第153話
翌朝。
「アレは色々やり過ぎやろ!?」
昨日の夜にはグッタリとして喋る気力もないままに、クランハウスの自室に引っ込んだはずのタツさんだったけど、一晩寝て、落ち着いて考えて、どうもそういう結論に至ったようだ。
私はクランハウスのリビングでコーヒー片手に寛ぎながら、きょとん顔である。
「え? レベル上がったよね?」
「そら、上がるやろ!? バジリスクにワイバーン、デーモンリリー、ギガントラフレシア、フロストジャイアント、ミスリルドラゴン、アークデーモン、おまけにフェンリルや! こんだけ倒せば、ワイのレベルも12から53まで上がるっちゅーねん!」
「一日で40レベル以上あがったんだよ? 喜ばれることはあれ、怒られる意味がわからないんだけど?」
「ワイ、今まで死んだことなんか一度もなかったんやぞ!? それが、昨日だけで5回も死んどんねんぞ!?」
「え? 生き返らせてあげたよね?」
「せやなぁ! けど、それだけやないで! ブレとミサキちゃんなんて無理に前衛の仕事をやろうとしとったから、装備はほぼ全損状態やし、二人とも二桁以上死んどるからな! 実際の痛みが伴う中で二桁死んどるんやぞ!? 昨日、終わった後、二人ともなんか真っ白になっとったわ! 二人に言うことはないんか!」
え?
うーん。
「途中で経験値がもったいないなぁとは思った」
「鬼か!」
鬼じゃなく邪神です。どうも。
「大丈夫だよ。二人のメンタルケアはしたでしょ? ほら、夕飯を焼肉にしたし」
「焼肉で元気になるんは、ミサキちゃんだけや!」
そんなことをタツさんと話し合ってたら、当の二人がリビングに現れた。
というか、寝ぼけ眼のミサキちゃんをブレくんが引っ張ってきた感じだ。
「おはようございまーす」
「おはゴッド……ふぁ」
普通、寝坊助な幼馴染を起こす役割って逆じゃない?
なんで、ブレくんの方がしっかり者のポジションなのさ。
「ブレ……。な、なんともないんか……?」
「え、なんかありましたっけ? 別に平気ですけど……」
「ブレは鈍感系だから大して引きずらない……ふわぁ」
「いや、僕は鈍感系じゃないでしょ」
「いや、鈍感系やろ!? どう見ても!?」
「すごいね。ここまで人間って鈍感になれるんだね。ミサキちゃん、ご愁傷様です……」
「うん。……ぱーんち」
「痛っ。もー、なんですか。三人して僕のことイジってきて……」
私でさえも、まさかここまでケロリとしてるとは思わなかったんだけど……恐るべし、ブレくんだね。
ミサキちゃんはミサキちゃんで、昨日の晩に焼肉を食べたからか、普通に復活してるし。
「昨日、あれだけ頑張ったんですから、なんか進化先が増えてるかもしれませんし、僕たちは朝から教会へ行って進化先を調べてきますね」
「あー、はーい。いってらー。あと、帰ってきたら採寸するからねー。昨日の素材で新装備作ろうと思うから」
「はい」
「いってきゴッド……むにゃ」
バタバタバターと朝ご飯も食べずに行っちゃったよ。
まぁ、アバターは食べなくてもいいから、別にいいとは思うけど……。
「案外、平気そうやったな……」
「メンタルケアのおかげだね」
「それはちゃうと思うなぁ」
「そうかなぁ? あー、タツさんは朝ご飯食べる?」
「せやな。もらうわ。何や悩んでたのがアホらしくなってきたわ……」
キッチンに行って、ささっとベーコンエッグを焼きつつ、
「【木っ端ミジンコ】」
キャベツの千切りを作る。
後はパンにバターを塗って焼いて、トーストにでもしとこう。キャベツにはドレッシングかけとこうかな。この辺はドリンクボックス様々ですな。
「はい、お待たせー。ありゃ、増えてる?」
「お、あんがとなぁ」
「あ、こちらはお構いなくー」
「…………」
ダイニングのテーブルに朝食を並べてたら、リビングにリリちゃんとTakeくんが増えていた。
リリちゃんって三本足のカラスに進化してるから、こう、なんか言葉を喋るのが不思議で不思議で、しげしげと見ちゃうんだよねぇ。
「あの……ヤマさん?」
「あぁ、ゴメンゴメン。やっぱりカラスが喋るのが珍しくて」
「蛇が喋っとるワイはえぇんか……」
「いや、身近な生き物が喋ると、なんかほら違和感を覚えるでしょ? だからかなー。なんか見ちゃうんだよね。あ、リリちゃんとTakeくんも食べる?」
「あ、私たちはいいです。これから教会にいくんでー」
「…………」
というか、リリちゃんはいつも通りだけど、Takeくん、なんか暗くない?
