第262話

「おい! お前らっ!」

「あ、お疲れさーん」


 私とミサキちゃんがアイアンリザードのステーキに舌鼓を打っていたら、私たちが見ていることに気がついていたのか、Takeくんが怒った様子でこちらにやってきた。


 それにしても、アイアンリザードっていうくらいだから、肉まで鉄でできているのかと思ったけど、普通に柔らかいね。


 肉質はプリプリでガーリックペッパーに近い味付けはなかなかパンチがあって美味。


 うん。


 総じて美味しいので『ウマモト!』をあげちゃいましょう!


「ウマモト!」

「なんで、怒ってる俺を見て『ウマモト!』とか言ってステーキを食い続けられるんだよ!」

「え?」


 いや、そもそもなんでTakeくんがそんなに怒ってるのかわからないんだけど。


「怒るようなこと何かあったっけ?」

「俺たちが変なのに絡まれてたの見てたじゃねぇか!」


 見てたね。


 うん。


 そして、何事もなく終わったね。


「それを見て、少しは助けようとか、なんとかしようとか……動けよ!」

「そもそも、TakeはPK集団相手でも一人で蹴散らすような猛者。私たちの助けなんて要らない」


 ミサキちゃんが追加で頼んでいたデザートセンチピードの塩茹での殻(多分、一節ぐらい)を器用に割って、その中身を口に運ぶ。


 センチピードってムカデだと思うんだけど、ミサキちゃんはよく食べれるよね……。


 そして、デザートセンチピードは一節で上海ガニ一杯分くらいの大きさがあるモンスターらしい。全体的な大きさとか、凄く大きそう。


 まぁ、塩茹でされた後の節の見た目は、どう見てもカニなんだけど……。


 あとで、少しだけ分けてもらって、私も試してみようかな?


「それに、お色気くノ一と鎧少女が行ったところで、騒ぎが大きくなるだけでしょ。だから、行かなかったんたよ」


 私が補足する。


 実際、私たちが行かなくても騒ぎは収まったしね。


 これで、タツさんにも小言言われなくて済むね(重要)


「大体、何が原因で揉めてたの?」

「それは、リリがルーレットでたまたま勝ち続けて――」


 どうも、リリちゃんが「ルーレットをやりたい!」と始めたら、たまたまビキナーズラックであたってしまったらしい。


 しかも、一度では止まらずに何度もあたるもんだから、周囲の注目を集めちゃったんだって。


 まぁ、当然、目立つことをしたら、悪意を持って近づいてくる連中もいるわけで……。


 どうやらそれで、ルーレットで褒賞石をスッた連中に目をつけられちゃったみたい。


 まぁ、相手の見た目が可愛らしい(?)烏と大きな犬だもんね。少し脅せば、怯えて褒賞石を差し出すとでも思ったのかもしれない。


 意気揚々とリリちゃんたちに近づいて――、そして、先程の騒動が起きたんだって。


 しかし、それにしても……。


「ルーレットでイカサマって……。ディーラーがやるならまだしもリリちゃんには無理でしょ」

「イチャモンの内容は何でも良かったらしい。少し脅せば、素直に言う事を聞くと考えてたみたいだ」

「まぁ、Takeくんとリリちゃんの見た目だとそんな感じになっちゃうかぁ……」


 ちなみに、見た目でいうと、私もナメられる部類です。はい。


「で、そのリリちゃんはどこにいるの?」

「あそこだ」


 Takeくんが指し示す先を見ると、COG-003Lで魔王スタイルに変貌を遂げたリリちゃんが、イチャモンを吹っかけてきた人たちと仲良くルーレットをやっている光景が見えた。


 いや、なんで仲良くなってるのさ。


「大武祭優勝者の肩書きは便利だな。烏から魔王になった瞬間に、連中は平謝りだったぞ」

「そういえば、大武祭優勝者だもんね。そりゃ、そんな恐ろしい相手にイチャモン付けようとしたら平身低頭にもなるかぁ」


 私がしみじみと感想を述べるんだけど、何故か二人の視線が痛い。


 いや、準決勝、決勝は私が代理で出たけど、予選の時からリリちゃんは魔王って呼ばれてたからね!


 そこは、私が悪評広めたとか、そういうわけじゃないでしょ!


「それにしても、リリは運がいい。またあたったみたい。まさに、百発百中」

「いや、そんな必中みたいに何度もあたるわけが――」


 Takeくんがそう言いかけて言葉を止める。


 私もミサキちゃんも食事の手を止める。


 いや、待って?


 【】……?


「まさか……」

「え、えーと、リリちゃんに【必中ユニークスキル】の効果を聞いた時は、遠距離攻撃に補正が入るスキルですーって言ってたよ。だから、流石にルーレットに応用が効いてるわけじゃないんじゃないかな……」

「ヤマモトが【鑑定】でユニークスキルの説明を直に確かめたわけじゃないんだよな?」


 リリちゃんのステータスは見たことあるけど、ユニークスキルの効果は……。


「リリちゃんから口頭で説明してもらっただけ……」

「アイツ、説明が面倒くさいと結構省くことがあるぞ……」


 いや、でも……。


 …………。


「い、一応、Takeくん、回収お願い?」

「結局、イチャモンじゃなかったとかいうオチかよ!」

「万が一だよ、万が一! もしかしたら、本当にビキナーズラックが続いてるだけかもしれないし!」


 ルーレットでビキナーズラックが続くか! って話なんだけど……。


 とりあえず、今はその真相を突き詰めることはしない。


「…………」


 だって、隣のテーブルで船長(仮)さんが凄い目でこっちを睨んでるんだもん!


 なに?


 そうやって、無言で圧力かけてくるのが流行ってるの?


 私は決して船長さんの目を見ないように食事を続けながら、とにかくこの空間からいち早く立ち去ることだけを考えていた。


 ■□■


 その後、リリちゃんにユニークスキル【必中】の説明文を事細かに説明してもらったところ、


『遠距離攻撃などに補正が掛かり、あたりやすくなる。』


 と書いてあるらしい。


 なるほど。、ね……。


 多分、そこが広義に適用されてるんじゃないかなー? とは思いつつも、完全に確信できるというわけでもないし、とりあえずはグレーゾーンということにしておく私である。


「リリちゃんは、賞味期限切れの牛乳とか飲んじゃダメだからね?」

「はい?」


 なるべくアタらないにこしたことはないモノだってあるので、その辺は注意が必要だと思う。


 なお、【】のくせに必ず相手にあたるわけじゃないのは、障害物とかまでを透過して相手にあたったりしたら、流石に強過ぎるだろ! ――と運営が思ったからなのかもしれない。


 ■□■


 船長さんに目をつけられちゃった私は、船内をウロウロすることもできず、適当な船室に入って引き籠もっていた。


 そこで、暇潰しに【魔神器創造】なんかを使って物作りをしていたら、いつの間にか結構な時間が過ぎていたみたい。


 ちょっと疲れて、ベッドの上に寝転んでウトウトとしていたら、コンコンと扉をノックされて、そこで思わず覚醒したよ。


「ゴッド起きてるか?」

「ツナさん?」

「ジャグラーから呼び出しがあった。行くぞ」

「そう、わかった」


 視界の片隅に表示されていたタツさん勝利の配当金……やっぱり、ブレくんは負けちゃったみたい……を受け取りながら、私は【収納】に突っ込んでおいた装備に着替える。


 黒のスーツの上下に白のワイシャツ、黒のネクタイにサングラスをかけて、ビシッと決める。


 まるで、どこぞのエージェントかシークレットサービスのような格好。


 正直、イカツイ見た目で好きじゃないけど、勝負の場なんだからパリッとした方がいいでしょ。


 着替え終わったところで扉を開けて、ツナさんにも同じようなスーツ一式を手渡す。


「ゴッド……か? なんだその格好は?」

「大勝負に行くのに、褌一丁で行くつもり? せめて、格好だけでもビシッと決めなよ」


 私がそういうと、ツナさんも理解したのか、一瞬で装備を換装する。


 うん。


 ツナさんって目つきは悪いんだけど、背が高くて脚が長いからスーツ姿がよく似合うと思ってたんだよね。


 そして、それは予想通り。


 まぁまぁ、男前の完成だ。


「気合い入った?」

「あぁ。身が引き締まった」

「そう、それはよかった」


 ツナさんのやる気が出たようでよかった。


 それじゃ、移動しながらでも、ツナさんが負けた時の話でも聞こうかな。


 私が、その話題に水を向けると、ツナさんは少し考え込み始める。


 いや、私も参加するんだから、情報共有はちゃんとしてくれないと!


 私がそこまで言ったら、ようやくツナさんも重い口を開いてくれたよ。


 ツナさんがジャグラーとの賭けを行うまでの成り行きは、大体タツさんに聞いた通り。


 そして、ツナさんは宿の片隅でジャグラー相手にポーカーを始めたんだけど――、


「そこで、ジャグラーのイカサマ的なユニークスキルが発動したと?」

「それはない。ジャグラーのユニークスキルは【契約コントラクト】といって、契約を当事者間で交わすと、その契約を違えた行動はできなくなるといったものだ。奴自身がユニークスキルでイカサマをしたとは考え難い」

「なら、協力者の線は? 宿屋でポーカーしてたんだよね?」

「俺もそれは疑った。宿の片隅とはいえ、俺の後ろを人が通らなかったわけではないからな。だから、今日は乗船直後から奴を見張った。協力者がいるなら、必ず接触して打ち合わせを行うと踏んでな」


 船に乗った直後にツナさんの姿が見当たらなかったのはそれかぁ。


 それだけ、今回の一戦に慎重を期しているということなんだろうけど、入れ込みすぎてちょっと不安になるね。


「だが、奴の周囲にはそういう手合いは現れなかった。だから、協力者の線も薄いと思っている」

「それは、早計過ぎない? その相手とは離れたところでクランチャットでやり取りしてたとか、そういう可能性もあるだろうし」

「なるほど……。そうか」

「一応、共犯者がいる可能性も考慮して、壁際に座るとか対策が取れればいいかもね」

「それなら丁度いいかもしれないな」

「丁度いい? 何が?」


 私が尋ねると、片手をポケットに突っ込みながらツナさんが答える。


「今日は、奴の船室で賭け事をやるそうだ。不特定多数が後ろを通ったりとか、そういうことはないだろう」


 船内のカジノコーナーじゃなくて、自分の船室で……?


 それは、共犯者が存在しないことを強調するための作戦?


 それとも、その船室の内部に色々と仕掛けてるってことなのかな?


 何か引っ掛かりを覚えながらも、私はツナさんに案内されるままに船内を移動するのであった。

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