第149話
学園生活7日目。
とりあえず、一週間ほど学園生活を体験してみて、いくつかわかったことがある。
授業については、わからないことだらけなので、とにかくヴァッキー先生にもらった補講用のプリントを頭に詰め込むことで何とかなりそうなことはわかった。
そして、ステータスの高さは勉強に全く活かされないのもよくわかったよ。
というか、ステータスに知力ってパラメータがないもんね。
そりゃ、物覚えがよくなるみたいな副次効果がつかないわけだ、と妙に納得しちゃったよ。
そして、ユフィちゃん。
ユフィちゃんは、やっぱり当初に睨んだ通り、かなり頭がいい……と思う。
部屋に学習机がないから、図書室に補講プリントを持ち込んで勉強してるんだけど、私が図書室に行くと、いつもユフィちゃんが図書室の隅っこで勉強してるのだ。
しかも、その速度が並じゃない。
ものすごい勢いでノートや教材にカリカリと書き込みながら、ページをめくる手が止まることがない。
その様子には鬼気迫るものさえ感じるほどだ。
ちょっと大丈夫かなーと思って声をかけると、途端に止まって、ギクシャクした動きになるんだけど、あの感じは誰がどう見ても勉強ができる様子だった。
むしろ、天才系?
人が勉強してる姿を見て、凄いと感じたのは生まれて初めてだよ。
だけど、ユフィちゃんはクラスでは落ちこぼれ扱いされてる。
原因は一目瞭然。
極度のあがり症で、教師に当てられてもまともに答えられないし、テストはテストで緊張してしまってまともに答えが書けないらしいのだ。
つまり、全く実力が発揮できてないと。
しばらく、つきまとってる私にもまだ震え声で返事するレベルだもんね。
いい加減、慣れて欲しいとは思ってるんだけど、ユフィちゃんには難しいらしい。
というか、普通に図書室に置いてある高難度の教材とかもスラスラ進めてるとこを見るに、本当に頭脳自体は超一流だと思うんだよね。
で、そんなユフィちゃんを馬鹿にするGクラスなんだけど、一週間もクラスにいると、クラスのカーストっていうの?
そういうのが見えてくる。
というか、これがまたややこしくて……。
そもそも、学園全体で所属クラスによるカーストってのがあるみたい。
なんていうの? 特に何かに明記されてるわけじゃないんだけど、Aクラスは偉くて、Gクラスは底辺? みたいな?
で、Gクラスの面々は結構学園の中では塩対応されるわけなんだよね。
でも、貴族学園って、元々高貴な身分の人たちが多く通う学園だし、そういう対応されると、そういう対応をされたことのない人たちのストレスがマッハなわけだ。
だから、まぁ、そういう人たちは今度はクラスの中にカーストを作って、そこの上位に立つことでストレスを解消しようとするわけだね。
で、そんなGクラスのカーストも大体理解できてきた。
男子のトップは、例のアルバレートってターバンを巻いた男の子。チェチェックの更に先にあるフィザって都市の領主の長男らしい。
ユフィちゃんもフィザの出身らしく、領主に目をかけてもらって、この貴族学園に特別に通わせてもらってるらしく、その関係もあってアルバレートには頭が上がらないみたい。
で、女子のトップはフィリーナっていう緑髪の可愛い子なんだけど……見てて背中が痒くなるようなブリっ子で、かよわくて可愛い私を男子の前では演出してるけど、裏では自分より可愛い子を取り巻きを使って陰湿にイジメてたりするような反吐が出るような奴なんだよね。
うん。
この一週間で二度ほどフィリーナの取り巻きに絡まれてる。
一回目は、なんかフィリーナ様より目立つな、大人しくしてれば普通の学生生活は送れるだろう、みたいな脅しを取り巻きらしき二人から受けたね。
で、その時は、まぁ、私も大人しくしてるつもりだったし、利害の一致で頷いたんだけど……。
その後にあった初級武術訓練でフィリーナと組み手をする機会があって、軽くひねってあげたら、放課後には仕返しなのか、不意打ち気味に【土魔術】レベル3の【マッディ・グラウンド】を食らったんだよね。
まぁ、咄嗟に【わりと雷帝】で泥沼深くにハマる前に抜け出したんだけど……。
その後で【魔力感知】で相手の場所を特定して【縮地】で間合いを詰めたら、見つけたのが警告をしてきた女子二人。
すんごい敵対する目で睨んできたんで、口を塞ぎながら無理矢理人目の付かない暗がりに連れ込んで、【ロック】をしてあげて、絶対に後ろを振り向けないようにした後で、彼女たちの背後に山羊くんを召喚。
背後から触手でペタペタ触ってあげたら、その女子生徒二人は翌週には学園を辞めちゃった……。
うーん。
そこまで脅したつもりはないんだけどなぁ。
ちょっと気持ち悪い程度で収まると思ってたんだけど、人によっては触手でペタペタされるのは、すごく気持ち悪いことなのかもしれないとちょっと反省したよ。
少し申し訳ないことをしたかもね。
で、そんなことがあってからかな。
フィリーナちゃんが、あからさまに私を避けるようになったんだよね。
無視してる、というよりは逃げ回ってるというのが正解なのかな?
