第224話

 ■□■


 まぁ、なんというか。


 五十人くらいの集団で数時間もキツイ戦闘を繰り返してると、自然と序列というか、格付けというか、ヒエラルキーっていうの?


 そういうのが生まれてくるみたい。


 やっぱり目立つのはSUCCEEDの面々。


 リーダーのミタライくん、近接戦闘の鬼であるささらちゃん、小器用なTAXさんとかは前線で戦っていてもほとんどダメージを受けてない。それに加えて、中衛として援護に入ってるゴードンさんも流石の援護で目立つ存在だ。


 現状、このレイドパーティーのリーダーは間違いなくSUCCEEDといっていいだろう。


 そんなSUCCEEDと双璧をなすほどに活躍して目立っているのが、愛花ちゃんである。


 というか、愛花ちゃんが潰れたら、この集団潰れるんじゃない? というぐらいに中核になってる感じはする。


 後は、前線で活躍してるのが、マッスラーズという筋肉ムキムキの近接職の方々と、デイダラ戦でも少しお世話になったことのあるWSGMさん率いるズムモニっていう近接戦闘が得意な方々。


 彼らは魔術とか魔法とかには弱そうなんだけど、肉弾戦が得意っぽくて、同じく肉弾戦を得意とするオークたちとは比較的戦闘の相性がいいんだよね。


 なので、わりと活躍していて一目置かれてる感じ。


 逆に軽視されてるのは、斥候職や目立つ成果を上げられてない中衛職とか、後方に陣取った魔法職って感じで……。


 まぁ、そんな力関係が構築されてしまった中で、オーク要塞に辿り着いてしまったから、なかなかに話がややこしい。


 オーク要塞は空堀の先に木柵が設置されており、更にはその木柵の向こうにはオークを何体か取り逃がしたこともあって、万全の体制で弓を構えたり、石を掴んでたり、槍を振り回すオークたちが待ち受けている。


 一応、空堀の中には橋を渡していた箇所もあったのだけど、そこは既にオークたちの手によって落とされた状態らしく、オーク要塞に近づくためには、一度空堀の中にまで下った後で急勾配を駆け上がり、木柵を破壊して、オーク要塞に突入……といった面倒くさい手順を踏む必要があるみたい。


 だけど、それを馬鹿正直にやってたら、まぁ全身から矢とか槍を生やしたハリネズミ状態になるわけで……。


 普通なら、そんな馬鹿な真似をせずに違う手を考えるところなんだけど、ここまでのヒエラルキーの形成が影響してるのか、一部の前衛たちがバフを掛けてもらって一気に押し通ろうぜ、とか言い出してるんだよね。


 というか、それ、愛花ちゃんの援護を期待してのゴリ押し作戦でしょ?


 愛花ちゃん自身の耐久力はそんなでもないんだから、矢の雨の中を耐えられるとも思えないんだけど……彼らは自分たちが盾になってでも守るからと豪語する。


 いや、それで矢を受けて、痛みに足が止まったら進めなくなるよね?


 そして、足を止めたらジリ貧になるんじゃないの?


 堀とか柵とかそういうもんでしょ?


 と、思うのだけど、ここまでの活躍度の違いからなのか、なかなか私たちの意見を聞いてもらえないのが現状だ。


 一応、SUCCEEDが作戦を考えるからということで、一部のプレイヤーが作戦を強行しないように抑えてるんだけど、ここに来るまでに多少時間が掛かっちゃってるんで、焦りもあっての発言ということみたい。


 まぁ、私は全然気づかなかったんだけど、人族ってモンスターや魔物族と違って夜目が利かないみたいなんだよね。


 だから、モタモタしてると夜になっちゃって、一気に状況が不利になるかも? ということで焦ってるっぽい。


 だから、作戦を考える時間も惜しいので強行しようなんて乱暴な意見も生まれてるみたい。


 ちなみに、その意見に関して、もちろん私は反対派だよ。


 愛花ちゃんを危険に晒すような作戦に賛成できるわけがないからね!


