第198話
■□■
【
「ぐぐっ……! おのれぇ……あのチビ……!」
事の発端は佐々木さんを見習って、遊び心を出してみようと思ったことだった。
佐々木さんは凄い。
自分の命が掛かっていようとも、平気で命を賭け金にして最高にイカれたゲームを楽しもうとする。
遊びを作る発想が自由なのだ。
安全という枠を簡単に飛び越えてくるのである。
常人には考えられない、イカれた……いや天才の発想とはこういうものだと俺は思っていたし、憧れていた。
天才となんとかは紙一重というが、その領域に足を踏み入れたかったのかもしれない。
だから、俺も遊び心を出してみた。
本体である俺を最前線に送り込んでみたのだ。
だが、結果はまさかの口だけだと思っていたチビガキにやられるとは……!
「防御不能の攻撃方法を持ってるとは! しかも、連続ヒットしやがって……。おかげで、【立ち塞がる七つの悪夢】が残り1つになってしまった! くそっ!」
ユニークスキル【立ち塞がる七つの悪夢】は、HPが例えゼロになったとしても七回までならHPが完全回復した状態で即時復活できるという特殊なスキルである。
それのおかげで、なんとかHPでダメージを受けられたのだが……。
おかげさまで、俺の【立ち塞がる七つの悪夢】が使える回数が残り一回に減ってしまったではないか!
だが、【立ち塞がる七つの悪夢】はあと一回だけなら使える……。
これを利用すれば、相手の攻撃を受けながら、相手を倒すという初見殺しの行動もできるはずだ。
まだ、このユニークスキルがゴミになったというわけじゃない。
切り替えよう。
「【立ち塞がる七つの悪夢】のストックは戻らないからな。これ以上、死ぬわけにもいかない。というか、ここはどこだ?」
あのチビガキが何も考えてなかったのか、俺を遠くに吹き飛ばしたせいで現在位置が掴めなくなっていた。
とりあえず、戦場から離れようと必死になって、この二日間歩いてきたが、マップ上に一向に知ってる道(マッピングされた部分)が映らないというのは不安になる。
「こういう時に限って、地図系のスキルを【吸収】できてないのがな。くそ、SP払って取るか……。確か、【地図】スキルでマップの拡大縮小ができたはずだ」
スキルレベルが上がってないと、そこまでの倍率変更はできないが、無いよりはマシだろう。
「しかし、本当にどこだここは? 岩肌の斜面ということは、暗黒の森と外縁部を隔てている山の一部か?」
スキルを取得しながら、そんなことを考えていると上空をガーゴイルが編隊を組みながら飛んでいくのが見えた。
「チッ、【地図】スキルなんて取らなきゃ良かったな。ガーゴイルの飛行部隊を運用してるとなれば、ここはノワール領近くじゃないか」
恐らく、ノワール領の僻地。
しかも、暗黒の森に程近い場所だろう。
しかし……。
「ガーゴイル部隊の編成数が少ない……。なんで六体しか飛んでないんだ?」
一応、一部隊の最低人数は十体とプログラムしていたはずだ。
それなのに、人数割れを起こしている。
その原因について、俺は思わず考え込む。
「まさか、アイツら暗黒の森にでも威力偵察にいったのか?」
馬鹿馬鹿しい話だが、ない話ではない。
一応、魔王国の六公には、権力に対する強い執着をみせるように性格設定がなされている。
その性格故に前人未到の暗黒の森の開拓を無謀にも考えたとしても不思議ではないのだ。
「馬鹿め。暗黒の森はエンドコンテンツのひとつだぞ。並のNPCになんとかなるものか」
【物理無効】、【魔力無効】の特性を持ったモンスターなどは当たり前。
その上で一部の属性でしかダメージが通らなかったりするのが暗黒の森のモンスターたちだ。
要するに、暗黒の森は嫌がらせのオンパレードなのである。
更には、生半可なダメージではあっという間に回復してしまうというプレイヤー泣かせのギミックもある。
かといって、大火力で薙ぎ払おうとすると、今度は暗黒の森自体が襲ってくるから八方塞がりだ。
面倒ではあるが、ひとつひとつ丁寧に弱点属性を突きながら、エンカウントするモンスターを迅速に倒していくこと――。
そして、勿論、暗黒の森のモンスターに負けないだけのステータスパワーがあって、初めて深層にまで辿り着けるような場所が暗黒の森なのだ。
NPCが軽々しく攻略できるような場所では決してない。
まぁ、上空から暗黒の森の中心に下りれば、苦もなく深層に辿り着けるが、あれはあくまでも深層にまで辿り着いたプレイヤーたちに対するショートカットという名のご褒美であって、苦労をせずに深層まで辿り着いたものは、そこから一歩も動けないことに気がつくことだろう。
「そういえば、暗黒の森の深層に古代都市があったな……」
暗黒の森を抜けるだけでも難しいのに、その更に奥に稼働中の古代都市とかいうとんでもない施設が用意されている。
「あの拠点が利用できればいいが、まぁ現状は無理だな。際限なく現れる警備ロボットを相手にしながら、ザーヴァとの決戦なんて……分裂行動体の力を借りたとしても難しいだろう。特に、防御を無視してダメージを与えてくる攻撃は俺との相性も悪い。まぁ、二年待てば、古代都市の機能も止まるだろうし、そうなってから占拠した方が効率がいいか」
なお、その古代都市の地下には、LIA世界の数カ所にしか設置されていない特殊なダンジョン『黄泉の穴』がある。
いわゆる、普通のダンジョンとは違って、巨大な一階層のみの構成で、モンスターも超強力なモンスター一体だけが門番として待ち構えているといった内容だ。
その門番を倒すことが出来たなら、新たなフィールド『冥府の世界』に辿り着くことができるのだが、その門番がステータスゴリ押しでは倒せないタイプだからな。
俺が古代都市を占拠したとしても、冥府の世界に足を踏み入れることはないだろう。
「しかし、古代都市か。なかなかいいじゃないか。二年後が待ち遠し――」
俺がそんな風に思いを馳せていると、
――ゴゴンッ!
