第152話
明けて翌日。
私はクランメンバー全員を連れて、街の中央部――進化の塔へと向かう。
目的は全員のレベルアップと現時点での強さの確認といったところだ。
塔の前は朝っぱらにも関わらず、凄い行列。
それでも、塔の中に入っていく人のスピードが早く、あまり待つこともなく塔の中へと入ることができた。
中に入ると沢山の扉がずらっと並んでいる。
適当にひとつを選んで開けてみると、そこは狭い小部屋……。
ん? と思いながら、別の扉を開けてみてもまた小部屋。
え? 塔の中に入った人たちはどこに消えたの?
そんなことを思ってたら、後から来たパーティーが適当な小部屋に入り、その小部屋がピカッと光る。
「ワープトラップの一種みたいなもんやな。小部屋に入って扉を閉めたら、小部屋の中身は塔のどこかにとばされんねん。で、そこで出会ったモンスターとバトルや」
「勝てば、連戦か撤退の小部屋を選んで進めます。危ない時は……」
そう言って、ブレくんが取り出したのは縄紐?
「この迷宮抜けの紐を使えば、脱出できる仕組みです」
「ふーん、そうなんだ」
「一応、パーティーの強さに応じて出てくるモンスターもまちまちらしいですよ」
ちなみに現在は七人パーティー。
パーティーの枠組みとしては五人が適正なので、経験値効率とかは下がると思うけど……。
まぁ、その辺は関係なくなる(どうせ、戦力バランスをとって強いの出てくる)と思うから、人数オーバーでも気にしないでいこう!
「まぁ、百聞は一見にしかず! とりあえず、行ってみようか!」
「「「おー!」」」
というわけで、全員で小部屋に乗り込んで扉を閉めたら、床が光り出し、ちょっとした浮遊感を覚えた後で到着。
部屋を出ると、整然と石畳が敷かれた円筒形の部屋にデッカイカメレオンが寝転んでる……。
「【鑑定】」
名前 (名無し)
種族 バジリスク
性別 ♂
年齢 147歳
LV 158
HP 2640/2640
MP 1270/1270
物攻 123
魔攻 154
物防 177(×1.25)
魔防 122
体力 264(×1.25)
敏捷 45
直感 54
精神 127
運命 34
ユニークスキル (無し)
種族スキル 【石化の視線】【毒ブレス】
コモンスキル 【噛みつく】Lv6/【毒耐性】LvMAX/【石化耐性】LvMAX/【体当たり】Lv5/【頑強】Lv5
「バジリスクだって。【石化の視線】ってスキルがあるから目を見ないように戦って」
「ぶつけ本番で、そんなことできるわけないんですけど!?」
「やってみる」
ブレくんは文句言ってるけど、ミサキちゃんは早速実戦してるんだよねー。
そういうところだぞー、ブレくん。
「前衛を援護するで! リリちゃん!」
「は、はい!」
流石にブレくんとミサキちゃんの二人だけじゃもたないと思ったのか、タツさんとリリちゃんが魔術による援護を行う。
というか、タツさんってあの巨体で中衛なんだ……。
スキルが完全に魔力系に偏ってるから仕方ないのかもしれないけど……。
「タツは、もう少しオールマイティに立ち回れた方がいいな。あの体で、あの戦い方は窮屈だろう」
ツナさんのタツさんへの評価。
私も大体同じ感想だね。
「……アンタらは戦わないのか?」
回復役ということもあり、後ろに控えていたTakeくんがこちらに胡散臭そうな目を向ける。
私とツナさんは目を合わせると、はっはっはっと笑い合う。
「いや、私らが出たらすぐ終わっちゃうし」
「それじゃ、戦闘訓練にならんだろう?」
「そ、そうか……強いんだな」
バジリスク相手に上手く的を絞らせないようにミサキちゃんとブレくんが動き回って、ヘイトを交互に取り、その合間を縫ってヘイトを取りすぎないようにタツさんとリリちゃんの魔術が着弾する。
上手く戦ってるように見える。
見えるけど……まぁ、ダメージが雀の涙だ。
バジリスクの防御に対して、攻撃力が足りてないんだろうね。
あと、このパーティー構成だとタンクがいないから、強力な攻撃が出しづらいというのもあるのかな?
「あっ」
ブレくんがあげた間抜けな声と共に、徐々にブレくんの体が石化していく。
あちゃー。目を合わせちゃったかー。
「ブレ!」
そして、そこまで冷静に動けてたミサキちゃんの動きが突如として精彩を欠き始める。動揺したのかな?
ここぞとばかりに、バジリスクは息を吸い込み、毒のブレスを吐き出そうとするけど……そうはさせない。
「【エアピュリフィケーション】」
【風魔術】レベル4。空気の浄化を行う魔術で、吐き出された毒のブレスをただの吐息へと変換してあげる。
毒のブレスの代わりに強風が吹き荒れるけど、立っていられないほどでもない。
まぁ、毒に冒されるよりはマシでしょ。
「Takeくん、【キュアライト】をブレくんに。それで石化が解けるはずだから」
「あ……。わ、わかった!」
うん。TakeくんはTakeくんで、まだ咄嗟の回復職の動きが身についてないみたい。
そこは慣れかなぁ。
「【キュアライト】!」
【光魔術】レベル2。色んな状態異常を回復する便利魔術である。
ブレくんの石化が止まり、逆再生のように治っていく。
石化って一瞬で治らないんだ……。
これって石化してるところが砕けたら部位欠損になるの?
それはそれで、怖いね。
「攻撃力不足だな」
私とツナさん抜きのパーティー戦闘をしばらく見守った後で、ツナさんはそう結論づけた。
というか、バジリスクの防御を誰も抜けてない気がする。
だから、バジリスクも重圧を感じずにのびのびと動いてしまっているのだろう。なんか楽しそうに獲物を狩ろうとしてるように見えなくもない。
「攻撃力不足は私が武具を作ることで埋めるよ。役割的にはタンクが不足してると感じたんだけど?」
「このパーティーではブレの役割だが……」
ツナさんがちらりとTakeくんを見る。
「俺か。まぁ、イエティ種は頑丈なのがウリだしな……」
ただ、Takeくんは腕を欠損した時のトラウマを抱えてるからね。
というか、前衛後衛みたいな考え方がいけないのかな?
「うーん」
「どうした?」
「もういっそ全員をオールマイティに鍛えるのが正解かなって気がしてきたよ」
「その心は?」
「色んなことできた方が死なないような気がする」
理想は分業制にして、特化型で育てていくことだと思うよ?
けど、それは明確にこれはできないって弱点を作り出すと思うし、相手からしてもわかりやすいから対処がしやすいって場面もあると思う。
けど、接近戦も遠距離攻撃もどっちもできるってなったら対処はより複雑になるし、それが複数いたら、より相手に難しい択を押し付けられる……気がする。
「それは、理想だが……そこに辿り着くのは時間がかかるし、難しいだろう?」
「なにがネック? 私やツナさんがついてれば、強敵相手に養殖できると思うし、足りない部分は装備で補ってもいいし、やれると思うけど?」
「器用貧乏になりかねんというのが一点。あと、ゴッドが考慮していないものがある」
「え、なに?」
「普通の奴は死ぬほどの強敵と無理やり戦わせられ続けたり、何度も死の痛みを知ったりしたら
なるほど。
それは考慮してなかったかも。
「けど、それを乗り越えたところに、ヒャッハーがあるんでしょ?」
「ヒャッハーに辿り着く前に膝を抱えて閉じ籠もるようにならなければいいけどな」
「お前ら、何か恐ろしい会話をしてねぇか……?」
大丈夫、大丈夫。
その内、Takeくんもヒャッハーって言いながらモンスターに斬りかかっていくことになるだろうから。
「とりあえず、ダメージが通らないなら、これ以上は時間の無駄だ」
「時間の無駄は言い過ぎでしょ。効率が悪いってことでしょ? そうだね。次、行ってみようか。次はもっと戦いやすい相手かもしれないし」
「……次?」
Takeくんがギョッとした顔を見せる間に、私はうごうご丸を伸ばすと、バジリスクの頭頂部から尻尾までを一気に串刺しにする。
その直後に麻痺やら混乱やら盲目やら魅了やらの状態異常マークが一斉にバジリスクの周囲を飛び交い、そのまま私はうごうご丸を上へと引き上げて、バジリスクの背中を破壊する。
「核を破壊できなかったかぁ」
「おい、一斉に状態異常が付いたぞ。素材が一気にダメになったんじゃないか? その剣、もう使うな」
ツナさんにダメ出しをされる。
というか、ツナさんは可食部命ってだけでしょ?
それにしても、やっぱりガガさんの魔剣の使い勝手というか攻撃力の高さが羨ましいね。
私と魔剣の物攻を合わせても1700程度じゃ、バジリスクすら一撃で倒せないんだもん。
「えい」
「あ、こら」
二撃目を入れたらポリゴンとなって砕け散ったけども。
「今日はこれしか持ってきてないから勘弁して?」
「【収納】の中にないのか?」
「あるけど」
「あるじゃないか!」
本体には【収納】の中にある魔剣を勝手に使うなって言われてるんだよねー。使うなら事前に一言くれとも。
まぁ、私としても新武器の凶悪さは試してみたかったから、今回だけは見逃して欲しいかな。
「ちょっと、新武器の斬れ味を試したいから、今回だけ使わせてくれない?」
「ったく……。今回だけだぞ」
あら、ツナさんにしては優しい……。
「よく考えてみたら、複数の状態異常に冒された肉というのを食べたことがなかったからな……」
そんなことなかった! 打算だった!
私たちがやいのやいのと話してると、タツさんたちがボロボロの様子で帰ってくる。
これはまた、一戦だけで随分とボロボロに……。
「なんや、その攻撃力は……おかしいやろ!?」
「つ、疲れましたぁ……」
「ブレ、石化したところは大丈夫?」
「多分、治ってると思う……というか、いきなり初っ端からこれはキツいですって……」
全員ちょっとした大仕事を終えたって感じだけど……今日はまだ終わりじゃないよ?
「じゃあ、次行ってみようか?」
「「「次!?」」」
「大丈夫、大丈夫。次はツナさんが入るから」
「俺か?」
「新鮮な素材が欲しいんでしょう?」
「なら仕方ないな」
というわけで、私は文句を言う面々をなだめながらも、小部屋のひとつに乗り込んで扉を閉める。
そして、ワープ。しゅいーん。
次のお相手は……。
「わ、ワイバーンやと……」
みんな大好き、空飛ぶ竜だ。
なお、飛竜部隊の竜とは種類が違うみたい。
で、いきなり空を飛ぼうとしだすのを、ツナさんが銛を投げて翼に突き刺して、力ずくで無理やり引きずり落とす。
どーんと、地面と激突したワイバーンはピクリとも動かない。
……と思ったら、頭上に星がキラキラと回ってる。
あ、スタン状態。
「おい! 何してる! みんな手伝え!」
「「「お、おぉ……!」」」
気絶したのをいいことに、みんなでフルボッコ!
なお、ワイバーンは気絶から立ち直ったら、一声吠えて、また上空に飛び立とうとしたところをツナさんの銛が翼に突き刺さって、また引きずり下ろされて、ピヨピヨタイムに……。
「もう一度、フルボッコだ!」
「「「おー!」」」
……ハメかな?
結局、ツナさんが入ったことにより、ワイバーンはそう苦戦することもなく倒されちゃったよ。
流石、海中という魔境で過ごしてきた猛者。やることが徹底してる。甘さが一切ないよね。
「はい、お疲れ様ー。じゃ、次行ってみようか?」
「「「えぇぇぇぇぇ!?」」」
いや、まだ始まったばかりだし、たった二戦だよ? そんなの満足できないよね?
それにまだ私が参加してないのに、終わらせるわけがないじゃない!
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