第268話

 一日目は、まだ寝不足で済んでいた。


 二日目になって、今日も来るんだ……となった。


 三日目になって、あ、まだ続くの? となった。


 四日目になって、ちょっとイライラしてきた。


 そして、五日目も寝込みを襲われて、私は我慢ができなくなった。


「――どげんかせんといかん!」


 私はボロボロになった自分の部屋のベッドの上で行儀悪く胡座を組みながら、うぅむと唸る。


 というか、連日の襲撃は傍迷惑ではあったけども、まるで収穫がなかったというわけでもないんだよね。


「とりあえず、部屋は直しとこう。【古代魔法】【クラフトツール】」


 私が【古代魔法】を唱えると、視界内にトンカチのマークが表示されるようになり、それで視界内の物を叩くと、穴の空いていた床や煤けていた壁や壊れたドアなどがMPを消費して瞬く間に直っていく。


 うん。


 私たち分身体は本来、新規スキルを覚えられないはずなんだけど、【古代魔法】に関しては、MPを消費して自由自在に現象を引き起こすことができるという魔法なせいか、普通になんか建築もできる魔法が作れてしまったみたいなんだよね。


 まぁ、床に穴が空いた状態だと着替えとか、色々と下の住人に覗かれちゃうわけで……。


 それが嫌で頑張って創った次第で御座います! 私、偉い!


 そして、この【クラフトツール】、実は直すだけじゃなくて、新規に床とか壁とか窓とかインテリアとかトラップとかも作れちゃう優れものの【古代魔法】となっております! 


 というか、それだと素材を元にして、色々と作り出す【魔神器創造】の完全上位互換じゃね? って、最初は思ってたんだけど……。


 【クラフトツール】で作り出せるのは、部屋とか家に関係するものだけらしくって、武器、防具、薬や魔道具みたいなものは、【魔神器創造】スキルじゃないと作れないっぽいんだよねー。


 元々【魔神器創造】スキルって、【魔剣創造】【魔装創造】【魔具創造】の統合スキルだから、そう考えると確かに装備品や装飾品、魔道具を専門で作り出せるスキルなんだってわかるんだけど、【クラフトツール】があまりにもホイホイ便利に何でも作れちゃうものだから、ちょっと混同しちゃったよ。


 というか、コレを暗黒の森の私の領土に住んでる分身体たちに譲渡できればかなり喜ばれることになると思うんだけど……。


 そのためには、私が一度死なないと本体にフィードバックされないという問題点がねぇ……。


 うん。


 【古代魔法】なら、こういうの作れるよと報告だけはしておいて、あとは個々人で勝手に作ってもらおう。同じ私なんだからできるできる。


 まぁ、そんなこんなで、この【クラフトツール】を使って、私は毎晩毎晩私の安眠妨害をしてくる連中に目に物を見せてやる計画を練り上げました!


 じゃ、早速色々とやっていこう!


 今日は土曜日だし、時間もあるし、頑張るぞー! おー!


「やっぱり、この狭い部屋で色々と仕掛けるのは無理があるから――」


 とりあえず、外に面していた壁一面をぶち壊しておこう。


 ドカンッ!


 で、その先に通路を伸ばしていってと……。


 うん。


 本来ならば、学園長に大目玉を食らってもおかしくないほどの改造を部屋に施していくよ!


 というか、学園長には【不老】という賄賂を送ってあるからね!


 私が、こんな無茶やったところで怒れないんだよね! ひゃっほう! 賄賂最高!


 というわけで、MPの続く限り好き勝手に部屋を魔改造しちゃうよ!


 ■□■


 はい。あれから八時間ほどかけて、私は三つの部屋を作りました。


 ちなみに、あてがわれた部屋は狭かったので、外壁を取っ払って学園塔の外部に新たに部屋を拡張しています。


 外から見た感じだと、学園の細くて高い塔の外壁にミノムシみたいな建物がぶら下がっている感じに見えるのかな?


 でも、これ、全部私の部屋。


 私の部屋を入口にして、一階層、二階層と侵入者避けの罠部屋を作って、地上に近い三階層目に私のプライベートルームを作り上げてみました!


 当然、私のプライベートルームに来るためには、二つの罠部屋を攻略してこないとダメなんだけど、私自身がいちいち学園に通うのに罠部屋を通過するのは面倒くさいので、そこは元の私の部屋とプライベートルームを繋ぐ私だけしか利用できない転移魔法陣を用意したよ!


