第151話
■□■
「ただいまー。クラン名は『クラン・せんぷく』で登録してきたよー」
「本当にそれでいったのか……」
チェチェックの街の中心からちょっと離れた場所に、私たちクラン・せんぷくのクランハウスがある。
家自体は結構立派なもので庭付き二階建ての洋館タイプ。屋根裏、地下室有り。
ひとつひとつの部屋も広く、部屋数も沢山あり、少なくとも各人に一部屋は割り当てられるレベル。
そして、そのクランハウス内には、色々と生産作業のできるスペースが付属している。
それ故の五十万!
もっと部屋数とか、機能をショボくすれば十万から求められたものを、こだわって五十万にしたのだ!
なお、最高クラスの百万のクランハウスは流石に諦めた……。
いや、値段的には手が出るけど、ちょっと豪華過ぎて、庶民派の私たちには合わなかったというか……。
それはさておき!
このクランハウスに関してなんだけど……実は、いくつ建てても中身は共通エリアになるという仕様がある。
つまり、チェチェックにクランハウスを建てた状態で、王都ディザーガンドにもクランハウスを建てると、中身自体は共通で、クランハウスから外に出る時に、チェチェックに出るか、ディザーガンドに出るか、どちらかを選べるみたいなんだよねー。
つまり、クランハウスがワープ装置の役割を果たすってことだね!
この手のゲームには珍しく、ワープ装置がないなぁって思ってたんだけど、自分で買って設置してねっていうのがLIAのスタイルらしいよ?
ちなみに、クランハウスは街中だったら、どこでも(クランハウスをおいてない街でも可)メニューを開いて入れるし、入口のドアから出ないでメニューから退室を選ぶと、クランハウスに入る前の場所に戻れるらしいので、わざわざチェチェックに戻ってきたりする必要もないらしい。
なかなか冒険には便利な機能! それがクランハウスだ!
「ただいま、ツナさんー。みんなはー?」
「リビングだ。クラン結成パーティーをするとかで、色々と準備中だ。俺も買い出しを頼まれた」
「あ、そうなんだ? 肉なら私の【収納】に結構あるけど?」
「野菜だ。ポテトサラダを作るのにポテトがないらしい」
「それは、流石にストックがないかなー」
「俺も鮮魚しかストックがなかったからな。これからひとっ走り行ってくる」
「はい、いってらー」
「ま、ツナやんのことやから、何もないとは思うけど、PKとかには気ぃつけてなぁ」
「問題ない。行ってくる」
そう言って、ツナさんはクランハウスから出て行っちゃった。
というか、そういえばさっき冒険者ギルドで何か言ってたね。
「冒険者ギルドでPKがどうのこうのって話してたのが聞こえたんだけど、流行ってんの?」
「なんや聞いとったんか?」
「聞いたっていうか、聞こえたっていうか……」
私が受付嬢さんとクランランキングについて、ちょっとやり取りしてる間に、タツさんはタツさんで顔なじみの冒険者らしき人たちと軽く情報交換してたっぽいんだよね。
その時の話し声が聞こえて、PKがどうのこうのという単語が聞こえてきたんだと思う。
広いリビングに向かいながら、首を捻る。
「デスゲームなのに、なんでそんなことするんだろ?」
「スリルとか、なんかそういうのとちゃうか? ゲームと混同してリアル犯罪者になる意識が薄いのも問題なんかもな。ま、ワイが聞いた話やと、エリア1で第二陣を狙ってPKたちが集まっとるらしいってことや」
「じゃあ、ツナさんに言ったのは?」
「第二陣の雑魚狩りをよしとしない、プライドの高いPKっちゅうのもおんねん。そういうのは、多分、こっちに来とるんちゃうか? せやから、一応や一応」
「ツナさん大丈夫かな……」
「なんや、心配か?」
「やりすぎないか心配」
でっかいヘビのままズッコけるタツさん。
新築じゃないけど、クランハウスを傷つけないでよ? もー。
「まぁ、ヤマちゃん抜かしたら、ツナやんがウチのエースみたいなもんやしな。戦闘技術に関しては心配しとらんか……」
ツナさんは戦闘技術とか以前に勘が妙に鋭い気がする。
だから、実際に戦ってみると、ステータスの差以上に思ったよりもやり難い相手になるんじゃないかなー?
