第219話
■□■
「どういうことなの……?」
オーク討伐の緊急依頼に冒険者の
ここまでは百歩譲ってまだわかる。
どちらも冒険者に対する依頼絡みだから、噛み合うこともあるだろう。
そういうこともあるだろうと、確率の話だろうと、納得もできる。
けど、
「おぉ! 英雄様のお連れ様ですね! でしたら、村をあげて歓待しなくては! 生憎、栄えている村ではないので大したもてなしはできませんが、是非とも海の幸を堪能していって下さい!」
虐殺された漁村の村人たちが勝手に全員蘇り、私たち冒険者が歓待されるという流れになるっていうのは……。
「どういうことなの……?」
謎の魔術相乗効果爆発事件に次ぐ、新たな事件――謎の村民全員復活からの英雄歓待事件が発生し、私たちは大きな混乱に陥っていた。
依頼泥棒が残したオーク五体を倒した後、確か……何かポーション瓶が割れるようなパリンという音が微かに響いたと思ったら、急に村中が光に飲み込まれて……。
気がついたら村人たちが元気な姿でその辺を闊歩していたのだ。
私でなくても、狐につままれた表情になってしまうことだろう。
そして、何かスイッチが入ったかのように、突如として歓待の宴を行うと言い始める村人たち。
そのいきなりの豹変ぶりに戸惑うどころか恐怖を覚えてしまっているほどである。
え? 変な薬やってないよね?
「aikaが蘇らせたのか?」
「そう思う?」
「そういう表情じゃないな」
「わかってるならいいのよ」
ユウは私がやったんじゃないかと疑ったようだけど、私に死者蘇生のスキルはない。
むしろ、現状、唯一死者蘇生の効果があるものといえば、蘇生薬だと思うんだけど……。
こんなに一気に、全員が蘇る蘇生薬があるなんて話は聞いたこともないし……。
私がこの事態に首をひねっていると、
「…………」
黒髪短髪の女の子が近づいてきて、私のことをじっと見上げてくる。
…………。
というか、私の胸を見てる?
「違うな」
そう一言告げるなり、どこかに行ってしまった。
え、何が?
最近ちょっとよくわからないことが起きすぎてるんですけど?
誰か説明して?
「あれは、PROMISEのリーダーだね。炎上系配信者として有名な娘だよ。最近はわりと丸くなったって聞くけど」
「あ、ミク」
訳知り顔で近づいてきたミクの後ろには、荒神くんもいる。
二人ともなんか得意そうな顔をしてるところを見ると、情報でも仕入れてきたのかな?
こんな感じだけどミクは顔も広いし、要領もいいからね。
あと、荒神くんは影が薄いので人の会話を近くで聞いていても気づかれないという特技があるから、情報収集にはピッタリなんだ。
その二人が揃って来たということは、多分そういうことなんだろう。
「パーティーメンバーを集めて、少し離れたところで話そうよ」
「いいけど……」
近くを見回すと、虚無僧.comさん以外のパーティーメンバーは揃っているようだ。
だったら、虚無僧.comさんには、後で私から説明しておけばいいかな?
というわけで、私たちはパーティーメンバーで集まって、少し離れた場所で情報交換を始めたのだけど……。
それにしても、一体どこに行ったんだろう、お姉ちゃん?
■□■
【
拙者の名前は虚無僧.com……というのは、世を忍ぶ仮の姿。
本来の私は、ヤマモトの分身体の一人である
……え、知ってた?
またまた御冗談を。
…………。
それはさておき。
私は今、こうしてひっそりと漁村の片隅に息を潜めて隠れている!
何故、私がここに隠れているのか、その理由を順に説明していこうと思う。
まず、事の発端はこの漁村である。
この漁村が、また入る前からホラーゲームみたいな雰囲気を垂れ流しててね……。
あぁ、運営仕掛けてきてるな……って思ったんだよ。
ほら、私ってあんまりホラー得意じゃないでしょ?
だから、みんなが「なんか戦闘音がする!」って言って、村の中央に駆け出していった時に、私一人だけがアカンてぇ、アカンてぇ……と思いながら恐る恐る村に入ったんだよね。
こういう寂れた村にスプラッタなシーンが満載って、絶対になんかバケモノとかが潜んでて、いきなり襲ってくる奴じゃない?