「は? ――おわっ!?」
岩山が激しく揺れ、立っているのも困難な程に足元が揺れる。
なんだ! と、上を見上げてみれば――、
岩山の頂上部に噴煙の如き灰色の雲が覆い被さっており、それと同時に巨大な岩石がいくつも転がり落ちてくるのが見えるではないか!
「噴火というか、落石?」
巨大な岩が何個も列になって、ゴロンゴロンと転がり落ちてきており、その落ちてくる先は無情にもこちらで……。
「畜生! 厄日か! 今日は!」
勢いのついた落石に対し、構えを取る。
少々焦ったが問題ない。
俺には【全反射】と【物理無効】がある。
向かってくるのが巨大な岩だろうと……。
「ふんっ!」
【全反射】で先頭の大岩を弾き返し、跳ね返した大岩で大岩の集団を小岩の集団程度には砕き割る。
人の頭ほどの大きさの岩が俺の全身を叩く中、俺は【物理無効】がきちんと働くことを実感して笑っていた。
「ははは、この程度の落石など、まるで効かん!」
瞬間、俺の目の前に避けるまでもない、魔力を纏った拳大ほどの石が跳ね上がってくる。
当然、避ける必要のないものだったから額で受けた。
――パンッ!
一瞬で目の前が暗くなり、気づいた時には俺はその場に倒れていた。
人の形を象ってすらいられなくなり、不定形の姿になってグズグズに崩れていたようだ。
人の姿の上半身を作り出して、頭を振る。
「一体……? なにが……起きた……?」
▶【立ち塞がる七つの悪夢】を使用しました。
【立ち塞がる七つの悪夢】の残り使用回数0/7回。
視界の片隅に表示されるシステムメッセージがよくわからない現実を告げてくる。
え……?
いや、俺は死んだのか……?
なぜ……?
「なんだこれ、なんだこれ、なんだこれ……?」
LIAって、こんな怪奇現象が横行するゲームだったか?
なんだこれ……。
■□■
【
なんだこれ……!
空を飛ぶ飛竜部隊に気づかれないように、暗黒の森の中を走っていったんだけど、余裕で飛竜部隊を追い抜かしてヴァーミリオン領に着いてしまった!
四時間ぐらい先行されてたはずなんだけど、【悪路走破】とかのスキルもあったし、やっぱりステータスの暴力が酷い!
ちょっとやる気を出しちゃうと、すぐにやり過ぎになっちゃう不具合!
不具合……?
不具合でいいのかな?
まぁ、ここまで育つとは運営も考えてなかっただろうし、不具合でいいんじゃないかな?
