第263話
■□■
「ようこそ、おいで下さいました」
ツナさんに案内されて辿り着いたジャグラーの部屋は船室というよりは、少し広い会議室のような場所だった。
あるのは机と椅子、それ以外は何もない。
とてもシンプルな内装だ。
何かを仕掛けるには不向きのようにも思えるけど……。
寝たり起きたりするための部屋などではなく、ジャグラーがこの船の中に借りた一室と捉えた方がいいのかもしれない。
そんな部屋の中で既に待ち構えていたジャグラーは私たちを歓迎すると、部屋の中に導いて適当な椅子に座るように促す。
この時点で、既にイカサマのための罠が張られているんじゃないかと勘繰るんだけど、
「なんだ、ゴッド? 座らないのか?」
私が警戒している中、ツナさんは何も考えずに座っている。
うん。
警戒している私が馬鹿みたいに見えるから、その大胆な行動はやめて?
というか、ツナさんって微妙に脳筋なところあるよね?
運動神経は抜群だけど、あまり考えて行動しないというか。
まぁ、今更そんなことを考えていても仕方ないか……。
私は一応、【魔力感知】で部屋の中を見渡す。
特に何かおかしなものは見えない。
誰か壁の裏に隠れていたりだとか、怪しい魔道具が設置されているといったことはなさそうだ。
それだけ確認してからテーブルにつく。
ジャグラーは、私たちに向かい合うようにして同じく席についていた。
「それでは、今夜はごゆるりとお楽しみを」
「御託はいい。さっさと始めろ」
相変わらずの芝居がかった所作。
そして、ツナさんはそういう所作を楽しむ余裕はないみたいだね。
まぁ、実際に被害受けてるし、激おこぷんぷん丸なのはわかる。
「気の早い方ですね。いいでしょう。ただし、始める前に貴方がたには、この契約書に
ジャグラーの言葉と共に私たちの目の前に光が集ったかと思うと、ポンっと一枚の契約書が出現する。
そこには、私たちとジャグラー間で、スキル、並びにユニークスキルによるイカサマ行為は禁止するといった内容が記載されているようだ。
どうやら、これにサインしろということらしい。
私は顔を上げて、ジャグラーを見る。
「スキル以外のイカサマは良いってこと?」
「その場合は、見破って頂ければ」
なるほど。
ツナさんが意気込むわけだ。
まるで、テクニックを駆使してイカサマをしているように臭わせている。
だからこそ、『怪しい』と私は感じた。
そう臭わせることで、自分に注視させているような……そんな感じがしたのだ。
「あと、この書き方だと、私たち以外の第三者がスキルを使うことは禁止されていないみたいだけど?」
「第三者? そんな方がここにいますか?」
部屋の中は殺風景で、誰かが隠れるようなスペースもない。
つまり、第三者がいないことを確認させるために、この部屋を用意したってことかな?
うーん。
どうなんだろう? わからないなぁ。
「とりあえず、契約に合意頂けなければ、この賭け自体を行うことができません。貴方がたが強いことは、こちらも十分に知っていますので、どんな手段も有りにされてしまってはまともな勝負になる自信がありませんので」
確かに、私の【古代魔法】とかを使えば、好き放題できる可能性がある。
私はその書類を確認するフリをしながら考える。
というか、スキルを封じられたら、色々とやれることの幅が狭くなるのも事実。
そして、ジャグラーはそんな土俵に私たちを呼び込もうとしている。
そこにホイホイと誘い出されたら、それは流石にマズイんじゃないかな……?
罠満載の他人のフィールドに装備もなく突っ込むようなもんでしょ?
それだと、ツナさんの二の舞いになりかねないような……。
うーん。どうしたものか。
あっ。
ちょっと思いついたから、この方法を試してみよう。
私は契約書を見るフリをしつつ、こっそりと机の下で保険を用意しておくのであった。
■□■
「では、始めましょうか」
というわけで、契約書にサインしました。
だって、それをしないと始まらないんだもん。
そして、その契約が結ばれた瞬間から、何か上手くスキルが使えない感覚に苛まれる。
これ、完全にスキルの使用を封じられた?