だから、みんながグングン進んでいくのを横目に、私は手近な家の扉をビクビクしながら、ひとつずつ開けていったんだよ。
ほら、最初から確認しとけば、いきなり襲われても少しは怖さが和らぐじゃない?
あの死体袋、やっぱり中にゾンビが入ってた! というのと、
ギャー! いきなり袋を破ってゾンビが出てきたー! じゃ全然違うからさ。
だから、慎重に進んでったの。
というか、途中で気づいたんだけど、【魔力感知】を使えば、家の中でも扉を開けずに確認できるなーと思ったので、そこからは扉を開けずに【魔力感知】で確認していったよ。
ちなみに戦闘に関する恐怖とか不安は全くないし、グロ耐性もそれなりにはある。
けど、いきなり「バァ!」とか驚かされるのがダメというか……。
ほら、ホラー映画とか見てても、被害者に忍び寄る影が見えててさ、「来るから……、来るから……。シャワー浴びてる場合じゃないって……。逃げなきゃ……、逃げなきゃ……。あれ、いなくなった? …………。ギャー! やっぱりいたじゃん! だから言ったのにー!」ってなるのが心臓に悪くて嫌なんだよね。
だから、家の中をひとつひとつ【魔力感知】で確認していってたんだけど……そしたら、見つけたんだよ!
なんか弱々しい光が蠢いてるぞって!
一人で確認するのが、ちょっと怖いからチラッと村の中央にも視線を投げたんだけど、そこはそこでなんか取り込み中だし。
仕方ないから勇気を振り絞って家の中に入ってみて……びっくり!
なんと、そこに死にかけの女の子がいたんだ!
「【鑑定】!」
▶???を【鑑定】します。
▶【鑑定】に成功しました。
名前 ララ
種族 人族
性別 ♀
年齢 5歳
LV 2
HP 2/30
MP 9/50
SP 8
物攻 3
魔攻 4
物防 3
魔防 3
体力 3
敏捷 4
直感 7
精神 5
運命 6
ユニークスキル なし
種族スキル なし
コモンスキル 【恐怖耐性】Lv2/【釣り】Lv1/ 【料理】Lv1/ 【隠形】Lv3
…………。
ゾンビと疑って間髪入れずに【鑑定】使っちゃってごめんなさい!
でも、そのおかげで死にかけの人族だってことはよくわかったよ!
というか、このまま放置してたら死んじゃう!
「パパ……、ママ……」
急いで回復魔法を、と思ったんだけど、女の子のか細い声で思い留まる。
そうか、この娘一人を回復させたところで、これからの人生を幸せには生きていけない……。
それなら……。
「全員まとめて生き返らせよう!」
というわけで、蘇生薬を取り出して、
パリン。
すると、あら不思議。
【全体化】された蘇生薬が機能して、キラキラと光るポリゴンが無数に現れて結合していくではないか。
そして、光が収まったかと思えば、そこには女の子の御両親の姿が!
うんうん。
これで万事解決だね。
「パパ! ママ!」
「「ララ……!」」
そして、女の子も回復して、そこには一家が揃って抱き合うといった感動的な光景が……。
良かった良かった。
そして、家族の再会を邪魔するほど無粋じゃない私はクールに去るぜ!
アディオス!
ガチャ。
「英雄様! 英雄様ではないですか! あなたのおかげで村は救われました! 何もない村ですが、今宵は精一杯のもてなしをさせて頂きたく――」
パタン。
え、何?
クールに去れなかったんだけど?
というか、英雄様って?
いや、蘇生薬を【全体化】して使ったから、他の村人も蘇るだろうなーとは思ってたんだけど……。
あ。
もしかして、村人を蘇らせた英雄様ってこと?
私が戸惑っていたら、さっきの女の子が近づいてきて、「英雄しゃま、ありがとー!」と言ってきてくれたので、その頭をなでりこなでりこしてしまう。
きゃっきゃっと笑ってくれる女の子になんとなく癒やされながら、彼女のご両親にそれとなーく事情を聞いてみると、
「英雄様は英雄様じゃないですか! 我々の村があの海の悪魔によって漁もできなくなって干上がろうとしていた時に、颯爽とあの海の悪魔を釣って倒したという話は、我らの村にまで届いております! その恩人の姿を見間違うはずもありません! あなたこそ、ディーパを倒した英雄の一人、ヤマモト様その人でしょう!」
え、ディーパ……?
