第266話
【
どうも。油断してユフィちゃんの目の前で死んじゃった
いやぁ、ダメージを受けながら死んじゃうのはダメだね。
回復魔法を使おうにも、痛みが勝って魔法の発動が邪魔されちゃうんだよ。
だから、回復が間に合わずに死んじゃったし。
そういうことを考えると、集中力とかを必要としない魔法陣とか、魔道具とかは便利かもしれないね。HPが減った時に
というわけで、死んだ私は本体に再構築してもらって、蘇った時には魔王国の王都ディザーガンドにいたわけなんだけど……。
次の日には、学園の新学期が始まるってタイミングで、なんでチェチェックとは大陸挟んで反対側のディザーガンドでリスポーンするかなぁ……。
移動に少なくとも二日は必要とも思っていたんだけど、
このクランハウスというのは、セーフティエリア内であれば、どこでもメニュー画面を開いてクランハウス内に移動することができる機能を備えているので、
メニューからクランハウスを選択→クランハウスの玄関から出る→外はチェチェック
という方法で、無事にチェチェックまで戻ってくることができたよ。
そして、真夜中に学園に戻って、ひと晩ぐっすりと休み、今日は新学期初日ということでウキウキしながら新しい教室に登校してきたんだけど……。
何故か、私がいつも好んで座ってる席に献花が置かれているんですけど……。
なにこれ? 新しいイジメかな?
とりあえず、朝からハンカチで目元を拭っているユフィちゃんの隣に座って声をかける。
「おはよー。なんで泣いてるのユフィちゃん?」
「それは、ヤマモト様が死んでしまったからで……」
「そうかー。私が死んだかー。そうかー」
まぁ、確かに死んだけども!
「あまり褒賞石はありませんけど、お花ぐらいは供えようとして、ここに供え――……ヤマモト様!?」
気づくのが遅い!
そして、見事な二度見をありがとう!
というか、
私の姿を見て、ユフィちゃんがフリーズしてから三分。ようやく解凍されたかと思ったら、今度はいきなり抱きついてきた。
なんか忙しいね。
「ヤマモト様! 私、私! ヤマモト様が死んだとばかり……!」
「死んだよ。けど、蘇ったんだ」
「ま、まさか! 神話における神の不死性の検証を自らの身を使って行ったと……!?」
「いや、それになんの得があるの……?」
単純に外部要因で殺されただけだと思うよ。多分。
ちなみに、死んだ原因については現在本体が
それにしても、とユフィちゃんをよしよしと宥めながら、教室の中を見回す。
新学期の初日だというのに、まだ誰も教室に登校してこないのが気になる。
もしかして、来る教室を間違えたとか? でも、ここにユフィちゃんはいるわけで……。
なんだろう? 何か忘れているような……?
「それにしても、この教室には誰もいないね」
「そうですね。新学期の初日は講堂で行うとのことなので、多分、皆さん、講堂に行っているのではないでしょうか?」
「…………」
そういえば、学園長がそんなことを言っていたような……?
「いや、じゃあ、ユフィちゃんはなんでここにいるのさ?」
「学園長の話などよりも、ヤマモト様にお花を供えることの方が百万倍くらい大事ですので、ここに来ました!」
「えーと、ありがとう?」
反応として間違ってる気がするけど、一応お礼は言っておこう。
しかし、それにしても、今更講堂に行っても始業式には間に合いそうにもないよね。
仕方ないので、教室の中でボーッとして過ごそうかな。
ボー……。
よしよし。
ボー……。
ガラガラガラ。
私が呆けたり、よしよししてたりしていると、突如として教室の扉が開き、その扉から身長三メートルにも届こうかという巨大な魔物族が教室へと入ってくる。
あれ? なんでこのタイミング?
あぁ、もしかして、講堂で始業式をやることを忘れていたお仲間さんかな?
それだったら、ちょっと嬉しいかも?
「ヘヘヘ、始業式をフケてやったべ! これで、新学期早々俺様がワルだってことを見せつけてやったっぺよぉ!」
「ッパ、ゴン蔵くんはワルだっぺなぁ!」
あ、体の大きい人の他にも、体の小さな……ゴブリンっぽい魔物族の人もいるね。
これはなんかのイベントかな?
とか思っていたら、ゴン蔵くんと目が合う。
「俺たちよりもワルがいるっぺ……」
「始業式サボって教室で女侍らせて踏ん反り返ってるなんて、ワルだっぺなぁ……」
いやいや、待って待って。
確かに、誰も来ないからってちょっと油断していた(ユフィちゃんをよしよししながら、踏ん反り返って椅子に座ってた)ところはあるよ?
だけど、私は故意に始業式をサボったわけじゃないからね? 単純に講堂の方で始業式をやるってことを忘れてただけだし。
けれど、ゴン蔵くんたちは、そうは受け取らなかったみたい。
私たちを見て、恐れ慄いている。
「俺らよりもワルがこの学園にいたッペか……」
「見ろ、ゴン蔵くん! あれ、あそこ! 花飾ってあるっぺ!」
「確かに飾っとるなぁ……ま、まさか!」
「そうだべ! 絶対アイツ、ヒト
殺ってないよ!?
いや、アホな魔物族は殺ってるかもしれないけど……学園では誰も殺したりしてないから!