なるべく関わり合いたくないっていうのが、態度に出てるというか……。
まぁ、私的には関わってくれない方がありがたいから、いいんだけど。
とまぁ、男子と女子のトップ層はそんな感じ。
あとはカーストに入ってるんだかどうなんだかわからないけど、Gクラスの一角を占めてるのが、いつも何やら相談してる男子の集団。
ユフィちゃんに聞いたところ、彼らは魔法オタクの集団でいつも何か変な魔法を作ったり、魔法陣を開発しようとしたりして、ああして常に議論を交わしてるらしいよ。
まぁ、基本的には人畜無害な人たちのようなので放置でいいみたい。
あとは、グループにもなってない個の集団が多いらしく、クラスカーストの上位に睨まれないように静かに暮らしてるといった感じかな?
それはともかく、授業の方も話そう。
これもなかなか興味深いのが多かったから、結局ガッツリ取っちゃったんだ。
最終的な時間割はこんな感じ。
【月曜】
①古代文学(必修)
②やさしい魔術理論(必修)
③外国語(必修)
④やさしい魔道具作成(選択)
⑤
【火曜】
①やさしいモンスター学(必修)
②やさしい数術(必修)
③やさしい魔法陣学(選択)
④やさしい国際経済学(必修)
⑤
【水曜】
①やさしい魔物族の歴史(必修)
②やさしい魔王国地理(必修)
③やさしい錬金術(選択)
④やさしい礼儀作法(選択)
⑤
【木曜】
①やさしい世界地理(必修)
②初級魔術訓練(必修)
③初級魔術訓練(必修)
④やさしい神話研究(選択)
⑤
【金曜】
①初級武術訓練(必修)
②初級武術訓練(必修)
③やさしいダンス訓練(選択)
④
⑤
各曜日4コマしか取ってないのは、選択授業分の補講プリントもヴァッキー先生からもらったからだ。
それを消化する時間にあてたいのと、毎日少しずつ楽したいという気持ちがあったんだよねー。
本当はね? 授業のない日を作って、思いっきり羽根を伸ばしたいんだよ?
でも、必修の授業が各曜日に散らばってたりするのもあって、結局はどの曜日も出なきゃいけないから、それだったら毎日の負担を減らす方向で授業を取った感じだ。
なお、金曜日は少し早く終わるようにしたあたりが、多少の抵抗を感じるよね?
というか、なんか月曜とか金曜とか現実の曜日感覚で○曜日って言ってるけど、LIAの中では月の日、火の日、水の日、木の日、金の日、土の日、日の日っていうのが正式名称みたい。
まぁ、面倒くさいから○曜日でいいんじゃない? とは思ってるんだけどね。
というわけで、本日は選択授業の希望届を出す最終日なんだけど……。
私は今日も放課後、固まったままでいる赤髪ツンツン頭の少年の前に来ていた。
このところ毎日来ては、ちょっとからかっては遊んでる。
というか、もう今となっては誰も興味がないみたいで、このツンツン頭くんに誰も近寄ってこないんだよね。
可哀想だから構ってあげてる私は……暇人だ!