「というか、Takeくん大丈夫? 今更クールキャラぶろうとしても無理があると思うよ?」
「いや、アンタらおかしいだろ!? 昨日あんなことがあったのに、何で平然としてられるんだ!?」
ちょっと突いたらTakeくんが爆発した。
というか、ここに常識人がいたかー。
「せやろ!? やっぱおかしいねん!? なんや、誤魔化されるとこやったわ!?」
タツさんも尻馬に乗るしー。
けど、リリちゃんは至って冷静で……。
「あ、でも、幼い頃の自動車事故の時より大分楽でしたよ。死ぬのも即死でそこまで痛くなかったですし」
「「「…………」」」
カラスの顔でなんか達観したようなこと言い始めてるし……しかも、重い。
「まぁ、リリの件はおいといて……おかしいだろ? おかしいよな? 俺がおかしいわけじゃないよな?」
「大丈夫、大丈夫。あんなの百回も繰り返せば、みんな慣れるって」
「慣れる前に心が折れるんだよ!?」
「あー、でたでた。Takeくんのやる前から諦めちゃう奴ー。リリちゃんが大武祭優勝して、誰でも変わることができるって理解したはずなのに、ここでまた泣き言いっちゃうのー?」
「それとこれとは話が別だろ!?」
ちっ。
「勢いで誤魔化せると思ったのに……」
「俺の目見て、もう一度言ってみろ!」
なかなか強情だねぇ。
しかし、メンタルかぁ。
メンタルが弱い人のメンタルを強くするにはどうしたらいいんだろ?
スパルタ? ハート○ン軍曹?
でも、それで心が折れるって言ってるんだよね。
うーん。
やっぱり、強靭な肉体には強靭な精神が宿るの精神で、まずは肉体の強化をしてみたらいいんじゃないかな?
「私の肉体の一部を食べさせて、(邪)神の素養をもたせて、眷属化すれば泣き言も言わなくなる……?」
「おい、コイツやべーぞ!? リリ、今すぐ逃げるぞ!」
「あ、教会行くんだね。じゃ、ヤマさん、また後でー」
Takeくんとリリちゃんが脱兎の如く逃げ出したのを見ながら、タツさんもまた朝食を次々に丸呑みにしていく。その食べ方は、まるで蛇なんだけど……。
「ヤマちゃんは発想が人間離れしすぎや」
いや、今のタツさんに言われたくないよ!
「ま、ヤマちゃんのやり方に問題はあるけど、強うなったのも確かやしな。慣れるのが先か、壊れるのが先かっちゅーことやろ」
それ、多分、どっちも壊れてると思うよ?
「ごっそさん。ワイも教会行ってくるわ。ついでにギルドにも寄ってくるから、ちょい遅なるわ」
「はいはい、いってらー」
タツさんがクランハウスを出ていくのを見送った後で、まだツナさんが起きてこないことに気づく。
「ツナさんもショックで寝込んでるのかな?」
まさか、ツナさんが死ぬなんて思ってなかったからね。ちょっと本人もショックを受けて、今日は起きてこられないのかもしれない。
問題の事件が起きたのは、昨日の最終戦――フェンリル戦だ。
フェンリルは白銀の毛がモッフモフのでっかい狼だ。
それが、まぁ、空中を超高速で走り回りながら、空間全部を覆うレベルの【氷魔法】を連打してくるもんだから手がつけられない。
ブレくん、ミサキちゃんなんて真っ先に落ちちゃったし、HPの低いリリちゃんなんかも一瞬でポリゴンとなって砕け散った。
Takeくんは高HP、タツさんは魔防の高さで一瞬だけ耐えたけど、それでも瞬殺。
で、ツナさんも頑張ろうとしたんだけど、流石に逃げ場のない魔法攻撃には抵抗することもできずに死亡。
特に、ツナさんは魔力系の攻撃には脆いところもあるし、なんとかできるとかそういうレベルじゃなかったんだよね。
ちなみに、私はあっという間に私以外の全員が死んじゃったところで、【闇魔術】レベル6の【ダークルーム】を発動。外界からの攻撃を完全に遮断する闇の部屋に入りつつ、ぼーっとしながら、ひたすら山羊くんを大量生産。
山羊くんのせいで【ダークルーム】が狭くなってきたら、山羊くんを放出――みたいなことを十回くらい繰り返して、外に出てみたら、沢山の山羊くんの触手に雁字搦めに拘束された可哀想な狼さんが恨めしそうな目でこっちを見ている光景と出会えたよ。
恨まれるのも嫌なので、【魔力浸透激圧掌】からの【半殺技】という即死コンボを決めて、一瞬で倒したんだけど……。
流石に初死亡はツナさんにも堪えたみたい……。
――って思ってたんだけどなぁ。
「なにやってるの、ツナさん?」
見やれば、リビングにツナさんがマグロを抱えて入ってくるところだった。
しかも、褌一丁の天狗面スタイルで。
場合が場合なら通報ものだよ。これ。
「俺は昨日初デスを経験して、非常にショックだった……」
「格好に説得力がないけど?」
「そんな俺の傷心は焼肉パーティー程度では癒やされない……」
そして、どーんとマグロを掲げる。
「マグロざんまい!」
す○ざんまいみたいなこと言い出した!
「本日の昼はマグロパーティーだ! それをやらなければ、俺の傷心は癒やされない!」
「いいけど……他のメンバーは帰ってこないかもしれないよ? 進化先決めるのに時間かかるかもしれないし……」
「むしろ、そっちの方がありがたい!」
ツナさんの目がくわんと光る!
ツナさんめ、独り占めする気だね……。
そうはさせ……あ、私もいるから二人占め?
…………。
「マグロざんまい!」
「マグロざんまい!」
私たちは変なテンションになりながらも、ウキウキとキッチンへと向かうのであった。
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