なんとなく、そんな気がするよ。
「「ただいまー」」
「おかゴッド」
「山さん、タツさん、お帰りなさい」
「え!? もう、山さんたち帰って来ちゃったんですか!? あわわ……。お、お帰りなさいー!」
「落ち着け。別に帰ってきてもいいじゃねーか。……ちっす」
というわけで、クランハウスのリビング……というか、リビングダイニングキッチンへとやってきた私は、だらしなくソファに腰を下ろす。
リビングからキッチンまで遮蔽物なく見渡せる光景なんだけど……。
なんでか、男子組二人がキッチンにヘバリつき、女子組二人がリビングの飾り付けを頑張っていた。
時代も時代だし、女子が手料理振る舞わないんかいというツッコミもどうかとは思うけど、キッチン担当がブレくんとTakeくんというのが、そこはかとなく不安……。
「ミサキちゃん、ブレくんって料理できるの?」
「バイト経験豊富。まかないも作れる。ちなみに私は肉の焼き方しかわからない」
「あの、私も入院生活が長くて、料理とかやったことなくて……」
なるほど。女子二人の方に問題があったわけだ。
というか、そういう時こそツナさんに任せればいいのに。
あの人、なんだかんだ料理上手いんだよね。
自分の食べたいものしか作らないけど。
まぁ、あの理性をかなぐり捨てたような戦い方を見てると、頼もうって気にもならないのはわかるけど……。
■□■
一時間後。
ようやくクラン結成パーティーの準備が整い、私たちはグラスを片手に顔を突き合わせていた。
リビングのテーブルに並ぶ料理はギトギトの油料理が凡そ七割を占めている。
うん。
ブレくんが中華料理店でバイトしてたんだなってことはよくわかったよ。
残りの三割はTakeくんの家庭料理と、ツナさんの酒の肴で占められてるね。なかなか空気を読まないラインナップだよ!
「それでは、クラン・せんぷくの前途を祝して……乾杯!」
「「「乾杯!」」」
適当に乾杯の音頭を取りながら、クラン結成パーティーの開始だ。
わりとパーティー感皆無な料理なんだけど、みんなは喜んで食べてるね。
そして、ここでもドリンクボックスさんの活躍は止まらないよ!
「おい、アルコールが出るじゃねぇか!」
「こんな便利な魔道具を作ってたんですね。むしろ、調理前に欲しかったかも……」
調味料系も出るからね。
そこは、私もクランハウスから出た後に「あっ」とは思ってたところなんだよね。
「ちなみに、みんなの部屋割りは決まった?」
「一応。ゴッドのために一階の一番奥は残した」
「クランマスターの部屋っぽかったからな。みんな遠慮したぞ」
ミサキちゃんとツナさんが説明してくれる。
「ちゅーか、システムで見られるで」
タツさんの一言でシステムからクランの項目を呼び出すと、一応部屋を占拠してる人の名前が出てきた。
なるほど。
これなら、空き部屋があるかどうかも一発だね。
私とタツさんは「空いてる部屋をもらうから」と言って、冒険者ギルドに向かったんだけど、どうもわざわざ大き目の部屋を空き部屋として残してくれたみたい。
私は一階の奥部屋。
タツさんは……二階の奥部屋とかにするのかな?
というか、ツナさんの部屋がない……?
あ、あった。
いや、地下室を部屋にしちゃってるじゃん!
「ツナさんはそこでいいの?」
「魚の養殖をするから、地下室がいい」
? ? ?
ちょっと何を言ってるのかわからない……。
「魚の養殖って……何?」
「同じ階だと臭いの問題とかもあるかと考えてだな……」
「いや、そうじゃなくて」
普通、家の中で魚の養殖なんてしないよね!?
