ガサ入れしてみたかった」


 というわけで、屋敷までの道程はブレくんとミサキちゃんに任せて、庭での戦いはTakeくんとリリちゃんに制圧してもらうことに。


 あと――、


「イライザちゃん、これ着といて」

「はい?」


 そう言って、換装用の装備として用意していた白無垢をイライザちゃんに渡す。


 一応、私のくノ一装備の露出が多いことを気にして、和装で露出が少ないをコンセプトに作った新装備が、この白無垢である。


 私用に作った装備だから、高レベルの【隠形】と高い防御力も備えているので、身を守るにはうってつけの装備だと思うんだけど……、


「色々と面倒をみてもらって言える義理ではないと思うんですけど……」

「うん」

「これは、流石にその……引きます」


 …………。


 白無垢って花嫁衣装だもんねー。


 それを女の私から渡されるという行為――そこに一定以上の受け入れられない部分があるというのは私にもわかるよ?


 でも、ちょっと考えてみて欲しい。


「逆に考えてみて? 好きでもない男が『これ着て欲しいんだ、グフフ……』って渡してくるより全然マシじゃない?」

「……それもそうですね。着ます」


 うん。


 イライザちゃんも納得してくれたみたいで、白無垢を装備してくれたよ。


 髪も真っ白なのに、白無垢装備も真っ白だから、全身真っ白でなかなかにアレだね。


「ベタとか少なそうでイイ感じかも」

「どういう目線ですか、それ?」


 えーと、絵師目線?


 とりあえず、準備は整ったのでブレくんとミサキちゃんに先陣を切ってもらう。


「じゃあ、お願い」

「はい!」

「任された」


 いやぁ、頼んだのは私だけど、衛兵の皆さんが気の毒になるほどの撫で斬り状態。


 相変わらずミサキちゃんは高速で動いて、影も踏ませないような動きをしてるし、ブレくんはブレくんで動作自体は重いけど、勇猛果敢に相手の間合いを潰すように飛び込むことで、受けるダメージを最小限にして、パワーで相手を殴り倒してるし――、まぁ、簡単に言っちゃうと二人共イイ感じだよ。


「馬鹿野郎! 行かせるな! 囲め、囲め!」

「なんだこの突破力は! クソっ、止められねぇ!?」

「数が意味ねぇぞ! どうなってんだ!?」

「えーと、B級冒険者相当って、現在のトッププレイヤーレベルのはずなんですが……」


 蹴散らされる衛兵たちを見つめながらも、どこかスンとした顔になっているイライザちゃん。


 いや、そんなこと言われてもねぇ……。


 なんか、こう、わざと苦戦したりした方が良かったのかな?


 そんな衛兵たちがワーキャーやってるところに、今度は上空から飛んできた魔法が次々とヒットする。


 なんだ、と衛兵たちが上空を見上げる中、月夜に浮かぶのは一羽の烏……、いや――。


「【瞬装】、コグスリー特化モード」


 静かに呟くリリちゃんの声に応えて、烏のシルエットが黒い珠に飲み込まれたかと思うと、ガションガションという音を響かせて、あっという間に小柄な人型へと姿を変える。


 そして、蝙蝠の翼を思わせる巨大な推進装置スラスター――計四枚の翼が夜空に煌めきを残しながら大きく広がりを見せたところで、イライザちゃんが呟く声が聞こえてきた。


「まさか、魔王リリまで……」


 イライザちゃんの怯えを含んだ声音……もしかしたら、大武祭の予選で戦ったのかもしれない……を皮切りにしたわけではないだろうけど、光る推進装置の先が螺旋の軌跡を残しながら、夜空を高速で舞う姿はどこか幻想的である。


「上に距離取ったちゅうことは、庭全域を射程範囲に捉えたってことやん! こりゃ、ドデカイの来るでぇ!」

「ブレ、ペース上げる!」

「わかってるけど、これが精一杯なんだって!」


 みんなが走るペースを上げる中、リリちゃんの推進装置の先から――無音のままに無数の光の線が解き放たれる。


 その光の線は曲芸のように曲がりくねりながら、弾け、合流し、忙しなく動きながらも次々と私兵に直撃しては、その姿を炭へと変えていく。


「えげつなっ!」

「怖い怖い怖い!」

「後もう少し! 屋敷に飛び込む!」


 あの不規則な軌道。


 普通の魔道ビーム兵器(?)なら、軌道がズレたら当たらないものなんだけど、【必中】持ちのリリちゃんが撃つと、絶妙なフェイントになって避けるのがかなり難しくなってくるんだよね。


 というわけで、マップ兵器が暴れてる前庭をささっと抜けて、私たちは屋敷の中へと退避するよ!


「リリちゃんも大概ですけど、Takeさんも相当ですよ!」


 突撃した屋敷の中から襲いかかってきた執事を盾で殴り倒しながら、ブレくんが叫ぶ。


 うん。


 私も爆撃される前庭をチラッと見たけど、あの破壊光線の中を普通に縫って移動して、敵を一体ずつ仕留めつつ、周囲を確認しては、リリちゃんにヘイトを向けようとしてる敵を狩ってる姿は、勇猛とかいう以前にイカレてるとまでに感じるほどだった。


 ブレくんが叫びたくなるのもわかる。


 あれはリリちゃんを信頼してるからこそ、できる芸当なのかな?


「お喋りはそこまでだ。来たぞ」


 ツナさんの警告と共に屋敷の中から現れたのは、武器を持った執事やメイドたち――。


 …………。


 いや、この領地、やけに戦力が充実してない?


 ここの領主って、なんか悪いこと企んでたりする?

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