第259話

 ■□■


冒険担当クラブ視点】


「で……っかぁ!」


 見上げる程の全高。大体ビルの五階分くらいはあるだろうか?


 見上げて首が痛くなるぐらいには大きい


 といっても、ここは海じゃない。


 ここは泣く子も黙る(?)砂漠の入口だ。


 そのため、良く見れば船の底には巨大なキャタピラが付いている。


 まるで、巨大重機のような姿をしているソレは、なんでも商隊キャラバン用の乗り物なんだそうだ。


 LIAの住民たちは、これに乗って安全に砂漠を横断してるらしいよ?


 これって、遺失技術でできてる遺物だったりするのかな……?


 うーん、謎だ……。


「商隊の護衛依頼に関しては無事に取れたでー。ちなみに、ヤマちゃんは参加せんでえぇからな? 冒険者やないし」

「ま、その辺はね」


 私が……というか、多くのクランメンバーがホケーと大きな船を眺めている間に、諸々の手続きをタツさんが終わらせてくれたらしい。


 うん。


 やっぱり、一家に一台、便利なタツさんだよね!


 ■□■


 さて、熾烈を極めた大生産祭が終わりを迎え、手元には……まぁ、賞みたいなものは何も残らなかったけど、それなりに全力を尽くせたみたいで、みんなは満足しているようだった。


 私はドリルを流行らせられなかったことが悔し……いや、あれは別に本体の趣味だったし、どうでもいいや。


 で、熾烈な争いの後は、お肉好きもお魚好きもノーサイドということらしく、昨日はお疲れ様のバーベキュー大会を開催。


 バーベキューなら、肉も魚介もどっちも焼けるから、角が立たないしね。


 そんなわけで、クランの結束力を高めた後で、ようやく一ヶ月ぶりに先のエリアに進むことにしたのである!


 うん。


 名は体を表すじゃないけど、クラン・せんぷくが本当に潜伏してどうするんだよって感じだよね。


 まぁ、大生産祭で頑張っていた期間も、決して経験値稼ぎやら何やらをサボっていたわけではないので、クランメンバーも相応に強くなっている……はず!


 というわけで、早速、私たちはチェチェックの領都から北に向けて出発。


 目指すは第四エリアの領都である砂漠都市フィザである。


 うん。


 砂漠都市っていうくらいだから、多分、種モミを巡ってヒャッハーみたいな争いが絶えない都市に違いないね。


 まぁ、私の個人的なイメージだけども!


 けど、そのフィザに向かう旅路がなかなかキツかった……。


 チェチェックを出ると、次の瞬間には切り立った峰と底が見通せないほどの谷に、蔦でできた無数の吊り橋がかかっているような光景だったからね。


 私の知ってる景色としては、ボリビアのラパスにある月の谷に近いかな?


 まぁ、あの光景よりも谷は深いし、霧もかかってて見通し悪いし、吊り橋も沢山あるしで、一緒って感じでは全然ないけど。


 で、この道を攻略しないと、第四エリアにまで辿り着けないんだよね。


 イメージ的には峰を進み、前に進めないようなら吊り橋を使って横移動して、違う峰を進み、といった感じなんだけど……。


 まぁ、言うのは簡単なんだけど、霧のせいで十五メートル先も見通せないし、吊り橋の中にはトラップ吊り橋があるらしくて、中央辺りまで進むと急に落下したりしてね……。


 なかなか大変な目にあったよ……。


 というか、タツさん曰く、このエリアは濃霧で見通しが悪いのと、トラップ吊り橋があることから、斥候職の見せ場なんじゃないかって話だったけど、クラン・せんぷくには斥候職がいないからね。


 斥候職がいなくても、ツナさんの【野生の勘】があるから、モンスターの接近には気づくし、なんにも困っていなかったんだけど、こういう面倒くさいギミックがある場所だと、斥候職の重要さをしみじみと感じたりするね。


 まぁ、吊り橋が落ちる程度の罠でどうにかなるようなクランメンバーじゃないから、被害はなかったんだけど、精神的には疲弊した感じかな。


 で、三時間くらい吊り橋迷路で苦戦した後、なんとか抜け出すことに成功。


 吊り橋迷路の後は緩やかな下り坂が続き、領都ほどではないけど、今度は大きな街に辿り着く。


 ここも、どうやらチェチェックの領内の街ということらしい。


 その街の酒場やら、冒険者ギルドに顔を出して、第四エリアへと向かう方法を確認していたんだけど、どうやら次の街が第三エリアと第四エリアの境界にあたる街だということで、「そっちで休憩を取った方がいいんじゃない?」と、私たちはその街を早々に出立。


 強行軍で第三エリアの最後の街へとやってきた次第である。


 で、街に辿り着いた先で見かけた巨大船に度肝を抜かれていたというわけだ。


 いや、もう、船がバーンって感じで、船の後ろに砂漠が広がってることなんか、全然印象に残らなかったよ。


 砂漠は前情報があったけど、船は前情報がなかったんだもん。そりゃ、びっくりするなってのは無理があるよね。


「一応、さっきの街で集めた情報通りやったな。護衛依頼を受けると乗船料金が安うなるみたいや。一応、クランメンバーでヤマちゃん除いて、まとめて護衛依頼受けといたから、何かあった時は頼むで」