 というわけで、これ作るのに一日かかっちゃったので、本日は三階層のプライベートルームでまったりとお休み中。


 罠部屋の様子を覗くために監視用の魔道モニターと魔道カメラのセットをロウワンくんから買ったので、それで罠部屋の様子を確認しながら、現在はベッドに寝転びつつも侵入者を待ってる最中――なんだけど。


「誰も来ない。やっぱり、深夜になってからじゃないと来ないのかな?」


 罠部屋を作ったはいいけど、別に誰でもウエルカムってわけじゃないから、私の元の部屋の扉には鍵をかけてある。


 普通はこの状態の部屋にわざわざ乗り込んでくる馬鹿はいないはずなんだけど……もう五日もやられてるからね。絶対今日も来るはずだと、ある種確信を持って言えるね。


「どこの誰だか知らないけど、この部屋の様子を見た時の驚いた顔が見たいんだよねー。でも、ダメだ。この感じじゃ深夜二時まで誰も来ないね。少し寝よっと……」


 というわけで、真夜中になるまで少しお昼寝。


 システムのアラームをセットして、深夜二時に起きるようにしてっと……。


 では、おやすみー。Zzz……。


 ■□■


 はい。おはようございます。


 何故か起きた時には、二時五分になっていたんだけど、急に時間が飛んだのかな? キング・ク○ムゾン!


 そして……おぉ、いるいる。


 いつも、私を滅多刺しにしてくれるメンバーが揃い踏みだよ! 全員で五人もいるよ! そんなにいたんだね……。


 そのいずれもが、困った感じで部屋の中をウロウロしている。


 いや、あるでしょ! 今まで窓があった場所に怪しい扉が! それを開けてみようよ! さぁ、さぁ!


 でも、なかなか開けない。


 ちょっと怪しすぎたかな……?


 というか、やられっぱなしだった私が仕返し用に用意した罠だと警戒されてる?


 いや、まぁ、実際そうなんだけど、頑張って作った罠部屋なんで一度くらいは挑戦してもらいたいなーとか思ってるんだけど……。


 あ。


 誰か一人、意を決して行くね! そうだよね! 私いないもんね! そりゃ進むしかないよね! よし、行け! 開けろ! あと、その一人を生贄にして、他の生徒が部屋の隅に下がってるの地味に酷いね!


 そして、扉を開けた生徒の動きが止まる。


 あー! 魔道マイクも付けとけば良かった! 何言ってるのか聞こえないのは致命的だよ! 多分、なんじゃこりゃー! って言ってるよね? あー、何言ってるのか聞きたーい!


 はい。


 というわけで、侵入者が見て驚いた第一階層の罠は二十五メートルプールの罠です!


 水がプールのように一面に張られた部屋をどうやって向こう側に辿り着くのかといったのを考えるギミック!


 なお、プールの向こう側には、二階層に降りられる階段が見えているので頑張って渡ってみましょう!


 そして、扉を開けてもプールが用意されてるだけということを知って、他の侵入者たちもワラワラとやってきたね。


 そして、いきなりプールの水底目掛けて、爆弾みたいなの投げ入れてる! 乱暴!


 ボンボンと水中で爆発する爆弾。


 けど、無駄ぁ〜!


 この空間は全て私の魔力で作られてるからね! 元の材質をMPで修復した私の部屋とは違って、この部屋の建材は私の魔攻5000を超える威力のダメージを与えられなければ、施設を破壊することは不可能なんだよ!


 色々と攻撃してみて、破壊して進むのは不可能だと侵入者くんたちもようやく気づいたみたい。いや、気づくの遅いよ!


 とりあえず、鎧姿のまま水中を潜って進もうとするけど……。


 あ、慌てて上がってきたね!


 そう、プールの底には側面と水底から沢山の防御貫通の針がランダムで突き出される仕掛けがあるんだ! 悠長に水底散歩なんかさせないよ!


 あ、侵入者たちが集って何か話し合ってるみたい。


 そして、メンバーの一人が水面にプカプカと浮かぶ沢山の足場に気づいた!


 アレを足場にすれば、一応プールを渡れるんだけど、その内の三割が本当の足場で、残りの七割は足場に見せかけた機雷だからね!


 踏んだら凄いことになっちゃうと思うよ!


 というか、踏むというより触れただけでドカンだからね!


 かなり、危ない橋渡ることになると思うよ!


 いく? いく? 機雷足場行っちゃう?


 あ、足場に気づいた一人が行くね!


 お。


 一歩目は成功! やるやる〜!


 正直、この罠部屋は水面を泳いで行かれることを憂慮して、障害物代わりに足場と機雷足場(触れたらドカン)を用意してるから、わりと、うじゃっと足場が水面に浮いてるんだよね。


 そう。


 足場の絶対数が多い分、正解を選ぶ率も高くなってるから、いきなり正解を踏んでも私は驚かないよ!


 そして……お、二歩目も成功! やるねぇ!


 続いて、他の侵入者も成功した侵入者に続こうとするけど……あ、それ、最初の侵入者が踏んだ足場と違――、


 どどどどどどっ!


