第261話
さて、ようやく砂漠船の内部に到着。
私が砂漠船に乗り込んで、まず驚いたのがそのサイズ感だ。
もっとこう、潜水艦みたいな狭い通路を予想していたから、思った以上に広い通路が広がっていてちょっとびっくりしちゃったよ。
でも、よくよく考えてみると、魔物族って大きさや形も様々だから、なるべく広い構造にしとかないと船に乗れないケースが出てくるんだよね。
多分、そのためのビッグサイズなんじゃないかな?
「ゴッド遅い」
「良かった。僕たちハグれたんじゃないかと思って、少し不安になりましたよ」
大人五人が並んで歩いても余裕で通れる通路の端っこで、軽く手を振っているミサキちゃんとブレくんの二人に合流する。
他のメンバーは……いないね。
「他のみんなは?」
「リリちゃんは船内を探検するって言って、先に行っちゃいましたよ。Takeさんは心配だからって、リリちゃんについていきました」
「あと、ツナは見てない」
ツナさんは、私たちに先んじて船に乗ったはずなんだけど……。
どこ行ったんだろ?
「ま、今夜のことがあるやろうし、船に乗ってへんということはないやろ。――と、依頼の呼び出しやな」
「あ、僕もです」
「呼び出し? 私には来てない……」
タツさんとブレくんが何やらウインドウ操作をし始めるんだけど、ミサキちゃんはそんな二人を眺めるだけだ。
どうやら、今回の依頼は全員一緒に行うというわけでもないみたいだね。
タツさんが操作を終わらせながら、チロチロと舌を出し入れしつつ説明する。
「多分、依頼受けた冒険者にランダムで依頼が飛んできてるんとちゃうん? なんや船底の方にまで来いって書いてあったわ」
「僕のもそんな感じですね。タツさん、一緒に行きましょうか?」
「せやな。ヤマちゃん……ワイが見張ってないからって暴れ出したりしたらアカンからな?」
「あはは、犬猫じゃないんだから」
「…………」
そこは何か言って欲しいんだけど!?
そして、そのままタツさんとブレくんは連れ立って行ってしまう。
というか、タツさん、三回ぐらいこっちをチラチラ見ながら去っていったよね!? 何か言いたいことあるなら言ってよ!? それとも不安だってこと!?
「私の信用って犬猫レベルってこと……?」
「ゴッド元気出す。気を取り直して船の中探索する」
ミサキちゃんに慰められながらも、私はフラフラと船内を眺めて回るのであった。
■□■
「なんか、思ってたのと違う」
私は目の前に広がる光景に思わずそう呟いていた。
広い通路を抜けた先は、窓のない巨大なホールとなっており、そこには街灯代わりの魔道灯が並び、スペースの一角にはビアガーデンらしき食事処があったり、カジノらしき施設が併設されてたり、イベント用なのかステージが作られていたり、屋台の出店みたいなものがそこら中に出ていたりと……まぁ、一言でいうならば、カオスな光景が広がっていた。
えーっと? 船ってこういうものだったっけ?
「チープな豪華客船」
矛盾している表現だけど、ミサキちゃんの言葉は言い得て妙かもしれない。
豪華客船で行くクルージングの旅なんかは、お客さんを飽きさせないために豪華客船内に様々な施設があるって話だけど……これは、そのスケールを三段落としたぐらいにはしょっぱい。
なんだろう。
全体的に田舎の夏祭りとも言えるようなチープさを感じる。
その内にステージ上で盆踊りとか踊り始めるんじゃないだろうか?
「というか、人多くない? ざわめきが凄いんだけど……」
「乗客のほとんどがここにいるのかも。騒がしい」
「あ、駄目……。これ、人に酔う……。私、その辺で休憩してるから、ミサキちゃんだけでも楽しんできて」
「だったら、そこの食事できる所で休む。新しい肉料理が発見できるかも」
うん。
ミサキちゃんは気遣いできる優しい子だなぁと思ったけど、二言目で台無しだよ。
私としても反対する理由はないので、一緒にビアガーデン風の……それとも、カフェテラスって言った方がいいのかな? 机と椅子がぞんざいに置かれた食事処に一時的に避難する。
ウエイトレスに空いてる席へと案内されて、お水を飲んでまずはひと息。
あぁ、ひと心地ついた。
「とりあえず、なんか頼もうか?」
そう言って、メニューを開くんだけど……。
「これ、食べられるの……?」
「知らない名前が並んでる……」
どうやら、モンスター食材によるお店のようだけど、メタルフィッシュの開きだとか、アイアンリザードのステーキだとか、字面だけで歯が欠けそうなメニューが並んでるんだけど……。
いや、本当に大丈夫なメニューなんだよね? これ?
「なんでぇ? お嬢ちゃんたちはこの店は初めてか?」
私たちがメニューとにらめっこしている時間がよほど長かったのか、隣に座っていた白髭に海賊帽を被った浅黒い肌のお爺さんに話しかけられてしまう。
というか、この人どこかで見たような……?
あぁ、ヤシガニを笛で呼び出した船長さんだ! いや、船長かどうかは知らないけども!
「聞いたことも見たこともないモンスター名の料理で悩んでる。何かオススメある?」
私が腑に落ちている間にも、料理のことを尋ねるミサキちゃん。その辺はブレないね。
「オススメかどうかは知らんが、あそこを見とけば、大体どういうモンスターかはわかるぜ」
船長さんに言われて視線を向けると、カジノの丁度中央の上空辺りにデカデカと立体映像が映し出されているのが見えた。
そこには、砂漠を走る金属の皮膚を持つトカゲの群れと、そのトカゲの背に乗る冒険者たちの姿があり、その冒険者たちが砂の中から飛び出してきた金属の魚を剣や魔術で退治している光景が映っていた。
そして、その映像の一番下には冒険者の名前と数字の一覧が表示されている。
護衛依頼を受けた冒険者の紹介動画かな?