私自身が本体のスキルみたいなもんなんだけど、消えてないってことは新たにスキルを使用できないってことかな。
保険を先に用意しといてよかったかも。
実際、【バランス】さんも封じ込められていて、発動できないとなったら大ピンチだしね。
「賭けを行う競技は何がよろしいですか? ポーカー、麻雀、花札――」
「ポーカーぐらいしかわからんから、それでいい」
私も麻雀はゲームでしかやったことがなかったから、実際の牌を打つとかできないし、花札もゲームでしかやったことがないし、それでいいかな。
それにしても、
「男子って麻雀の役とか覚えて他の子に自慢するのが生きがいだと思ってたんだけど、ツナさんは違うんだ?」
「お前は男を何だと思ってるんだ……」
「タバコ、酒、パチンコ、麻雀なんかの悪い遊びを覚えたら他人に自慢せざるを得ない悲しい生物」
「偏見が酷いな」
そうかなぁ? 大体あってると思うけど。
ちなみに、ポーカーのルールはジャグラーから開始前に簡単に説明があったけど、私の知ってるルールと大きく違いはなさそう。
ちょっと特殊なのは賭けポーカーなので、チップがあるといったところかな。
最初に配られたチップは三十枚。
このチップ一枚が一万褒賞石というレートらしい。
つまり、チップ全てを失えば、三十万褒賞石の負債を背負うことになる。
私とツナさんが両方素寒貧になれば、占めて六十万褒賞石――普通に、クランハウスがひとつ建てられるレベルと考えれば、ヤバさがわかってもらえると思う。
まぁ、言っても私はそれなりに儲けているので払えなくもないけど、ツナさんは大丈夫なのかな?
…………。
まぁ、勝てばいいよ! 勝てば!
「では、カードを配りますよ」
配られたカードを見て、ちょっとビックリ。
右上と左下に数字が書いてないんだけど?
「数字が書いてないトランプカードなんだ? 珍しいね」
「私、キーボードも無地のものを使うタイプでして。このトランプを見つけた時も『コレだ!』とビビッときた次第でして、はい」
え?
キーボードって無地のものとかあるの?
あれって、文字書いてないと、どこがなんの文字だか分からなくなりそうだけど……。
不便じゃないのかな?
「数字が書いてないと、カードを勘違いしそうで怖いかも」
「チョンボはやめて下さいよ。フフフ……」
ジャグラーに笑われる。
まぁ、うん。頑張ってみるよ。
「ふむふむ、なるほどなるほど、そう来たかぁ」
私に最初に配布されたカードは◇7♡7♠2♣2♠8の五枚。
この時点で、ツーペアはもう揃ってる。
普通に考えるなら、♠8を捨ててフルハウスを狙っていくのが正解かな? 失敗してもツーペアは崩れないし。
「ビッド。一枚追加だ」
「おや? 一枚でよろしいので? エラく弱気ですね」
ジャグラーに煽られるけど、ツナさんは何も言い返さない。
多分、チマチマと賭けて時間を稼いでいる間に、ジャグラーのイカサマを見破ろうとしているのかな?
じゃあ、私も乗った方がいいよね。
「コール」
チップをその場に一枚追加する。
ゲーム開始時の参加チップ一枚と合わせて、これで私のチップは二枚が場に出ていることになる。これで、二万褒賞石も賭けてるのかと思うと、ちょっと胃が痛くなるよ……。
「おや、ヤマモト様も弱気ですね」
「まぁ、初戦だし、様子見だね」
「では、私も少し様子を見ましょうか。コール」
ジャグラーも場に一枚のチップを追加する。
これで、六枚のチップが場に出されたことになる。
そして、一人ずつカードを交換していくわけなんだけど……。
「ドロー、一枚交換で」
「はい、どうぞ」
3か、2来い! と強く念じながらカードを受け取ったら、♡2!
これは勝ったでしょ!(慢心)
「……これは無理そうだな。チェック」
と思っていたら、ツナさんがいきなり勝負を避けてきたんだけど。
私が思わずツナさんの顔を見ると、ツナさんが呆れ顔で――、
「もっとポーカーフェイスの意味を知った方がいいぞ」
とか言われたんですけど?
えぇっ、そんなに表情に出てたかな……。
思わず、顔をペタペタ触っちゃうよ。
でも、私の手札がいいのは確かだからね。
ここは、強気に!
「ビッド、三枚追加!」
これで、場にはツナさんの二枚、私の五枚、ジャグラーの二枚のチップが揃ったことになるんだけど、そこにジャグラーがチップを三枚追加してくる。
「コールで。勝負しましょう、ヤマモト様」
その胡散臭い瞳が私を捉える。
なんか嘲笑われているように感じるのは気のせい?
というか、ジャグラーも良い手札だったのかな? 自信が表情に現れているような……。
うーん。
とりあえず、もう降りれない。ここは勝負するしかない!
「じゃあ、勝負!
「4のフォーカードで」
えぇっ!? うそぉ!?
いやいや、ジャグラーはカード交換で三枚も交換してたんだよ!?
そこから、フォーカードなんて揃うものなの!?
いや、確率は低いのかもしれないけど、揃わないってことはないかな……?
いや、でも、えぇ……?
「すみませんねぇ。どうやら、私の方がツイていたみたいです」
そして、場に出ていたチップを全てジャグラーが掻っ攫っていく。
結果としては、
私: 30→25
ツナさん: 30→28
ジャグラー: 30→37
となったんだけど……。
あれ?
これ、もしかしなくてもちょっとヤバい感じが漂い始めてたりする……?
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