「いっそ、殺、せ……」
「お、喋れるようになってるねぇ。凄いじゃん。【空間魔術】に対する耐性が付いてきたんじゃない?」
からかうようにそう言うと、赤髪ツンツン少年がこちらを射殺すようにして見る。
おー、怖っ。
「アンタさぁ、そんな感じだから、そんな感じになっちゃうんだよ?」
「わ、け、わか、んね……」
「ほら、三日目ぐらいまでは、わりと人がいてチヤホヤされてたじゃん。けど、それ以降はもう誰もアンタに関わろうとはしない。専用の執事やメイドですら面倒を見に来ないとか、どうなのよ?」
「うご、ける、ように、なった、ら、やつ、ざき、だ……」
「私が【空間魔術】をかけ直したら? というか、この四日間ろくに食事もしてないでしょ? そんなんじゃ返り討ちにされるんじゃない?」
「うる、せー……」
「ほら、飴玉くらいあげるよ。はい、あーん」
「…………」
強情だねぇ、この子も。
歯を食いしばって、絶対に口を開けようとしないし。
「まっいっか。アンタがこんな状態になってるのは、アンタの日頃の行いのせいだと思うんだけど、そこのところはどう思う? それとも、もしくは見切られたとか? いや、誰に見切られたのかは知らないけど」
「…………」
その顔だと、心にグッサリって感じかな?
ケアはしないよ。
私は心理学者でもないし。
「多分さぁ、こういう事態になっても最後まで面倒みてくれるのが、忠臣だとか親友だとか、そういうものだと思うんだよねー。アンタにはそれがいなかった……そういう話でしょ。人の領地を馬鹿にするよりも、そっちの方がよっぽど恥ずかしいと思うけど、どう思ってんの?」
「テメェ、が、親友、だと、でも、いう、つもり、か……」
「ん? 私はただの気紛れな暇人かな? 友達になって欲しいっていうならなってあげてもいいけど?」
「死、ね……」
だよねー。
誰が好き好んで自分を酷い目に合わせた奴と、友達になりたいって思うのかって話だよ。
「だからさぁ、今度はこんな事態になったとしても、ちゃんと最後まで付き添ってくれる友人を、もしくは従者を選ぶべきだし、それだけの信用を得られるようにアンタも努力すべきだと思うんだけど……なんか、私、おかしなこと言ってる?」
引き攣ったような笑いを見せる赤髪少年。
「テメェ、には、そんな、相手が、いるのか、よ……」
少しだけ笑ったのは強がりなのかな?
まぁ、私が同じ目にあったとしても、六人の私たちは助けてくれるでしょ?
あとはタツさんも義理堅いからなー。
それに、ツナさんも助けてくれる……と思いたい。
ミサキちゃんやリリちゃんあたりも世話をやいてくれるんじゃないかな?
ブレくん……は、わからないや。
Takeくんは望み薄。
「十人くらいはいるんじゃない?」
その内の半分以上は私だけどね!
「…………」
また、だんまり。
まぁ、そろそろいいでしょ。
というか、選択授業の届け出の最終日だからね。
せっかく学園に来たのに、選択授業を取れなかったりしたら可哀想だし、解放してあげようか。
「【アンロック】」
【空間魔術】のレベル2。【ロック】を解除する魔術だ。ちなみに、鍵開けなんかにも使えたりする犯罪者垂涎ものの【空間魔術】である。
それで、ツンツン頭くんの拘束を解いてあげたけど、ツンツン頭くんは動かない。
あれ?
「てっきりもう一回掴みかかってくるものだと思ってたんだけど?」
「現状でそんなことやったら、同じ事の繰り返しになるじゃねーか……」
どうやら、そこまで馬鹿じゃないみたい。
「現状では、テメェには敵わねぇ……悔しいが、それは認めてやる」
「あぁ、そう。脚プルプルしてるけど、部屋まで送ろうか?」
「要らねぇ……。っていうか、テメェをぶっ飛ばせるぐらいに俺様は強くなってやるからな……! 首洗って待っとけ……!」
「はぁ」
「とりあえず、まずはテメェよりも優れてるところを見せてやる……! 親友……親友を十一人作ってやる……! 見とけよ、この野郎……!」
そう言って、よたよたと自分の部屋に帰っていくツンツン頭くん。
で、ツンツン頭くんが部屋に入って、すぐに追い出される執事やメイドたち。
まぁ、仕えるべき主人があんな状態で、執事たちは部屋でのんびり談笑とかしてたんなら、そりゃ追い出されるでしょって話だ。
私はそんな光景を見ながら、
「いや、野郎じゃないし」
そうツッコんでいた。
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