…………。
あ。
ツナさんが釣り上げた、あの巨大なイカか!
巨船堕としの二つ名の方が印象強くて、一瞬出てこなかったよ!
というか、あの時とは格好が変わってると思うんだけど、そこはゲームの仕様で同一人物だとわかるのかな?
謎だね。
更に、女の子の両親に話を聞いていくと、徐々に現在の状況が掴めてくる。
要するに、運営はこの漁村に大きなイベントを二つ用意してたらしい。
ひとつは、今回のオーク大量発生問題。
近隣の森にオークが大量発生して、なんか凄い集落を築いちゃって、近隣の村に徐々に被害を与えていく……というのが今回のイベント。
で、それとは別に、海にディーパが出てきて貿易も漁もできなくなっちゃって、漁村が干上がっちゃう! みたいなイベントも用意されてたようなんだよね。
けど、ディーパは「イカ刺しが食いたい」とかいう理由でツナさんが釣り上げちゃって、この村でそんな問題が起きてることなんて露知らず、私たちが解決。
私たちに問題解決したよーってフラグが立ったみたいなんだけど、私たちはここの漁村の存在なんて全く知らないから、この漁村を訪れることなく、ディーパ退治後の歓待イベントが開始されることなくずっと保留されてたみたい。
で、今回、オーク討伐イベントに私もついてきたわけなんだけど……。
ほら、私って商業ギルド所属の生産職じゃない?
だから、冒険者ギルドで緊急依頼とか受けてないから、オークイベントのフラグが立ってないっぽいんだよねー。
その結果、冒険者のみんなと一緒になって漁村に辿り着いたら、漁村内のフラグ管理がごっちゃになったのか、オークに惨殺された後なのにディーパ討伐を祝って宴を開こうとかする頭のおかしい村人たちのできあがり――となったみたい。
多分、フラグの優先度みたいな奴?
それが、ディーパイベントの方がオークイベントよりも高いから、オークとか関係なく歓待しようぜ! みたいな空気になってるっぽい?
おかげさまで、オーク討伐の緊急依頼を受けてここまで来たプレイヤーは事情もわからずポカンだよ。
よくわかんないけど、これってダメな奴じゃないの運営?
…………。
いや、あそこで「イカ刺し食べたい」とか言い出したツナさんが悪い可能性も……?
とりあえず、私は悪くない!
私は釣り竿作っただけだもん!
私に非はないよ!
で、そんな私がなんでこんな村の端っこの方に隠れてるのかというと、村人に発見されると「英雄様!」と呼ばれるからである。
他のプレイヤーは『英雄様のお連れ様』なのに、私だけ『英雄様』……。
誰がこの事態を引き起こしたのか一発でバレるよね!
だから、隠れたよ!
というか、本気で隠れてるわけでもなくて、村人が通り掛からないところに、ひっそりと一人でいるってだけなんだけどね。
ま、後はほとぼりが冷めた頃に姿を現せば、事態も収まってるでしょ。
…………。
収まってるといいなぁ……。
「こんな所にいたんだ、英雄様」
けど、私の願いはどうやら儚いものだったらしい。
あぁ、なるほど。
あなたなら、村人の言葉の端に上がるディーパって言葉と、英雄様って言葉で、なんとなく事態を察することができちゃうか。
「それとも、ヤマモトとでも呼ぼうかな」
そして、彼女の前では嘘は通じない。
私はため息を吐き出しながらも、彼女と向かい合う。
「久しぶりだね」
PROMISEのリーダーにして、他人の嘘を看破する【
ディーパを倒した相手をずっと追っていた彼女なら、村人が英雄と呼ぶ相手が誰であるのかをすぐに理解してもおかしくないよね。
というか、彼女の目は虚無僧.comとなった私の変装を見破る恐れがあったから、王都の冒険者ギルドでもなるべく避けて動いてたこともあって、本当に対面するのは久し振りだ。
「それとも、ヤマモトお姉様とでも呼ぼうかな……」
「ん……?」
最後の一言はよく聞こえなかったけど、天王洲アイル……私はその人に見つかってしまったのであった。
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