むしろ、この花は自分に向けた献花みたいなもので、処分に困っているというか……。
「こうして、始業式をフケた奴らに、お前らもこうなりたくなけりゃ、大人しくしてろって言い聞かせてるんだっぺ!」
「なんて奴だべ! 俺も色んなワルに『殺すぞ!』って言われたことあるっぺよ! けど、本当に殺してる奴は初めて見たべ! これはまさに――」
「「ワルだっぺなぁ!」」
なんか、勘違いが加速している気がする。
とりあえず、新学期初日から敵を作る必要はないので友好的に接してみようかな?
折角、同じクラスの級友になるんだろうからね。
「えーと、別に私たちは悪い生徒ってわけじゃなくて、単純に始業式に出るのを忘れてただけなんだけど……。あ、そうだ。友好の印に、このお花いる?」
「どう思うっぺ?」
「多分、表向きはまともな生徒を装って、裏で学園をシメる気だっぺ! そんで、あの花は邪魔したら、お前らも殺すぞって意味だっぺよ!」
「いや、ワル過ぎるっぺよ!?」
私の認識がおかしいんだろうか?
この二人、学園の不良生徒というよりも漫才コンビかなんかのように見えるんだけど?
気の所為?
「貴方がた、無礼ですよ! この方をどなたと心得ますか! 魔王軍特別大将軍のヤマモト様ですよ! ヤマモト様がその気なら、貴方がたは瞬で消えるのです! 態度を慎みなさい!」
「「は、はいだっぺ! ははぁ〜!」」
いや、ユフィちゃんもステータスアップして、並の魔物族を凌ぐ力を手に入れちゃってるんだから、そんな威圧しちゃダメだよ。
というか、そんなことしてたら、ますます私が勘違いされちゃうじゃん!
「いやいや、ユフィちゃん? 私は学園生活に波風を立てたくないからね? 『立場でわからせ』みたいなことはしなくていいんだよ?」
「ヤマモト様……わかりました。貴方たちもわかりましたね? ヤマモト様は目立つのを嫌う御方。あまりヤマモト様の手を煩わせるようなことはしないようにお願いします」
「は、はいだべ……」
「ヤマモト様の手を煩わせねぇように、ちゃんとこの学園を支配してみせるだ……」
……うん?
なんか今、学園を支配とか聞こえた?
…………。
でも、まぁ、この二人が頑張ったところで、学園を支配するなんて無理だよね。
学園には、ツルヒちゃんもいるし、エなんとかくんもいるし、髪ファサくんもいるわけで……。
この……ゴン蔵くんだっけ? が君臨できる余地なんか、これっぽっちもないと思うんだ。
だからまぁ、私に迷惑をかけない範囲で頑張れば、それでいいんじゃないかな。
「うん、頑張って」
「それは頑張って学園を支配しないと、俺らを瞬で消すってことだっぺ……?」
「自らでは手を下さずに、俺らを手足のように使うだなんて……」
「「ワルだっぺなぁ!」」
いや、ユフィちゃんが変な情報を与えたから、ゴン蔵くんたちが勘違いしちゃってるじゃん!
そして、何故か余計な情報を与えたユフィちゃんは、わかってるな、コイツら……という顔で満足そうに頷いている。
うん。
良くわかった。
どうやら、新学期も私にとってはなかなか大変な日々が続くということらしいよ?
■□■
始業式が終わったのか、ポツポツと生徒が教室にやってきた。
その中には、ロウワンくんやシュトレーくんの姿も見える。私が手を振ったら、ちょっと不思議な顔をしながらも振り返してくれたよ。
始業式で私たちの姿が見えなかったことを不思議に思っているのかもしれないね。
そして、そんな風に教室に戻ってくる生徒たち相手に――、
「んだべよォ!」
「ぉんだべよォ!」
二人の不良生徒が端からガンをつけて回ってるんだけど……。
これが、私が応援しちゃった効果だとしたら嫌だなぁ……。
でも、そんな二人にも苦手なものはあるみたい。
「ん、んだべよぉ……」
「ぉ、ぉんだべよぉ……」
「…………」
アレだね。ジャパニーズホラーに出てくるような長い髪の女幽霊にガン付けたら、逆にガン付けられて超怯んでる。
しかも、何言ってるか聞こえないような超小声で恨み言呟かれてるじゃん。
呪われてないよね? 大丈夫?
「貴方たち! 何をしてますの!」
女幽霊ちゃんにゴン蔵くんたちがビビり倒していたら、今度はオデコの広いドリルお嬢様が教室の中に入ってきたんだけど……。
なんか、このクラスはクセの強い魔物族が多いね。
「新学期早々問題を起こすなんて何考えてますの! 学級委員長を目指す私としては見過ごせませんわ! そういうのはいけないことですのよ!」
そして、オデコドリルお嬢様は凄い剣幕で、幽霊ちゃん一人を注意し始めた。
そっちじゃない! そっちじゃないよ、オデコちゃん! 注意するなら、ゴン蔵くんたちの方だって!
けど、オデコちゃんのパワフルな雰囲気に押し負けたのか、幽霊ちゃんも顔を背けている。
怨霊っぽい感じなだけに、こういうグイグイ来る明るいタイプが苦手なのかもね。
それにしても……。
「こんなに騒々しいクラスで、私の個性が埋没しないか心配だなぁ……」
「ヤマモト様……」
私の独り言を聞きつけたのか、ユフィちゃんがやたらと怖い顔で、私を見つめてくる。
なんか怒らせることでも言ったかな?
「もしかして、死んだ時の後遺症で認識能力が著しく低下しているのですか……?」
してないよ!
私をなんだと思ってるのさ! ぷんぷん!
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