「こんなことでしたら、ある程度活躍しておくのでした」


 そう不平を漏らすのは、司馬くんだ。


 Minghuaちゃんに会いに来ながら、そのまま周囲に聞こえるように愚痴を零してる。


 多分、前衛の人たちに対する牽制目的なんだろうね。


 近くに愛花ちゃんもいるし、前衛の人たちも愛花ちゃんの目の前で揉めて、心象を悪くするのはよくないとわかってるからね。


 反論が出ない上での行動と考えたら、なかなか司馬くんも強かだよ。


 まぁ、何もしないで無策で突貫という事態を避けようとしてるんだから、私としては、いいぞもっとやれといった感じだけどね。


「中衛が少なかったから、中衛に志願したんですが、こんな状況になるのなら前衛をやっておけば良かったですよ」

「中衛も頑張ってたヨ! 前衛よりも活躍は少なかったケド、確実にオークは削ってたネ!」

「えぇ、でここまで頑張ってきたのですから、が怪我せず無事にすむような作戦を取りたいものですね。デスゲームなんですから、危険が少ないのが一番だと思いますよ」


 みんなを強調するあたり、策士だよねー。


 やってることはいやらしいけど、でも言ってることはわかる。


 バフ掛けて回復しながらの脳筋突貫作戦も、作戦のひとつだとは思うよ?


 けど、それは危険だからもっと考えて意見出せよって話でしょ?


 私も同感。


 そもそもLIAは自由度が高いゲームなんだから、危険を回避するような作戦だって考えればいくらでも出てくると思うんだよね。


 例えば、デイダラ戦の時だって――。


 ……あっ。


 私はちょっと思いついたので、アイルちゃんを探す。


 アイルちゃんを通して、ミタライくんにこの作戦を伝えてもーらおっと。


 ■□■


 というわけで、どうやら私の作戦が通ったみたい。


 作戦自体は単純。


 空から爆撃して、木柵に張り付くオークを引き剥がして、その間に地上部隊が空堀を越え、木柵を破壊して、要塞に突入して戦闘スペースを確保するってだけ。


 そこに爆撃部隊も合流して、オークをけちょんけちょんに蹴散らすといった感じだ。


 じゃあ、どうやって空から爆撃するのか。


 そりゃ、もうに頼むしかないでしょ。


「【フロート】」


 そう、PROMISEが誇る【フロート】職人にしてアイルちゃんの一番のお友達……サユリンちゃんの出番だ。


 まずは、背の高い木の枝に登るために、上方向に進むフロートを作り、それに上空爆撃部隊を乗せて送り出す。


 上空爆撃部隊は背の高い木の枝の上で待機。


 で、全員が待機できたところで、サユリンちゃんも木の枝の上に移動する。


 そして、今度はその高さから、サユリンちゃんが【フロート】を横にスライドするようにゆっくりと押し出し、上空爆撃部隊はその【フロート】の上に乗ってゆっくりと横移動。


 オーク要塞の上に差し掛かった時点で魔術やら魔法やら矢の雨やらを降らせることでオークを木柵の前から追っ払う。


 地上部隊がそのタイミングで空堀を渡り、木柵を破壊して戦闘スペースを完全に確保したところで、サユリンちゃんは横移動していた【フロート】を即座に消して、今度は爆撃部隊の足元に下移動する【フロート】を作って、オーク要塞に下降しながら地上部隊と合流して、全員で乗り込むといった寸法だ。


 この作戦、サユリンちゃんの負担が大きいんだけど……。


「…………」


 うん。


 既に劇画タッチの顔になって集中してるみたいだし、ヘマするようなことはなさそうかな?


 本当、フロート職人の集中力には頭が下がるよ……。


 なお、今回、私は爆撃チームの方に参加してるので、【フロート】初試乗です!


「お、おぉ……」


 透明なアクリル板の上に乗って、スーッと進んでいく感じなのね?


 なんか不思議な気分だよ。


 足元が見えないから、なんとなく危なっかしさもあるんだけど、基本はガラス張りのエレベーターや動く歩道みたいな感じだ。


 こっちが止まってるのに勝手に景色がスーッと動いてく。


 本当に足場があるのか気になって、思わずつま先でちょんちょんしてみるよ。


 ちょんちょん。


「おい、馬鹿! 【フロート】が壊れたらどうする!」

「余計なことすんな! 馬鹿!」


 ちょんちょんしてるのを見咎められて怒られました。


 いや、みんな【フロート】の性能気にならないの?


 それよりも、高い所に命綱もなくやってきたことに緊張してる?


 ちなみに、上空爆撃部隊は足を踏み外したら体力のステータス的にも即死しそうな面々ばかりである。


 そりゃ、余裕もなくなるか……。


 というか、落ちたところで余裕とか思ってる私がおかしいのか……。


 やがて、全員揃ったところで、サユリンちゃんも上がってくる。


 なお、愛花ちゃんは地上部隊の援護をするために、ここにはいなかったりする。残念。


 アイルちゃんも地上進行部隊なので、こっちの知り合いというと、ミクちゃんと司馬くんぐらい?


 どっちも自分から話しかけられるぐらいに親しくないのがなんとも……。


「では、大きなのをひとつ作りますので、みなさん乗って下さいね。【フロート】」


 サユリンちゃんの言葉に恐る恐る乗る私たち。


 というか、透明だから端がわからなくて怖いんだよね。


 色を付けたりとかできないのかな?


 こわごわ乗ったプレイヤーたちが四つん這いになりながら、端っこを探す様子はちょっと面白い。


 堪えられなくて「ププッ」と笑っちゃったら睨まれちゃったよ……。


 だって、みんなで「眼鏡、眼鏡〜」ってやってるみたいで面白かったんだもん……。


「オッケー、端見つけた」

「攻撃する時はここの先から攻撃しろよー」

「間違っても【フロート】には攻撃するなよ!」


 というわけで、スタンバイオッケーになったところで、サユリンちゃんがゆっくりと【フロート】を押し出し、本人も木の枝の上から【フロート】の上に跳び移る。


 しかし、それにしてもこの【フロート】。


 攻撃系のユニークスキルじゃないけど、かなり汎用性が高いよね。


 潜入、移動、逃走に使えるのはもちろん、見えないという利点を使って相手の突進を妨害したりできるし、かなり有用だと感じる。


 ユニークスキルは、一見使い方がわからないようなものでも、工夫次第で化けるから、そういう意味では上手く使えてるサユリンちゃんが凄いんだとは思う。


 スーッと空を進む私たち。


 それに気づいたオークたちが矢や石を空に向かって放つけど、ここまでは届かない。


 逆に自分たちに降ってきて、慌てて逃げてる始末。


 いや、そこは考えようよ……。


 所詮はオークってことかな?


 でも、こっちとしては見逃せないチャンスではある。


「オークの混乱に拍車をかけるぞ。みんな攻撃準備」


 指揮をとるのは、プロゲーマー集団SUCCEEDで主にFPS(一人称視点のシューティングゲーム)で活躍するゴードンさんだ。


 彼の正確無比で素早い中・長距離射撃は先のオーク要塞までの道程でも大きな成果を上げていた。


 指揮をとるのに不足はないだろう。


「撃て」


 ゴードンさんの号令と共に、私たちは上空から魔術や魔法、矢による攻撃を一斉に開始する。


 オークたちはその攻撃を恐れて、ブヒブヒ言いながら木柵から離れていく。


 よしよし、作戦通りだ。


「よし、スペースが空いた。降下だ」

「はい」

 

 足元の【フロート】が一瞬無くなる気配がしたかと思うと、軽い落下感の後で足元にまた【フロート】が生み出される。


 私たちが徐々に降下しているのにオークたちも気づいたのだろう。


 矢や石が届く距離にまで降りてくるのを待ち受けるようにして、一定距離を保って待ち受ける。


 あれ?