なんで、あんな上空に映像を映しているのかはしらないけど。
というか、数字の方はオッズって書いてあるね。
「あ、ブレとタツがいる」
どうやら、依頼を受けた冒険者たちがあの金属のトカゲに乗って、現在進行形で外を走っているらしい。
えーと……?
「この船恒例のモンスター討伐レースさ。テイムしたアイアンリザードの背に乗って、船底に取り付けられた扉から出撃――。どの冒険者が船に近づくモンスターを一番多く倒すか、みんなで賭けるんだ。見てるだけでも楽しいぜ?」
なにそのミニゲームみたいな護衛依頼。
というか、アイアンリザードに乗って砂漠を疾走するタツさんやブレくんがちょっと楽しそうだ。
なんか船の周りでゴーカートでもやってる気分なんじゃないかな?
私もちょっとやりたいし。
「あの画面を見てれば、大体のモンスターが出てくるからな。それでメニューを決めてもいいし、先に頼んでからどんなモンスターが出てくるかを楽しみにしてもいい。それは、お前さんたちの自由だ」
「なるほど」
とりあえず、視線を空中の立体映像に合わせていたら、『▶賭けに参加しますか?』と出てきたので、タツさんに少し賭けとくことにする。
ちなみに、タツさんのオッズは1.08倍。
ガチガチの本命だね。一倍を切らないだけマシかな?
「タツさんに褒賞石五千賭けよっと」
「私も、タツに賭ける」
「あ、ミサキちゃんもタツさんに賭けるんだ? ブレくんには賭けなくていいの?」
「ブレは遠距離、中距離の有効的攻撃手段がない。獲物に近づく前にタツに取られて終わり」
「だよねー」
この護衛依頼は、アイアンリザードに乗って戦うというのがポイントだ。
機動力をアイアンリザードに頼ることになるから、どうしたって近距離武器の使い手だと接敵するまでに時間がかかることになる。
逆に魔術や魔法の使い手はアイアンリザードに乗りながら、固定砲台化できるから有利なんじゃないかな?
というわけで、タツさんに一票。
けれど、船長さんがそんな大前提を覆す発言をする。
「別に、アイアンリザードに乗ってなきゃいけねぇってルールはねぇぜ? ただ、転げ落ちたりしたら置いてかれるけどな」
「「え?」」
別にアイアンリザードに乗ってなくてもオッケーということなら、足場が砂地であろうと船と並走しながら戦えるでしょ、ブレくんなら。
こうなってくると、走り回るブレくんか、固定砲台化するタツさんかという勝負になってきそう。
だけど、それでもミサキちゃんはブレくんには賭けないみたいだね。
「ブレは鈍感だから、おりて戦っても大丈夫なことに気づかない。よって、タツが勝つ」
うん。
ブレくんのその鈍感さは、多分、ミサキちゃんの前でだけ発揮される奴だと思うんだよね。
それが、まさかの過小評価に繋がるとは……。
哀れ、ブレくん。
同情票として、少し賭けといてあげるよ。
とりあえず、立体映像の中継を楽しみながら注文を行う。
後で頼んだものの正体が分かった方が面白そうだったから、ウエイトレスを捕まえて適当に名前の響きだけで選んだものを注文する。
どうやら、ミサキちゃんも同じ形式で頼むみたい。
さて、どんな料理が出てくるのかな?
「それにしても、アレ凄い」
立体映像を見ながら、ミサキちゃんがそう感想を漏らす。
言われてみれば、この場のチープな雰囲気にそぐわないハイテクっぷりだよね。
「ね? チープなんだか、豪華なんだかはっきりして欲しいよね」
「そりゃ、オメェ、アレに関しては作った奴が違うからな」
船長さん(仮)が言うには、この砂漠船ができたのは数百年ほど前で、その頃に活躍していたS級の
で、立体映像投影装置とかのハイテクな装備は、その頃作られたものがそのまま使われてるらしくって、逆にここの食事処や屋台、カジノなんかは後から利用客が勝手に付け足したものなんで、ちょっと
だから、なんか船の施設に一貫性がないんだね。
「昔はこの船もモンスターに引かせないで自走してたらしいけどな。その機能もいつの間にか壊れて、今はモンスターに引かせてるような状態だ。どうやら、S級魔道技師といえども、数百年先の未来までは考えていなかったらしい」
「というか、その魔道技師っていうのは何? 錬金術師とかとは違うの?」
「【錬金術】と【鍛冶】の両方を極めた職人のことを俺らは敬意をもって
「そうなんだ」
基本的には、生産職ってひとつに特化していく傾向にあるらしいんだよね。
だから、【錬金術】と【鍛冶】を並行して育てている存在は稀なんだと思う。
でも、私の場合はそこに【調合】まで付いてきちゃって育ってるんだけど……。
その場合は魔道技師じゃなくて、なんて呼べはいいんだろう?
なんかカッコ悪くない? 大丈夫?
「テメェ! なんかサマやってんだろ!」
私が微妙な顔をして、どうでもいいことを考えていると、カジノコーナーの一角で怒声が上がる。
ジャグラーの件といい、イカサマが流行っているのかなぁ? と思っていたら、ムキムキの鬼の集団に囲まれちゃっている黒い狼と三本足の烏の姿を見かけちゃったんだけど……いや、何してるの?
「リリとTake? どうするゴッド?」
「どうするって……」
私は、少しだけ悩んだ後で――。
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