「わかった」

「おうよ」

「ヤマちゃんはあっちで乗船チケット買っとき。せやないと、一緒に砂漠渡れへんからな」


 タツさんが顎でチケット売り場を指し示す。


 行儀が悪いけど、腕がない蛇だからね。顎で指すしかないんだよね。


「あそこね。了解ー」


 なんか小さな小屋だけど、あそこがチケット売り場ってことらしい。


 忘れない内に買ってこようかな。


「そういえば、いつのチケットを買えばいいの?」

「明日や明日」

「明日? 結構、急だね」

「というか、砂漠船は週に一回しか航行せえへんらしいからな。むしろ、明日逃せば、一週間はこの街に足止め食らうねん。そういう意味でいえば、ラッキーやったわ」

「あ、じゃあ、チケットが売り切れない内に確実に確保しといた方がいいね。行ってくるよ」

「金足りんかったら、貸したるでー」

「そこはそんなに心配いらないから大丈夫!」


 というわけで小屋に行き、【偽装】と【隠伏】を解いて明日の乗船チケットを買おうとしたわけなんだけど……。


「二名様ですと、二万褒賞石になります」

「え? 一名だけど……?」


 乗船チケットを売っている受付嬢に妙なことを言われる。


 私は否定するんだけど、受付嬢はニッコリと笑いながら、私の腰元を指差す。


「ですが、お連れ様も御乗船なさいますよね?」

「連れ……」


 私が受付嬢の指の先に視線を向けると、そこには溶液で満たされた小瓶がぶら下がっていた。


 まぁ、瓶というか小型の培養槽なんだけどね。


 そして、その小型の培養槽の中には、剥き出しになった目玉が浮いている。


 これは、大生産祭の終わり際に、ツナさんが海から拾ってきた良くわからない生き物だ。


 【収納】しようとすると生物だからと拒否されて【収納】できないし、かといって回復魔法や回復薬の類も『使用できる状態にありません』と表示されて使うことができない、摩訶不思議な存在なのである。


 当初は放っておいたんだけど……気づいたら、いつの間にか目玉が二つに増えてたりするし……。


 放っておくのも怖いので、今はこんな感じとなっている。


「これも一人に数えるんですか?」

「はい」


 私が受付嬢に尋ねると、迷いなく受付嬢は言葉を返す。


 うん。


 なかなかしっかり者の受付嬢だね。


 仕方がないので、二万褒賞石を支払ってチケットを二人分買う。


 チケットを買った以上は、私はお客様なので砂漠の移動中は護衛などには参加しない。


 まぁ、何が来ても今のクランメンバーなら、なんとかするとは思うので安心はしてるよ。


 むしろ、私が護衛に参加するとEОDとかが襲ってきそうなので、自重したい感じではあるね!


 ■□■


 というわけで、一晩宿に泊まって、次の日の朝――。


 ゾロゾロと街外れの砂漠船乗り場まで、クランメンバーで連れ立って歩く。


 周りにも同じような人たちが歩いているので、この人たちも多分砂漠を移動する人たちなんだろう。


 中にはプレイヤーっぽい人もいるし、それだけでちょっと仲間意識が芽生えてしまうから不思議だ。


 というか、やっぱりデスゲームとはいえ、真面目にゲームを進めている人もいるんだね。


 まぁ、人間なんて十人十色なんだから、最初の街に閉じ籠もっちゃってる人もいれば、ここまで冒険を進めてる人もいるわけで……。


 デスゲームが始まった当初は、痛覚設定等倍じゃ、誰も動けなくなるんじゃないの? とも思ったけど、結局そんなこともなかったしね。


 こうなるからこうだろうとかいう結論を導き出す人は多いけど、それは自分の知識と経験則から導き出した推論に過ぎないということは、ちょっと考えなくちゃいけないことかな? とは思ったね。


 つまり、自分の価値観で他人の価値観を計るのは早計かもしれないってことだ。


 だから、私はツナさんが朝っぱらから褌一丁の姿になっていることに気がついていても注意しない。


 だって、ツナさんの中で、きっと褌一丁にならざるを得ない何かがあったんだと思うから。


 周りのパーティーから、「何アレ?」「なんて格好してんの?」みたいな目を向けられていても、ツナさんを信じるのみである。


 そんな私が行動を起こさないのを見かねたのか、タツさんがツナさんに近付いていったね。


 事情を聞くのかな?


「なぁ、ツナやん? なんで裸なんや?」

「昨日、賭け事に負けて身ぐるみ剥がされたからな。防具がコレしかない。あぁ、流石に武器は賭けの対象にしてないぞ?」


 いや、着流しに天狗面に高下駄にロングコートは私があげた奴じゃん! なんで賭けの対象にしてるの!? もっと大事に扱って欲しかったんですけど!?


 ……うん。


 多様性を認めるっていうのは、なかなか難しい話だなぁと思った次第です。はい。

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