 打ち合わせでは、地上部隊がそろそろ木柵を破って来てくれないとヤバいんだけど……?


「地上部隊はまだか!」

「やべぇって! 壁役タンクがいねぇと一気に全滅しかねねぇって!」

「あれだけ偉ぶっといて役に立たないとか! ふざけんなよ、前衛組!」


 ぶつけ本番ということもあってか、地上部隊はまだ空堀を上ってるところみたい。


 このタイミングだと上手く合流できなそう……。


 そして、合流できないとマズイよね?


 この中衛、後衛組は火力はあるけど、耐久力はほぼ紙なんだよ。


 そこにオークの一斉攻撃なんか受けたら、壊滅しかねない。


 うー……、私が前に出て壁役になる?


 どうしたらいいものかと考えてたら、


「諸君! お待たせしたな! 今こそ、我ら黄の騎士団の力を見せる時だ! いくぞっ、【アースウォール】!」

「「「おうっ、【アースウォール】!」」」


 うわ、【フロート】の上から集団が飛び降りたよ!?


 集団自殺……と思ったら、地面から【アースウォール】による巨大な土壁が出てきて、そこに飛び降りた人たちがズズズと取り込まれるように潜り込んじゃった!


 えっ、なにこれ?


「出たぜ! 黄の騎士団リーダーのユニークスキル【ゴーレム化】!」


 私がきょとんとしてる間にも、【アースウォール】がガチャン、ガチャンと変型していく。


 そして、気がついた時には土でできた何かカッコイイ巨人が五体も立ち上がってる!


 もしかして、土によるパワードスーツなの!?


「我ら、黄の騎士団のリーダーのユニークスキルはあらゆる無機物を【ゴーレム化】する!」

「【ゴーレム化】されたこのボディは、我らの力を何倍にも高めて駆動するぞ!」

「リーダーの力に掛かれば、我らが使った【アースウォール】もこの通り! 【ゴーレム化】して、我らを守る強大な盾となり、鎧となる!」

「そして、もちろん、土壁としての重量はそのまま破壊力にもなる!」

「ま、一時間しか保たないから出し渋ってたが、ここが使い時でしょ。よし、黄の騎士団、行くぞ! 後衛のみんなが着地するまでこの場を守るんだ!」

「「「おぉっ!」」」


 黄の騎士団のリーダーらしき人の掛け声と共に巨大な土の巨人たちが一斉にオークたちに向かって突進する。


 空中の私たちを狙っていたオークたちは、突如の地上戦力の出現に大混乱だ。


 これで、こっちが狙われることはそんなになくなったかな?


 ――と思ってたら、今度は木柵を乗り越えて、大きな狼が要塞の前庭に侵入してくる!


「外からの奇襲!?」

「いや、グレイウェーブだ!」


 よく見れば、軽々と木柵を越えたグレイウルフの口元には輪っかの作られたロープが咥えられている。


 それがサクッと木柵に掛けられたかと思うと、盗賊風の格好をした小柄な男の人がロープを伝ってスルスルと上がってきて、木柵を飛び越える。


 いや、忍者かってぐらいの身のこなしにびっくりだよ。


「待ってろ! 木柵を破壊して縄梯子を下ろす! 敏捷が足りない奴はそれを使って上がってこい! それまでは――」


 木柵を乗り越えて、次々とその場に着地するグレイウルフが木柵に縄を掛ける。


 そして、その縄を伝って上がってくるのは、盗賊ルックの小柄なプレイヤーたち。


「「「このグレイウェーブがこの場を引き受けた!」」」


 そして、一人を残してグレイウルフに次々と跨がると散開していくグレイウェーブのメンバー。


 黄の騎士団と連携して、オークの集団を押し込んでいく姿は、なんというか、こう……。


 レイド戦っぽくなってきたんじゃないの!?

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