とりあえず、ヴァーミリオン領の領都らしき場所に辿り着き、普通に正門を通って街の中に入る。
ちなみに、プラ○スーツ姿は目立ちすぎるので、今回はいつものツナギ姿だ。
これなら、見た目からして、一端のメカニックに見えるに違いない。
LIAにメカニックって職業がいるのかは知らないけど。
で、正門を通って街中に入って、ちょっと裏路地をウロウロしてみたら見つけた。
「オラ、鬱陶しいんだよ! ハーメルン族がよぉ!」
「うぐっ!?」
「お、お兄ちゃん!」
はい。
ガラの悪そうな連中が、小汚い格好をした子供相手に暴力を振るっている現場を発見。
そして、殴られてるのは子供のハーメルン族みたいだね。
いやぁ、良かった良かった。
簡単に見つかって。
「はいはいはーい。そこまでにしてくれるかなー。お兄さん方ー」
「あぁ!? なんだテメェは!?」
「えー? なんだと思う?」
「聞いてんのはこっちなんだよ! ぶっ飛ばされてぇのか!」
「キャー、こわ~い!」
とか言いつつ、【収納】からアダマンタイトの薄板を取り出す。
それを使ってパパッと鶴を折ると、ガラの悪いお兄さんの一人に優しく下手投げで投げてあげる。
「うっ、重……。硬ぇ……」
ナイスキャッチのお兄さん。
「それ、アダマンタイトね。売ればそれなりのお金になるから、それで飲み直してきなよ。それとも、そのアダマンタイトみたいに畳まれたいの?」
「マジかよ……」
アダマンタイトを受け取ったガラの悪いお兄さん連中が、なんとか鶴を元に戻そうとして悪戦苦闘してるが、一向に戻せる気配がない。
そりゃ、そうでしょ。
普通は炉を使って、熱して柔らかくして加工するものなんだから、私が特殊なだけであって、お兄さん方は至って普通だよ。
お兄さん方は、ようやく私がヤベェとわかったみたいだ。
「そ、そうするわ……。はは……」
とか言いながら、夕暮れの街へと消えていった。
で、私はというと、
「【オーラヒール】」
男の子を回復してあげてから、自分の体の痛みが消えたのを不思議そうに確認している子供たちに近づく。
「君たち、この辺のストリートチルドレン?」
「すと……?」
「えーと、家がなくて、食うに困ってたりで、この辺の路上に住んでる子供たちかな?」
「だ、だったら、なんだっていうんですか……」
男の子の警戒心が上がる。
いきなり見ず知らずの人間に、こんなこと言われたら、そりゃ警戒するよねー。
でも、彼らにとっても悪い話じゃないと思うんだ。
「私は魔王軍四天王のヤマモト。三時間後に、この街を更地にする予定なんだけど、君たちさえ良かったらウチの領地にこない? 住むところは自分で建てないと駄目だけど、食料には困らないと思うよ?」
「四天王……?」
「四天王のヤマモトなんて聞いたことないよ?」
私の名声値もまだまだってことかな。
でも、多分、今回のことでかなり轟くことになるんじゃない?
悪名の方だけかもしれないけど。
「これから嫌でも知ることになるよ。街が消し飛んだら、誰もがヤマモトに手を出したらマズいって思うようになるだろうしね。あ、この街が消し飛ぶのは、先にヴァーミリオン卿が手を出してきたからだからね? 私の頭がおかしいと思わないように」
「その話が本当だとして……なんで僕たちに、そんな話をするんですか?」
「ウチの領地って人が少なくてねぇ。働き手も探してるんだけど、なかなか集まってくれなくて困ってるんだよ。だから、この期を活かして引き抜きって感じ?」
特に、大工とか、大工とか、大工とかね!
大工がいるといいなぁ……。
「僕たちを拉致して、奴隷のように働かせられる気なんじゃ……」
「別にそんなことはしないよ。ただ、不当な差別を受けてて、働く場所が与えられてない状況の人がいたら、ウチで働かないって声かけただけでさ。真面目に働いてるのに、ハーメルン種族ってだけで虐げられるのとか馬鹿みたいじゃん? ウチはそんなことないから。真っ当に働きたい人には相応の対価を払うし、新天地で人生やり直してみたいって人を求めてる。で、キミたちなら、そういう人たちをいっぱい知ってるんじゃないかって思って、声を掛けたんだよ」
弱い人間が生きていくには、コミュニティを作るのが手っ取り早い。
だから、この話はすぐにこの街のハーメルン種族のコミュニティに伝わるだろう。
そこで決断を下すのは彼らだ。
ついてくるなら連れて行くし、無理なら街の外に避難してもらって、街が滅びる光景を見た後で復興の手伝いをしていけば、それなりに敬意とか謝意とか払ってもらえるんじゃないかな?
まぁ、トップがアレじゃ、復興しても扱いは変わらないかもしれないけど。
「人攫いとか、そういう話じゃないんですよね?」
「ハーメルン種って、そういう需要あるの?」
「わからないですけど、オババは人攫いに気をつけろってうるさいから……」
なんかストリートチルドレンに良識を教えてる知恵袋的存在がいるのかな?
「なんだったら、そのオババって人も誘っといてくれない?」
「わ、わかりました……」
知恵袋的な人なら、領地の繁栄に知恵を貸してくれるかもしれないしね。
もしくは、余命幾ばくかだから、この地に残るって言い出すかもね。
まぁ、その辺は好きにしてもらおう。
「じゃあ、三時間後にどこかに集まって欲しいんだけど」
「街の中央に大きな公園がありますから、新天地に行く気がある人たちには、そこに集まるように伝えます」
「お願いね。じゃ、私はこれから街を滅ぼす宣言をして、市民の避難を促すから。新天地で働く気のある人たちは、避難せずにその公園で待っててくれる?」
「わ、わかりました」
私はその兄妹に手を振って別れながら、ゆっくりと街の奥へと進んでいくのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます