第159話

 ■□■


暗黒の森屋敷担当クイーン・ヤマモト視点】


 さて、まずはこれをご覧頂きたい。


 こう、開墾予定地に軽く線を引いておいて、オリハルコン製のクワで縦にさくさくと耕していくでしょ?


 ▶【バランス】が発動しました。

  耕地のバランスを調整しました。


 すると、縦の半分までいったところで、残りの半分が線を引いたところまで勝手に耕されていくんだよね。


 どう? 凄くない?


 で、もう一列も縦に半分くらいまで耕したら、残りの半分が勝手に耕されて止まって、更に隣の耕してない部分が二列勝手に耕されていくわけ。つまり、横に四列になっちゃったの。


 ▶【バランス】が発動しました。

  耕地のバランスを調整しました。


 で、そのまま、既に耕された場所に鍬を挿し込むと、耕していない部分が勝手に四列耕されて止まる。つまり、これで横に八列。


 ▶【バランス】が発動しました。

  耕地のバランスを調整しました。


 更にさくっと鍬をその場に入れると、追加で八列が耕された状態に。


 ▶【バランス】が発動しました。

  耕地のバランスを調整しました。


 つまり、これで十六列が耕地となったわけ。


 まぁ、ここまで聞けばわかると思うけど、


「調子に乗って耕し過ぎたー……」


 私の目の前には、それだけ耕して何を育てるの? ってくらいの耕地が広がっていた。


 いや、だって、鍬を入れるだけで、勝手に耕地が増えてくのが面白いんだもん。


 そりゃ、何回も耕地に鍬を入れちゃうよ。


「うーん。何を作ったらいいんだろう?」


 言っても、北海道の農家さんみたいに東京ドーム何個分って耕地ができたわけじゃない。


 せいぜいが、田舎の農家さんってレベルで畑が五~六個ありますってレベルだ。


 というか、畑を数える単位って個でいいんだっけ? 反だったり? あれ、それ田んぼかな?


 まぁ、それだけ、私は農業に疎いってことだ。


 そんな私でもいっぱしの農家さんになれちゃう秘密!


 それが、バイオ植物である!


 古代文明が改良に改良を重ねた超文明の叡智の結晶!


 水が少なかろうが、日当たりが悪かろうが、大地がやせ細っていようが、おかまいなしに良く育つ! そして、それなりに美味い!


 まさに、行き着くところまで行っちゃった文明が生み出したスーパー食物! それがバイオ植物である!


 そして、私のような農業弱者でも植えるだけで育てられるという優れもの。


 うん。耕地を作るだけ作ったし、地下都市に行ってなんか良さそうなバイオ植物の種をもらってこようかな?


 私が鍬を【収納】の中に突っ込んで移動しようとし始めたら、その目の前を山羊くんがうごうご言いながら歩いていく。


 で、領地の端っこにある、何とも名状しがたい掘っ立て小屋の中へと入っていく。


 うん。飛竜部隊用に暗黒の森の木を使って、小屋を作るチャレンジもしてみたんだ。


 けど、結果は惨敗。


 こう、サイズを合わせたりとか、設計図とかを書かないで始めた私も悪いんだけど、なんというか名状しがたい小屋(?)みたいなものができちゃって、これもう何ともならんわーって放置してたんだけど、なんかその小屋を山羊くんたちが気に入っちゃったみたいで……。


 今では代わりばんこで小屋の中に入っては休憩してるみたい。


 まぁ、小屋の見た目も相まって、通りすがりの飛竜部隊の皆さんは見てみないフリをしてくれてるんで助かってるんだけど……。


 これ、中を見られたら、絶対にアウトな奴だから、どうしようかなーとは思ってる。


 飛竜部隊の人たちに気づかれる前に、山羊くんたちが飽きてくれればいいんだけど……。


 ■□■


 というわけで、地下都市までやってきましたー。


 一応、魔王軍飛竜部隊の飛行日程はもらってるので、この日に屋敷の方にはやってこないことは確認済み。


 のんびりと古代都市を散策する。


「おー。少しずつ増えてきてるんじゃない?」


 古代都市を歩いていると、自走型の警備ロボの数が増えてきたように感じる。ツナギの私ハートがマジメに仕事をしてるのだろう。


 ちょっとだけ気になったので、防衛担当ハートの工房に顔を出してみる。


 防衛担当は、基本的には決まった場所で作業はしてない。用途に合わせて、大きな工房だったり、小さな工房だったりを使い分けてるみたい。


 でも、まぁ、大体働いてる時の音がうるさいので、すぐにどこにいるのかは特定できる。


 今日は大きな工房……機械化された工場って規模の建物の中にいるみたい。


 バヂヂチ……。


 なんか溶接してるような音がするので、そこの扉を開けて入るよ。


防衛担当ハートいるー? …………。うぉーい! なんじゃこりゃあ!」


 思わず叫んじゃったよ。


 そりゃ、だって入ったらいきなりでっかいロボがあるんだもん。そりゃ、びっくりするでしょ。


 でも、よく見てみたら、これザーヴァの改良型かな? ちょっと体型がずんぐりしてる気がするけど、雰囲気が似てる気がする。


「ん? お、館担当メイド? 何か用?」

「用ってほどでもないけどさ、ちょっと何してるのか見にきただけー」

「そう? ……ごめんねー。ちょっとだけ待っててもらえる? 館担当にお茶淹れてくるからさー」

『UGO……』


 おい。


 今の外部スピーカーから聞こえた声は何?


 何をそのザーヴァもどきの中に入れてるの?


 私がジト目で観察してる中、防衛担当が軽い感じでタラップを下りて、こっちにやってくる。


「やぁ、おまたせ。少し待ってて。お茶淹れるよ。その辺の席に座ってて」

「お茶はいいけど……。何あれ?」


 手早くお茶の準備をする防衛担当を尻目に、私はザーヴァもどきから視線が離せない。


「あー、あれ? ほら、山羊くんってさ、地上戦ではかなり強いけど、唯一空が飛べないって弱点があるでしょ?」

「まぁ、そうかな……?」


 唯一かどうかは知らないけど。


「だから、ザーヴァに搭載して空を飛ばしてみようかなって」

「やりたいことはわかったけど、山羊くんは納得してるの?」

「空飛びたいみたいだよ?」

「そっかー。飛びたいかー」


 本人がそう望むのであれば、もはや止めまい。


「というか、良くあんなの作れたね? 私が頑張って作った小屋は名状しがたいものになってるのに……本当に同じ分身体なの?」

「私のは工廠のコンピューターみたいなのにザーヴァのデータが残ってたから、それを元に山羊くんが乗り込めるようにちょっと改造しただけだよ。素材を入れれば、後は設計図通りに工廠が動いて全部作ってくれるから、そっちとはまた状況が違うと思うんだよねー」

「さよかー」


 しかし、こっちは畑仕事に精を出してるというのに、こっちはロボを作ってるという、この差よ!


 まぁ、環境の違いかもしれないけど。


 防衛担当が淹れてくれたお茶を飲みつつ、そういえばと辺りを見回す。


「そういえば、この間まで作ってた馬車がないね? もう、冒険担当クラブに送ったの?」

「あれだったら、暗黒の森で試験走行中だよ。多分、今も山羊くんが引いて森の中を走ってるんじゃないかな?」

「壊れるんじゃない?」

「いや、その程度で壊れるようには作ってないから」


 いや、どんだけ頑丈な馬車作ってるの?


「とりあえず、こっちは馬車の試験走行の結果待ちしつつ、ザーヴァ・タイプCの触手サイコミュの調整中かな?」

「サイコミュはパイロットの手動なんだ……」


 で、タイプCのCはどうせchaosの頭文字でしょ? わかってるよ。同じ分身体だからね。


「で、そっちは?」

「農地を耕したから、バイオ植物の種を取りに来たんだけど……なんか食べたいものとかある?」

「カレー」

「カレーかー」


 いきなり料理の名前が出てくるとは思ってなかったよ。


 ちょっと思ってたのと違う……。


「というか、そもそも食べたいものを作ってもいいのかという問題もあるんだけど……」

「いいんじゃない? 別に大量に出荷できるほどの農地でもないんでしょ? だったら、好きな作物を作って好きに食べようよ」

「うーん。じゃあ、色んな種類のものをちょっとずつ作っていこう。今回はお試しも兼ねて、カレーの材料も植えちゃおうか」


 でも、カレーのスパイスって何が必要なんだろう?


 コリアンダー、クミン、ターメリック?


 それぐらいしか分からないや。


 料理スレとかで聞いてみようかな?


 あと、水田じゃないんだけど、バイオ植物なら、お米も畑で作れたりする?


 これも、色々実験してみようっと。


「まぁ、バイオ植物の説明をミリーちゃんに聞く限りだと、適当に植えてもすぐに成長して、すぐに食べられるようになるんでしょ? だったら、私はカレーが食べたいよ」

「まぁ、試してはみるよ。あんまり期待しないでね?」


 一息つきながら、そういえばと思い出す。


「そういえば、本体キングは元気してる?」

「相変わらず、ミリーちゃんにビシバシ鍛えられてるよー。っていうか、今はミリーちゃんによくわからない魔法を習ってるって言ってたかな?」

「魔法だけじゃないよ……。あー、死ぬ……」

「あ、本体」


 私と防衛担当が話をしていたら、工廠の扉を開けて本体が入ってきた。


 また、ミリーちゃんに追っかけられてるのかなと思ったけど、今日はミリーちゃんの帝王学講座は全て終わらせてきたらしい。


 ヘロヘロの状態で私たちのもとにやってきて、机に突っ伏す。


「首付いてる? 首飛んだんだけど?」

「付いてる付いてる。というか、それ普通に死ぬほどの痛みじゃないの?」

「というか、本体の首が飛ぶって時点でかなりヤバイ相手でしょ……」

「【肉雲化】のせいか、すぐに治るから痛みに耐えられるようになってきたのかも……」


 本体の話を聞いてみると、どうやらミリーちゃんに魔法特訓に飽きたと言ったら、なにやら謎のダンジョンに案内されたらしい。


 そこの最初のフロアに出てきた鎧武者と、気分転換にどうぞとばかりに戦わされたそうなんだけど……。


「【鑑定】したら、ステータス自体は私ほどじゃなかったし、ヨユーとか思ってたらボコボコにされたんだけど……」

「ステータスの差を埋める技術ってこと? それとも特殊なスキル持ち?」

「普通にプレイングスキルで圧倒された感……」

「NPCだけどね。まぁ、ご愁傷様ー」


 愚痴り続ける本体を宥めすかしながらも、私と防衛担当は思わず視線を合わせる。


 本体は気づいてるんだか、気づいてないんだか知らないけど、ミリーちゃんたちの文明が、バイオ植物だとか超生物だとかの失敗作を「要らんわー」と外に放ったから、暗黒の森が出来たわけで……。


 そこで、生き残った超生物がモンスターとして繁殖しちゃったりして……。


 で、その内の理性に目覚めたモンスターが、暗黒の森の外側の山脈を越えた安住の地に永住するようになって……。


 それが、魔物族になったって話らしいから……。


 言っちゃうと、ミリーちゃんって魔物族の創造主……つまり神様みたいなもんなんだよね?


 その神様から特殊な魔法を教えてもらったかと思ったら、今度は【バランス】をとるように、ステータスでゴリ押しできない敵を相手に物理攻撃の操作プレイングスキルを鍛えてくれるって……。


 本体は一体どこに向かってるんだろう?


 そんなことを私と防衛担当は一瞬のアイコンタクトで思わず語り合ってしまったよ。


 いや、本当にラスボスとして君臨する予定なの? 本体?

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