「もしかして、ゴッド、忘れてるのか?」
そう言って、ツナさんが取り出したるは一枚の紙切れ。
なんか、ピカピカ光って神々しいんだけど……あぁー! もしかして!
「選べるレイドボスギフト引き換え券(上級)!」
「引き換えリストの中に『魚の養殖場』があったぞ?」
アレってそんなに豪華なものとも引き換えられるの!?
むしろ、ツナさんの言う通り、存在を忘れてたよ!
「じゃあ、私は高性能な鍛冶設備でも設置してみようかな……?」
クランメンバーの武装については、古代都市の方で作ってもいいんだけど、防具はねー。身体のサイズに合わせて作るから、身近な所に鍛冶施設があった方がサイズ調整とかもやりやすくていいんだよねー。
「上級鍛冶施設を置くんやったら、元々生産部屋にするところだったトコに置くとえぇで。間違っても自分の部屋を鍛冶施設にするんやないで? あと、ツナやんは養殖場とは別に自分の部屋も持っとき。プールの近くで寝るとか冷えるやろ」
「「わかった」」
となると、自分の部屋の調度品とかは自分で揃えなきゃだね。
そういえば、
新生活はどこも大変だー。
というか、アレだね。
みんなが酔っ払ってグダグダになっちゃう前に言っとかないと。
「はいはい、みなさん、ちゅうもーく」
パンパンと手を叩いて視線を集める。
みんな、何事だ? って感じでこっちを見てるけど、まだ潰れてる人とかはいないね。
よしよし。
「みなさん! クランができて大変めでたいところですが――」
「そこは、宴もたけなわでございますが、っちゅうねん」
うるさいなぁ。
あんまり、他人と関わって飲みに行くことなんてないんだから、そこは目をつぶっといてよ!
「えー、酔っ払う前に、このクランの今後の活動方針について説明しておきたいと思います!」
「そんなの考えてたのか……」
日本酒をちまちまとやりながら、ツナさんが感心したような視線を向ける。
こら、私を何も考えてないように扱わない! 大体、何も考えてないかもしれないけど!
「えー、直近の目標としては、クランランキングの上位入賞を目指すつもりです!」
「おー。えぇんやないか?」
「そういうのあるとモチベ上がりますよね」
「ナイスゴッド」
うん、概ね好評のようだ。
けど、これはまだ最初の一歩に過ぎない。
私は場を落ち着ける。
「はい、静粛に、静粛に。これはほんの始まりにしか過ぎません。みなさんも知っての通り、このデスゲームのクリア条件が提示されました。……で、このまま時間が経って、運営側の準備が万端整ったら、向こうから仕掛けてくる可能性があると思います」
「あわわ……」
「まぁ、だろうな……」
それは全員が思ってたことなのか、顔つきが引き締まる。
自分の命がかかってるんだもん。
そりゃ、真剣にもなるよ。
「私は、このクランのランクを上げることで、そういった決戦の場でクラン・せんぷくを体のいい捨て駒にさせないつもりです! 全クランから指図されずに動く超精鋭……まぁ、独立遊撃部隊みたいな立場を勝ち取ろうと思っています!」
「それをやるんやったら、圧倒的な実力がいるなぁ……」
「そう! それ!」
私はタツさんの言葉に乗るようにして、うむうむと頷く。
「というか、クランでトップを取るって話だけじゃないよ? 私は、折角、このゲームで出会った新しい出会いを大切にしたいと思ってる! だから、誰にも死んで欲しくない。……そのためには強さがいる。我を通すってだけじゃなく、デスゲームで死なないっていう強さが欲しい。PKに襲われようが、EODと会敵しようが、運営とバトろうが、鼻歌混じりにぶっとばして平気で生き残る強さ……それをみんなに得て欲しいと思ってる!」
「「「みんな……?」」」
ツナさんとタツさんが目を逸らし、その他の面々が息を飲む中で、私は猫耳フードの奥でニッコリと笑うと、
「リアルで死なないためなら……みんな、ちょっと死にかける猛特訓ぐらいやってやれないことはないよね?」
そう告げるのだった。
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