 魔道モニターの画面が一瞬で白くなり、一階層の様子が全く見えなくなっちゃったよ……。


 これは、やったね……。


 機雷全部誘爆してるね……。


 しまったなー。機雷が誘爆するのは計算に入れてなかったよ……。


 あれだね。あくまで接触でのみ爆発する形に改善しよう。熱や振動では爆発しない機雷を作り出しておけば、踏んだひとつが爆発するって感じで全部が爆発しなくなるんじゃないかな? それを果たして機雷と呼んでいいのかは謎だけど。


 とりあえず、後で改良型機雷足場を【クラフトツール】で追加投入決定だね!


 そして、魔道モニターの画面が正常に戻った時には、そこには舞い散るポリゴンしか見当たらない……。


 どうやら侵入者たちは全滅したみたい。


 そりゃそうだよね。


 このプライベートルームにまで爆発音が聞こえてくるほどの凄い爆発だったもん。


 あの罠部屋にいた人たちは全員即死なんじゃないかな?


 そして、そんなポリゴンの欠片が漂う罠部屋にまで駆けつけてきてくれる黒子のみなさん。


 あ、【蘇生薬】使ってくれるんだ。


 死んだ侵入者のみんなが生き返ったんだけど……どこか呆然とした面持ちのまま動かない。


 そして、そんな彼らを黒子さんたちは、脇に抱えて医務室へと連れていく。


 はい。お疲れ様でしたー。


 ▶学園ランキング上位者を倒したため、学園ランキングが上がりました。

  143位 → 69位


 えぇ……?


 私よりランキング上なのに、闇討ちしてきてるの……?


 というか、ランキング下の相手を攻撃してどうするのさ……?


 あー、まだ魔王軍ナンバー2を倒して箔付けようとかいう人たちがいるのかな? それなら、それで真正面から勝負を挑めば――、


 …………。


 いや、魔王軍ナンバー2相手に真っ向勝負するのは、流石にないか……。


 だからといって、毎晩毎晩嫌がらせするのもどうかと思うけどね!


「それにしても、罠部屋はまだまだ改良の余地があるね……」


 とりあえず、機雷の追加補充は必須だし、部屋の扉も直して来ないと……。手間ばかりかかって、あんまりリターンが少ないのも考えものだね。


 せめて、阿鼻叫喚の地獄絵図を見せてもらって楽しませてもらわなければ、割に合わないよ!(邪神的発想)


 なお、この罠部屋の攻略方法はいくつかあるので、その内、突破されるであろうことは予測済み。


 例えば、攻略方法のひとつとしては、【悪路走破】の上位スキルである【神脚】だと壁が走れるので、プール無視して壁を伝ってクリアするとか。


 【氷魔法】レベル4の【フロストカラム】で巨大な氷の霜柱を形成して、それを足場にしてプールを乗り越えることも可能だし。


 そもそも飛べるスキルを持っていれば、比較的安全に通過できちゃうだとか。


 後は【水泳】スキルを高レベルで持っていれば、針を避けて水中を潜って通過することも可能だったりするんだよねー。


 あ、もちろん、三割の正解率の足場を踏み進んで対岸に辿り着くっていうのもありだよ?


 むしろ、ステータスが高ければ、一足跳びでプールを跳び越えるというのもありなのかもしれない。


 なので、私としては、この一階層は、クリアされるのを前提で作っているんだ。


 いわゆる、お遊び?


 で、現在、本命の二階層には……。


 うん。


 山羊くんが三十体ぐらいすし詰めになって控えてるので、実質クリア不可能階層となってるんだよね。


 まぁ、流石に一階層クリアしただけで、絶望を与えても面白くないので、五階層くらいは作る予定。


 五階層を苦労してクリアしてもらって、プライベートルームも目前だーってなったところで、クリア不可能階層を前に、侵入者諸君には絶望を味わってもらいたいかなー。


 うん。


 私の睡眠時間を五日も連続で削ったんだから、罠部屋五階層分くらいの苦労は味わってもらわないと駄目だよね!


 とりあえず、転移魔法陣で移動して、【クラフトツール】で損耗した箇所を修復して、ドアも直して、とやっていたところで午前四時……。


 あれ? 襲撃されるよりも夜更かししてない? とか思ったけど、朝の六時の襲撃で目覚めることはなかったのでプラマイゼロということにしておこう。


 なお、朝起きたら――、


 ▶学園ランキング上位者を倒したため、学園ランキングが上がりました。

  69位 → 42位

 

 と表示が出たので、いつも通り六時にも襲撃はあったみたい。


 そして、前回よりもランキング上位が挑戦してきてるし……。


 なにこれ? 弟分の仇は俺が取る! みたいな奴かな?


 まぁ、プールの藻屑に消えたみたいだけど……。


「そういえば、今日は日曜だし、授業もお休みなんだよねー」


 …………。


 うん。


 暇だし、徐々に難易度を上げる形で階層を追加していこう。


 とりあえずは、バ○オのあの有名なレーザー罠でも作っとこうかな?

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